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「いつもと様子が違うので…」
「そやな、それが正解や。間違っても眼球の動きとか言うたらあかん」
きちんと言い直すと、イマルは大きく頷き、再度、注意をした。
本当は続けて鼻腔や発汗の様子等も答えるつもりだったのですが、やっぱり止めておきましょう。
「昨日、雨風に打たれて、全身びしょ濡れだったので、体調を崩してないか心配で、様子を見に来たんです」
「あ、そう…。初めからそれ言ってくれたら良かったのに」
近くで見ると、余計に顔色が悪く見える。
「でも大丈夫やで。ただの風邪やし、今日1日ゆっくりしてたら治るやろ」
体調が悪いにも関わらず、普段来ないリーシャが家に来たから、何かあったのかと、顔を覗いてくれたのだろう。
いかにも体調が悪そうなのに、悪く無いフリをする。
私も、聖女だった頃はよくしていた。
普段通りに過ごすよう務め、殆どは、誰にも気付かれる事無く、ただ、我慢して、無理して、体の回復を待った。
そう思えば、私は、私の体にとても無理をさせていたのかも知れません。
「私、イマルの看病をしに来たんです」
「いらん」
ハッキリと即答で断られる。
「ど、どうしてですか?大丈夫ですよ?私、30分ごとに身体の確認しませんし、食欲が無いのに大量の食事を用意しませんし、誰かを責めて罰したりもしません!」
「当たり前やろ!」
聖女だった頃にされて嫌だった看病を説明すると、イマルは大きな声でツッコミを入れた。
「リーシャはんに看病なんて出来へんやろ。まずは自分の生活をきちんと出来るようになってから出直して来い」
ぐうの音も出ないほど正論をぶつけられる。
「大丈夫です!ちゃんと、サクヤから、普通の看病と言うものを教わってきました!」
しかし、リーシャはめげなかった。
「サクヤはん……余計な事を……」
「本当はサクヤも一緒に来たがっていたのですが、ゲンさんから目を離せなくて」
絶対安静の身でありながら、直ぐに体を動かそうとする。
「ゲンさんらしいな…」
「それに、食事はちゃんと、サクヤが作って来た物を持って来ましたよ」
どこからか鍋を取り出し、蓋を開けると、そこには、美味しそうなサクヤ特製、栄養たっぷり野菜スープ。
「サクヤが、イマル兄ちゃんは人のお世話するクセに、自分の体に意外と無頓着で無茶するから、これ食べさせて体を暖めて、ゆっくり寝たのを確認したら、もう何もせずに帰った方が良いよ。と」
「くっーーサクヤはん!余計な事とか言ってほんまごめんっ!」
きちんとリーシャを理解し、出来る範囲をお願いし、余計な事はさせないようにと忠告してくれていた。
「お邪魔します」
「どーぞ」
イマルの家に上がると、リーシャは辺りをキラキラとした目で見渡した。
当たり前だが、机や椅子の色、家具の配置、置いている物、使っているコップ、色々な物が、自分の家とは違う。
「そんな珍しいか?ふつーの家やで」
「いいえ。とても素敵です」
また1つ、イマルの事を知れたみたいで、素直に嬉しい。
「台所お借りしますね」
リーシャはそうイマルに許可を取ると、サクヤに作って貰った野菜スープを温めた。
サクヤの家で料理の特訓を重ね、温める事が出来るようになったのをイマルも知っているので、止めはしなかった。
「温め終わったら呼びましょうか?横になっていなくて大丈夫なのですか?」
イマルは、寝室に戻らす、台所の見えるリビングに座って、リーシャの様子を見ていた。
「大丈夫や。ほんまに、そこまで調子悪い訳やあらへん。腹減ってるし」
「食欲があるなら、少し安心出来ますね」
体調を崩すと、リーシャは食欲が激減する。
なので、聖女時代、ただでさえ空腹を感じていなかったのに、体調不良になると、無理してまで食事を食べなければならなくなるのが苦痛過ぎた。
グツグツと鍋で野菜スープが煮込まれる音がする。
「……リーシャはん、よー俺が体調悪いって気付いたな」
「え?」
「リーシャはんよりも、遥かに嘘が得意なはずやねんけどな」
イマルはそう言いながら、得意げに微笑んだ。
(嘘?)
言われて、ハッとする。
自分が今まで、聖女として相応しくある為、感情をコントロールし、仮面を被って行ってきた事ーー弱さを隠して、強く見せた事ーー体調不良を隠した事ーー嬉しくも無いのに、笑顔を浮かべた事ーー言い換えれば、嘘にもなるのだと。
「……」
嘘をついていたつもりは無かった。ただ、聖女に相応しくなる為に、自分を偽っていただけ。
(私は……皆さんを騙していた事になるのでしょうか……)
「……幾らイマルが嘘が上手でも、体調不良は隠せませんよ。顔色が悪くなりますし、呼吸がーー」
「OK。ストップ。やめとこか」




