45 最悪なプレゼント
「そんなの無効だ! 納得できない!」
お父様は叫んで紙を細かく破っていき、勝ち誇った顔で私を見る。
「無効になったぞ! 本当に生意気な!」
「残念。もう1枚あるから無効じゃないね」
すかさず、リアムが私の代わりにお父さまに答え、トーイが補足する。
「こちらが保管している書類が本書で、あなたが破ったのは控えです」
「くそっ! どうしてだ! こんな娘に育てた覚えはなかったのに! なんて恩知らずな娘、いや、女だ! お前との縁なんてこちらから切ってやる!」
お父さまは悔しそうな顔をして私を見て言った。
「育てていただいたことは有り難く思っています。ですが、お父様とお母様が私に教えてくれたのは、人を不快にさせる悪戯と、それをされた人がどんな気持ちになるかという苦しみや悲しみ、怒りの感情だけよ!」
「アイリス!」
感情がおさえられなくなり、喚くようにして叫んだからか、リアムが近くに来て優しく私を抱きしめてくれた。
「落ち着いてくれ、アイリス」
「……申し訳ございません」
「謝ることじゃない」
リアムは私の背中を優しく撫でながら、お父さま達に厳しい口調で話しかける。
「アイリスとの縁が切れたのなら、僕にとってもあなた達は赤の他人だ。今、この瞬間も屋敷内にいる事すら本当は許されない」
抱きしめられている私には見えなかったけれど、どうやら、リアムが合図を送ったらしく、騎士が数人、部屋の中に入ってきた。
様子を見たくて、リアムから体をはなすと、騎士がお父様やお母様、そして、ココルの腕をつかみ、ダイニングルームの外へ引きずり出そうとしていた。
「や、やっぱり嘘だ! 縁なんて切らない!」
お父様は自分が言葉の選択肢を間違えたことに気付いたのか、首を横に振り、騎士に抵抗しながら叫ぶ。
「俺はまだ納得していない! はめられたんだ! アイリス! こんな悪戯、面白くもなんともないんだぞ! もっとユーモアのあるイタズラをしろ!」
お父さまが最後までそんなことを叫び続けていたけれど、リアムが私の背中を優しく撫でてくれていたおかげで、興奮してどうにかなりそうな心を何とか落ち着けることが出来た。
そうこうしている内にお父様達は連れて行かれ、ダイニングルームの中は急に静かになった。
私が落ち着くのを待ってから、私とサマンサ、リアムにトーイ、屋敷で働いてくれている皆と一緒に、私の誕生日パーティーが開始された。
やり切ったという解放感と高揚感からか、お酒を飲みすぎてしまった。
そのため、酔いを覚まそうとサマンサと一緒に中庭に出た。
あっという間に時間が過ぎて、もう夕方近いせいか、薄暗くなり始めた小道を歩きながら、最初に見つけたベンチに二人で並んで座った。
「あー! ハラハラしたけれど、上手くいったみたいで良かったわ。でも、炙り出しの紙のサインって正式に効力があるのかしら?」
サマンサに聞かれて、私は苦笑しながら首を傾げる。
「わからないわ。だけど、そんなことを言われた場合、それこそ、リアムに何とかしてもらうつもり」
「ふふ。アイリスのためだって言って頑張ってくれそうね。マオニール公爵閣下って、肌の色は真っ白だし、服装は真っ黒で、なんだか怖いイメージがあったのだけど、両親と言い合っているアイリスを見つめている閣下の顔を見たら、ガラッとイメージが変わってしまったわ」
「え? そうなの?」
「やっぱり、アイリスは閣下に大事にされてるんだなぁって思ったわよ?」
サマンサはニヤニヤしながら、私を見たあと立ち上がる。
「私もちょっと飲みすぎたみたいだし、水をもらってくるわ」
「それなら私も一緒に行くわよ?」
「いいのいいの。今日はあなたは主役なんだから! すぐに水をお持ちしますので、こちらでお待ち下さい、マオニール公爵夫人」
サマンサはおどけて言うと、早足で、屋敷に向かっていく。
今日は本当に疲れた。
でも、これで終わったのよね……?
安堵感と疲れが押し寄せてきて、ベンチにもたれかかって大きく息を吐いた時だった。
「アイリス」
屋敷内で私に敬称をつけない男性はリアムだけ。
だけど、リアムの声じゃなかった。
夜から来ることになっている、お義父様の声とも違った。
でも、聞き覚えのある声だった。
もたれかかっていたベンチから、ゆっくりと身体を起こして、声のした方向に振り返る。
少し離れた低木の隙間から現れたのは……。
「ロバート……?」
どうして?
という疑問符と共に、ココルの言葉を思い出した。
『今日はスペシャルなプレゼントを持ってきたわ!』
もしかして、プレゼントって……。
ココルが忍び込ませたの……?
「会いたかったよ、アイリス」
現れたのは、元婚約者のロバートだった。




