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「かまへんで。俺等も別に無理に聞きたい訳やあらへんし」
リーシャを見ていれば、過去の話を嫌がっているのは明白。本人が嫌がっているものを、無理に聞き出す気は無い。
「……くそっ!!」
「え?何でなん?怒るポイントあった?」
嫌な奴で、リーシャに相応しくなければ、最悪、消し去る事も出来る(絶対にあかん)のに、今の所、イマルを消し去る理由が無い。
「ねぇ、その息子さんって人も、お姉ちゃんを連れ戻しに来たりするのかな?」
サクヤは、ふと疑問に思った事を尋ねた。
今まで、ノルゼスが来て、レナルドも、連れ戻しでは無いが、リーシャの元に来た。その糞息子(レナルド命名)も、結婚まで望んでいたのなら、来てもおかしくないと思った。
「来ねぇ。父親が、あの息子にリーシャを連れ戻しに行く事を許可する筈がねぇからな」
「何でなん?ルドはんの言い方やったら、親子揃って屑なんやろ?親父はんのほーも、リーシャはんとの結婚を望んでるんちゃうの?」
「ーー親父も屑だが、息子程愚かで馬鹿じゃない。あの馬鹿糞息子がリーシャを連れ戻しに行っても、最悪な結果にしかならない事は分かってるだろ、屑でもな!」
言葉の節々から、レナルドがその親子を快く思っていない事が伝わる。
「そ、そっか。でも、来れないなら、良かったよね。お姉ちゃん帰りたく無さそうだし」
ノルゼスの時も、最後、一件落着だったとはいえ、一悶着あったし、レナルドがそこまで屑を連発する程の相手なので、出来れば来ないで欲しいのが本音。
何より、リーシャの事は大好きなお姉ちゃんなので、絶対に帰って欲しくない!
「そんなに阿呆なんやったら、父親の言うことなんか無視して、こっちに来たりしーひんの?」
「は!父親の言う事はーー」
レナルドの指す屑親父は、普通の父親では無い。一国の王様で、その息子と言えば、自然と、王位第一継承者である王子を指す。
王様の命令を王子が聞かない。そんな事は、普通は起こりえない。父親(王様)の言う事は、絶対。
「……あの馬鹿糞息子なら……有り得るな!クソっ!!」
そう言うと、レナルドはその場から立ち上がり、勢い良く走り出した。
「ルドはん!?」
「え、お魚は?」
血相を変えて走り出したレナルドに、イマルとサクヤも顔を見合わせ、とりあえず、魚の入ったバケツだけを持って、後を追い掛けたーーー。
***
私が、城にいた頃。最も話をしていたのは、王子様でした。
話と言っても、王子様が一方的に話すのを、ただ黙って聞いて、頷くだけ。
食事を一緒に取る事を許されていたのも、パーティや会食を除けば、王様、王子様だけ。
『聖女、私は今日も、君が旅立つ冒険のストーリーを考えて来たんだ。まず、この村で休息をとり、村の人達に優しく微笑んだ後、少し悩みを聞いてあげて欲しい。聖女と話すだけで、彼等にとってはお恵みだからね。それから、魔物との戦いでは、ノルゼスが先陣を切ってーー』
王子様は、魔王討伐のパーティに入っていない。
それどころか、普段の冒険ーー国を脅かしていた魔物を退治する為の冒険の時にすら、一緒に来た事は1度も無かった。
城で、私達の冒険の計画を立て、意気揚々と話す。結局、王子様の言うストーリーが実現された事は無いけれど、城に戻ると、まるで自分の手柄の様に、周囲に私達の冒険を話した。
『聖女、君は美しく優しい。私に相応しい』
『……そうですか』
相応しいの意味が良く分からなかった。
私の何が相応しいのか。私は、ただ、一生懸命、聖女として、国を救う為だけに生きているだけで、貴方の為じゃない。
『リーシャ、今日、父上から、君が褒美を頂ける事になっているんだ。何でも、願いを叶えてあげると言っていたよ』
『……何でもですか?』
『ああ!勿論、この私との婚姻も望める!』
『…婚姻…』
『そうだよ!やっと私達は結ばれるんだ』
やっと?結ばれる?どうして?私は、貴方と結ばれたくなんて無いのに?どうして、私の気持ちを聞いてくれないの?
私は、自由になりたい。
聖女である限り、国民の望むべき姿を貫き、王子様と結婚しなければならないのなら、私は、聖女でいたくない。
『望むものを何でも言ってみると良い』
魔王を倒し、この国は平和になった。もう、聖女は必要無い。
『私は、聖女としての地位を捨て、残りの生涯、ただの村娘として、生きていきたいと思います』
やっと、自由になれた。聖女では無く、リーシャとして、生きていける。
この辺境の村ヘーゼルで、優しい村の人達と、初めて出来た友達と、初めて出来た好きな人と、ずっとーーー暮らしていく。
それなのにーーー
「聖女!私の聖女をどこに隠している!?隠し立てするなら、ただでは済まないぞ!」
金髪碧眼、足が長く高身長で、肌も白い。身に付けている物も全てが高級で、外見だけ見れば、立派な王子に見える。
「せ、聖女様?!聖女様なんてこんな田舎の村には来てませんよ!」
辺境の村ヘーゼルの村長であるイマルの父親が、村の中心である広場で、必死な形相で詰め寄る王子に対応していた。
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