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「いや、だとしても何でそんな全身が血塗れに……」
「それがねー、不思議な事に、ちゃんと見てたはずなんだけど、ほんと、気がつけばこんな状態だよ」
にわかには信じ難いが、土を耕す際も、顔から土にダイブし、全身を泥まみれにした前科持ちなので、有り得なくは無い。
「すみません。かえってお邪魔をしてしまって…」
全く自分が役に立っていない事に凹む。
「いい、いい!逆に笑わせて貰ったよ!それに、手伝ってくれるっていう気持ちが嬉しかったしね!ありがとうよ!」
「マルシェさん…」
「いや、とりあえず血、洗い流したほーがええで?」
2人で感動のやり取りをしている最中、イマルは1人冷静にツッコミを入れた。
マルシェの家でシャワーを浴び、綺麗に血を洗い流すと、リーシャとイマルは、揃ってマルシェの家を後にした。
「お肉は取れましたか?」
「ん?ああ。あんたがシャワー浴びてる間、おばちゃんに買い取って貰ったわ」
「それは良かったです」
「ーーてか、ほんまごめんな。先に約束しとったのはリーシャはんのほーやったのに」
ニコニコと笑顔で話すリーシャに対して、イマルは申し訳無さそうに謝罪した。
「気にする必要はありませんよ。あ、でも…もし、良かったら、また今度一緒に行って下さると嬉しいです」
「……ああ、勿論行こか」
裏表無く、本当に純粋にそう思ってくれていると分かる。
「そー言えば、ほんまはあの肉、今日のお詫びにあんたに渡すつもりやってんけど、家行ったら留守やったから、肉屋に持って行ったんや」
「そうなんですか?お気遣い、感謝します」
「………あんた、カリンに今日結構酷い態度取られてたけど、ダメージ食らった?」
剥き出しに敵意を向けるカリンに対して、リーシャは普段通りの態度を貫いていた。
「いえ。真っ直ぐに感情をぶつけられる方なんだな。と思った位です」
敵意を、全て受け流していた。
「意外と強いねんな」
「慣れているだけですよ」
「……めっちゃ怖い事言うやん。どんな生活送って来たんや」
軽く衝撃の発言をするリーシャに、イマルは1歩引いた。
「……じゃあさ、リーシャはん、ちょっと俺に付き合ってくれへん?」
そう言うと、イマルは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
辺境の村ヘーゼル、唯一の酒場ーーー。
「いらっしゃーい!」
扉を開けると、そこは活気溢れる店内で、4.5個ある四角のテーブルは、1個を除けば満席だった。
「おや、イマル君じゃないか」
店主らしき人物が、イマルの姿を見て、声をかけた。
「今日は娘が世話になったね」
「ほんまですよ、ちょっとちゃんと教育しといて下さい」
会話から、この店の店主は、カリンの父親である事が伺えた。
「おや、そちらの美しい女性は?」
店主は、イマルの後ろに隠れていたリーシャを見て、声をかけた。
「初めまして。リーシャ=ルド=マルリレーナと申します」
「これはご丁寧に。私はジェラードと申します。お美しいお嬢さん、これからどうぞ、ご贔屓に」
丁寧に頭を下げ、挨拶すると、ジェラードも同じように、挨拶を返した。
「おお、イマルにリーシャじゃねーか!」
店内には、山菜採りでお世話になっているゲンの姿もあった。
「ゲンさん」
見知った顔があった事が嬉しかったのか、リーシャは笑顔を浮かべた。
2人で、ゲンさんの近くのテーブルに座る。
「何だおい!デートか?!」
「言うと思ったわ。違う。昼間迷惑かけてもたから、詫びや」
茶化すゲンの言葉を、イマルは直ぐに訂正した。
「迷惑ー?お前、何したんや?」
「正確に言うと俺やない」
「ああ?何やそれ」
ゲンとイマルが会話をしている中、リーシャは酒場の店内を、物珍しそうに眺めた。
一面に貼られたメニュー。
ガヤガヤと騒がしい店内。
「これが…酒場!」
勿論、リーシャにとっては初体験の場所で、未知の経験に、目をキラキラさせていた。
「今日はお詫びやから、奢ったるで」
「えっ…と、持ち合わせはそんなに無いのですが、お支払いしますよ」
「詫びやーゆーてんねん。えーから、何食べる?」
イマルはメニュー表をリーシャに差し出した。
「これが……メニュー表!これって、書いてある物を注文すれば、それが出て来るのですか?」
今食べたい、自分の好きなメニューが、自由に選べる!なんて画期的で凄いシステムなのでしょう!
「あっはっは!まるで店に食べに来るのが初めてみたいな言い方するなぁリーシャは!」
まじまじとメニュー表を見ながら、まるで初めて飲食店に来たかのようなリーシャの台詞を、ゲンは笑い飛ばしたが、イマルは本当に初めてなんだろうな。と思った。




