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ごんさん、お帰り~

 「おかえり~。」

 調理場で作業していたももちゃんが、食堂の扉を開けたごんさんを見て大きな声を上げた。

 「ただいま~。他の二人は?」

 「みぃ君は裏庭で、めりるどんは3階の部屋で棚を付けてる。」

 「そうか。」

 ごんさんは表に止めた馬車2台から荷物を下ろすために再び食堂を通って外へ出た。

 もちろんももちゃんも後に続く。


 表通りに馬車が2台止まって、雇った護衛たちと話しているごんさんの声を聞きつけためりるどんが、3階から下に駆け下りた。

 「ごんさん、お帰り~。」

 「おう!ただいま~。」

 「荷物すごいね~。手伝うよ~。」

 「みぃ君は?」

 「呼んでくる~。」と、ごんさんの問に答えて、ももちゃんが裏庭へ走った。

 めりるどんは元々体のあっちこっちが痛かったりしていたのだけれど、こちらの世界に来てからは、前よりも痛みが薄れているらしい。

 そうは言っても痛い時はあるらしいので、荷物運びなどは軽いものだけにしてやりたい。

 まぁ、DIYをする時、重たい木板を支え持ったりと結構普段から重い物を持ったりしているのだが、こういう風に純然たる荷物運びの時はどうしても気を使ってしまう。


 めりるどんに連れられて表通りまで出てきたみぃ君が、「おかえり~。」と言いながらすぐに荷物を受け取りどこへ運ぶのかを確認してすぐに動く。

 女性陣はエアープランツや自分たちのベッド用の羊毛を運んでいる。

 男性二人は主に酒樽を倉庫へ運ぶので、何度も往復している。

 「みぃ君、酒樽1つは調理場に置いておいてね~。」とめりるどん。

 それを聞く前に既に2樽を調理場に置いていた男性陣だった。


 一通り運搬作業が終わると、4人とも食堂のテーブルの一つについた。

 本来なら夜にお互いの進捗状況やこれからやらなければならない作業やお互いの作業への気づきなどについて話し合うのだが、ごんさんが戻って来たので臨時に集まったのだ。


 「ザンダル村とグリュッグはどうだった?」とももちゃんがシミンについて聞きたいのだろう。婉曲的に聞いて来た。

 シミンに文字や計算を教えた事もあり、彼が問題なく仕事を進められているかどうか責任を感じているらしい。


 「ザンダル村では作業そのものが単純なので、そこまで問題はなかったみたいだけど、モミノがちょくちょく作業をサボっているらしい。」

 「ええ!モミノが?で、サボるってどれくらいサボってるの?」

 みぃ君とめりるどんはサボる者が出たと聞いてもあまり驚いていないが、変なところで世間知らずのももちゃんは心底驚いた様だ。

 「農作業の合間に、ジャングルの中に入って、日陰で涼んでから戻って農作業をするって感じでちょくちょく休みを勝手に挟んでるって感じらしい。シミンがそれに気づいてからは、モミノに出来るだけ収穫の作業を担当させて、収穫した量を毎日量ってサボっているかどうかの判断をして、本人にも収穫量で作業能率を図ってる事を伝えてるらしい。あまり酷いと解雇もありだと伝えて脅したらしいぞ。」

 「おお!シミンもやるな!」とみぃ君は少し悪い笑顔を浮かべた。


 「ザンダルの家はそのまま借りられることになった?」とめりるどん。

 「うん。料金もそのまま据え置きにしてもらった。」

 3人とも安心した表情を浮かべた。


 「で、グリュッグでの水車小屋の集金作業と、アンジャの店での集金も問題なくできたよ。」

 今まではアンジャの店へは納品した都度、支払いをしてもらっていたが、王都へ移動後は、納品と集金は別々にさせてもらう事で話を付けていたのだ。

 納品そのものは、ジャイブが舟で運び、そのまま納品してくれる。

 納品する数は、シミンが管理し、ちゃんと帳簿を付けてくれている。

 集金時にアンジャが支払ってくれる金額と、シミンが帳簿に付けている数量に差があれば問題だが、今回初の集金で問題は全くなかったとのこと。


 「移動にすごく時間がかかるから、俺とみぃ君で交互に村まで移動する必要があるかもしれない。」とはごんさんの意見。行って帰るのに2週間近くかかるのだ。もっともな意見だ。

 二か月に3回くらいの頻度で村まで移動して、集金を行い、事業の状態の確認が必要だ。

 最終的には一月に1回くらいの頻度までに下げたいのだが、半年くらいは二か月に3回が最適だろうと3人の話し合いで決まったのだ。


 「さすがに毎回同じ人間が行くのは、疲労度が高いから、交互に行くのが理想的だと思った。」

 「そうか~。」と3人。

 「もしかしたら一人は村へ移動したらしばらく村の家に住んで、二か月に3回の訪問の内、2回分を一人で担当するやり方の方が体は楽かもしれん。今は、こっちの内装とか商売の立ち上げで、できるだけ不在になる人間の数は少ない方がいいけど、王都の商売が軌道に乗ったらこういうやり方も念頭に入れておいた方がいいかもな。」

 「さよか。せやけど、二か月に3回の頻度にしたのは、酒樽とかの搬入も考えてやったので、その方法だと物資の搬入が滞らんか?」

 「今回みたいに舟2艘、馬車2台にすればいいんじゃないか?どうせ将来一月に1回の頻度になったらそうせざるを得ないんだし・・・。」

 なるほど!と3人はごんさんの意見に同意した。


 「輸送手段だけど、しばらくは貸馬車を借り切ったり、冒険者ギルドで護衛を雇ったりで様子見した方がいいと思う。」と、ごんさんが輸送手段について報告を始めた。

 「専用の手段、用意せんでええんか?」

 「今回、たまたま帰路は良い冒険者パーティを雇えたけど、他のパーティがどんなのか知ってから雇う奴を決めたいし、向こうも雇われたいかどうか分からんし、移動がない間の生活保障はどうするかとか、結構決めないといけない事が多いので、まずは数か月様子見がいいと思う。」

 「そうなんだぁ。」ももちゃんは無意識に頭を縦に振りながらごんさんを見た。


 「とにかく、舟は2艘いるから、行きは良いとして、帰りの輸送にはジャイブだけじゃなく甥っ子の方の舟も出してもらう様に話は付けてきた。」

 残り3人は「うんうん。」とごんさんに頷く。

 「将来、自分たちの馬車を購入することがあれば、運輸の資格も取って、王都からグリュッグやザンダル村で売る商品を運ぶ事も視野に入れたいと思ってる。商人としては、片道だけでも空荷で移動っていうのは不味いと思うんだよな。」

 「それはごんさんの言う通りだね。」と真っ先にめりるどんが同意した。「何にせよ、もったいないものね。」

 「まぁ、それも、数か月様子見てから決めればいいと思う。」と、ごんさんは疲れた表情を片手で顔を拭う様にして、半分の大きさになった目を何とか開けてい様と頑張っている様子だった。

 自宅であるこの宿屋に到着したら、張っていた気も緩んで、少し眠い様だったが、最後にザンダル村関係者の雇用問題が残っているので、そのまま報告を続けてもらった。


 「ベッグ村へは、ちょっとだけ顔を出したけど、特に問題ないって言ってたし、このままこの態勢で行けると思う。」とごんさんが説明を締めくくった。

 「んで、王都にザンダル村関係の人とかいるって言うとった?」

 「ああ、モリンタから2人だけ名前と住んでるところを教えてもらった。」

 よかったと、3人は胸を撫でた。

 そろそろ使用人を雇わないと、いろんな作業に押しつぶされそうだったのだ。

 ももちゃんとみぃ君で明日にでも紹介された人たちの所に話をしに行く事に決まった。

 男女一組で訪ねる事にしたのは、本当は夫婦でもないけれど、中年の夫婦ものが話しに行った方が、女性一人や男性一人で行くより相手の警戒心を下げる事を狙ってだ。


 そろそろごんさんの限界が近づきつつある様で、報告会は一旦お開きにした。

 ごんさんは、ホッとした表情を隠さずに、疲れたのでちょっと早いが寝ると言って、めりるどんとももちゃんが運んで羊毛のマットが設えられた自室へ籠った。


 翌朝、出来上がったばかりの五右衛門風呂に、じゃんけんなしでごんさんに一番に入ってもらおうと、3人が風呂を沸かした。

 知らない内に風呂場が出来ている事に驚いたごんさんだが、遠慮せず、正真正銘の一番風呂を堪能したのだった。


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