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開店に向けて その2

 まずは、足場がちゃんとしていないと建物の修繕やリフォームは危ないので、3階の床や屋根、テラス、そして中庭から3階のテラスに登れる外付け階段の部分は大工に作業してもらう事にした。

 外付け階段の部分は、今4人が宿泊している宿を参考に、簡単な雨除けの屋根を付けてもらうことになっている。


 メリルどんは珪藻土が入手できると分かり、壁塗りをするための準備に入った。

 土壁の方がただの板より騒音も防げるし、何よりも他の安宿との差別化が出来るのだ。ちょっとだけ高級に見える。


 みぃ君とごんさんは、客室用のベッドを作る事になった。

 各客室のテーブルと椅子は、中古の食器を買った店で買った食堂用のテーブルをそのまま使うことにしている。元々、それを考えて食堂に入るテーブルの数より多くのテーブルを購入していたのだ。

 洋服ダンスなどというものはこの世界になく、部屋の片隅に荷物や着替えをしまう棚を作ればよいので、そういう意味では楽だ。


 男性陣2人は、めりるどんの1階が自分たちの部屋になるのなら、壊れている3階だけではなく1階の壁も珪藻土を塗るという意見を元に、塗る前に筋交いを追加で付ける作業もうけもっている。家具作りよりもこちらを優先すると効率が良いので、まずは、1階の各部屋に筋交いを渡している。

 筋交いは、今ある柱が太く、板だけの壁の上から這わせて、柱ともども濃いめのペンキを塗るところまでが、男性陣のお仕事だ。

 めりるどんは、この筋交いより飛び出ない厚みで珪藻土を壁に塗っていく予定だ。


 ももちゃんは、素材などの買い付けや、食堂や1階の部屋等使える部分を徹底的に掃除するのが役目だ。

 調理場は長年の汚れ、特に油がこびりついていて掃除は大変だ。

 毎回お湯を沸かして、「熱っ!熱!セスキ酸が欲しいーーー!」と叫びながら掃除しているのが、ここ最近のももちゃんだ。

 ももちゃんやめりるどんは、油汚れにはセスキ炭酸ソーダ、水汚れならクエン酸、焦げ付きは重曹!などと強く男性陣に力説していたが、手に入らないものは仕方がない。熱湯で代用だ。


 そんなある日、めりるどんが「ねぇ、ももちゃん。木酢液なら手に入らないかなぁ~。」と言って来た。

 「お!そうだね。木酢液も掃除に良いねぇ。でも、どうやって作るの?」

 「私は作った事がないんだけど、木炭を作る時に出てくる煙を冷やすみたいだよ。」

 「すご!めりるどん、作り方を知ってるんだぁ。」

 「前に、TVのドキュメンタリーで見た事があるだけだよ。」

 「それにしても、そういう細かい事まで良く覚えてるよね。靴の作り方とかもそうだし。」

 「一旦頭の中で文字に置き換えて、その文字を色で覚えてるから、その色さえ思い出せば結構細かな事まで思い出せるのよ。」

 めりるどんの共感覚は、健在だ。さすが!と思ってしまうももちゃん。


 ザンダル村にはなかったが、この王都では普通に木炭が売られている。

 その木炭を作っている場所がこの王都の近くなら、そこへ行って仕入れてくるか、もしかしたら既に普通に売られているかもしれない。

 そこでももちゃんは王都の中の雑貨屋をくまなく探した。

 しかし、木酢液はどこにも売られておらず、今度は木炭を売ってる店を回って一番近い木炭の窯はどこかを聞いて回った。


 すると幸いな事に、王都の周りを囲む様にある森の中にあると聞き、ごんさんと二人で交渉に行った。

 王都を囲む森は、広い平坦な部分と、低い山の様になっているところで成り立ち、その低い山の部分に炭焼き小屋があるそうだ。

 まぁ、山と言っても日本で言う低い山は、ペルーなどでは丘と呼ばれるくらい山の高低についての感覚は国によって若干違う。ここで言う低い山とは、日本の感覚での高さを指している。


 王都の炭を売っている店から聞き出した辺りを探すと、簡単に炭焼き窯が見つかった。

 お金を払うから煙が欲しいと言ったら、煙の集め方が分からないとのことだったので、王都の鍛冶屋に頼んで作ってもらった鉄製パイプを持って再び交渉に行った。

 簡単に作ってもらたパイプなので、日本で木酢液を作っているところなどと比べると、設置したところで逃してしまう煙が多く出る可能性が高いが、木酢液の販売を目的としておらず、自分たちが使う分だけ集まればよいだけなので問題はない。


 使い方を説明し、定期的にある程度の量が欲しいと話し、比較的安価な値段で木酢液が手に入る事になった。

 木炭職人にしても、煙などお金にならないものが、お金になると聞いて喜んでいた。

 まぁ、金になるといっても大した金額ではないが、煙の出口にももちゃんたちが持ってきたパイプを設置し、その先に桶を置いておけば良いだけなのだから簡単だ。元手も一切掛かっていない。それで町でお酒を2~3杯飲める小遣いがもらえるのだ、炭焼き職人にしても嫌はない。

 そんなこんなで時間は少々かかるが、洗剤も手に入る事になり、掃除の方も目途が立った。


 リネン類の手配も、ももちゃんがする事になった。

 縫物などはめりるどんの方が得意なのだが、めりるどんには壁塗りなどの作業があり、比較的手が空いているのはももちゃんなので、DIYに関係ない作業は必然的にももちゃんの担当になってしまっている。


 宿のリネン類だが、白や生成りではなく、汚れの目立たない茶色にすることにした。ただ、茶色だけにすると煤けた感じに見えなくもないので、ベッドカバーをこげ茶にしてシーツの上に被せ、カバーを枕のところで折り返し、アーバンテイストに纏めてみた。本当は黒が欲しかったのだが、草木染で黒色を出すには手間が相当掛かるそうで、高価になるそうなのだ。そこで黒に近く、汚れが目立たず、シーツの茶色と相性の良いこげ茶にしたのだ。


 藍染があれば、紺色のカバーと水色のシーツでも良かったのだが、この世界には藍染はなく、草木染しかない様なので、布地屋さんと相談してこの2色を大量に用意してもらうことにした。


 なぜ汚れを気にしたかというと、この世界の冒険者がきれい好きにはとても見えず、シャワーやお風呂で頻繁に体を洗っている様には見えなかったからだ。

 ももちゃん曰く、「スペインのコルドバって町は、スペインの中でも年間雨量が極端に少ないので、みんなめったにシャワーを浴びないんだけど、王都の人たちは、コルドバ人たちと同じ様な臭いがするのよね。」とのこと。コルドバの人たちは物理的に水がないから、みんなで協力してできるだけ水を使わない様にしているのだが、こちらの世界の冒険者は単に入浴などの習慣がないだけの様だ。


 ベッドの中身は比較的安価で手に入りやすい藁にし、枕の中身はお手玉の中身と同じ数珠玉を自分たちで森の中の水辺で収穫してきた。

 羊毛にしてしまうと髪を洗わない冒険者などが使う事でダニが沸いてしまうのではないかと危惧したからだ。

 リネン類やまくらなどは有料で、賃料の他にも高い保証料を先に取って、チェックアウト時に現物と引き換えに保証料のみ戻すという他の宿屋と同じシステムにするつもりだ。

 枕カバーはベッドカバーと同じこげ茶の生地でももちゃんが縫った。


 もちろん4人の寝具はザンダル村から羊毛で作ったマットなどを持ってくる予定だ。どっちにしても誰か1人が一度ザンダル村やグリュッグへ行って、事業の状態を確認しなくてはならない。

 これは今後も月に1~2回の割合で誰かが行く事になる。

 道中の安全を考えるなら、男性陣の2人に交互に行ってもらう事になるだろうと、おおよその話しは決まっている。


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