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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
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兆し

 今回も、グリュッグへはごんさんが行く事になった。

 水車小屋に関してはドブレがいてくれるので、メンテに関しては彼一人がいてくれれば事業は回る。

 なので、新しく雇ったポンフィにはメンテ関係の事は教えず、単なる作業員として雇っているので、ドブレに比べると給料は低めに設定されている。

 ただし、その給料を支払うのはグリュッガー伯爵なのだが・・・。


 ドブレと給与に差をつけたのは、ポンフィがザンダル村の縁故ではなく、グリュッガー伯爵の縁故、正確に言えば伯爵の雇っている監視員の血縁者ということで、どこまで技術に関わる事を教えていいのか判断がつかなかったことと、ポンフィ自身が既に中年に差し掛かっていたので、新しい技術を覚えるほど頭が柔軟かどうか分からなかったからだ。

 また、下手にポンフィに技術的な事を教えて、ポンフィだけで水車小屋を回せるとなると、もしかしたら伯爵が4人の経営する水車小屋は切り捨てて、ドブレの給料までは賄えないと言われる可能性だってあるからだ。


 だた、従業員が2名になったので良い事もあった。

 定休日を設ける事はやめ、2人の休みを別々の日にすることで、水車小屋自体は休みなく操業できる様になったので、純粋に収入が増えたのだ。

 月1回の水車小屋のチェックは、ドブレもポンフィもいる曜日に行く様にしている。


 ももちゃんが作る猿酒を卸すため、グリュッグへは以前は月1回の移動だったが、最近は3週間に1度の移動になっている。なので月によっては2回グリュッグへ行く事になる。

 ただ、水車小屋の方は、そこまで頻繁に顔を出さなくても良いので、月に1度顔を出すだけになっている。

 もし、水車小屋に何かあって、グリュッグに4人の誰かが来ても水車小屋に来ない回は、前もってアンジャの店に伝言を頼めば対応してもらえるので、メンテを担当するドブレにとっても楽になった。


 4人にしてみれば、グリュッグへの移動回数が増えたので、無理に顧客回りと水車小屋のメンテを同じ日に行わなくても良いのがありがたい。まぁ、同じ日にできれば、それだけ4人にも余裕が出てくるので、同じ日に対応できるなら、その様にしている。


 今回、ごんさんが水車小屋に顔を出した時、たまたま2軒以上の水車小屋で同時に材料切り替えのタイミングであったため、ポンフィは伯爵所有の水車小屋でドブレはゴンさん達側の水車小屋へと別れて作業していたため、ゴンさんはドブレと二人だけで話す機会が出来た。


 「からくりの調子はどうか?」

 「順調です。故障もないです。潤滑油も決められた頻度で差していますし、特に問題はない様です。」

 「ところで、ポンフィはどんな感じだ?」と先輩従業員としての目線での評価を聞きたかったごんさんは、今がチャンスとばかりにドブレに聞いてみた。


 ドブレは途端に目を伏せ、どう言おうかといった様に、口ごもった。

 「真面目に働かないとか?」

 「いえ、言われた事や、やらなければいけない事はちゃんとやってくれます。ただ・・・。」

またもやドブレが言いにくそうに言葉を濁したので、「ちょっとこっちへ来い。」と、小屋の裏側、水車が塀で囲ってある方へドブレを連れて行った。


 ごんさんは姿勢を地面に横になるぐらい低くして、塀の下から外を窺い、周りに人がいないことを確認した。

 「ここなら余程大きな声で話さない限り、外には伝わらないから、言いたい事があるなら、ここで言え。」

 臼がある方は騒音が大きく、会話は大声になるので必然的に内緒話にはならない。

 そこへいくと、小屋の外で、且つ水車が回っている状態で、塀に囲まれているここならば、そこそこの小声で会話が出来る。

 まぁ、水車小屋の敷地から出て話せば楽なのだが、見張りの兵士がいる横を通って敷地から出ることになるので、敷地から出ることなく小声で話すとなればここが一番適しているだろう。


 「旦那様。これはまだ確かめていないのですが、夜中にからくりを使っている可能性があります。」

 「夜中に?」

 「はい、そうです。」とドブレは深刻そうな表情を浮かべ、それから先を言っても良いかどうか、まだ迷っているのがその表情に出ていた。


 「私が、いつもトイレを借りたり、昼食を食べたりする食堂が4軒先にあるのですが、何度か夜中にからくりの音がして煩いので、夜中は回さないで欲しいって言われたんです。」

 「お前が夜中にからくりを回した事はないのか?」

 「ございません。以前、旦那様に近所迷惑になるから、夜は動かさない様にと伺っておりましたので・・・。」

 「うん。その判断は正しい。」


 「ただ、ポンフィが夜中に回しているのか、それとも別の人間が回しているのかを、私はまだ確認することが出来ていません。」

 ごんさんが頷頭した。

 「しかし、このからくりを操作できるのは、私とポンフィしかおりません。なので、恐らくですが、十中八九ポンフィが夜中にからくりを動かしている可能性があるのではないかと・・・。」

 「決まった曜日などに使っている様子なのか?それともランダムなのか?」

 「食堂の主人から苦情が入るのが、毎週ではないのですが、決まって私の休み明けなんです。恐らくは、私が休みの日の夜か、休みの前の夜に動かしているのではないかと思います。」

 「ふむ・・・。」


 「後、一つ気になるのが、どのからくりを使って動かしているのかが分かりません。もしかすると伯爵様のからくりだけを動かしている可能性もございます。」

 ごんさんは自分の顎に手をやり、髭をしごきながら考えた。

 「俺たちのからくりを動かしているなら、自分の臨時収入にするためだと考えられるが、伯爵のからくりだけを動かしているのなら、伯爵からの要望である可能性もあるということだな。」

 「そうなんです。どっちにしても常に伯爵の警備兵が一人は小屋の前におりますので、警備兵に気づかれずにからくりを動かす事はできません。」


 「ポンフィは元々、その警備兵の内の一人と親戚だったな。」

 「はい。」

 「ふ~む、お前の次の休みは明後日で間違いないか?」

 「はい。間違いありません。」

 「そうか、なら、その件はこっちで調べてみるよ。」

 「旦那様、もし、私が必要なら声を掛けて下さい。」

 「ありがとう。でも、まずは一人で調べてみる。それで行き詰ったりしたらお前にも頼むかもしれない。その時はよろしくな。」

 「はい。」

 ドブレは軽く頭を下げて、小麦の切り替え作業に戻って行った。


 ごんさんは水車小屋を出ると、直ぐその足でジャイブがいる港まで行き、5日くらいグリュッグに留まるので、ごんさんを置いて先にザンダル村まで帰る様に伝えた。そして6日目の朝に迎えに来るように伝えるのも忘れなかった。

 まぁ、6日目の朝ということは、夜舟を動かすわけではないので、実質5日目の夕方にはグリュッグへ来いと言っている様なものだ。


 グリュッグまでの移動は必ず1泊が必要となるので、単純な移動だけでもザンダル村では2日間は舟がない状態になる。実際には4人の内の誰が、グリュッグで用事を済ます1日も加わるので、舟は3日間ザンダル村から離れることになる。

 そういう時は、ジャイブの甥っ子に元々ジャイブが所有していた舟を使って代行してもらったり、従業員には村から歩いて移動してもらったりしている。


 4人がちょこちょこ舟で半日以上かかる所へ移動すると、従業員やジャイブの甥っ子が割を食うので、舟を所有していてもそこまで自由に使っているわけではないが、やはり自分の舟があるというのは便利である。


 仕事場への往復を舟でというのは、従業員へのサービスであり、移動時間を短縮し、その分作業時間へ割り当ててもらうという経営者側の都合でもある。

 確かに6日分も従業員の移動を徒歩で行うと、作業時間はかなり減るが、そこまでの損失とは言えない。


 村から河口付近まで大人の足で30分、河口からジャングルの中を移動しても更に30分。こちらの30分に関しては、ジャイブの舟でも河口までしか移動しないので、いつもと変わらないのだ。

 だから、ジャイブがいないと従業員一人当たりの1日の作業時間が1時間くらい減るだけなのだ。

 まぁ、人数が多いので全体で見たらかなりの時間になってしまうが、納品が滞る程の影響は出ない。


 ジャイブの甥っ子に手伝ってもらう時は、朝ルンバたちと漁に出てもらい、漁が終わってから製品の搬送に舟を出してもらう事が多い。で、余裕があれば従業員の帰宅時にも舟を出してもらうが、基本は製品や原料の輸送が主だ。

 特に酒樽の移動をお願いすることが多い。それもジャイブの不在中毎日ではなく1日置きくらいに頼むことになる。そうしなければジャイブの甥は漁のやり方を覚えている最中なので、彼の本来の仕事を大きく犠牲にすることになるからだ。


 ジャイブからもらい受けた舟は、4人が購入した舟よりかなり小さいので、樽を運ぶにしても作業小屋と酒の倉庫までの往復回数が増えることになるから、それなりに大変だ。


 流石に朝早く起きて漁をして、夕方まで舟を動かすとなると、ジャイブの甥っ子が如何に若くても体力的に無理が出るので、朝夕の従業員の移動は徒歩になる確率が高い。

 ただ、ジャイブの甥が漁をお休みで余裕のある時は、比較的体力のないラインズやアルボンの子供組や、カリンカやダンガたち女性組を朝から舟に乗せて移動させてもらう事もある。


 そんなこんなでジャイブの不在が長くなると、輸送部門に支障が出るので5日もグリュッグに縛り付けていられないのだ。


 明日の移動時間を短縮するためにジャイブは翌朝を待たず行けるところまで移動し、道中のどこかの村で夜を明かす為、グリュッグの港を離れ移動を始めた。


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