めりるどんたちのDIY力
漸く珪藻土を塗るための様々な大きさのコテと練った珪藻土を乗せるためのコテ板などが鍛冶屋から出来上がって来た。
壁塗りの道具が揃うまでは、材料の買い付けを行ったり、大工といろいろ打ち合わせしたり、手が空いている時は、2階の部屋の棚作りや、調理場で使う食器棚などを作っていためりるどんであった。
棚は壁塗りが終わればすぐに壁に取り付けられるところまで作業を進めている。
食器棚は埃が入るのが嫌なのだが、食堂としては戸を付けない方が取り出しやすいなどの理由から扉は付けてない。しかし、4人用の陶器の皿等を入れる小型の食器棚の方は扉を付ける事にした。
工具は、ザンダル村から持ってきていたので、すぐに作業にかかることは出来たが、スライドドア式の戸を付けるのには四苦八苦した。
戸を滑らす溝を掘るのに、地球程工具が揃っていないので、同じ深さ、同じ幅に掘るのが非常に手間だったからだ。なので、最初に戸を付けた一番下の段以外は、蝶番を買って来て、観音開きにした。
「もう、本当に工具がなさすぎ!インパクトの偉大さが分かる!」「何で100均がないのーーー!」と独りでブツブツと言っているめりるどんをよく見かける様になった。
めりるどん曰く、100均は日曜大工だけでなく、裁縫や編み物に至るまでいろんな素材や道具を売っており、あると便利なお店なのだそうだ。
ドライバーはこちらの世界にもあるが、如何せんネジの精度が低く、ピッチも均一ではないため、取り付けも力技だそうだ。それもインパクトがあれば楽になるはず!とめりるどんは言う。
無い物だらけでネジをつけたり、溝を掘ったりという作業が相当手間だった様で、めりるどんのこの独り言は宿屋の工事が全て終わるまで止まる事はなかった。
ももちゃんは調理場の掃除に軽い火傷をしながらも頑張っていたが、最初の木酢液が届いてからは、かなり楽になった様で掃除のスピードも上がっている。
最初に届いた木酢液は納期を急がせたこともあり、少量だったが、またしばらく待てばまた届くので、量を惜しまず使いまくっている様だった。
床は土を強く踏み固めた土間の様になっている。これは実は食堂の床も同じだ。
木の床でないのは、雨の日に外から入るとドロドロになるので、掃除しやすいようにそういう設計が一般的と聞いたので、そのままにしている。
本当は調理場の床だけでも火と水に強い素材を敷き詰めたいのだが、なかなか思った様な素材がない。
そうこうしている内に、1階の部屋は全部、みぃ君とごんさんが筋交いを設置してくれていたので、コテが届いたらすぐにめりるどんが壁塗りを始めた。
はっきり言うと、素人が塗っているので、綺麗な平には塗れていない。
ただ、元の世界にいる時、二度だけだが珪藻土を塗った事があるので、どのくらいの固さに混ぜればいいかとか、どんな道具が必要かということは分かっている。
何故ならめりるどんはその為に珪藻土塗りの為の教室に通った事があったのだ。
中古の物件を自宅とする為に購入した時、壁がありえない色のペンキで塗られており、掃除もほとんどされておらず、建物自体も相当古いものだったので、壁塗りが必要だったのだが、少しでも購入費を抑えるために自分たちでやる事にしたので、まずは教室へとなったのだ。
ガードシーラーがないので下地を塗る事ができないので、後々、ヒビが入ったりするかもしれないが、とりあえず珪藻土を練ったものを直接塗る事にした。
その前に、ホンの少しでも平らになる様にと壁の掃除をし、ヘラで表面を平らに均す様に壁の上を這わす。紙やすりがわりになる植物もあるにはあるのだが、紙やすりに比べたら4倍も手間が掛かるのだ。
また、木に直接珪藻土を塗るので、塗って何か月か経つと木からシミが出てくる可能性や、その木を止めている釘などの錆が珪藻土にも影響を与えるかもしれないと思いつつも、他にやりようがないので、細かな事には目を瞑ることにした。
もしシミが出てきたら、そこに新たに珪藻土を塗るか、ペンキの様なもので壁に模様をつけるか、そこらへんはシミが出て来てから決めればよい。
筋交いはドイツの小さな村の田舎家の様に壁の表面に出ている形だ。
男性陣が濃いめの色のペンキを塗っておいたので、珪藻土の白っぽいクリーム色といい対象となっている。
珪藻土は匂い対策にもなるので、裏庭に別棟として建てられているトイレの壁と天井にも塗った。
王都のトイレは汲み取り式で、貧しい人たちが定期的に汲み取りをして日銭を稼いでいる。
トイレ部分に蓋が付いているので、臭いは使用時にしか上ってこないが、それでも臭いものは臭い。
珪藻土が塗ってあるだけで、随分と違う。
今後はここにザンダル村から持ってくるエアープラントの額を持ってくる予定だ。
いろんな色のエアープラントを絵になる様に並べ、外側を額縁の様に木の枠で囲ったものだ。めりるどんが以前ザンダル村で作った力作なのだ。
エアープラントの額は、各部屋にも設置した方が良いということになり、今度ザンダル村へ行く者が、いろんな色のエアープラントをたくさん持って帰るということに決まった。
2階の客室の壁は元あったまま手を入れてないので木造だ。外壁は全部2重の板で張り巡らされているので外気が室内に入りづらくなっており、3階建ての建物を支えるくらいの厚みがある。
しかし、珪藻土を塗った部屋に比べ壁厚が非常に薄いので、音なんかもよく聞こえる。
自分たち4人の部屋は1階になる。壁は良いが、2階で歩く音なんかも安普請のために、ただ、荷物をドスンと床に置いただけで、何が起こったの?と思うくらい音が響く。
そこで、3階での大工の仕事が終わるまでに、2階の床に細工をすることにした。
良く乾燥され茶色になった藁を安く大量に購入し、裏庭でも毎日の様に日光にあて、乾燥の工程を進めた。
もちろん、DIYに関係ないので、これはももちゃんの担当だ。
調理場や1階の掃除をしながら、天気を見つつ、藁の出し入れをして日干しをする。
それを2階の床に敷き詰め、その上に床材になる板を隙間なく敷き詰めた。
汚れたブーツ等を履いている冒険者等を相手にする宿屋を考えているので、カーペットや絨毯、毛皮などを敷き詰めるのは論外だ。
だが、ももちゃんは泥落としマットを作って少しでも泥が建物内に入るのを防ぎたいと思っているのだが、肝心のマットをどう作れば良いのかわからず、まだ思案中の様だ。
なので今のところは床は泥や土ですぐに汚れるというのが確定している。
だから、緩衝材代わりのカビが生えないまでに乾燥をした藁を敷き詰め、汚れた靴で歩いても大丈夫な様に、その上から板張りをし、板張りの板が掃除程度では汚れが取れなくなったら、同じ様な新しい板を敷くことにしたのだ。
不安定な藁の上に直接板張りをすると、歩く度にあっちこっちが沈み込んでしまう可能性があるので、各部屋の端と端に一定の高さの固い木材を盤木の様に設置し、その木材の上に張ると言った方が正しいのだが、その本来の床と新しく板張りした床の間に防音材を入れたことで、騒音問題はかなり緩和された。
しかし、2階と3階の間は、特に何もしないことにした。
何故なら、冒険者などは騒音などには慣れているはずだからだ。4人が王都で泊っている宿なども、同じ様な安普請で騒音は常に聞こえていたが、誰かが騒音について文句を言っているのは見たことがない。
1階の部屋の修理とリフォームが終わると、机や椅子、みぃ君たちが作った洋服ダンス、ベッドなどを各自の部屋に運び入れた。
その段階で、今の宿屋からは出て、まだ上の階は工事中ではあるが、寝る事はできるので自分たちの宿に移った。
調理場も使える様になっているし、食堂の方もテーブルや椅子も入れたし、生活するには困らなさそうだったので、これ以上の出費を抑えるためにもということで引っ越しすることにしたのだ。
「カーテンが欲しいよね。」と手前の方の部屋に入っためりるどんがももちゃんに言うと、ももちゃんは大きく頷いていた。
こちらでは布は高いので、カーテンなどは裕福な家にしか使われていないのだ。それもカーテンレールなどはなく、突っ張り棒の様な棒1本に上部を袋状に塗った布を通すだけだ。
裕福でない家では、木製の鎧戸を閉める事で強風が家の中に入るのを防いでいたりするのだが、鎧戸を閉めると外から陽の光が入ってこなくなるので、不便な事この上ない。
突っ張り棒1本でできるカーテンなら自分たちでも設置可能なので、ぜひカーテンを縫おうと話を振られたももちゃんは、そのカーテンを縫うのが誰なのかを察し、利き腕である右手をプルプルと揺らしていたが、カーテンのない生活は考えられないので最後にはめりるどんに頷いていた。




