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感情が顔に出やすい。なんて、自分がそんな人間だと思わなかった。
「大丈夫?イマル兄ちゃんに何かされた?酷い事言われた?」
「全くの誤解やでサクヤはん!俺は何もしてないで?!」
自分を心配して、近寄って来てくれるサクヤ。
(サクヤにも……お姉ちゃんって呼ばれなくなるのは……嫌……!)
「お姉ちゃん?!本当に大丈夫?!」
いよいよ泣き出しそうになるリーシャに、サクヤは慌てふためいた。
「わ」
「「わ?」」
心配そうにリーシャの顔を覗き込む2人。2人は、リーシャの次の言葉を待った。
「私の名前は、リーシャです…」
「うん、知ってるよ」
「何や。何の情緒不安定や」
全く意味が分からない2人は、ただ、リーシャが落ち着くのを待った。
『がぁあああ!!!!』
「「「!」」」
ドガッと、大きなけたたましい音と共に、木々が倒され、現れる、熊の魔物。
「えっ?!さっきの熊の魔物?!」
「何でこんなとこにーー!」
ここは、先程までの、四季の森の奥では無く、辺境の村ヘーゼル近くの、村の人達が山菜集めにでも出掛けるような場所。
普段、この近くには、こんな凶暴な魔物は現れない。
「サクヤはん、リーシャはん、こいつは、ここで始末するで」
このままだと、村にも被害が及ぶ。
「うん!」
戦闘態勢に入る2人に対して、リーシャは、熊の魔物が、木々を倒してやってきた道に、視線を向けた。
「……強い魔力を感じます」
「え?魔力?」
この魔力に、リーシャは、覚えがあった。
「皆さん、念の為伏せて下さい」
「え?」
バチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!!!!
激しい雷が、木々を倒して出来た道から走り、熊の魔物を襲う。一撃で、熊の魔物は、跡形もなく消えた。
「何これー!魔法?!」
目を見開いて驚くサクヤ。
(オーバーキルが過ぎますね)
あそこまで強い魔法を使わなくても、余裕で倒せただろうに、明らかにやり過ぎ感が否めない。
でも、これで確信出来た。こんなに高度な魔法を使えるのは、この国ではただ1人しかいない。
「お久しぶりですねーーーレナルド」
道から現れたのは、黒のローブで身を包まれた、聖女と共に魔王を倒した仲間の1人ーーー大魔法使いレナルドだった。
「お姉ちゃんの知り合いなの?!」
「リーシャはん……相変わらず、ぶっ飛んだ人と知り合いやなぁ」
以前のノルゼスも然り、剣の腕が確かな実力者だった。
ノルゼスも聖女と共に魔王を倒した仲間の1人なのだから、当然と言えば当然なのだが、2人はそれを知らない。
「……リーシャ!」
レナルドは、リーシャを見付けると、駆け寄り、そのまま抱きついた。
「きゃっ…レナルド?!」
「リーシャ!良かった!元気そうで!」
「??????」
感動の再開を果たしているように見える2人。だが、その片割れのリーシャは、大変困惑していた。
「あれって、感動の再会なのかな?」
「リーシャはんめっっちゃ困惑してるっぽいけどな」
それは、横から様子を見ていたイマルとサクヤも、リーシャの表情で分かった。
「何しに来たのですか?」
その場で正座をしているレナルドに、リーシャもまた、同じ様に正座をして、説明を求めた。
「リーシャに会いに来た。俺もここで今日から暮らす」
ハッキリと断言するレナルドに、嘘偽りなど無い。
「………」
ここで暮らす?私を連れ戻しに来た。では無く?城は?貴方、国で1番の大魔法使いでしたよね?私が言えた義理では有りませんが、貴方まで城からいなくなって良いんですか?
「意味が分からないのですが、何故、ここで暮らそうと?」
「リーシャの近くにいたいからだ」
「?????」
困惑するリーシャ。
それもその筈。リーシャは、ノルゼス同様、レナルドとも、業務連絡以外、日常的に会話をした覚えが無い。何なら、マメでは無かった分、ノルゼスより会話した事が無い。
「確か、異国の地に魔物の退治に行っていましたよね…?」
レナルドは、私が村娘になりたいと宣言した日、城にはおらず、王に命じられ、異国に旅立っていた。
「ああ。無事退治して、帰路について、リーシャがいなくなった事を知って、追い掛けてきた」
「えっと……どうしてですか?私、貴方に追い掛けられる理由が思い当たらないのですが」
特別話した事も無い相手を追いかける為に城を辞め、こんなに遠い場所まで遠路はるばるやって来た。
「それはーーー俺がーーー」
「?」
今までハッキリと口を開いていたのに、急に頬を赤らめ、言葉を詰まらせる。
「と、兎に角、俺は今日からここで暮らす!俺は今日から、ただの村男だ!」
言い切って、レナルドは立ち上がり、傍にいたイマル、サクヤに視線を向けた。
「俺はレナルドーーそうだな、俺の名前は有名になり過ぎてるから、ルドって呼べ」
「何か偉そうで怖い……」
「ルド!サクヤを虐め無いで下さい!」
直ぐに対応し、ルドと呼ぶリーシャ。
古くからの知り合いだが、あまり交流が無かった分、呼び名を変えるのに抵抗が無かった。




