表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/143

物件探し

 もう一つの不動産屋さんへ行くと、ダンドルという栗色の髪で中肉中背、顔もあまり特徴のない男性が対応してくれた。彼は腰が低く、上等ではないが、ちゃんと洗濯された清潔な服を着ていた。

 ぱっと見、庶民派だ。

 しかし、王都の不動産はグリュッグなどの中堅の町と比べればやはり値段が高く、ダンドルさんの不動産屋さんでも4つくらいしか予算内に収まる物件がなかった。

 まぁ、4人の決めている予算も持ち金全部ではなく、事業の初期投資なども考え、持ち金の1/4くらいに留めているので、低めの予算ということもある。


 最初に連れて行かれた物件は、冒険者ギルドのある地区で、表通りには面していないが、表通りから角を曲がって2つ目の建物だったので食堂や宿屋をやるにはもってこいの場所だ。だが、その建物には大きな特徴があった。

 人が住まなくなってしばらく経ったことが一目でわかるくらい劣化した建物だった。

 大規模な工事が必要な物件で、今すぐ入居することが不可能な状態だったので、次の物件を見せてもらうことにした。


 2つ目の物件は、王都の西門のすぐ近く、いわゆるスラム街の近くと思われる地域で、こじんまりとした店舗兼住居だった。寝室は2つしかなく、台所のついていない物件だった。

 この物件は店舗としてのみ使う事ができ、台所のない物件なので食堂は無理だった。

 ダンドル氏によると、以前ここではハギレ等を売っていた様だ。

 「ここでお店をしても、私たちが狙っている購買層の人たちは来ないでしょうね。」とめりるどんがぽつりと言う。


 「そうだなぁ。ここは女性だけで店番する時に不安があるから、論外だな。」とごんさんのセキュリティチェックが入った。


 次にダンドルさんが4人を連れて行ったのは、大通りからは少し離れているが店舗のついた物件2つだった。

 一つはまだ比較的新しく、木造。大きさは店舗としては比較的小さく、寝室は3つ。小さな台所は付いているが、庭は付いていなかった。

 寝室2つを2人部屋にして、残り1つを居間にすることも考えられるが、ザンダル村では寝室が1つで4人で使っていたこともあり、できたらそれぞれの部屋を用意したいというのが、4人全員の強い要望であった。

 台所も小さいために食堂には向いていない物件で、やはりここを購入するなら店舗としてしか利用できない。


 もう一つはかなり古い建物だが、レンガ造りだった。木造よりレンガ造りの方が丈夫ということもあり、4人の予算に合わせた物件となるとこちらの店舗付き住宅の様に、狭小物件になる様だった。こちらも庭はついておらず、更には台所もなかった。寝室は4つあるものの、とても小さな部屋だった。

 台所もないことから、この物件でも店舗しか開けない。


 他にも物件はあるそうだが、いずれも4人が考えていた予算を大幅に超えるそうだった。

 ほんの少しだけ高いだけなら、当初決めていた予算を超過しても、良い物件を入手しようかという話も出ていたが、今日見た4つの物件よりもかなり高い金額になると聞き、新しい物件の紹介は遠慮した。

 4人はダンドル氏そっちのけで、日本語でこそこそと相談し、結局、最初に連れて行ってもらった冒険者ギルドの近くの物件にもう一度連れていってもらうことにした。


 この半分崩れかけた物件なら、自分たちの手持ちのお金でも余裕で購入可能だ。

 三階建ての元宿屋、木造だ。裏庭には井戸と洗濯場があり、1階は6つの大き目な部屋と小さ目な部屋2つ、調理場付きの食堂となっている。

 宿屋であれば、朝食や夕食を出して、部屋代とは別の収入源としているのがこの世界の宿屋だ。


 2階も1階の8部屋と同じ位置に、8つ部屋がある。1階は8つの内2つの部屋は小さ目だったが、2階の8部屋はみんな同じ大きさで、少し小さ目の広さだ。食堂と調理場の真上は雑魚寝用の大部屋2つになっていた。3階も、8部屋のところは2階と同じ作りだが、食堂の真上に当たる部分が大きく崩れていた。


 1階と2階はドアや窓が外れかけていたりしているだけだが、3階は8つある部屋の内2つは、壁の板が腐り壁に大きな穴が開いている部分があったり、食堂や調理場の上に当たる部分の屋根は大きく崩れていた。その床に当たるところにも一部穴が開いていた。


 「う~~ん、ドアや窓の修理もそうだけど、屋根と壁の強度を一度ちゃんと点検しないと危ないかもね。家そのものの修復はあまりやったことないけど、和室の壁を薄く剥がし、珪藻土を塗った事はあるから、珪藻土があれば土壁にしてなんとかなるかも?」とDIY大好きなめりるどんが案を出した。


 「この建物を買うとして・・・・ってか、他の物件はダメでしょ?これだけの部屋数があったらやっぱり私たちがするのも宿屋?」とももちゃんがワクワクした様子を隠さずに残りの3人に尋ねた。


 「修理にどれくらいの料金が係るか・・・。建材を買って、自分たちで修理をするとして、3階の部分までちゃんと修理するかどうか・・・2階までしか使わない気なら宿屋としては小さいしな・・・。」とごんさんが、思案しながら独り言の様につぶやいた。


 「レストランだけを運営するっていうこともできるけど、レストランに拘らないなら普通のお店でもできると思うよ~。ただ、2階や3階を解体するのは素人の私たちには荷が重いかな~。屋根の状態を確認しないとなんとも言えないけど、内壁やドアを補修するだけなのと、壁を取り壊すのは別ものだからね。」というめりるどんの意見を尊重し、3階全部を活用するなら宿屋を、その場合は本職の大工を雇う事も考えないといけないし、店舗や食堂だけでも、3階の解体部分は大工を雇うということで4人の意見が固まった。


 「でも、買う前に、建材費だけでも調べてからの方がよくない?いくらこの建物が格安だと言っても、修復の建材費やベッド作成代、鍋、お皿の代金が捻出できなければ、反対に大きな負債を抱え込むことにならないかなぁ?」というのはももちゃんの意見だ。さすが商業簿記2級を持っていると思わせる発言だった。


 不動産屋さんのダンドルさんに、この建物を購入するとして、補修の建材はどれくらいの費用が係るか、またどこで適正な価格で手に入れられるかを聞いてみた。

 「そうですねぇ、どんな材料を使って補修するかにもよりますが、3階の崩れた屋根の部分は取り除き、テラスとして使うことも可能ですので、材料を取り除いて床を補強することにして、壁や窓などを補修する木材が必要ですね・・・・工賃も含めこれくらいになりますかねぇ。」と、算盤に似た道具を取り出して計算した結果を見せてきた。


 ダンドル氏は、一旦示した金額を前に少し唸って、「テラスにする場所の外壁は、これまでは内壁だったので、材料が外壁向きのものではありません。あそこの部分と屋根の修復のみプロの大工を雇うことを考えるとそれくらいですかね。まぁ、工賃などは大工によって幅が出る部分ではありますがね。もしかしたら外壁材の値段が多少変動してたとしたら・・・。」と、先ほど示した金額に少しだけ上乗せした上で、ダンドル氏の不動産屋さんがひいきにしている大工さんや木材屋さんなら紹介できるとも言ってくれた。


 「う~~ん、3階のあそこは洗濯物を干したり、夏にはビアガーデンとして使うとか?」とめりるどんが提案した。

 「いや、ビアガーデンは自分たちだけが使うのはええけど、宿泊客以外には使わせられんと思うでぇ。セキュリティが怪しくなんねんちゃう?」とみぃ君が待ったを掛けた。


 「確かにセキュリティに問題が出るなぁ。とすると宿泊者専用にするっていうのもいいかもしれないな。」とごんさんがまとめてくれる。

 

 「建物の外側から上がれる階段を作って、そこから3階のテラスに上がれる様にしたら、夏のビアガーデンもできるのでは?」とは、めりるどんの発案だ。


 「それもいいねぇ!」とももちゃん。

 「いや、せやけど、寝る時間になっても延々とおっきな声で騒がれると宿泊客が大変ちゃうか?」とのみぃ君の意見に、「そういえば、メキシコで仕事した時泊まった比較的高級なホテルなのに、傍迷惑な事に普通の日の夜中3時頃までプールサイドでパーティやってたことがあってねぇ、大音量の音楽をガンガンかけられて、眠れなかったのを覚えてるよ・・・。」と、ももちゃんが情けなさそうな顔をしてうなずいき、「あれはきつかったぁ・・・。次の日、仕事だったしね。」と締めくくった。


 「宿泊客なら、みんな眠くなったらベッドへ行くだろうし、使う時間の上限を決めればいいだけだから、そっちのがいいんじゃないか?」とごんさんが再びまとめに入った。


 「よっし!じゃあ、3階のテラスの利用法は後で考えるとして、大工さんに屋根の部分とテラスの部分は発注するとして、値段や工期を訪ねることが重要だね。往来から登れる階段はセキュリティのためにも作らない方が良いと思うので、内庭側に作るとかその方向で行きましょう。」と、ももちゃんがそこまで言うと、今度はごんさんが、「いや、ビアガーデンをしないのであれば、外階段はいらないと思う。やっぱりテラスの使用目的は工事を頼む前に決めてた方がいいと思うよ。」と意見を言ったので、4人はしばし考え込んだ。


 「採決を取ることにしましょう!」といつもの様にももちゃんが仕切る。

 結局、4人全員がビアガーデンはやるという意見だった。

 みぃ君とごんさんは、自分たちがビアガーデンで飲みたいという下心もあった様だ。


 「じゃあ後は、私たちがやる修復の部分、どんな建材がどれくらいいるかをめりるどんに算段してもらって、料金や納期を建材屋さんに確認しよう。そこまでできたら、本当にこの物件を私たちが買うことができるかどうか判断できると思うので、今後の事も考えられるしね。」と、ももちゃんがほぼほぼ独断でまとめきった!


 ダンドル氏に一旦4人で相談したいので、買うかどうかは別の日に連絡させてもらうことを説明した。

 「それはいいですが、みなさんが購入を決める前に別の方が購入を決められたら、そちらに販売しますが良いですか?」とダンドルさんに言われたが、売れたら売れたで縁がない物件だったと思うことにして、まずは本当に開業できるかどうか資金の計算をしようということになった。


 4人は宿に戻り、男性陣部屋に集まる。

 「買えへんといけないものをリストアップせぇへんといけないなぁ。」とめずらしくみぃ君が口火を切った。

 「修復の機材や建材はめりるどんに計算してもらうとして、他には食器、鍋、包丁、まな板、食材、調味料、シーツ、枕、ベッド、ベッドに敷く藁?、テーブル、椅子なんかがいるんじゃない?」と早速思いつく限りを挙げるももちゃんであった。


 「各部屋に鍵を掛けられる様に鍵があるかどうかを確認しないとな。」とは、セキュリティ担当のごんさんの発言だ。


 「わかった、鍵は建材の内に入れて探してみるね。」と早くもめりるどんが必要な建材等を木の板に書き出していく。


 「お皿とか、家具は中古品でいいと思うんだ。」とももちゃんが身を乗り出す。

 「そうだね、中古品で揃えられる物は中古品で行こう!」とめりるどんのOKも出た。

 家具や食器などは下手に口を出さない方が安全とばかりに男性陣は口を噤んでいる。


 めりるどんの建材一覧が出来たら、それぞれが分担して市場の価格調査だと話が付いて、4人は泊っている宿屋までの道にある店舗を冷かしながら戻って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ