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移動って大事よね

 ごんさんは今、ただっぴろい平原の中を走る一本の道を馬車に揺られて移動している。

 馬車の遥か向こうには、王都を囲む様にして広がる森と小高い丘が見える。

 はっきり言ってお尻が痛い。

 馬車にスプリングがないからだ。

 前回に馬車に乗った時にいかにお尻が痛くなるかを経験していたので、今回は袋に衣類などを詰めた簡易クッションもどきを作って、お尻の下に敷いているが、それでも長時間座っていると痛い。

 こういう時、ラノベを嗜むみぃ君なら、異世界あるあるだなとか言いそうだ。


 ごんさんは王都から乗合馬車に乗って港町を目指した。

 ごんさんの他には商人風の人が2人。別々に乗って来た。そして小さな子供連れの夫婦。あまり裕福そうではないが、乗合馬車の代金を支払う事が出来るくらいには収入があるのだろう。

 この世界では、お金がない場合、徒歩移動が普通だ。

 家族3人分の乗車料を支払えたのならば、そこそこの収入がある証拠だ。

 他には御者一人と護衛らしい男2人だった。


 王都から港町までは、土が踏み固められただけの道なので、雨が降ったりしたら悲惨だ。

 重い荷物等を載せていたり、乗客数が多かったりすると、轍が深くなり、板を噛まして乗客であっても後ろから押すなどしなければならなくなる。

 もちろん、乗客なので座席に座って素知らぬ振りをしても責められたりはしないが、その分目的地への到着が遅くなるのだ。

 

 昨日までごんさんは、いろんな作業が途中までしか進んでいなくても、みぃ君と協力して筋交いの設置だけは急いで終えた。それは、一旦ザンダル村へ行って欲しいという3人の要望に従った形だ。

 酒や石鹸、出汁の粉、エアープランツや羊毛のベッドのマットなどをザンダル村やグリュッグから王都へ運ばなければならないからだ。

 ももちゃんからは、天然酵母も多めに持って帰って欲しいと言われている。

 パンだねを作るのに使うそうだ。


 後、シミンがどれくらい4人のいない状態で仕事を進める事ができるのかを確認する必要があったのだ。

 また、今後、人を雇う時に伝手のある人を雇う方が何かと安心なので、王都にザンダル村関係者がいるかどうかの確認を再度したり、ザンダル村の家もそのまま借りる手続きをモリンタにお願いしなければならないなど、ザンダル村で行わなければならない雑用がてんこ盛りなのだ。


 モリンタ村長には、拠点を王都へ変える予定である事は、王都へ出発する数日前に伝えてある。

 「な・なんと!それは、ここでの事業を全部畳むと言うことか?」と青い顔で詰め寄られたけれど、シミンを工場長としてそのまま続けると伝えたので、ほっとした様子だった。

 現金収入の少ない田舎で、現金収入が望める継続的な雇用があるというのは、ザンダル村を周辺の村より頭一つ抜きんでた存在たらしめているのだ。

 ただ、王都へ出る時には、今まで住んでいた村の家を借りるかどうかはまだ結論を出していなかったので、今回は、賃貸の継続をお願いしなければならないし、その賃借料も支払わなければならない。


 村に帰った時、宿屋などはないので、ゆっくり寝られる場所の確保という意味もあるし、シャワーなどいろいろ手を加えているので、同レベルの物件を別のところで探すのが困難だというのも理由だ。

 まぁ、最近は村唯一の酒場で、4人が提供している猿酒を飲みに来る、別の村の人たちが、村に泊まって行く光景も良く見られるようになったが、大抵はザンダル村まで舟で移動してくるので、寝るのもその舟で雑魚寝というのが一般的らしい。そんな事もあり、未だに村には宿がない。

 だが、ごんさんたち4人は、ジャイブの舟に雑魚寝はしたくないし、今までの家がそのまま借りられるのなら、家具などもそのままにしておき、いつでも使える様にしておきたいのだ。

 ただ、ベッドの羊毛マットは王都へ運ぶので、ザンダル村の家での寝床はハンモックとなる予定だ。


 宿屋や食堂を始めるなら、人を雇わないと自分たちだけで全てを回していくことになり、また忙しすぎる生活になるのは目に見えている。そうなると、何のために王都に出て来たのか分からなくなるから、宿屋の開業と同時に人を雇用して、一緒に仕事を覚えてもらう必要がある。

 宿屋という今までやったことのない事業について、そして王都について、こちらの世界の常識についても従業員から聞き出す必要があるので、早めに従業員の雇用は済ませたいのだ。


 そんなこんなでこれらの雑用は宿の改装が終わっていなくても、早めに着手する必要があるのだが、宿屋の改装が終わってない以上、多くの人手をザンダル村へ割く事はむつかしく、一人だけしか移動できなくなる。そうなると女一人での旅は危険なので、ももちゃんとめりるどんは今回の旅の候補から外れた。

 そうすると、候補はごんさんとみぃ君の二択になり、グリュッグにも寄って、水車小屋の様子も確認したいごんさんが今回はザンダル村まで一人で移動することになった。

 もちろん、みぃ君も出汁の生産が気になるのだが、水車小屋の方がメンテナンスが複雑ということもあり、ごんさんは次回の移動まで待ってもらうことになった。


 今回、ジャイブはごんさんを迎えに港町まで来ていない。

 何故なら、こちらからその様に指示を出していないのだ。

 ザンダル村を出た時は、王都での予定が一切立っておらず、いつ、村へ顔を出せるか分からなかったのが主な原因だ。


 今後は、定期的に王都近くの港町、近いと言っても陸路で3日もかかるのだがそこまで迎えに来てもらう様に指示しなければならない。

 出来たら1日と21日と翌月の11日などといったサイクルを作り、決まった日に港町に迎えに来る様に手配した方がお互いに業務などの段取りを設定しやすい。

 それができなくても港町からグリュッグくらい大きな町へは定期便があるので、1日くらい港町で待つ余裕があれば、二日に1回ある定期便を利用できなくもないが、途中の中くらいの町にも寄港することもあるので、自分の舟があればそれが一番楽で早く移動できる。


 舟以外にも、港町から王都までの移動には馬車も雇わないといけないし、護衛も雇う必要がある。

 運ぶお酒の量によっては、馬車2台が必要になるかもしれず、その場合は舟も2艘になってしまう。

 舟を自分たち4人が使うと、その間、従業員の移動や、材料や商品の運搬が滞ってしまうので、一番効率の良い方法と頻度を考えないといけない。

 3人は細かな事はごんさんに決めてもらって良いと言って、ごんさんを送り出したのだ。

 ごんさん自身も、運搬についてはまだまだ細かな所を詰めないといけないと思いながら王都を出て来たのだ。


 陽が沈む直前になって、漸く、最初の夜の宿場町に着いた。

 大きく揺られてお尻も痛いし、体も凝り固まっている。

 ごんさんは大きく伸びをしながら、「この辺で安く安全に泊まれる宿はどこだい?」と御者に聞くと、御者がお勧めの宿を紹介してくれた。

 どうやら、一人宿泊客を紹介する毎に宿屋から御者へキックバックがあるらしく、懇切丁寧に2つの宿を教えてくれた。

 一つは比較的高級な宿で小奇麗で、もう一つの方は必要最低限のサービスしかないかわりにとても安かった。

 どうせ明日は朝早くからの移動なので、ごんさんは安宿の方へ泊った。


 御者はごんさんの履いている靴を見て、高級な宿の方に泊まるかもしれないと期待していたので、残念な顔をしながらも紹介したところに泊まってくれたので、幾ばくかのキックバックは懐に入ることに安心した。時々天邪鬼な乗客が、紹介していない宿に泊まることもあるので、そんな時はキックバックが入らなくなる。安い宿でもちゃんと紹介した宿に泊まってくれれば御者としては御の字なのだ。


 翌朝、まだ薄暗い内に乗合馬車の乗客が集まり、一人残らず乗せた馬車は移動を始めた。

 次の宿場町までの道中、通り過ぎる村の様子を見たり、建物など何もない街道の様子を眺めたりして時間を潰した。

 『そういえば日本って、街道沿いはずっと建物がある感じだから、こういう風に建物のない道が延々と続いているのを見ると、アメリカを思い出すなぁ。』などと呑気に構えていたら、盗賊などに出会うという事もなく、すんなり2泊目の宿場町に着いた。

 ここでも、ごんさんは御者お勧めの安宿に泊まった。

 本当にベッドしかない簡素な宿だったが、途中宿泊する度に、自分たちの宿屋にためになる事はないかと結構注意深く観察するごんさんであった。


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