王都へ来たど!
ようやく王都へ着いた。長かった。この世界に飛ばされて3年半と少し。
最終目的は元の世界、現代の地球に戻ることだが、とにかくこの世界で生き延びないと、恐らくだが試合終了となる。つまりこちらの世界で生命が終わる可能性もあるので、とりあえずは、この王都で生活の糧を得て、危険の少ない生活をおくれる様努力するしかない。
もちろんザンダル村やグリュッグの町にある工場や水車小屋の運営などもある。
そこから上がって来る収益もあるが、折角王都に住むのなら、王都でも何等かの形で安定した収入を得たい。
情報収集のためにもごんさんに冒険者ギルドに登録してもらうことは、村を出る前から4人で話し合っていた。
王都を取り囲む様にして森があることは、グリュッグで聞いていたので、狩りをすることができるはずだと思ったからだ。そうなると罠を仕掛ける事ができるごんさんが登録するのに適任なのだ。ただ、ごんさん自身は罠ではなく、普通に狩りがしたいと思っている様だ。狩りは、精神鍛錬にもなるとこの前つぶやいていた。
4人が、グリュッグで貯めた資金で商売を始めるための土地と建物、資金が足りなければ店ではなく屋台と生活の場を確保する必要があるので、一旦宿を取って、不動産屋さんを訪れる必要があると4人で話し合っていた。
もちろん、会社を作った事でかなりの資金が溜まっているので、土地と建物を購入できないということはないとは思うが、首都ともなれば土地代が馬鹿高い可能性があるのだ。
そして拠点であったザンダル村から大きく離れた土地に住む事により、商品を王都まで運んだり、シミンに作成してもらう作業管理表等を届けてもらう為に、馬車を1台、御者ごと雇い入れて、定期的に舟の発着場から王都までを往復してもらわなくてはならない。
もちろん、商品を運ぶ関係上、馬車での運搬には盗賊対策として用心棒も雇わなくてはならない。いろいろと金が要るのだ。
王都は、グリュッグから舟で4日移動したところにある港から陸路を馬車で3日間移動しなければならない。
今回は、会社の舟で移動した後、定期便の乗合馬車にて王都まで移動した。
そんな事もあり、4人はいろんなケースを考えており、もし、商品の運搬等にお金が係りすぎ、不動産購入の資金が足りなかったら屋台もありだと思っている。
王都内で比較的安全な地域で、女性でも泊まれるリーズナブルな宿屋を冒険者ギルドで教えてもらった。
冒険者ギルドから徒歩5分以内に宿屋が固まっているらしく、治安は悪くはないが、冒険者に対して街の人が持っているよそ者の集まりというイメージから、首都の民はあまりこの辺を歩いていないそうだ。
「ねぇねぇ、この宿じゃない?」とももちゃんが立ち止まったのは、木造の2階建ての建物だ。
宿屋というよりも、食堂か飲み屋にしか見えないが、大きなドアが左右に開け放たれている。
道から中を覗き見ることができ、多数の木製のテーブルと椅子が並べられていることや、カウンターはあるが座るための椅子がないので、いわゆるカウンター席はないことなどが見て取れた。
おそらく、そこは料理人が出来上がった料理を乗せ、配膳係が運ぶ為の場所であろうと4人は思った。
掃除はされているが、拭えないエールや体臭の籠った臭いがする。
「ここやろうなぁ。」とみぃ君が中を覗きながら言う。「こないなのは、異世界の定番の宿やな。」となぜかウキウキしている。
「まぁ、ここでじっとしいても意味ないので、料金を聞きましょうか。」とメリルどんが、店の中に入っていった。
残りの三人もめりるどんに続く。
調理場がある側とは反対側にベルの置いてある小さ目の机が設置してある。
ももちゃんがベルを鳴らす。
「は~~~い。今、行くよ~。」と声だけで中年女性と分かる声が答え、バタバタと階段らしきものを降りてくる音がする。
食堂や、この机の置いてある所からは階段は見えない。
果たしてカウンターの後ろのスィング扉から中年のふくよかな女性が現れた。
「泊りかい?2人部屋なら素泊まりで一人当たり銅貨7枚、朝食付きなら銅貨9枚、4人部屋なら素泊まりで銅貨6枚、朝食付きなら銅貨8枚、夕食は予約なしでも食べられるよ。食事だけ別に頼むなら一食銅貨2枚だよ。後、シーツの貸し出しが必要なら1枚につき保証料込みで銀貨2枚と銅貨5枚。銀貨2枚と銅貨2枚は保証料だから、チェックアウトの際にシーツを持って降りてくれたら返金するから安心しな。」といつもやっている説明なのだろう、スラスラと説明してくれた。
グリュッグのタヌキのねぐらの料金より銅貨2枚づつくらい高い印象がある。さすがに王都は物価が高い様だった。
「じゃあ、2人部屋2つ、朝食付きで、とりあえず2泊お願いします。シーツは自前のがあります。それで、更に滞在を伸ばす時は、いつ言えばいいですか?」とももちゃんが独断で話を進め、ちゃっちゃとお金を払う。
「お部屋とか見せてもらわなくても大丈夫?」とめりるどんが日本語で聞いてくるが、「こういうのって異世界物の定番だとお部屋を見せてくれるっていうシーンはないし、冒険者ギルドでここをお勧めって言うくらいだから、大丈夫でしょう。値段が許容範囲なら一旦泊まってみて、ダメでも、2晩だけで他に移ればいいんだしね。」とももちゃんはケロっとしている。
「ももちゃんがそれでいいなら、私はいいよ。」とめりるどんが譲ってくれた。
「延泊の際は、その日の朝に言ってくれればいいよ。空きがあるかどうか心配なら、前の晩に言ってくれれば大丈夫だよ。」
さっそく4人は宿屋の女性の後ろについて2階へ向かう。
ベルが置いてある小さな机は食堂の一角においてあり、厨房があると思われる方向に先ほどの木製のスイングドアがあり、そこを通り奥へ進むと、建物の外側に階段があった。
建物の外に設置はされているが、屋根がついているので、雨の日でもあまり濡れない様にはなっている。
階段の横には小さな裏庭があり、厩舎の様なものと、井戸があった。
井戸の横では洗濯物がたくさん干されていた。
二階は廊下を真ん中にして左右に部屋が並んでいる作りとなっている。4人は一番奥の廊下を挟んで左右の部屋へ連れて行かれた。
「朝食は2つ鐘から3つ鐘まで。夕食の時間は決まってないが、毎晩店は開いてるよ。洗濯は、裏の井戸を使っていいよ。トイレは、厩舎横にあるよ。」と説明があった。
2つ鐘は日本で言うところの5時、3つ鐘は8時くらいを指している。きっちりした時間ではなく、太陽の位置などからおおよその時間を割り出している様だ。雨や曇りの日はもっとアバウトに鐘を鳴らしている様だ。
後でわかったことだが、この女性がこの宿の女将だった。
「それじゃあ、何かあったら店のベルを鳴らしな。」と言って、女将は忙しそうに別の客室の掃除を始めた。




