船上での話し合い
結局、舟はガクジンリンの町で手に入った。中古の舟だが、まだまだ使えるというルンバの見立てに従い、船員一人で動かせるギリギリの大きさの舟を購入した。
最初に考えていた舟よりも少し小さ目になったが、船員を2人以上雇う事を考えたら、1人で扱える舟の方が現実的だ。
もちろん、舟の所有も登録してきた。
ガクゼン子爵が言った通り、4人で所有することから、4倍の登録料を支払う事になったが、元々動産、不動産の登録料は低いので、あまり懐が痛まなかった。
もちろん、舟そのものの代金はかなりのお値段だったので4人の懐にかなりの打撃を与えたのだが、まぁ、必要経費なので致し方ない。
村への帰路は、チャチャが一人で購入した舟を操作し、モリンタも含め、残りは全員ルンバの舟に乗った。
「えええ?俺の舟には誰も乗らないのかよ~。」とチャチャは話し相手がいないじゃないかと文句を言ったが、ごんさんの「帰りもこれから雇う従業員について村長と話し合わないといけないから、すまんな。」の一言で、しぶしぶ一人で舟に乗った。
舟が動きだすと早々に、「今回は、村の外まで一緒に来てもらって、ありがとうございました。」とももちゃんがモリンタに向かって言うと、ごんさんもそれに合わせて軽く頭を下げた。
「もちろん、ルンバやチャチャにも毎回舟を出してもらって、とっても助かってる。ありがとう。」と、ごんさんはルンバにも謝意を示した。ついでにここにはいないチャチャについてもしっかり言及する。
「それはそうと、お前たちはどれくらいの人を雇うつもりなんだい。」とモリンタは村人の収入の方が気になる様だ。
「舟を操作する人も含め、12人を考えています。」
別にももちゃんがモリンタ担当というわけではないが、モリンタが質問するとももちゃんが答える図式の様な物が成り立っているので、反射的にももちゃんが答えた。
「12人もか。」
「はい。出汁の粉では、既にルンバの奥さんたち3人を雇っているので、残り9人ですかね。内、1人は舟の船頭になるし、もう1人は作業場でお昼ご飯を作る人ですね。残りは、火を使う仕事や、農地の開拓、森での採集なんかもしてもらいます。」
「ほほう。多岐に渡る作業をする様になるんじゃな。」
「はい。ただ、それぞれ何の仕事をしてもらうかは、最初に決めるので、火の係の人が畑を耕すことはほぼないです。」
「一部は、ベッグ村の人も雇う予定だ。」
ごんさんの落とした爆弾に、いつもおっとりした雰囲気のモリンタが少しの怒気を含めて「なしてベッグ村から?」と詰め寄った。
「ベッグ村で牛乳などを仕入れないといけないので、ベッグ村の人を雇うのも一つの手かなって思ってます。」とももちゃんが説明したが、それなら牛乳だけを買いに行けば良いのであって、ザンダル村以外の村人を雇う理由にはならんだろうと納得がいかない様だった。
どっちにしても乳製品そのものは、商品製造には全く関係ないのだが、自分たちの舟が手に入ったので、4人の食卓を豊かにするために、隣村くらいまでは買い出しに使いたいというのが4人の共通した意見なので、ベッグ村への定期的な買い出しは4人にとっては決定事項であった。
ごんさんたち4人にしてみれば、ちゃんと働いてくれる人でないと雇う意味がないので、ザンダル村の村民というこだわりを設け、村人であるが故に多少働きが水準に達してなくても無理して雇うという事態を避けたいのだ。
「もちろん、ザンダル村の人でできる仕事なら、ザンダル村の人を優先しますよ。でも、その仕事が出来る人がいなければ、隣の村の人でも雇うつもりです。」とももちゃんが説明すると、「ザンダル村の者を優先するんじゃな。」と念を押して来た。
「もちろんです。」とももちゃんがにっこり笑って答えた。
モリンタは納得がいかない様だったが、それでも可成りの人数をザンダル村で雇ってもらえる様なので、今はそれで良しとしないと、もともとごんさんたち4人はザンダル村でなくても、ベッグ村に住んでも問題はないはずなので、4人が村にお金を落としてくれるのなら他の土地に行かれるより、マシというものだと自分を宥めた。
「あとは、舟を運転する者が必要なんだが、ジャイブが希望してくれてるんだ。ジャイブはルンバたちのチームだけど、家に来てもらって問題はないか?」とごんさんが舟を操作中のルンバに聞いた。
ルンバは、鼻の頭を指でかきながら、「まぁ、チームって言っても必ず一緒に漁をしなければならないわけじゃないからなぁ。別のチームに入るってわけでもないしなぁ。ジャイブ本人から給料がもらえる生活がしたいってこの前相談を受けてたしなぁ・・・。まぁ、俺たちのチームはジャイブの意思を尊重するよ。」とポツリポツリと答えた。
ジャイブが事前にルンバに根回ししている事を今知ったごんさんだったが、それなら遠慮はいらないなと彼の頭の中では、既にジャイブが船頭に就職した事になった。ジャイブを引き抜く代わりに、今まで通りに雑魚等はまずルンバのチームの物を購入し、足りない場合のみ、他のチームから購入することをルンバに約束した。
「ところでジャイブがいつも使っている舟は、ルンバたちのグループのものかい?」
「んにゃ、舟は各自の所有だ。」
「ということは、舟が1艘余るってことか?」
「いや、ジャイブんところの甥が漁師になりたいって言ってたから、舟はそいつに譲るんじゃないかな。まぁ、もし本当に余るのなら、家のチームで買い取る事もできるがな。」
誰をどのポストに雇うか、どうやって募集をするかなど、同席しているモリンタやルンバの意見を聞きながら煮詰めていったごんさんとももちゃんであった。
村での雇用は、一旦はモリンタに口利きをしてもらう事に決め、どうしても足りない、或いはザンダル村の人材では心もとない場合は、自分たちでベッグ村へ話を持って行くことになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
村に戻るとすぐに、モリンタはギルの家に定期航路についての報告へ行く様で、みんなと別れて舟を後にした。
定期航路に関する手数料を誰がどれだけ払うかをこれから話し合わなくてはならず、モリンタの顔は少し固まっていた。
まぁ、定期便が来るとなれば、万屋でもある酒場や鍛冶屋も関係してくるだろうから、一度全員で集まって話し合う必要があるなぁ等と考えながらセカセカとギルの家への角を曲がった。
「チャチャ!舟の操作はどうだった?一人だとキツイか?」とごんさんは本当に舟の操作は1人だけ雇えばいいのか確認に行った。
ももちゃんは、ルンバに舟を出してもらったお礼を言い、約束の日当とお酒を渡して、また何かあったらよろしくとお願いして、自分たちの家に向かった。
みぃ君は海岸にいなかったので、めりるどんと一緒に作業小屋の方へ行ったのだろう。
ももちゃんは、帰宅してすぐに酒の仕込みを始めた。
ごんさんはチャチャに一人でも操作可能だという回答を貰い、チャチャとルンバに移動を手伝ってもらったことにお礼を言った後、チャチャに報酬を払い、そのままの足でジャングルの罠の確認の為、作業小屋へ向かって移動した。
夕食の時間になって4人がテーブルにつくと、ガクゼン領の領都についてや、購入した舟、手持ちの残金、モリンタが雇用の口利きをしてくれる事などについて長々と話し合った。




