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「あかん……ほんまやった……いや、嘘やと思ってた訳や無いけど、ほんまに回復魔法使えるねんな」
人となりを知り、リーシャが嘘をつくタイプでは無いと分かっていても、実際に目の当たりにすると動揺する。
それくらい、魔法使いと同様に、この村にとって、僧侶という存在も、珍しい(実際には、もっと珍しい元・聖女)。
「でも何で、今まで傷治さなかったの?」
素朴な疑問をぶつける。
「こんなかすり傷くらいでいちいち治していたら、折角持って生まれた人間の治癒能力が怠けますよ?しっかり働いて貰わなきゃ」
「意外とスパルタなんやな」
イマルは率直な感想を述べた。
「本当ですよ。今まで怠けていた分、働いて貰わないと…」
聖女だった頃は、本当に、どんな些細な傷でも、すぐに癒された。
私の周りには、常に仕える僧侶も、数人がいた。
「それより、私にも解体作業手伝わせて下さい」
不本意ながら、2人に責められていたので、解体作業に参加出来ずにいた。
「お姉ちゃん、解体作業出来るの?!」
「出来へん!騙されたらあかん。血塗れになるだけや!」
学ぶ意欲が大変強いので、肉屋のマルシェの所で、時折、解体作業を手伝って?いるようだが、上達があまり見られないと、豪快に笑いながらマルシェに教えられていた。
「でも、解体作業するの平気なんだ……女の子なのに」
男でも、駄目な人は駄目な作業なので、サクヤは驚いた。
「何事も実践です」
「阿呆か。こんなとこで血塗れになっても、着替えもシャワーも無いねんで?もっとおばちゃんのとこで上達してから出直して来い」
ハッキリと冷たく、イマルは拒否した。
「お姉ちゃん、イマル兄ちゃん、今日って……僕の家に寄って行ってくれる?」
もうすぐ村に着きそうな所で、サクヤは2人に向かい、声をかけた。
3人は、予想外の肉の荷物も有り、両手が塞がっていた。
「別にこの後予定は入れてないから、行ってもかまへんで」
「是非お邪魔したいです」
2人から了承の返事が返ってくると、サクヤは嬉しそうに微笑んだ。
「良かった…。じいちゃんも、2人が来てくれたら喜ぶと思うし……僕、美味しいご飯作るから、食べて行ってよ」
サクヤが家に閉じこもりがちになり、誰より心配していたのは、身内のゲンだろう。
サクヤ本人も、ゲンに大変心配をかけていた事を理解している。
だからこそ、初めて魔法を上手に使え、魔物を退治出来た事を、報告したい。
でも、少し、照れ臭い気持ちもあるので、イマルとリーシャがいてくれれば、伝え易くなると思った。
「なら、俺も手伝ったるわ」
サクヤは料理上手だが、イマルもそつ無く料理が出来るので、手伝いを申し出た。
「私も、お手伝いを……」
「ううん。今日は大丈夫だよ、お姉ちゃん」
「お茶とか食器の用意してもらおかな」
リーシャもまた手伝いを申し出たが、壊滅的な料理の腕前を知っている2人は、今日は丁寧にご遠慮した。
村の入口に到着すると、先程まで明るかったサクヤの表情に、影が見えた。
魔法の暴走で村の人を傷付けた事のあるサクヤは、もう誰も傷付けたくなくて、家に引き篭っていた。
こんな狭い村では、話は村中に広がっている。
引き篭っているはずのサクヤが、家から出ているのだから、注目が集まるのは必然だった。
「……っ」
「ほな帰ろか」
村人からの視線に顔を俯かせるサクヤに対し、イマルは明るく、彼の背中を押した。
イマルのいつもと変わらない態度にホッとしたのか、サクヤは俯いていた顔を上げ、小さく、うん。と頷いた。
「あーーー!!!イマル!見付けた!!」
「げっ」
サクヤの背を押しつつ、3人でゲンの家に向かおうと足を進め始めた所で、大きな声が聞こえた。
その声の主に聞き覚えのあるイマルは、露骨に嫌そうな表情を浮かべ、頭を押さえた。
「カリン…」
「どこに行ってたのよ?!最近、全然店にも来てくれなくなったし!私の事、どうでも良くなったの?!」
イマルを見付けるや否や、物凄い勢いで詰め寄る。
「少し違う。初めからどうでも良い。が正解や」
「ひっどーーい!!!」
リーシャにとっては、以前、カリンのお店の酒場で出会って以来の再開だが、こっぴどく父親とゲンに怒られ、凹んでいたのは嘘の様に、いつもの様子に戻っている。
「あ!またあんた…!余所者の分際で!」
「カリン!ほんま懲りひんな!前、それでジェラードはんに怒られたん覚えてへんのか!!」
懲りもせずに同じ事を繰り返すタイプらしく、暫くは大人しくしているが、時間が経つと、前回の騒ぎが無かった事のように、また、騒ぎを起こしてしまうらしい。




