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開店に向けて その1

 数日の間に、不動産屋さんに紹介してもらった大工や建材屋を周り、必要な建材やその料金、そして大工などの工賃を割り出していった。

 この仕事はめりるどんとごんさんが率先してやってくれた。

 結果、この物件を買ってもやっていけそうということになったので、不動産屋のダンドルに購入の手続きを取ってもらった。


 そしてそのままの足で、建材屋で必要な物を購入し、問い合わせた大工の内、不動産屋さん一押しの大工が一番誠実に対応してくれていたので、そこへ工事を発注し、工事期間などについても話を詰めてきた。

 実はこの大工より、同じ不動産屋さんが紹介してくれた他の大工の方が値段は安かったのだが、地球の知識を元にいろいろと質問した結果、安い方の大工は意味が理解できていなさそうなのに、問題ないなどと安請け合いしている様に見えた。それに対し、今回発注した大工は、自分の知らないことは知らないとはっきりさせ、それについて説明してくれと、こちらの質問に必ずちゃんと返事をしようとしてくれたので、そこが決め手となったのだ。


 みぃ君とももちゃんは、今、自分たちが購入する予定の物件の近くの食堂で昼食を摂っている。めりるどんとごんさんは無事、物件の購入手続きを終え、今は建材屋、大工を回っているので、今、この食堂で昼食を食べているのはみぃくんとももちゃんの二人だけだ。

 この食堂は購入予定の物件と同じ通りに面しており、宿屋はついておらず、食事だけを提供する店だ。

 古い木造の店で、テーブルや椅子も木製。それも、柔らかい木で作られているので、表面にも傷がいっぱいだし、角などは削れて少し丸くなっている。

 出て来た料理は、具沢山のシチューと硬いパン、温いエールが1杯の定食だ。

 ラガーなら冷えていた方がおいしいのだが、エールは温いままの方がよい。ただ、ここのエールは安いエールなのだろう、旨味よりもすっぱい様な雑味の方が強く、水が飲み水として使えないから、エールを出している様にしか見えなかった。


 「おかみさん、この辺に最近潰れた食堂とかないですか?」とみぃ君が、料理を持ってきた店員に話しかけた。潰れた食堂のテーブルなどを安く買いたいためだと説明したところ、「あたしゃ、女将じゃなくって、ただの給仕だよ。そうさねぇ、南隣に2件ほど、潰れた食堂があるよ。なんなんだろうねぇ、あっちの道に出来るお店は長続きしない店が多いんだよねぇ。」と何の躊躇いもなく答えてくれ、ランチのピーク時なのもあって、忙しそうにさっさとカウンターの方へ戻って行った。

 実は、二人はすでにもう一軒の食堂でも食事をし、同じ質問をしているし、普通のお店3軒でも、質問をしていた。その結果、全部で3軒の潰れた食堂についての情報を手に入れている。

 食事が終わり次第、それらのお店にお皿や鍋はまだあるか、その状態はどうか問い合わせるために潰れた食堂の持ち主を探し出さなければならない。もちろん、状態確認と購入のための値段の交渉等を行うためだ。

 

 「もう、お腹いっぱいで食べれないよ。」とさっき別の食堂で食事を終えていたももちゃんが小声でブツブツ言っているのを横目に、食べ残す量が店側が気を悪くしない程度に納まる様、みぃ君が二人分を食べ始めた。

 「あかん!もう耳から食いもんが飛び出しそうやぁ。」と両手で耳から何かが放射線状に飛び出ている様なジェスチャーをして、ため息をつきながら食事を続けるみぃ君を手伝いもせず無責任に応援するももちゃんであった。



 「ここ、大きなお店だったんだね~。」と潰れた食堂の前でももちゃんがみぃ君に感想を漏らす。

 ここは2人が訪れた3つ目の潰れた食堂だ。

 最近潰れた様で、建物もまだ新しい感じだ。

 これなら食器等も新しいだろうと期待を胸に中へ入っていく。


 「「こんにちは~。」」

 みぃ君が先頭になって、戸を潜り、前もって約束を入れていたこの店の元の持ち主に声を掛けた。

 「あんたたちかい?食器なんかが欲しいって言ってたのは。」

 店の中で待っていたのは、痩せた中年の男性だった。

 「家は不人気で潰れたんじゃなく、わしの連れ合いが亡くなったから、料理のできるもんがいなくなったんで店を閉めたんだ。だから、開店からまだ1年もなってなくて、何でもこの店に残っているものは新しいものばかりだ。」と、みぃ君の目を見て話す。


 「そうだったのですか。それは、お連れの方のことはご愁傷様です。」とみぃ君の言葉に合わせてももちゃんも頭を軽く下げる。

 「あんたたっちゃ、外国人か?」

 「そうです。」元の持ち主は、商談は男性同士でするものと思っているらしく、常にみぃ君にだけ話しかける。

 「ちっ。」と悪態をつき、「売るのはいいが、現金払いでないと取引しねぇからな。」とドスを利かせてくる。


 「わかりました。物が良くて、値段も納得がいく金額なら現金で全額お支払いしますよ。」と、みぃ君がすぐさま答えた。

 この国では、大きな買い物をする場合は、売り手と買い手の間で分割払いについて取り決めすることがある。その場合は担保となるものを設定したりするのが普通だが、今回は相手が外国人だと見て取ったこの元持ち主が分割払いでの売買は一切しないと宣言して、それをみぃ君が了承した形だ。


 鍋なども大きな物が揃っているが、フライパンなどはない。これは、この国の文化に焼くという調理法はあっても、炒めるという調理法がないからだ。

 焼くだけなら串に刺して焼いたり、窯に放り込んで焼いたりできるからだ。

 包丁などもなく、小さなナイフなどで調理するのが一般的だ。日本みたいに野菜や肉などの下ごしらえ様のまな板もない。

 まな板はもっぱらチーズなどをカットする時のみ使い、そのままチーズを乗せる皿としても扱われる。


 皿は基本木の板で出来ている。

 家庭で使うものには陶器もあるが、食堂などで使われるのは多少真ん中が窪んだ形の板で、料理が染みない様に油などが塗布されているのだ。

 スープ皿も木製で、同じ様な加工が施されているが、しっかりと深みは持たされており、液体を入れても大丈夫なデザインになっている。


 カトラリーは基本スプーンだ。それも木製。やはり油等が塗布されており、ちょっとやそっとでは木の部分に液体が染み込まない様にされている。


 この食堂の食器は、これまで見て来た倒産した2軒の食堂にあった皿類と形や素材は同じであるが、元の持ち主が言う様に、多少新しい。木の色がまだ若いのだ。シミも少ない。

 そして、みぃ君が一番喜んだのは、この店には窯があった事だ。

 それも多少の大きさの肉の塊でも一気に焼ける程の大きさものだ。

 この窯も比較的新しい。


 「この皿、鍋、スプーン、全部貰うとしていくらですか?」とみぃ君は、早速値段の交渉に入った。

 痩せた中年男は鋭い目を更に眇めてしばらく考えた後、「金貨2枚」と呟いた。


 食器類はそれぞれ100個で計算してもらっていたが、新品でもないのに結構な値段を申告された。

 「使い古しでその値段か・・・。」とみぃ君が呟き、ももちゃんの肩をポンと触り、「じゃあ、時間を取らせたな。機会があったら、また。」と今までの丁寧な表現を捨て、元持ち主と同じくらいのぞんざいな口調で声を掛け、ももちゃんと出口に向かう。


 「っ、ま・まてっ!待ってくれ。」元持ち主は慌てて二人を追いかける。

 本当はこの店は元々そんなに流行っていなかった。

 連れ合いが料理をしていたのは事実だが、張り切って始めた事業が思う様に行かず四苦八苦していた時に、その肝心の連れ合いが事故で亡くなってしまった。

 料理はそこそこ上手いと思ってたし、値段も付近の店と変わらないくらいの料金に設定していたのに、何故だか流行らなかったのだ。


 手元の資金が乏しくなっていた上に、料理屋に料理が出来る人がいなくなったのだ、それもあまり流行っていない店だったので、給料を払ってまで新しい料理人を雇う事は無理だった。

 男にしてみれば、少しでもお金を得られる手段があるのはありがたいのだ。

 使い古しの食器などほとんど価値はないが、相手が外国人なら多少吹っ掛けても大丈夫と思い、強気に出たのが裏目に出た。


 「わかった。分割払いにはできないが、値段は下げる。」そう言ってみぃ君たちの気を引くしかなった。

 「そんじゃあ、いくらになるの?」

 「そうだな・・・・。」痩せた男はしばし考え込んで「食器2種類で200個、スプーン100本、大鍋3つで、き・金貨1枚でどうだ?」と新たな値段を提示してきた。

 それを聞いたみぃ君は、「ふん」と鼻で馬鹿にして踵を返しかけたが、「ここのテーブルとイスを25セット分と窯も入れてならいいぞ。」と、今度はニヤリと悪い顔で話を持ち掛けた。


 「窯も入れて、その値段は如何に言っても安すぎる!」痩せた男はがっくりと肩を落とした。

 「そうだな、じゃあ、さっき言った全部を金貨1枚と銀貨1枚だな。」とみぃ君は後ろを振り向きかけた体制のまま言う。

 「せ・せめて金貨1枚と銀貨3枚でっ!」

 痩せた男がそう言うと、「金貨1枚、銀貨2枚でどうだ。」とやり返し、「分かった。」と男が言った瞬間に、今度はニコニコ顔で男と握手をした。

 荷物の引き渡しはこちらの建物の工事が終わるまでは待ってもらえる条件で、そして万が一ここの物件が先に売れる様ならその時点で支払及び引き渡しという事で話しはついた。

 ちなみに二人はこの痩せた男にここの物件の値段も聞いたのだが、4人が考えていた予算よりかなり上回っていたので、食器と調理道具のみの買い上げとなった。


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