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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
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ポンフィの反乱

 『たぬきのねぐら』に部屋を取り、寝床を確保したごんさんは、再び水車小屋へ向かった。

 グリュッグに来る時は、水車小屋に置いてあるハンモックで寝泊まりする事もあるのだが、今回はポンフィが夜中に水車を動かしているかどうかの確認なので、ごんさんが水車小屋で寝泊まりしていれば、さすがにポンフィも水車を動かそうとはしないだろう。


 ドブレには小声で『たぬきのねぐら』で部屋を取っているので、何かあったらそこへ連絡して欲しい事、5~6日後には一旦ザンダル村に帰る事を伝えた後、伯爵側の水車小屋へ行き、ポンフィにいつもの様に挨拶して、自分のいない間に何か問題があったらドブレを頼る様にといういつもの注意事項を伝え、いかにもザンダル村へ帰る様な素振りで小屋を後にした。


 その夜からごんさんは水車小屋から見えない、他人の倉庫の暗がりに座り、ポンフィの様子を窺っていた。

 最初の夜は、ドブレと就業後の挨拶をして帰宅し、小屋には戻って来なかった。

 伯爵の警備兵はポンフィの親戚の人ではなかったが、ちゃんと警備兵にも挨拶した様だ。


 2日目の夜、警備兵はポンフィの親戚の奴で、ポンフィはいつもの時間にドブレに就業後の挨拶をして帰宅した。

 ドブレは明日お休みだ。

 が、しかし、ポンフィは夜中の9時頃、もう一度戻って来た。

 警備兵と頷き合って、敷地内に入って行った様で、どうも伯爵の水車を動かしている様だ。

 カンテラに火を点けて作業しているらしく、しばらく待ってもごんさんたちの2つの水車小屋にはカンテラが灯されなかった。


 これで可能性はいくつかに絞られる。

 ポンフィと警備兵とで小遣い稼ぎのために、夜中に水車を回している可能性。

 この場合、いつも伯爵の水車を使っていると仮定もできるが、ランダムに水車を使っていて、今夜はたまたま伯爵の水車を使っただけとも考えられる。

 最後の可能性として、伯爵から夜間水車を動かしてでも生産を上げる様に指示を受けている可能性。

 ただ、そうだとすると、どうして一度定時に家に帰ったフリをしたのか、そこが矛盾する。

 十中八九、小遣い稼ぎで勝手に水車を動かしているのだとは思うが、一度ちゃんと伯爵に確認しなければならない。


 貴族とのやり取りが苦手なごんさんは、明日、伯爵に面会を求めなければならなくって、とても憂鬱になった。

 とりあえず今晩は、ポンフィがどれくらいの間水車を動かすのか、その確認をすることにした。

 結局、3時間の長きにわたって動かしていた。

 これで自分用の少量の小麦を粉にするためという苦しい言い訳も使えない状態だ。



 翌朝一番に伯爵の館まで行った。

 事前の約束がなかったので、門番にけんもほろろな扱いを受けたが、「小麦のからくりの件で至急に確認して欲しい事がある。」と何度も言い張り、「もし、これを伯爵に伝える事ができずに、事が大事になったらあんたが責任を負ってくれるのかっ!」と門番に詰め寄って初めて執事に問い合わせを送ってもらえた。


 アルフォン・フォン・グリュッガー伯爵は執務室にいるらしく、執事が案内をしてくれた。

 「それで?」とこちらが椅子に座った途端に伯爵が用件を聞いてきた。

 「伯爵のからくりですが、夜中も回されています。知っていましたか?」

 「夜とは何時くらいまでの事を言ってるんだ?」

 「日が暮れてから4時間くらい回っていたので、かなり遅い時間までです。」

 伯爵は眉間に皺をよせ、「う~~~ん。」と唸った後で、「それは毎晩か?」と聞いて来た。

 「私が知る限り、時々だそうですが、今回が初めてでない事だけは確かです。」

 「家のからくりだけが使われているのか?」

 「昨夜はそうでしたが、今まではどうか分かりません。」

 「どうして気づいた?」

 「からくりの近くの店から騒音が五月蠅いと話があったので・・・。」

 「そうか。」と言ったのち、伯爵はごんさんの目をハタと見つめ、「通常の時間以外に4時間もからくりを使う様な量を処理する様には指示していないと思うがな。」と、今度は執事の方を見た。

 

 執事は頷いて肯定の意を示した。

 「それで、どっちの従業員がそんな事をしているのかな?二人ともか?」

 「いえ、後から雇ったポンフィという者だけです。」

 「それは確かか?」

 「はい。」

 

 執事が一歩前に出て、伯爵の視線を奪う。

 「ご主人様、一つ気になりますのが、からくりの小屋には見張りの兵士を常に一人は立たせておりますが、その様な報告は今まで一度も上がって来ておりません。」

 「昨夜も兵士は一人おりましたが、からくりの職員ポンフィは見張りの兵士と親戚です。」と今度はごんさんが横から口を挟む形で補足をした。

 「なんと!」と執事がびっくりした顔を隠せないでいるところへ、「そうか。」と伯爵は眉を顰めるだけだった。


 「昨夜の兵は誰か?」と執事に確認する伯爵。

 「平民出身で勤続5年になるドルバでございます。」打てば響く様に答える執事。

 兵士の事など普通は執事の仕事ではないので知りそうもない様に思うのだが、この執事は一瞬の躊躇もなく答えた。


 「人を雇うのはお前たちの仕事で、わしは給与を支払うだけだと思うが?」と伯爵が挑戦的な言い方をした。

 「もちろんです。今日ここへ来たのは、夜にからくりを使う事を、伯爵様の方から指示を出したのかどうか確認したかっただけです。」

 「そうか・・・。で、どうするのか?」とあくまでポンフィについてはこちらに任せるという意思表示を崩さない。


 「監視の兵士は、私たちの責任ではないので何もしません。ポンフィについてはこちらで教育を行います。もし、教育をした上で、変わらず勝手にからくりを動かし続ける様なら辞めさせて、新しい者を雇います。」

 「うむ。」と、一旦返事をしたものの、まだ何か考えている様子の伯爵。しばらくして「で、家のからくりを勝手に使った事に対しての詫びはどうするのか?」と聞いて来た。

 つまり勝手に水車を使った事に対して何等かの賠償をしろと言いたいのだろう。


 言葉の問題で、上手に対応できるかどうかは分からないが、今回の事はごんさん達4人だけの落ち度ではない事を伯爵に伝えなければならない。

 従業員の雇用・解雇や、教育はごんさんたち4人の仕事である。

 今回の事は、この観点からはこちらの手落ちだ。

 だが、監視員がいるのに、その監視員が機能していなかったことも大きな要因である。

 もちろん、監視員は伯爵の管轄なので、ごんさんたちと同じくらいの落ち度があると言える。

 どうやってこちらの言い分を通そうかと、ごんさんの両手にぐっと力が入る。


 「ポンフィの教育が十分でなかったのは、私たちの責任です。すみません。でも、監視をする兵士も教育が十分でなかったと思います。兵士は私たちの責任ではありません。」

 ごんさんとしては、もう少し言葉を飾って言いたかったのだが、まだ語学力的に無理だった。

 実はこの直截的な言い方のお陰で伯爵側もこれ以上責任追及する気が失せたのは怪我の功名なのだが、ごんさんにはそれは伺い知る事ができなかった。

 結局、ごんさんたちは賠償等を払わなくて済む事になった。

 まぁ、結果良ければ全て良し!だ。4人が賠償しなければならない状況になるのを防ぐ事ができた。

 ごんさんは伯爵に、近所迷惑になるために今後も夜間の水車の使用は禁止とすることに同意してもらい、ポンフィの再教育を約束し、館を辞した。


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