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ここが……東のワープ地点先、か。

これは5月の第1週の分として投稿させていただきます。

「……ここ、は」

「……ワープ先みたい、です」

≪ふむ、来たことのないところじゃな≫

『ああ、何とも荒涼としたところだ』



俺達はワープした後、祠の外に出て今目の前に広がる光景にそれぞれの感想を漏らす。


俺が感じたのは西部劇の建物なんかを一切合財取り除いた所、かな。

ベルが言ったように本当に何も無い。

砂漠なのか、と聞かれたらそれはまた違う。

何より気温がそこまで高くない。

ここに長時間いてもその関係で死にはしないだろうが何もなさ過ぎて自宅警備員さん達は死にそうだ。


孤島の自然豊富さからの落差が凄いだけにより何も無さ、というのか、それが際立っている。


……どこだ、ここ?


「主様、どうしましょうか?」


リゼルが尋ねてくる。


「……そうだな、とりあえずこんな荒野に繋がっていたってだけでも皆に……」





「う、うわーーーーー!!」





どこからか女の子の叫び声が突然俺達の耳に飛び込んできた。

何だ!?こんな所で犯罪か!?

……どうする!?


「皆、どうする?」

≪……主殿、若しかしたら行ってもどうしようもないやもしれないぞ?≫

『それにカイト殿、変に首を突っ込んでカイト殿に何かあったら……』


二人は結構慎重論だ。

……俺のことを心配してくれてるのか。


「……分かってる。別に状況を確認するだけだ。面倒くさそうだったら逃げればいい」

『そううまく行く物では……』

「……私は主様に賛成、です」


リゼルが味方をしてくれる。


≪じゃが……≫

「こうやって問答している時間が惜しい。なら『隠密』を使って一人でこっそり行って状況を見てくるから3人はここで待っててくれ」


本来なら面倒事はご免なのだが、悲鳴があった後に死体なんて見た日には直接の関係が無くても気分が悪い。


こんなこと考えるのも……もしかしたらライルさんに似て来てしまったからなのかもしれないな。


親友に似てきたかもしれないということを嬉しく思う反面すべてを楽観視できるというわけでもない。

こうやって危険なことに手を出し続けていたら、俺ももしかしたら……


≪それこそ主殿一人を向かわせてしまって危険じゃ!!≫

「なら、私達も一緒に向かう、です」

『そう、だな……』

≪むむぅ……ええい!!ファルよ!そうやって主殿の点数稼ぎか!?主殿に好いてもらうための算段か!!嫌じゃ~、嫌じゃ~!ズルい~、ズルい~、我も主殿に好いて欲しい~!!……≫



姉の方が何だかごね始めた。

……何だこの駄々っ子は。

面倒ごとに巻き込まれるよりこっちの方が面倒くさいわ!!


「……姉じゃ、年齢と精神の成熟さに齟齬が生じてる、です」

『……リゼルの姉の方はもうそういうもんだと思った方がいいんだな』


二人ともこの場にはいない裏の方で、おもちゃを買ってもらいたい子供の様に暴れているだろう姉を憐れんでいる。


……まあ、あれじゃあな。


「で、どうする?早く行きたいんだが」

『……分かった。今回は俺だけじゃなくリゼルもいてくれるんだ』

「はい……主様は絶対守って見せる、です」

「よし、じゃあ行くぞ!!」

「はい!!」

『ああ!!』

≪主殿に好いて欲しい欲しい~!!我も、我も~!!≫


……まだ言ってるか。





「い、嫌!!何で、何で効かないの!?」


俺達が駆け付けた時にはもう既に声の主は……なんてことは無かった。

今目の前で繰り広げられている戦闘に俺達は目を丸くする。

少女がモンスターに襲われている、位のことを想像していたんだが、実際は全く異なっていた。


少女が大きな槍を持って男とあれは……ウルフか(?)、を圧倒している。

……いや、確かに男とそのウルフは少女に防戦一方を強いられているが、その少女の攻撃が効いている様子が全くない。


声を聞いてから駆け付けるまでもたもたしたから内心不安だったが、最悪の事態にはなっていなかったようだ。



鮮やかなオレンジ色をした髪。

後ろ髪は肩まで伸びていて、前髪左辺りをリボンで結っている。

鼻は特に低くも無く高くも無く、顔は小顔で実に可愛らしい。

瞳の色は恐らく水色、体はほっそりとしている。

……の割には女性の象徴的なものの大きさは小さいわけでは無い。

ちゃんとふっくらとした膨らみを有している。

身長は……140cm半ばくらい、かな?


……そして何より彼女が持っている槍の大きさが尋常じゃない。

そのせいで彼女が小さく見えるのかもしれないな。

恐らくあの槍、彼女自身よりも長いんじゃないか?

それを難なく振り回しているんだから驚かされる。


その猛攻を受けてもダメージを受けている様子を見せない男とウルフ。

……異様な光景だ。

少女のことももちろんそうだが、ウルフは別段異なったところが見受けられるというわけでもない。

……ただ色がちょっと違うってだけだ。


男の方も特徴的な部分はほとんど見受けられない。

どこにでもいそうな普通の成年。


ただ、どこがとは言えないのだが……何かがおかしい気がする。

その「何か」は分からない。

……人、だよな?


なのに少女の攻撃はダメージを与えることができていないように見受けられる。

決して少女の攻撃が弱い、というわけでは無いだろう。

あの槍捌きも見事なものだ。

あれであの槍がただの発泡スチロールみたいなものなんだったら納得できるかも……

……まあそんな技術がこの世界にあるのかは知らないが。

それに対する男とウルフも別に弱くは無い。

攻撃している少女の動きが見事なだけで、奴等の動きもそこそこの速さだ。


さて、どうしよう……


「主様、いかがいたしましょう……」

『ふーむ、少し困った状況だな。どうする、カイト殿?』

「……状況を見ると、少女があの男とモンスターに襲われて、迎撃しようとするも攻撃が効いていない、ってところだろうな。……そうすると、今攻撃しているのは確かに女の子の方だが、助けるべきは男だ、という事にはやっぱりならない、かな」

「そうですね、では……」

「ああ、あの女の子の方を助けよう」

『……はぁ、カノン様の心配なさる気持ちが分かってきたような気がする』

「ん?何だ、ベル、ベルは反対か?」

『いや、別にそういう訳ではない。助けるんなら早く助けてやった方がいいんじゃないか?』

「ああ、そうだな。じゃあ行くぞ!!」

「あっ、主様、見たところ物理攻撃があまり効かないようです」

「ああ、俺は魔法中心に攻める。リゼル、お前は……」

「私は吸収した特性を転用して『竜技』を使います。それならなんとか」

「分かった。ベルは……」

『俺にも一応物理攻撃以外のものもある。だから大丈夫だ』

「よし、なら大丈夫か。……じゃああの子を助けるぞ!!」

「はい!!」

『うむ!!』





「アクアランス!!」

「……え!?」


突如現れた俺達に少女は驚き動きを止めてこちらを見る。


不意をついたので、俺が放った水の槍はしっかりと男とウルフに命中するも手応えが感じられない。


魔法もダメなのか?


「き、君達は……」

「今はとりあえずあいつ等を倒すことに専念しろ!!俺達も加勢する!!」

「え、あ、う、うん!!」


「スキル『竜技』!!……ウィンドブレス!!」


リゼルが大きく息を吸い込む。

そして、俺も何度かワイバーンが放つところを見たことのあるブレスが。

吐きだした息は大きな風を生み出し、それが男とウルフを襲う。

だが、これでもダメージは殆ど見受けられない。


何だこいつ等!?

だったら何が効くんだ!?

……とまあ内心奴等の不気味さに焦りつつも、ブレスを吐き終えたリゼルに俺は素直に感心する。


「リゼル、お前凄いな!!あれは一体……」

「そ、そんな、主様、私など……」

≪フフン、どうじゃ、凄いじゃろ!!これこそ我とファルの真骨頂じゃ!!≫


やっとまともに戻った姉が自慢げにふんぞり返っているのが目に浮かぶ。


「あれは吸収した『風属性』の特性をスキル『竜技』に転用したもの、です。『融合』の特性と共に転用すれば武器に風を乗せて攻撃することも可能、です」

「おおう!!本当に面白いな、その能力」

≪主殿、主殿、我等に惚れたか!?≫

「何故そうなる。……まあとりあえずリゼルが凄いってことは再確認できた。惚れるかどうかは今後の活躍次第だな」

≪主殿は焦らしプレイがお好みか!!我は主殿の望むプレイなら何でもイケるぞ!!≫

「あのな……やっぱいい。まあ頑張ってくれ」

「あ、主様に、好いていただけるよう、頑張る、です!!」

≪おおう、その意気じゃ、ファルよ!!≫

「他人事みたいに言ってないで姉じゃも頑張ってください、です!!」


『こら!!話してないでこっちを手伝え!!……ダークブラスト!!』


ベルは口から黒い塊を放出してウルフを攻撃している。

……ふむ、どうやらベルの攻撃はちょっとは効いているようだ。


ベルに怒られてしまったので戦闘に集中しよう。


「ど、どうしよう、攻撃が全然効かない……」


女の子が不安そうに俺に尋ねてくる。


「ああ、物理攻撃よりかは魔法とか遠距離からの攻撃の方が効いているようだが、それでも本当に微々たるものだ。何か弱点とかないもんか……」


こっちも攻撃はほとんど受けていないのでやられることはないだろうが、それでも相手を倒せないことにはどうしようもない。


……むむぅ、あれは本当に人か?

アクアランスは3本と少なくしてその分質と威力を上げ、手加減せずに放った。

それが全く効いていない。


リゼルのウィンドブレスだってワイバーンの威力そのものとまではいかなくてもかなり威力は高い方だ。


それらが悉く効いていない。


何か耐性ができるスキルでもついているのか……

俺がそう思って鑑定してみると、そこには今迄の状況以上にビックリすること情報が書かれていた。




名前:―――――

種族:機械人形メカ・ドール

職業:戦士

稼働年数:5132年


Lv63

HP:202/269

MP:76/99

STR(筋力):122

DEF(防御力):167

INT(賢さ):76

AGI(素早さ):89

LUK(運):10


『物理ダメージ中減少』、『火属性耐性』、『水属性耐性』、『風属性耐性』、『土属性耐性』、『光属性耐性』、『ダメージ硬直半減』




名前:―――――

種族:機械狼メカ・ウルフ

稼働年数:5118年


Lv54

HP:114/188

MP:45/66

STR(筋力):97

DEF(防御力):122

INT(賢さ):22

AGI(素早さ):108

LUK(運):10


『物理ダメージ小減少』、『火属性耐性』、『水属性耐性』、『風属性耐性』、『土属性耐性』、『光属性耐性』、『ダメージ硬直半減』





…………は?

何だこりゃ?


機械?これが?

……え、嘘!?

この見た目で!?

もう不気味の谷云々の話じゃないんだけど!!



……こっちの世界の方がこの分野については優れている……

いや、そもそも稼働年数からしておかしい!

これが事実だとするとこの技術が少なくとも約5000年前にはあったことになる。


だがこの世界を今迄見て来てそんな技術があるなんてことは全く感じなかった。

……どういう、ことだ?



……そこの考察は後にするか。



取りあえず物理攻撃も効かない、と言うわけでは無いらしい。

ほとんど効いてない、そして『ダメージ硬直半減』でのけ反っているように見えないだけで。

……何とも厄介だ。

属性攻撃だってほとんど耐性持ってやがる。

ベルの攻撃が有効だったのは『闇属性』の耐性を持ってないからか。

……どうしよう、俺の『闇魔法』は物理的に攻撃できるのはさっき孤島の調査中考えた『アビス』と『デモンズクロー』位なんだが……って、ん?


『機械』……あるじゃん、弱点!!


まあ別に闇魔法でもいいんだけど、やっぱり機械にはあれだろ!


「リゼル、ベル、下がれ、俺がやる!!」

「主様!?……はい、です!!」

『分かった!!』


二人は俺の指示に従ってバックステップを踏み、俺の後ろに。


「君も二人と一緒に」


俺は女の子にも同じように下がるよう促す。


「で、でも……」


何を躊躇ってるのかは知らないが、あんまり悠長に話している暇もない。

奴等ももうすぐそこまで迫ってきている。


「不安なのか?……大丈夫。ちゃんと俺が守ってやるから」


俺が頭を撫でて安心させるよう声をかけてやる。

すると、薄っすら頬を赤く染めて、少女ははにかむ。


「……う、うん。……ありがとう、お兄ちゃん」


お、お兄ちゃん!?

ま、まあオジさんと言われるよりかはましだが……

とりあえず……



「じゃあ後ろで、待ってろ。大丈夫、俺が何とかするから」

「うん!!ボクちゃんと待ってるね、お兄ちゃん!!」


……まあいいや。

女の子は宣言通り、リゼルとベルのように後ろに跳躍して待機する。


さて……


「……!!」


くっ、何もしゃべらずに襲ってきやがる。


俺は男の剣を避け、反撃を開始することに。


「行くぜ!!スパークウェーブ!!」


今回は手加減せず、契約の恩恵をフルに活用させてもらう。

俺の手からは本物の波のような大きさの雷の衝撃波が飛び出し、男とウルフを飲み込む。


……どうだ?


波が接触した瞬間、男とウルフは感電して、ところどころから煙が出だし、終いにはショートしたように動かなくなった。


ジジ……ジリジリ……


……ふー、レベル差があったから少々心配だったが、何とかなったらしい。

だが魔法の威力が凄かったのか、それとも機械だから雷に弱すぎたのか分からなかったな。


「ええ!?何それ、凄ぉーい、凄いよお兄ちゃん!!」


後ろで見ていた女の子が興奮して俺の下に駆けてきた。


「そうか?まあ何とかなって良かった。……一応聞くが、あれは倒して良かったんだよな?」


「実はお父さんと飼い犬だったの!!」なんてことだったら即座に逃げるが。


「うん!!ボクもビックリしたよ、いきなりこんなに強いのに出くわすなんて……でもお兄ちゃんのおかげで何とかなったよ!……本当にありがとう、お兄ちゃん」


とびっきりの笑顔を浮かべてお礼を言う少女。


「……その、何だ、『お兄ちゃん』っていうのは何とかならないのか?まだ俺達がいい奴かどうかも分からないのにそんなに親しげな感じで呼ぶのも……」

「いいの!お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん!」


なんだそれは!?


「……その、ご家族にお兄さんとかはいない、です?」


リゼルが女の子に尋ねる。


「ボク、一人っ子なんだ。……だから安心して『お兄ちゃん』って呼べるね!」

「『お兄ちゃん』って呼ぶのに安心も何もねえよ!……あのなぁ、俺はお前の思っているような奴じゃないんだ。……実際国に追われる身だし……」

「……ボク、お父さんとあんまり仲良く無いんだ」

「……いきなり何の話だ」

「お母さんも病気で、ボクはずっと孤独を感じてきた……お兄ちゃんもそんなボクを独りにするの!?」


何だこの子、グイグイ来るな。



「別に兄なんていなくても、友達とか作れば……」

「ボクは里ではおかしい奴だから。友達は一人も……寂しい夜に枕を何度濡らしたことか。そんな時、傍にカッコ良くて優しいお兄ちゃんがいれば……」


……面倒くさい。


「……分かった、分かったよ。もう好きなように呼べ」

「わーい!やったー!!流石お兄ちゃん!!」

「…………」

「照れてるところもカッコいいね!お兄ちゃんは」


……もう知らん。


これで一応100部となりますが、プロローグで一つ補足を挟みましたので話としては次で100話となります。


ですので次にあげる際は5月の第2・3週の分とExtraの3つをあげさせていただきます。


一気に3つはかなりの量となりますが……まあ何とかなるでしょう。

……頑張れ、次週の作者! 負けるな、次週の作者!

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