レンのお母さん……
「お母さん、起きてきちゃダメだよ、寝てないと!!」
レンは慌ててお母さんの元に駆け寄る。
レンが向かった先には……いかにも病弱ですと言わんばかりの女性が右手を壁に、左手は口元にあてて何とか立っているという状態でいた。
その容姿は幸い綺麗な顔をした普通の人間の女性だ。
ただデジャヴというか何というか……レンの母親である以上既視感があるのは当たり前なんだが、それとはまた違った感じが……
毛先まで綺麗に染まった長いオレンジ色の髪を右側で束ねている。
鑑定してみるとカリンさんと言うらしい。
生際を確認することはできないが背中には俺のよく知る真っ白い整ったうっとりとしてしまう位美しい羽がついている。
彼女もちゃんと『守護天使』の職業・スキルを持っているようだ。
それにしても……
よかったーーーーーーーーーー!!
本当によかった!!
天使達の容姿と『守護天使』との関連性がこれで否定されたな!
レンが守護天使となってももう懸念されることが起きることも……
「レンが帰ったから、お出迎えを、と思って。大丈夫、今日はまだ調子がいい方だから……」
「そんなこと言って、また悪くなったらどうするの!?」
「もう、お父さんもレンも心配性なんだから……ごほっ、ごほっ」
「お母さん!?大丈夫!?」
「だいじょう……ごほっごほっ!!」
おいおい!!
本当に大丈夫かよ!?
「ごほっごほっごほっごほっ……」
こりゃ放っとくとヤバいんじゃ……
「レン、ちょっと……」
「え!?お兄ちゃん!?」
「心配するな、回復魔法をかけるだけだから」
「う、うん……」
俺はレンに断ってから、お母さんに回復魔法をかける。
「ごほっ、ごほっ、…………あ、あれ?何だかちょっと、楽になったかしら?」
「本当!?お母さん!?」
「ええ、どなたか存じませんが、ありがとうございます」
ふぅ、良かった。
目の前で死人が出るなんてたまったもんじゃないからな。
これで何とか……
「これで……ごほっごほっごほっごほっおえっごほっごほっごほっごほっ!!!」
え、嘘!?
全然ダメだったの!?
俺が回復魔法使ったのが悪かったのか!?
何か咳の際中に吐き気まで催してるし!!
どうしよどうしよ!?
何か無いか何か無いか……
「……お母さん、それは流石に嘘でしょ」
「ありゃ、バレちゃったかしら?」
「そりゃそうだよ、ボクが嘘つくときとまんま同じだもん。もう、折角お兄ちゃんが回復魔法使って楽にしてくれたのに」
「ゴメンね、レン。回復してもらったおかげで何だか久しぶりに体調が良いから、つい」
「そんな舌をペロッと出してもダメ!!全く……」
「もう、年老いたおばさんのお茶目なのに……あなたもごめんなさいね?」
「あ、いえ、大丈夫です」
……全然大丈夫じゃねえよ。
危うく二度目の死を経験するかもしれないところだった。
化物のゴウさんに殺されずに済んだぜ……。
これがドッキリで助かった……望むならばレンとゴウさんの親子関係も何かしらのドッキリであって欲しかったが、まあ今は自分の命が助かっただけでも良しとしよう。
「レン、まだか、あんまり遅いと……カ、カリン!?どうして起きてるんだ!?寝てなくて大丈夫なのか!?」
ぎゃー!!
ひょっこり化物が壁から顔を生やして……ってあ、何だ、ゴウさんか。
脅かすなよ、もう少しでビビるところだったじゃないか。
……うん、まだビビッてはいないよ?寸前だっただけで。
ほんとだって!!
ちょーっとここらで地震でもあったのかな?
初期微動で足が震えてはいるけど……
うん、俺の足は振動で震えているんだ!
決してビビッたわけじゃない!!
油断せずに主要動に備えようじゃないか!!
……やべぇー、漏らすかと思った。
「あらあら、お父さんまで……」
「ボクがお母さんを見てるから。お父さんはお仕事あるんでしょ?」
「ああ、だが……」
「いいから、ね、お兄ちゃんも」
「あ、ああ。わかった」
その後、俺達は事情を呑み込んだゴウさんと共に一端レンと別れ、母娘二人を残して里を案内してもらうことになった。
何だか厄介者扱いされたような……
今横を歩いている化物と一緒にされるのは嫌だなぁ。
「ん?カイト、今何かおかしなことでも考えなかったか?レンやカリンのことは感謝しているんだ、できれば武力に訴えることなくお前とは分かり合いたいんだが……」
……はっはっは。
面白い冗談ですね。
ちゃんとひくひくと苦笑いしてあげてるんですからそのどこから出したのか全然分からない手に持っている槍を収めていただけませんかね?
……こういう勘の鋭いところは親子そっくりだ。
カリンさんやこういう似たところが無かったら本当にレンは誘拐されてきたとしか思えないもんな。
「……まあ今は俺の役目を果たそう。里の者達は恐らくお前達を警戒しているだろうが俺が一緒にいたら大丈夫だ。一応それなりに長として信頼を得られるよう行動してきたつもりだからな」
ふーん、流石天使の長だけはあるな。
……どこかの死んだ狼人野郎とは大違いだ。
「……その、カイト、レンは……どうだった?」
いきなりそんなことを尋ねてくるゴウさん。
漠然とし過ぎだ。
何の脈絡もなくそんなこと聞かれても困るんだが……
「何というか……元気な子だな、というのが第一印象です」
「……そうか」
……それだけかよ?
アンタが聞いてきたんじゃないのかよ。
「私からも一ついいですか?」
「ああ」
「……レンからはゴウさんとの仲があまり良くない、と聞いてますよ?」
「……それは、別に嘘ではない。事実俺とレンの仲はあまり良好とは言えん」
「……どういう事情かは知りませんが、それを何とかしたいという想いでレンはあなたが好きだという花を取りに行ったんです、女の子たった一人で」
「レンが、そんなことを!?……そうか」
今一瞬顔が歪んだ……いや、流石にその表現はおかしいか。
表情が変わったように見えたが、直ぐに元に戻って、何を考えているかは窺えなくなった。
そこまではレンから聴いていなかったのか?
それからはしばらく会話が途切れ、ゴウさんは里の案内を続けた。
里の中を見て歩く。
サクヤは物珍しそうに辺りをきょろきょろと見ては興奮している。
……見た目とのギャップが凄いな、まるで子供だ。
「……サクヤさん、少し落ち着いてください。あまり大声で騒ぎますと目立つ、です」
「ほぇ?え、でも、ここ、一杯知らないことが有って楽シイですヨ?」
「うーん、まあ、あんまり騒がないようにな。俺達よそ者が何か問題を起こしたらゴウさんに、ひいてはレンにも迷惑がかかることになる。興奮するなとは言わんがまあ適度に、な?」
「あぅ~、了解デス」
指摘されて少し落ち込むサクヤ。
機械でも知的好奇心はあるんだろうか……いや、そう言う風に製作者が作ったのかな?
「別に騒がしくしてもらっても構わんが里の者達をあんまり威圧しないようにしてやってくれ」
「はい。すいません、説明の途中で」
「いや、気にするな。……分かっているとは思うが、この里、ラクナ・アンジェは天使の住むところだ。それ以外の種族はいない」
「他の種族はいない……どこか他のところと交流とか無いんですか?」
「無い、と言いたいところだが、この里だけで生活に必要なもの全てを賄うことは少々厳しくてな。ここから下界にいって直ぐにあるダストというところで月に一度程色々売り買いしている」
「なるほど……じゃあ別に他の種族を知らない、とかここから一歩も出たことが無い、というようなことはないんですね?」
「ああ、下界に下りる者は確かに限られているが別に鎖国政策を取っているとかそう言ったことは無い」
ふーん、ここもやっぱりシアの里とは違うな。
この世界でも『鎖国』って言うのか、それとも他に似た言葉で表しているのだろうか……
「……下界に下りても、収入は増えなくなってきて最近では里の財源も尽きつつある。何とかしないと……おっと、すまない。長としては色々と悩ましい問題が多いんだ。ついつい愚痴も出てしまう、今のは忘れてくれ」
「あ、はい」
あんまり深入りするとまた面倒事を拾ってシア達に心配をかけることになる。
こんなことになっても俺自身では目立つことは避けたいという心情も常に持っているつもりだ。
よし、ゴウさんもそう言ってくれているんだ、今のは聞かなかったことに……
「ああ、くそっ!!」
「何だ、何か困りごとか?」
苛立ちながら地団太を踏む天使を見かけゴウさんがそれに近づいていく。
「あ、ゴウ!!聴いてくれよ、去年のアレの影響で、今月もまた生活が厳しいんだ、くそっ、これじゃあうちの奴等を養っていけねぇ。俺が死ねば一人分生活費が浮くんじゃ……」
「そう腐るな。お前が死んだら誰が残った家族たちを食わせて行くんだ?」
「そ、それは……」
「去年のアレの影響については俺も何とかならないか色々と模索している。今後とも里の長として俺もできる限りのことはする。だから、な?」
「ああ……すまん。ちょっとうまくいかなくて誰かに励ましてほしかったのかもしれない」
「気にするな」
「あんがとよ。……ああ、それにしても、この状況、何とかならねぇかな~?」
…………。
知らない。
俺は何も聞いていない。
この里の状況が思っている以上に悪いなんて俺は何にも知らない。
「この野郎!!」
「お前がわりーんだろ!?」
「ちっ、今度は何だ!?」
「あ、長!!」
「聴いてくれよ、コイツが……」
しばらくして……
「悪い、ちょっとままならなくてつい……」
「いや、俺の方こそ」
「……すまない、長である俺の力不足で皆に……」
「いや、長はよくやってくれてるさ!!……くそっ、どれもこれも全部去年のアレがあったからだ!!何とかできないのか!?この状況」
「ああ、全くだ、この状況を何とかできる奴がいれば……」
…………。
俺はもう全部忘れた。
里の状況の悪さが去年何かが起こったことと関連性がありそうなんてことは全部忘れた。
そしてこの状況を打破する何かを求めている、なんてことも……
「このクソガキが!!」
「このくそジジイが!!」
しばらく……するかボケェー!!
何なんださっきから!!
人が折角過去から学んで我関せずを貫こうとしている時に!!
何なの!?俺が話を聴く姿勢を見せないとストーリーが進まないとかそんな修正かかってんの!?
ああ、くそっ、これじゃあボスの手前でセーブできないとか、序盤で魔王倒せるアイテム入手できるようなクソゲーの方がまだマシだ!!
ゲームしてるとこういうNPCって時たま鬱陶しくなる。
はぁ、何とか……
「おーい、ゴウさん!!」
「何、今度は……」
……ああ、また……ん?
ゴウさんが話を聴いて顔をしかめたぞ?
「カイト、スマン、先に家に帰っててくれ!!」
「え!?いきなりどう……」
……あ、ゴウさん行っちゃった。
「……主様、どういたしましょう」
「置いてけボリ、デスネ」
「……とりあえずゴウさんの言う通り一端レンの下に戻るか」
そんなあっさりとよそ者を残して行っちゃっていいもんかね?
……何なんだろうね、本当に。
あれ?ベルがいない……まあいっか。
「あら、お帰りなさい」
「あ、はい、ただ今戻りました」
別に自分の家ではないのだがカリンさんに「お帰り」と言われたので一応ちゃんと返事をしておく。
「あの人は?」
「ゴウさんですか?ゴウさんなら里で何かあったらしくて、一人で行っちゃいました」
「あらそう……」
「……カリンさん一人ですか?レンはどうしたんです?」
「あら?レンがいないのが心配?」
「いえ、別にそういうわけでは……」
「フフフ、ごめんなさい、いつもより元気だからつい、ね」
「はぁ……」
「レンなら話し疲れて今は寝ちゃってるわ。……とっても嬉しそうに今日の出来事を、とりわけあなたとのことを話していたわ」
「……そうですか」
「私の体が弱いから、あんまりいつもは構って上げられなくて。今日一杯話してあげられたことも、あの子があんなに心の底から笑っている姿を見られたのも……カイトさん、あなたのおかげよ」
カリンさんが木製の椅子から立ち上がろうとした。
「いえ、私は別に……」
「こういう感謝の気持ちっていうのは素直に受け取ってもらった方が私も嬉しいわ」
俺が否定してそれを制しようとするのを更にカリンさんは言葉で制する。
「……偶然が重なった結果です。ですから別に私個人に対して感謝なさらなくとも……」
「……カイトさんはお礼を言われることに慣れてないのかしら?……それとも、『良い人』に見られるのを嫌がっている、とか」
「…………」
「……カイトさん、他の人がどう言うかは分からないけれど、私からしたらあなたは間違いなく良い人よ?」
≪良くわかっておるの、奥方!!≫
「ええ、主様は世界で一番良い人、です!」
「お前らなぁ……」
「フフ、お仲間さんもカイトさんのこと、良い人だって」
「……今は、いいじゃないですか、私のことは。ところで、レンって普段はどんな……」
「フフフ、まあ今はそういうことにしておこうかしら?……それで、普段のレンについて、だっけ?」
「はいそうです、懐かれはしましたが、何だかんだ言っても今日会ったばかりですし」
「そうね、もう知ってると思うけどあの子は……里で一人だけ、『守護天使』じゃないの」
「『守護天使』って言うのは本来なら皆持っているものなんですか?」
「ええ。この里で生まれた天使なら皆生まれながらにして職業にも、スキルにもついているはずのもの。……私がちゃんと産んで上げれなかったから」
……原因は本当にカリンさんなのか?
聴く限りでは前例が無いっぽい。
レンが初めてなら別にカリンさんが根本の原因とは……って、まあそんなことは考えずに母親の子を思う気持ちからでた言葉だということもあるのかもしれないが。
「ごめんなさい。話を戻すわね。……『守護天使』は私達天使を最強たらしめるのに一番貢献している職業・スキルなの。これがあるから他の種族だけじゃなく、王国までも私達天使を無下にはできないの」
……天使を天使たらしめるもの、か。
一応スキルについて鑑定してみると、
『守護天使』:固有スキル。天使のみが取得できる。
このスキルを所有する天使は、天使を除く『天竜族』、『人族』、『魔族』、『機械』と戦闘する際HPとMPを除く能力値が2倍になり、相手のスキルの効果を受けないようになる。
また、このスキルの所有者が大切なものを守る際、その気持ちの強さに応じて強くなる。
と出た。
確かにこのスキルは脅威的だ。
所有しているだけでほとんどの種族と戦闘する際には能力値が倍になる。
何で種族が限定されているかは……列挙されている種族に力や権力が集中することが良くある……ああでも、それじゃあ『機械』の説明ができない。『竜族』、『魔族』、『人族』ならそれで説明できるかもしれんが……まあ今はいいか。
2つ目の文章のものも少し曖昧ではあるがマイナス要素ではないだろう。
うーむ……天使恐るべし。
「とは言っても天使の絶対数が少ないから、あんまり強く出れないっていうのが私達天使の本音ではあるんだけど」
「はぁ」
「そこは長であるあの人の手腕で何とかしてもらってるわね。……それで、そのスキルが無くてもこの里の中で一番強いのはあの子なの」
「それは本人からも聞きました。戦闘している姿も見ましたが……そのスキル無しであんな動きができるなんて中々いませんし、それがまだ幼い女の子だとしたら……すごいことだと思います」
「そうなの!!あの子は本当はとってもすごい子なの!!スキル無しで、里で一番強かったお父さんまで倒したのに……そのスキルが無いだけで、辛い想いをさせてしまって……あの子は私の体を気遣って辛いことは何も言ってくれないの」
≪……ふむ、どこかの主殿と似たような話じゃな≫
……うるせぇ。
エフィーがいないからと油断していたが……リゼルにも話を理解できるくらいの能力はあったらしい。
「スキルが無いのも、あの人とうまくいっていないことも、自分が悪いって、責めている節があって……」
「ああ、確かに」
そんな感じのことを本人もチラッと言っていたような……
でもカリンさん、体調のせいであんまり構ってあげられていないだろうに、レンのことをよく見ている。
……流石は母親、だな。
「……レンはだからいつも自分で自分を守るしかできなかったの。力では里一番でも、あの子の心はまだとても幼いし、私達と同じでとっても臆病。母親でありながらあの子に私は、何もしてあげられなかった……」
「……そこまで自分を責めなくてもいいんじゃ」
「そんな時!!」
「え!?」
焦った……いきなり声量が大きくなった。
「……そんな時、あなたが、レンを『守ってあげる』って、言って上げたの?」
「……そう言えばそんなこと、言ったような言ってないような……」
「……あの子にとっては、自分を真正面から『守る』と言ってくれる人は今ままでいなかったの。状況は兎も角、本当に心の底から嬉しかったと思う」
「…………」
「カイトさん、あなたがしてくれたことは、あなたからしたら何ともないようなことでも、あの子にとってはとても意味のあることなの。……それだけでも分かってくれたら嬉しいわ」
「……はぁ。まぁ、了解です」
「……まあレン本人が私に話してくれたことなんだけどね」
……おい。
はぁ、何だか思った以上に俺の何気ない言葉がレンの琴線に触れたようだ。
「なるほど。レンについて色々と分かったような気がします。……一つ、いいですか?」
「ええ」
「レンとゴウさんは……その……」
俺は少し気になっていたことを尋ねる。
「ああ……あの人はとっても不器用だから。昔私に花を贈る時にも、共通の友達を通してしか渡せなかった位不器用なの」
「それって……デジー・フラワーですか?」
「ええ……あの人との大切な想い出。私に渡すために友達と一緒に取りに行って、血だらけになって帰ってきた時、慌てて駆け寄っても『何でもない』の一点張りで……ああ、ごめんなさい、話が逸れたわね」
「いえ、お気になさらず」
「あの人はそれ位不器用で……それでいてとってもレンのことを大切に想っているわ」
「……なら、どうしてあの二人の仲が悪いなんて話がレンやゴウさん自身から出て来るんでしょう……」
「それは……二人ともが臆病で……一歩を踏み出せないだけだと思う。私が今みたいにずっと元気だったら何とかして見せ……ごほっごほっ」
「え!?カ、カリンさん!?」
「ごほっごほっごほっ……」
≪ど、どうしたんじゃ!?主殿の魔法で回復したんじゃ……≫
「分かりません。これは……」
どういうことだ!?
さっきのようなお茶目、と言うわけではなさそうだ。
本気で苦しそう。
くそっ、回復魔法で回復できたんじゃ……
俺はもう一度カリンさんに回復魔法をかける。
だが、さっきとは違ってカリンさんの様子が改善されることは無い。
何でだ!?
考えろ……考えるんだ……
俺の回復魔法はユーリ(ユニコーン)と契約したことで治癒力が一段階上がって、そして、状態異常を治癒できるようになった。
だから状態異常であれば治せてなければおかしいことになる。
なら、治せていないことを前提に考えろ。
となると……カリンさんの症状は状態異常じゃない!?
ただの病気は治せないっていうことか!?
状態異常と病気は別もの!?
状態異常じゃないとしてもこっちの回復魔法は治癒力だって上がってるんだぞ!
治癒力単体だけじゃどうにもならない位の病気ってことか……くそっ!!
「ど、どうシマショウ!?このママじゃ……」
「……マズイ、です」
≪何か方法は無いのか!?≫
「現状主様の回復魔法が一番効果が高いです。それで回復しないなら……もう」
ああ、ダメだ、マイナスな方ばっかりに思考が行っている。
魔法がダメなら、薬か何か……
「私の『武器創出』でクスリも出セタラ……」
『武器創出』……はっ!?
俺はすぐさま自分のスキル欄を確認する。
……ちっ、変わってない。
まあここはいい。
本命は……これだ!!
俺は『契約恩恵(主人)』の従者一覧を見てみる。
【従者一覧】
ユニコーン:治癒力一段階上昇+状態異常治癒 MP+15
キリン:雷属性威力一段階上昇+麻痺可能性上昇 AGI(素早さ)+10
フェンリル:氷属性威力一段階上昇+凍結可能性上昇 INT(賢さ)+10
クレイ:ダメージ半減+土属性威力小上昇 DEF(防御力)+10
ワイバーン:風属性威力小上昇 AGI(素早さ)+5
カエン:火属性威力小上昇+『獣王の雄叫び』 STR(筋力)+5
サクヤ:全属性威力・効果中上昇+『アイテム創造』All+5
よしっ!!
やっぱり。
他にも色々と増えてる物はあるが……とりあえず今は後回しだ!!
俺はすぐさま『アイテム創造』を使ってみる。
『アイテムを創造します。何を創りますか?』
んな当たり前なもん聴くな!!
もちろんエリクサーだ!!
『エリクサー を創り出すことはできません。もう一度創り出すアイテムを選択してください』
ああん!?
何でだよ!?
そういう能力じゃないのかよ!?
じゃあ……もう……病気を治せる薬は……
……いや、待て。
俺はもう1つ知っているじゃないか。
大抵の病気なら治せる、そんな薬を……もう一度だ!!
『上級ポーション を創り出します。素材を選択してください』
よし!!
これなら行けるのか。
これを創れれば……カリンさんを……
素材は……
・スキル行使者の能力値
あれ!?選択しろって言っときながら、選択肢が1つしかないぞ!?
しかも俺の能力値ってどういう……
「ごほっごほっごほっ、かはっ」
や、やばい!!
カリンさんが吐血まで!!
くそっ、もう躊躇っている場合じゃない。
俺の能力位好きなだけ持って行け!!
『素材は スキル行使者の能力値 で構いませんか?』
ああ!!
『上級ポーション を創造します。よろしいですか?』
くそっ、いちいち繰り返すな!!
『はい』だよ『はい』!!
『上級ポーション を創出します』
キュイーン
俺の目の前に眩い光が……
う、ぐっ!!
それと同時に俺の体から何かが抜け出たような気がした。
ああ、くそっ、体がだるい……
俺がだるい体に何とか鞭打って光に手を差し出す。
見覚えある、以前3本手に入れたことがあった上級ポーションが今、再び俺の手に。
俺はすぐさまそれを激しく咳き込むカリンさんに飲ませる。
「ごほっ、ごほっ、……ん、んん、あ……」
ああ、そんな色っぽい声出さずに飲んで下さい!!
「……あれ?全然、辛く、ない。さっきとは違って、もう、病気も、感じない」
ほう、良かった。
何とかなったっぽい。
「カイトさん……あなたが……」
「……いえ、私は特に何も……え!?」
カリンさんが立ち上がって俺の顔をしっかりと両手で押さえる。
そして、真正面から俺のことを見て捉える。
目をそらすことは叶わない。
か、顔が近い……
「カイトさん、そんなに自分を無下に扱わなくてもいいのよ?」
「い、いえ、そんなことは……」
「フフ、まあ、とりあえず……ありがとうね、カイトさん」
「……は、はい」
「ああ!!お兄ちゃん、お母さんと見つめ合って何してるの!?」
「あら、レン起きたの?」
「起きたの、じゃないよ!!ボクが寝ている間にお兄ちゃんと仲良くなるなんて……」
レンは飛び込んで来て俺の腕にしがみつく。
「フフ、大丈夫、お母さんはお父さんにメロメロだから。レンからカイトさんを取ったりはしないわ」
「もう、お母さんは……」
何だかレンがいると一気に騒がしくなるな……
≪ああ、主はまた!!主殿から離れるんじゃ!!≫
「ふーんだ、お兄ちゃんとボクは一心同体だもん!!」
≪それを言うなら我も……≫
……お前は裏にいても面倒くさいんだな。
『た、大変だ、カイト殿!!』
今までどこに行っていたのか、すっかり忘れていたベルがいきなり戻ってきてそんなことを告げた。
……今度は何だ。
【従者一覧】見てみたらワイバーンだけが固有名無いことに気付きました。
別につける必要は無いんですが一匹だけ仲間外れというのも……何だかしまりが悪いようにも思えますね。




