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今度は何だ?

恐らく今迄で一番の長さです。


お気を付け下さい。

『カイト殿、大変だ!!』

「いきなりなんだ、ベル。お前今までどこ行って……」

『よくぞ聞いてくれた!……ふっふっふっ』


……良くわからんが何だか腹立つな、何で笑ってんだ。


「何だ、大変ならもったいぶらずに早く……」

≪……ふっふっふ。主殿、よくぞ聞いてくれたのじゃ!!≫


……何だ、リゼルも絡んでたのか?

面倒くさい……


『何を隠そう、俺が事前に色々と察知してカイト殿が危険に巻き込まれることをできる限り避けよう、という素晴らしい考えなのだ!!』

≪ちなみに発案者は……ふふん、我じゃ!!≫

『これでカノン様が悩まれるお姿を見なければいけないことも減って……』


……姉は表に出ていないのにドヤ顔をしているのが目に浮かぶ。

ベルの言葉をきちんと理解できないくせによくもまあコミュニケーションとってそんなことをできたものだ。



「……で、ちなみにその大変なことって言うのは何なんだ?参考までに教えてくれ」

『ん?ああ、この里の集会所で俺達やレンのことが問題になっている。レンについては主によそ者である俺達を連れてきた事よりかはむしろ守護天使ガーディアンでないことの方が問題になっているな。さっきまでは皆冷静に話していたが……恐らく中はもうえらいことだぞ』

≪むむ!それはマズイぞ!!主殿、どうする!?≫

「姉じゃ……ベル……」

『な、何だ!?どうしてそんな憐れな目で俺を見るんだ!?』

「……ベル、リゼル、俺を気遣ってくれるのは嬉しいんだが、それは俺に知らせてしまったら意味ないだろう。やるなら俺にその内容を知らせずにこっそりと危険から離れるよう誘導する、ってのがベストなんだが」

『……あ』

≪……あ≫

「……まあ、二人の気持ちは有りがたく貰っとくよ。……とりあえずその集会場に向かうか」

≪じゃ、じゃが……≫

「気持ちは分からんでもないが……今回はしゃあないだろう。俺達のことだって問題になってんだろ?」

『あ、ああ』

「楽観的な案で申し訳ないが、ヤバくなったらすぐに孤島に逃げればいいさ。あそこは入島制限だってできるんだ」


……ま、実際にどれだけ入島制限が役立ってくれるかはまだ分からないが。

急いでいるのならこれ位の案が出れば十分じゃないだろうか。

そんなことにならずここでおさめられるのが一番なんだが……


≪うむむぅ~、仕方、ないかの≫

『……そうだな』


二人とも折れてくれたようだ。


「では、行きますか……」


俺達がおうと出口へと歩を進める。

すると……


「お兄ちゃん、ボクも行くよ」

「レン、あなたはここで待って……」


レンが同行すると言い出すと、それをカリンさんが止めようとする。


「お母さん、もしかしたらボクのせいでお父さんが困ってるかもしれないんでしょ?だったらボクも一緒に行かないと……」

「でも……」


ふーむ、母親からしたら戦地ではないにしても問題の中心地に娘を送り出すのはやっぱり心配だろう。

気持ちは俺にも分かるが……


「ボクはもう、お父さんにこれ以上……嫌われるのは……」

「レン、それは違うのよ!別にお父さんはあなたのことを……うっ」


カリンさんが額に手をあて、その場にしゃがみこむ。

え、えっ!?

あれ!?治ってないの!?


俺達は慌ててカリンさんの下へと駆け寄る。


「だ、大丈夫……まだ少し、立ち眩みがするだけだから」


……ああ、よかった。

一応鑑定してみるがHPはMaxだし、状態異常もない。

上級ポーションを使った以上病気も不治の病とかでなければ治せているはず。

カリンさんもさっきのように顔色が悪いわけでは無い。

他に判断資料は無いし、今はカリンさんのいう事を信じよう。


「私のことは気にしないで。それで……」

「お母さん……」

「……レン」



レンはついて行こうと言った矢先にカリンさんの体調が気になってしまってどうすればいいか迷っているようだ。

カリンさんは少し辛そうに額に手を当てながらも、レンのその瞳をまっすぐにとらえる。

そして……


「……カイトさん、お願いがあるの」

「え!?は、はい」


……ビックリした。

いきなり俺に話を振られるとは……

カリンさんは俺を驚かせるのがうまいらしい。


「レンのこと、守ってあげてくれる?」

「えっーと……それはどういう……」

「助けてもらった上にこんなことお願いするのは厚かましいって言うのは十分わかっているわ。それでも、カイトさんになら大切な娘を預けられる、そう思って」

「でも、お母さんは……」

「お母さんのことが心配なら、急いでお父さんの元に行ってそれでお父さんも連れて一緒に帰って来てくれればいいわ。さっきまでとは違って、待っている位の元気はあるから」

「お母さん……うん!!分かった、ボクもお兄ちゃんと一緒なら大丈夫だと思う!!」

「でしょ?ならいいんじゃないかしら……どう、カイトさん、もちろん嫌だったら断ってくれても……」

「そうですか……一応拒否権はあるんですね。なら……」

「……はぁ、ボクは一人でブルブルと震えながらお父さんの下に行かなければいけないのか……」


…………。


「ああ、レン、可哀想に!!集会所は里の知識人や賢人たち大人が集まるとても格式ばったところ。雰囲気なんてきっととってもギスギスしたところよ!!そんなところにレンは一人で向かわなければいけないなんて!!こんな時、頼りになるお兄さんがついていれば……」

「仕方ないよ、お母さん。ボクみたいな出来そこないに構っている暇はない位お兄ちゃんは忙しいんだよ……でも、ボク、一人でも頑張るよ。きっと、お兄ちゃんもそんなボクをどこかで見ててくれるから」

「ああ、なんて健気で可哀想なレン!!こんなレンを守ってくれる、そんな勇気のある男の子がいれば!!」



……………………。


二人とも本当にグイグイ来るな。

母娘で来られると面倒くささが2倍、3倍、それ以上にも跳ね上がる。

目の前で繰り広げられている茶番劇を俺はいつまで見ていれば……


「やっぱりレンもカリンさんのことが心配でしょうし、ここは二人で待っていた方が……」

「……そうだよね、やっぱりボクなんかがついて行ったらお兄ちゃんにとっては足手まといだよね……うん、分かった、ボクみたいな何の取り柄も無い愚図な妹は一生お母さんの面倒でも見て待っているよ」

「まあ!!なんてお母さん想いな子なの!!老後の面倒まで約束してもらえるなんて!!……でも、だからこそこんないい子であるレンを私のような老い先短い人間で縛り付けるようなことはしたくない!!……誰か、レンをこの呪縛から解き放って連れ去ってくれる王子様のような男の子がいれば……」


………………………………。


何だか二人で攻めようとしたところが微妙に異なっているような……

それにカリンさん、自分で老い先短いとか言っちゃってるし。

そう言えば天使の寿命って……それはまあいいか。

これ以上芝居がかったものを見せられるのもそれはそれで萎えてくる。

仕方ない。


「……はぁ、まあ別にレンがついて来ても私は構いませんよ」

「まぁ!!レン、良かったわね!!カイトさんがレンを一生守って下さるって!!これは今日はお祝いしないと」

「うん!!……お兄ちゃん、不束者ですが、末永くよろしくお願いします」


……おい、何でそんな話になる。

話の飛躍も甚だしい。

ライト兄弟もビックリの飛躍だ。

母娘そろってぶっ叩いてツッコんでやろうか。



≪ぐぬぬぅ、ぬしとは今後じっくりと話し合う必要があるようじゃの……≫

「ふふん、いつでもボクは相手になるよ!お兄ちゃんのお・よ・め・さん、として!!」

≪ぬわー!!何が『お・よ・め・さん♡』じゃ!!ちょっと主殿に構ってもらったからっていい気になりおって……≫

「何を!!」

≪何を!!≫


「……主様、どうしましょう?」

「……ああ、もう放っとこう……サクヤ、サクヤは残ってカリンさんの傍にいてくれないか?」

「え?デ、デモ……」

「流石にまだ病み上がりなカリンさんを一人残してもしものことが有ったらうまくことが運んだとしても俺がゴウさんに殺されかねん。誰か一人でもカリンさんの傍にいればレンも安心できるだろう。サクヤなら色々と知ってるだろうし俺も安心して任せられる。だから、な?」

「……分かりマシタ!!ご主人サマのご期待に沿えますヨウ精一杯頑張らせていただきマス!!」

「ああ、任せたぞ」

「ハイ!!」

「よし!……じゃあ行ってきます」

「……はい、行ってらっしゃい、レン、カイトさん」


サクヤに支えられながらも温かい眼差しで俺達を見送ってくれるカリンさん。

……何だかこういうの、久しぶりだな。





「……ゴウ、おんしの意見はどうじゃ?」

「…………」

「長老殿、最早議論の余地など無い!!ただでさえゴウの娘だからって皆はコイツに遠慮して何も言わんのだ!!コイツ本人もだんまり決め込んでる。もういいじゃねえか!!」

「これこれ……あまりことを焦ると良いことは無いぞ?」

「だが……」



俺達は集会所なるところにベルとレンの案内の下辿り着いた。

中からは激しい議論……とりわけレンについてどうするかが続いているようだ。

外にいても聞こえてくる程に議論は熱を帯びている。

ふーむ、これはどうしたものか……



「どう、しましょうか?」

『うーむ、この中に、行くのか……』

≪だ、大丈夫じゃ、こんなもの我の恐るるところでは無いわ!!≫

「姉じゃ、声が裏返ってますが……」

「……ボク……」


……中の雰囲気に呑まれちまってるな。

そりゃ中に里のお偉いさんが総出で集まっているんだ。

レンはビビりもするだろう。


リゼルはいつも命のやりとりをしているんだから最初、こんなことでビビるのもどうかと思ったんだが……

考えてみれば今から入る先は『守護天使ガーディアン』のスキルを持つ天使達の集う場所。

今まで戦ってきた奴等とは違って自分の命を直ぐにでもどうこうできる力を持っているかもしれない。

話では俺達のことも問題視しているらしいし、味方でないことはハッキリとしている。


そりゃ……キツイか。



「『守護天使ガーディアン』を持って無い者など天使では無い!!そんな者はこの里には不要だ!!」

「そうだそうだ!!お前ができないんなら、俺が代わりに殺してやる、ゴウ!!」

「いや、お前達、それは極端過ぎる意見だ!!一人の天使の人生を左右するんだぞ、もっと議論を詰めるべきだ!!」

「そんな必要は無い!!神から与えられるべき恩恵を受けれなかったのだ!そんな者、我等天使には必要ない、いや、そもそもそんな者天使とは言わん!!まさに『堕天使』と言う言葉がお似合いじゃないか!」

「お前、言っていいことと悪いことが……」

「おんし等、少しは落ち着かんか!!」


また中から周りも憚らず大声で怒鳴る声が聞こえてくる。

結構過激なことを言う天使もいれば慎重な天使もいるようだ。

……長老なる者の声はかなり幼い女の子のもの。

これはロリっこ長老も有り得るな……

と、そんなことはどうでもいい。

レンとリゼルの様子は……リゼルはまだ大丈夫そうだがレンはキツそうだ。


……俺が、しっかりしなければ。


それにしても……中にはゴウさんもいるはずなのに彼の発言が一切聞こえてこない。

今、正に自分の娘のことが議論されているというのに……『長』という肩書が邪魔しているのか?


「……お父さん……何も……言わないね……」


ポツポツとそう呟くレン。

その表情には陰りが。


「やっぱり……ボクが……悪いから……」


……ああ、そりゃ親父が自分を庇ってくれなかったら悪い方向に思考は行くよな。


「レン……お前」

≪レン、お主……≫

「レン……」

『レン……』


俺も含めた皆がレンを心配そうに見つめる。


「……え、えへへ、別にボクは大丈夫だから。……お父さんは里の長で、とっても偉いし、忙しいんだ。それに元々はボクが……『守護天使ガーディアン』じゃないのが悪いんだ。……だから、お父さんを責めないであげてね」



こんな女の子一人に気使わせて、しかもこんな辛そうな笑顔させて……

…………何、やってんだよ。


カリンさんの話を信頼するなら、ゴウさんだってちゃんとレンのことを娘として愛しているはず。

それが、この里では当たり前である、『守護天使ガーディアン』を持たない子供だとしても……


レンが花を採りに行った話をした時も、鋭く表情を変えた。

それら全てを信じ、そして、今目の前で自分を兄と慕う女の子にこんな顔をさせないためなら……




俺はレンの髪を多少力強く撫でてやる。

そのせいで整った髪が少し乱れてしまう。

当たり前だがレンは驚いているようで、俺を見上げる。


「わっ、ちょっ、お、お兄ちゃん!?」

「レン、覚えとけ。『大丈夫』なんて言葉は我慢してる奴が使う言葉だ。ただでさえ辛そうな顔してる奴にその言葉使われたら……放っとけるわけないだろうが」

「お、お兄ちゃん、でも……」

「デモもオープニングもねえよ。……お前は親父さん……ゴウさんのこと、嫌いなのか?」

「ボクは……」


レンは俯く。

俺達は急かさず待つ。

そして、しばしの沈黙を経て……


「ボクは……ボクは、里でお仕事を頑張っているお父さんが好き!!里の皆のために忙しそうに頑張っているカッコいいお父さんが好き!!お父さんともっと仲良くなりたい!!ボクのせいでお父さんに迷惑をかけてるんなら謝りたいし、もっとたくさんお話したい!!……ボクは、ボクは……」

「……その想いがあんなら十分だ。後はその大好きな自分の親父と、兄貴を信じて待ってろ」


今度は優しく、ただ左手を添えるだけ。

添えたのは頭に、であってボールに、では無い。

……どこにもシュートを放つつもりは無いよ?


「お兄ちゃん……うん、うん、……あり、がとう、ありがとう、お兄ちゃん」

「とりあえず待ってろ。……リゼル、ベル、二人はレンについていてやってくれるか?」

「主様、お一人で……行かれるのです?」

≪主殿一人に行かせるのは……≫

「俺一人で入った方が色々と話が進みやすいと思う。……それに、どうせ外から中の話は筒抜けなんだ。本当にヤバくなったら助けてくれればいい。……それまでは俺を信じて待っててくれ」

「……分かりました。レンのことは任せて下さい、です」

≪な!?ファルよ、それでは……≫

「姉じゃ、待つのも女の仕事の一つです。いい女というのは、夫のために尽くすもの、です。ですから……」

≪……我は待つ!!≫

「……え?」

≪我はいい女じゃからな。主殿のためにも信じてここで待つのじゃ!!≫


……なんとも都合がいい奴だな。

変わり身早すぎんだろ。


……ん?リゼル……ファルが俺の方を見てウィンクして……ああ!


「(スマンな、リゼル)」

「(いえ、こうやって主様を影からお支えするのも、私の役目の一つですから)」

「(……助かる)」


俺達は念話ではなくアイコンタクトだけで会話を成立させた。

姉の方は何だかその気になっていてそれに気づいていない。

……ファルには感謝しないとな。


「じゃあ、行ってくる」


俺はレンとリゼル、ベルを残して中へと入って行った。






「ふぅー、埒が明かんのう」

「長老!!こんな議論不毛です!!」

「ことを急いては取り返しのつかないことになるぞ!!お前は天使の名を傷つけたいのか!?」

「お前こそ、天使でもない奴をこの里に置いて、無駄な経費を使い続けるつもりか!?ただでさえ『アクト』や『カイン』を作れる者が去年金と共に失踪して里の財源は火の車なのに、これ以上長の贔屓で里の者に貧しい思いをさせるのは……」

「待った!!」


俺はゆさぶりをかけて情報を引き出すために机を盛大に叩いて……ゴメン、普通にこの議論を止めるために声を放つ。


「ん、何者だ、貴様は!?」


中に入ると、そこは大きく3つに分かれていた。

1つは多くの天使達……全体の7割位が俺から見て右側に座っている。

左右どちらからも向けられる視線は鋭いものだが、こちらはとりわけ厳しい。

……最前列にいる奴が一番キツイな。

恐らくコイツが過激派の頭だろう。


反対の左側……約3割の天使がいる。

こちらの方はキツイ、というよりは皆難しそうな顔をしている。

こっちが一応は穏健派、というところかな?


ま、そこはレンのことについてで、俺達よそ者についてはあまりいい思いじゃないのは一緒だろう。


そして中央には……


「カイト、お前……」

「ん?おんしは……」


長であるゴウさんが腕を組み難しい顔をしながら座っている。

そしてその横にはさっきから場をまとめていたと思われる……長老なる者が。

声からしてロリっ子長老を期待していたんだが……ロリなのは声だけのようで見た目は単なるババアだった。


……期待外れも甚だしい。


見た目ババアで声だけロリっ子って誰に需要あんだよ!?

この世界にアニメが無い以上声優の道すら途絶えているぞ!


それに『長』と『長老』は何が違うんだ?

あれかな、長を引退はしたけどご意見番としている昔の上皇みたいなもんかな?


まあそれはいいか。

今はこの場をなんとかしないと。



さて、じゃあ……


「何者だ、とおっしゃいましたが私はここの人間でない以上お分かりかと思います、あなた方天使の里にお邪魔している冒険者です。先ほどまでの議論、『隠密』というスキルを使ってこっそり聞かせていただきました」

「な!?き、貴様、神聖な我等の話し合いを盗み聞いたというのか!?」


右側最前列の過激派筆頭が立ち上がって声を荒げ噛みついてくる。

本当に話していたのは神聖な内容だったのかよ……神聖が聞いてあきれる。


「そこはこのお話の内容が片付いた後で論じれば足りることです。今はあなた方がお話していたことを私も踏まえて一緒にお話ししましょう、というだけですよ」

「よそ者が何を図々しいことを!いいからこの里からさっさと出ていけ!!」


過激派の中の天使が声を上げる。


「私はただ天使の皆さん方に一つ提案をしたいだけです。拝聴していた限りでは中々議論が進まなそうだったので一つの案として考えていただければ」

「余計なお世話だ!!今すぐこの場から消え去れ!さもなくば……」


今度は過激派の筆頭が脇差に手をかけて威圧してくる。

今迄感じたことのないような圧迫感が俺を襲う。


……ものすごい殺気だ。

肌にひしひしと伝わってくる。


大丈夫、コイツ等だって俺の提案を無下にはできないはず。

兎に角今はその内容を伝えないと。


「あまりことを荒げないでいただきたい。私も要件が済めば直ぐにでもここを去らせていただきます。ですから、先ずは私の提案を聴いていただきたい」

「ふむ、して、その内容とは?」


ロリババアが俺の話に興味を示したのか、尋ねてくる。


「長老!!何を……」

「よいではないか、議論が滞っていたのは事実。外から来た者の意見というのも違った角度から物事を考えることができて新しい発見ができるやもしれん」

「しかしですね……」

「選択肢にすらなり得ないような内容がおかしなものであれば排斥すればよい。違うか?」

「……いえ……」

「ではよかろう。……ゴウよ、そなたもそれでよいか?」

「……はい」


おお、ロリババアが説得したぞ。

ゴウさんの意見も聴いている以上一応長であるゴウさんに一番発言力があると思う。

でも今実質的にこの場を仕切っているのはあのロリババアだ。

ふむ、アイツにもかなりの発言力があるのは間違いないだろう。


「ではカイトとやら。話してくれるか?」

「はい。……では、お話させていただきます」


すーはー。



レン、リゼル、ベル、俺を信じて最後まで外で待っててくれよ……


「一応前提として一つ確認させていただきたいことがあります。今この場で議論されているのは、ただでさえ守護天使ガーディアンでない『レン』がよそ者を連れてきたことから、これを機に『レン』の処遇をどうするかについて話し合ってらっしゃる、そうですね?」

「ちっ、一々分かってることを」


過激派の奴が悪態をつく。

穏健派の天使達でさえあまりいい顔はしていない。


「うむ、それで、そなたから見て右におる者達はこれを機にレンをいっその事殺してしまう方が、という意見が出ておるな。一方左側の者等は慎重論を唱えておる。慎重論とは言っても里から追放すべきだというのが一番優しい意見じゃがな」

「ありがとうございます」


親切にも要点をまとめて話してくれたロリババア。

その際にもゴウさんはあまり動かない。

一体何を考えているのか……まあそれはこれからなんとかしていくさ。


「では、本題に。……私が提案したいのは、ズバリ、レンを30万ピンスで売っていただきたい」

「「「な!?」」」

「何を言い出す、カイト!!」


天使達が総立ちになる。

ゴウさんもこれには驚いたらしい、立ち上がって俺を見る。


「何もおかしな話では無くお互いに良い選択だと思いますよ?丁度私は戦える仲間が欲しいと思っていたところです。そして、この里の経営はあまり良い状態ではないそうですね。そこでこの話が出て来るんです。……どうせ殺すなら、売ってお金にした方が里のためになると思いますよ。30万で安いならもう10万出しても構いません、相場で言ったら少し高いかと思いますが……まあいいでしょう」


相場なんか本当は全く知らん。

こういうのは自信を持って言い切った方がそれらしく見えるもんだ。

この里は他のところと交流があるとゴウさんが言っていたが純粋な天使だけの里であるなら奴隷を買う習慣は無いはず。

そこから考えたら里の天使達が相場を知っているとは思えない。


……知っていたら軽く謝ろう。


「……確かに、今の里の財源を考えたら……」

「その選択肢は……無くは無い、な」

「無くは無いどころか……問題が一挙に解決できるんじゃ」



穏健派の天使達が口々に俺の提案に理解を示しだす。

過激派・反対派達の中にもちらほらといいんじゃないかと思う者もあらわれている。

現金な奴等だ。


ゴウさんは天使達の反応に少しばかり動揺している。

よし、もうひと押し……


「待て、お前達!!コイツの言うことを真に受けるな!!きっと詐欺まがいのことをして俺達から……」

「レンはこの里では追放すべきだと論じられる存在なんでしょう?私が買う側なのにどうやったらあなた達を欺罔することができるんです?方式にしても、何かしら履行を担保できる契約方法をとっても私は構いませんが……」

「それなら里には奴隷契約の魔法を使える者がいる。そうすればある程度は詐欺なんて可能性も排除できるぞ!」

「ああ、それなら問題ない!どうだ、ケン?」


過激派の天使達が筆頭に尋ねる。

どうやら筆頭はケンと言うらしい。

ケンの意見を尊重しようとする辺り、別に頭がおかしい人では無くある程度里の者からの信頼は得ている人物のようだ。


……ま、俺にとってはどっちでもいいが。


俺は今はただ、ゴウさんの本音を引き出すのみ。


「それは都合がいいですね、私も奴隷として買い入れることができるなら申し分ありませんよ。どんなに使い古しても誰にも文句を言われないですし」


俺はとりわけゴウさんに聞こえるようにそう言い放つ。

悪っぽく言えてるかな……


「貴様!!やはり……」


過激派筆頭のケンがまたもや噛みついてくる。


「別に構わないのではないのでしょうか?あなた方も今正にあの子を追い出す話をなさっているんでしょう?追い出した後のことはあなた方には関係ない話です」

「し、しかし……」


さっきの殺気はどうした……って別に狙ってシャレを言ったわけでは無いぞ。


「はっはっは、安心してください、ちゃんと買った後はボロ雑巾のように使い捨てて見せますから」


……ふぅ、妹のために頑張るお兄さんはどこでも大変だな。

度を越してシスコンにならないよう気をつけねば……


「カイト、お前……」


ゴウさんが俺の目の前に近づいて睨んできた。

……流石に癇に障ったか?

まあそれでいいんだが……


「ゴウさん、あなたも別に構わないでしょう?レンと不仲なんですよね?いいいじゃないですか、一人だけ守護天使ガーディアンじゃないような不出来な娘なんて私に売って、全部忘れて里のことだけを考えていればいいんですよ。長なんですから、あなたも皆もその方が幸せでしょう」


……頼む、まだ来ないでくれ、レン、リゼル、ベル……


「くっ、貴様……」

「長であるあなたが首を縦に振れば全て丸く収まるんです。財源だって苦しいんでしょ?根本的な解決とまではいかないにしても40万ピンスもあればこの里の規模からしたら十分でしょう。いかがです?……あなたの娘を金で売ってくれませんか?」

「このっ、黙れっ!!」

「ごほっ」

「「ゴ、ゴウさん!?」」

「「ゴウ!?」」

「「長!?」」


瞬間、背中と顔に激しい痛みを感じる。

いってぇ……

殴られたのは……分かったが、その動作が全然見えなかったな……

クレイの契約から得られた恩恵、『ダメージ半減』があってもHPがぐっと減った。

これが『守護天使ガーディアン』か……

顔の原型保ててるかな……


一発殴られただけで戦意をかなり削がれた。

俺も今ので結構余裕が無くなってきたが……ここで終るわけにはいかない。

天使達もかなり驚いている。

やっと本音が出てきたところなんだ、畳み掛けるなら今だ。


「ちっ、いきなり何をするんです!?あんな出来損ない一人のために里の長が乱心ですか!?」

「娘の幸せのために父親が怒って何が悪い!?あの子は『守護天使ガーディアン』無しでも俺を超えた自慢の娘だ!!長だろうが天使だろうが自分の娘が大切なことには何の変りも無い!!誰に何を言われようとそれを否定はさせん!!」

「今更父親面かよ!あの子が一人辛い思いをしている時にただただきつく接するしかしなかったくせに!!」

「長である俺があの子に甘くしたらそれだけで贔屓だと言われてしまうだろうが!!ただでさえあの子は周りから色々言われてるんだ、それがまた更にあの子への辛い風当たりになってしまうだろう!!」

「それでもあの子はアンタともっと話したいって言ってたぞ!!もっと仲良くしたいって!!挙句自分を庇わない父親を責めないであげてってその父親を庇う始末だ!!」

「な!?レンが……そんなことを……」

「アンタがどう考えていたかは俺には知ったことじゃないがな、人間の心ってのはそう強くは出来てないんだよ。カリンさんが病で臥していた以上、アンタがあの子を守ってあげないで誰が守ってあげるんだ!?」

「俺は……あの子に、恨まれているんじゃ……そう思うと」

「それは……どういう……」

「ただでさえあの子に『守護天使ガーディアン』を授けてやれなかった、そこで厳しく接すれば最終的にはあの子のためになると思ってそうしていたら段々あの子に話しかけ辛くなっていった……」


……なるほどなぁ、ゴウさんにはゴウさんなりに思うところがあったという事か。

まあどっちもどっち、か。

結局はカリンさんの言う通り、二人とも……


「どうして、レンなんだ……代わってやれるものなら今すぐにでも代わってやりたいのに……」

「ゴウさん……」

「お父、さん……」

「レン!?お前、どうしてここに……」


入り口には、目いっぱいに涙を浮かべているレンが。

後ろにはリゼルとベルもいるようだ。


ちゃんと俺のことを信頼して最後まで我慢してくれたんだな。


「お父さーん!!」


レンは周りの大人の天使達の視線など気にも留めずにゴウさんに向かってただただ走っていく。

ゴウさんは本当にびっくりした様子だがそれを受け入れる。


「レン、どうして……」

「お父さん、は、何も、悪く、無いよ……ボクが、ボクが悪いんだ」

「レン、もしかして、今までの話を……」

「ゴメンね、お父さん、ゴメンね……」

「レン!!スマン、父親として何もお前にしてやれなかった。俺が、俺が……」

「ううん、ボクが、ボクが……」

「いや、俺が……」



二人とも自分が悪いと責任の所在を奪い合う。

ああ、こんなところにもまだまだ人間も捨てたものではないと思わせてくれる温かい光景があったのだな……


見ていて胸が温かくなる思いはあるものの、いつまでも続けさせるわけにはいかないだろう。

どこかでオチというものをつけなければならない。

ここは愛用させてもらっている某芸人さんのお約束で俺が……


「私が……」

「ゴウさん……俺達、あんたに重荷を負わせ過ぎたのかな……」

「俺達、ついつい自分たちのことばっかりで、あんたがそんなに思い悩んでいたなんて……」

「里に貢献してきたゴウを俺達が追いこんでしまったんだ」

「なぁ、もうちょと時間をかけて真剣にレンのことについて話し合わないか?」

「ああ、私達皆の里のことなんだ、ゴウさんにだけ任せっきりにせず、私達でもできることが無いか話し合わなければ!」


おい!

天使共が勝手に話をし始めやがったぞ!?

くそっ、ここは俺が出て行って幕を下ろすっていう筋書きじゃあ……


「その通りだ!……いいな、ケン?」


ゴウさんとレンを除くその場にいた天使全員が過激派筆頭であるケンを見る。


「……ちっ、俺はまだ認めたわけでは無い!」

「分かっている。だから時間をかけてちゃんと皆が納得できるよう話し合おうと言っているんだ!」

「……本物の天使しか俺は認めない!!」

「それでもいい。それでもいいから、ちゃんと一緒に話し合おう。な?」


尚も粘り強く説得し続ける天使達。


「……くそっ……分かったよ」


そして折れるケン。



……あっれー?

何だかよくわからないけれど皆でもう少しちゃんと話し合おうということでうまいこと纏まったようだ。

今はさっきのような息苦しい雰囲気も大分緩和されている。

ゴウさんとレンとの今の光景を見て考えを大きく変えた様に見受けられる天使達も少なくないように思える。



俺からしたら邪魔者は早々に撤退してその後のことはうまいこと仲直りできたレンとゴウさん親子が元気になったカリンさんと共に頑張って里を支えていく、それを見て里の天使達も考えを変えて……希望的観測としてはキーアイテムっぽかった『デジー・フラワー』が発動、位に今回のことは思っていたんだが……


……こういう結果も有り得たのか。



「カイトとやら、おんしの考えていた方向にはいかなかったようじゃな」


考え込んでいた俺にロリババアが話しかけてくる。

これで容姿もロリだったらなぁ……


「……そうですね、少し天使を甘く見ていたようです」

「ほっほっほ。まあそう落ち込まんでもよい。おんしのやったことはとても意義あることじゃ。誇りに思ってよいぞ?」

「はぁ、まあ今後の参考にさせていただきます」

「む?あまり元気が戻らないようじゃな。なんなら褒美として直々にワシが入れ歯を取った口でおんしの息子に奉仕してやってもよいぞ?歯が無い分気持ちいいと思うが……」


何が褒美だ!!それは罰ゲーム以外の何物でもないぞ!!

声だけロリに奉仕されたところで何の有難味があるんだ!?

それにお前入れ歯かよ!!

入れ歯があることにもビックリだが入れ歯をつけていることにもビックリだ!


はぁ、グッと疲れた。


「カイト、本当にありがとう。お前のおかげでレンとこれからはちゃんと向き合えそうだ」


ゴウさんが座り込んでいた俺に手を差し出してくる。


「……私はただ自分のできることをしただけです。お気になさらず」


俺はその手を取り、ゴウさんは力を入れて立ち上がらせてくれた。


次の瞬間……




グラグラグラグラグラグラグラグラ


な、何だ!?

物凄い揺れが集会所の中に響いた。

今度は本当の地震のようだ。

周りの天使達も激しい揺れに動揺している。


ゴウさんが的確な指示を出してその場を無事に切り抜ける。

だが……


「な、何でしょう、あれは……」

≪奇妙な光の柱が……≫


リゼルが俺の横で口を大きく開けたまま驚いている。


その視線の先には、リゼルが言ったように、里の少し離れたところから光の柱が立っていた。


これは、一体……


「な、何という事だ、これはもしや……『神の裁き』が!?」


過激派筆頭のケンさんがそんなことを漏らす。


「嘘だろ!?あれってただの言い伝えじゃ……」

「そうだ、だって1000年に一度あるかないかって伝承に……」


天使達はあの光の柱を見てさっきの地震以上に混乱している。

これにはゴウさんも動揺を隠せないでいる。

俺はゴウさんにどういう事か尋ねる。


「……これはな、俺も俄かには信じがたいことだ。これに関しては本当に眉唾程度にしか思っていなかったんだが……1000年に一度、我々天使の行いが正しいかどうか『神の裁き』が下るという言い伝えがあってな、だが間隔が1000年に一度だろ?言い伝えと言っても残された文献にそんなものがあるという記述もほとんど無い。俺達自身も本当かどうか分からないと思っているんだが……」

「それならどうしてそれがその『神の裁き』だって分かるんです?」

「“『神の裁き』下る時、天使の地揺らぎ、天より光舞い降りる”」

「それは……」

「代々語り継ぐべき言い伝えの一つだ。これと今の状況が一致している」

「はぁ、なるほど……」


何だかなぁ……

この里では如何せんイレギュラーが多い。

当事者である天使達ですらほとんど情報が無い以上他人である俺がどうすべきかなんて適切な判断を下せる訳が無い。


判断を下すときはできるだけ多くの情報を元に考えた方がいいのだが、これだと直感に頼らざるを得ない。

……最近でも優秀と評判の俺の危機管理センサーには特に引っかかる感じは無いんだが。

果たしてどうしたものか……


「カイト、一緒に来てくれないか?」


ゴウさんが俺にそう告げる。


「……いいんですか?私は完全によそ者ですよ?そんな大事な時に……」

「大事な時だからこそ俺はお前にも一緒にいて欲しいと思っている。本当に俺達天使に裁きが下されるのなら、この里のために頑張ってくれたカイトには一緒に立ち会う権利位あって当たり前だと思う」

「ゴウさん……」


ゴウさんが発した言葉に反対する天使はいなかった。

過激派筆頭がかみついて来るかと思ったが今は俺なんかに構っている暇は無いらしい、『神の裁き』のことを考えることでいっぱいいっぱいのようだ。


ここはやはり天使だけあって本当に重要なのだろう。

今迄半信半疑だった言い伝えが真実味を帯びてくるとこういう風になるのか……



とりあえずついて行くこと自体は別に構わないのだが、何かあったらあったで困るな……

そう考えるとついて行かないという選択肢も有り得るが……


情報がほとんど無いに等しい以上自分の直感を信じるなら、『神の裁き』という名前の割には危ないという感じはしない。

なら、一応保険としてリゼルとベルはサクヤの元に戻らせて、いざとなったらサクヤ・クレイを召喚という方向でいいだろう。


ただでさえ天使自体珍しいんだし、その天使達ですら滅多とないというイベントが傍で見られるんだ。

有りがたくお受けしよう。


「分かりました。私で良ければご一緒させていただきます」

「そうか。お前がいてくれると心強い。……レン、お前は母さんの傍に」

「え?でも、お父さん……」

「俺に何かあったら、母さんを頼むぞ?」

「お父さん……分かった。でも……」

「ああ、神が俺達にどのような裁きを下すかは分からないが……できるだけ帰れるよう努力はする」

「……うん、行ってらっしゃい、お父さん、お兄ちゃん」

「おう、ちゃんと帰るから、家で待ってろ」


俺はさっきのようにレンの頭をクシャクシャと撫でてやる。

イケメンだったらここで笑顔の一つや二つ見せてやるんだろうが俺にはこれが精いっぱいだ。


「……うん、待ってるから、ずっと、ずっと!!」


……そんな言い方されると死亡フラグでも建ったかのようだ。


俺はリゼルとベルに先ほど考えていたことを話してレンと共にカリンさんとサクヤの元で待っていてもらう。


そうして、俺とゴウさんは集会所にいた天使達を引き連れて光の柱へ。




光の柱は収束することなく輝き続けていたので見失うことなく目的の地へとたどり着けた。

そこで、俺が目にしたのは……





「……やあ、久しぶりだね、海翔君」




今回はところどころネタを入れました。

こちらも今迄では多い方かと。


それはさておき、最後のセリフは一体!?

そしてこの後の展開は!?

次回、天使の里編最終話(予定)。

※第4章の終わりではありませんのでご注意を。

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