表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
72/143

領都 その2

 「それでは私から説明させてもらいます。」とももちゃんが話始める。

 領主が頷頭したのを確認し、続ける。

 「今はザンダル村とグリュッグの町で商売をしています。ザンダル村では、お酒、魚の加工品、石鹸を作っています。お店は持たず、村の酒場へ卸しています。グリュッグの町では小麦を挽いて小麦粉にするからくりを作りました。決まった時間分だけお客様から小麦などを受け取り、それを粉にしてお金を貰っています。」

 「うむ。石鹸?からくりとな?」

 ガクゼン子爵は聞いた事のない名称がいくつも出て来たので、それについて知りたい様だ。


 ももちゃんは、ごんさんが持っていた装飾を施された木の箱を受け取り、領主の目の前のテーブルに置いた。

 蓋を開け、中身を見せながら、「これは私たちが作った石鹸です。」とソープバスケットを手に乗せ説明する。

 「部屋に置いておくと臭いを吸収してくれます。こちらも石鹸ですが、こちらは体や服を洗えます。」と言いつつ、木箱から普通の石鹸も取り出し、両方の石鹸をガクゼン子爵へ手渡した。


 「ほほう。良い匂いがするな。」と手の平に乗せたソープバスケットを矯めつ眇めつ眺める。

 「こちらは何を作っているのか分かるために、持ってきました。差し上げます。」

 「うむ。そうか。」


 「魚の加工品の半分以上と、石鹸はグリュッグの大きな商店に卸しています。私たちは、お店は持っていません。」

 「工房の様な物か?」

 「はい。ただ、グリュッグの小麦粉を作るからくりは土地や建物は私たちのものです。そして、このからくりですが、全部で3つある内の1つはグリュッガー伯爵に差し上げました。代わりに伯爵からは、残り2つのからくりを動かすための従業員の給与等を支払ってもらっています。」


 「なぜグリュッガー伯爵に献上したのだ。」

 「いきさつがありましたので。」

 「どの様ないきさつか?」

 1年以上勉強してかなり流暢に現地語を話せる様になったももちゃんではあるが、グリュッガー伯爵の不興を買わずに説明できるだけの語彙をまだ持っていなかった。

 ももちゃんは黙り込んで目の前のコーヒーテーブルを睨みながら、どうやって説明すればよいか悩み始めた。


 「横から口を挟むのをお許し下さい。」

 困った様に押し黙ったももちゃんを見て、当時、夜にももちゃんたちの家に呼ばれ、パソから説明を受けたモリンタが助け舟を出した。

 「この者らは、まだ言葉が十分には話せませんので、複雑な事を分かりやすく伝える術がございません。この者らがからくりを作ってすぐ、伯爵の不在中にご子息がご興味を持たれたので、最終的に献上した様でございます。」

 

 領主は『おや?』という様な表情を浮かべたが、モリンタがまだ説明を続けそうだったので先を促した。

 「伯爵様はこれを知り、新たに土地と建物をこの者らに与え、自分たちでからくりを組み立てる様に指示なさいました。と、同時にご自分のからくりを動かすために、この者たちが雇っていた者をご自分のからくりでも雇いたいとおっしゃって、3つのからくり全てを同じ従業員が操作することになりました。そこで、伯爵様より従業員の給与は伯爵様の方で面倒をみるということになった次第でございます。」


 「ふむ。なるほど。要はあそこの息子が権力を振りかざして接収したのを、道理が分かる伯爵が丸く収めたということだな。」

 「子爵様、そこまではっきりおっしゃると身も蓋もございませんが・・・・。まぁ、その様なものです。」

 「そうか。で、新しい事業とはどんなものだ?」

 そこでもう一度ももちゃんが領主の顔を見て話し出した。

 「作る物は今までとはあまり変わりません。作る量を多くしたいので、人を雇いたいのです。で、作るものも種類が多いので、複数の工房でいろんな商品を作る形にしたいのです。」


 「今までより大規模な事業にしたいということだな。」

 「はい。そして、グリュッグに商品を運んだり、従業員を村から作業場へ運ぶのに舟を使おうと思ってます。」

 「ほほう。舟か。」

 「はい。」

 「作業場は村から少し離れています。舟で移動しないと時間が掛かります。」

 「さっき、村長が言っていた定期航路うんぬんという話は、お前たちが買う舟では実現できないのか?」


 「毎朝、従業員を村から作業場へ、夕方、作業場から村へ運ぶのと、月に1~2度グリュッグへ行くのに使います。材料の収集の時も、運ぶために舟がいります。もしかしたら隣村のベッグ村の人たちを雇うかもしれません。そうしたら毎日ベッグ村との行き来も必要になります。舟を休める時がありません。」

 「領主様、ギルという皮鞣しをしている者は、そんなに頻繁に船便が必要な訳ではありませんが、どちらにしても村に物資が入ってくる様、月に1度、いや2~3か月に一度、今ある定期航路のいずれかが、我が村にも寄って頂ける様に口利きをお願いしたいのです。」


 ガクゼン子爵はしばらく考え込んでいたが、「その話は、この者らの話が終わってからするとしよう。」とモリンタに言った。

 「かしこまりました。」


 「話を戻しますね。」と今度はももちゃんが領主の目を見て言った。

 「うむ。」

 「私たち4人は、全ての土地、からくり、舟、従業員を平等に所有し、商売の儲けも等分します。もちろん経費も等分します。」

 ガクゼン子爵は未だクルミをカチカチと右手の中で動かしながら聞いている。


 「例えば、石鹸で利益が出ても、魚介類の加工品で損が出た時は、魚介類の損を石鹸の利益で補います。全ての商売を一つとして考えます。」

 ガクゼン子爵はクルミを持っていない方の手を顎にあてて、視線でももちゃんに先を促した。


 「私たちの払うべき税は職人の税金なのか。それとも商人の税金なのか。舟や土地は4人で平等に所有できるのか。従業員の税金はどうなるのか。その様な事を聞きたいのです。」

 「うむ。こういうのは本来、私ではなく、役場の方で話を詰めるべきものだが、お前たちの事業は、我が領地と隣のグリュッガーの領地に跨っているので、ちょっと特殊だな。うむ。それで役場の者がお前たちを私の所へ寄越したのだな。」

 「左様でございます。」今回は、モリンタが答えた。

 ソンリンは両腕を組んで考え始めた様だ。

 

 「この国の税制は、人頭税だ。私の領地内も同じ様に人頭税となる。なので、お前たちがいろいろと作っているのなら、4人だったか?」とももちゃんが頷くのを確かめて、「お前たち4人は職人としての税を支払えば良い。従業員の税金は雇い主が払うものだから、農民と同じ額を一人当たりにつき払う様になる。小麦のからくりについては良くわからないが、小麦粉を売るのではなく、小麦を粉にするからくりを使う使用料だけなら、やはり商店とは言えないので、お前たち4人は職人として考えられるだろうなぁ。」と続けた。


 「わかりました。ありがとうございます。」こちらでは頭を下げるという習慣がないので、ももちゃんは軽く頷く様な仕草をした。

 「ただし、舟を購入するとのことだったな。その舟で、自分たちの商売以外の商品や、旅客を乗せて運賃を取るならば、舟の営業権を毎年支払わなくてはならんな。もし、その舟で魚なんかを捕ってそのまま売るなら材料の収集とは認められんから漁業権も支払う必要性が出てくる。ただ、魚介類の加工品を作っていると言ってたか?」再びももちゃんが頷くのを確認して、「その場合は魚介類をその舟で採っても、漁業権は必要ないな。」と続けた。


 「分かりました。領主様、それではもう一つ聞きたいです。ジャングルにある作業場を開拓して広げた場合、その土地は所有しても良いのでしょうか?」

 「開拓した土地は開拓した者の所有になり、農作物を育てても3年間は税金が係らない。ただし、登録料は必要になる。実際に開拓作業をするのが雇われた者であっても、その作業に金を払っているのなら、お前たちの土地となる。ああ、農作物が何かの材料ということなら、3年経っても税金は係らん。」

 「私たちの場合、舟の土地も4人で平等に所有することになりますが、登録する場合、4人全員の名前で出来ますか。」


 ガクゼン子爵はしばらく無言で考え、「そうじゃの。4人で登録することはできる。ただし、その場合登録料が同じ土地で4つ発生すると考えるか、土地は1つなので登録料も1つとするかは、どうしたもんかの~。親が所有していた土地を、親が亡くなって、子供が引き継ぐ場合は、都度、登録料は支払わなければならんからのう。所有者1人に対し、1つの登録料が発生することにしよう。」


 「あ、領主様、もし、私たち4人が工房の名前を決めたら、工房の名前で登録する事はできますか。」

 「工房の名前か・・・。工房は持ち主が変わる可能性があるな。やはり、共同所有者が一人増える度に登録料が必要な制度とするので、工房の名前では無理だな。」

 会社という概念がないので、あくまで税は人頭税が適用されることになった。所有物に関しては登録料が低いので、4人分係ってもそこまで痛くはない。それどころか、収入がどれだけ高くても、決まった金額だけ人数分払えば良い人頭税の方が、ごんさんたちにとっては安上がりなのだ。今回は、共同所有という考え方は理解してもらえたので良しとしようとももちゃんとごんさんは思った。


 ギルの要望である定期の船便だが、人や物を乗せて運航すると、運営権の支払いまでごんさんたちに係ってくるので、ごんさんたち4人にはメリットがないという話しになり、モリンタが直にガクゼン子爵と話しを進めた。


 結局今あるガクジンリン-グリュッグ間の定期便、とは言っても片道月2便くらいしかないのだが、その定期便を2か月に1回、ザンダル村へも寄る様にしてもらう代わりに、年に銀貨5枚、ごんさんたちの感覚で25,000円くらいを自分と、同額を運航業者にそれぞれ手数料として支払うなら子爵から運航業者へ口利きをしても良いという返事を貰っていた。

 これは現金収入の少ない村が相手ということと、今まで領内の流通に力を入れてこなかった詫びも込めてこの金額にしてくれた様だ。


 一通り話しも済み、手土産である石鹸類も渡したので、モリンタ達はお暇を告げようとしたが、ソンリンはごんさんたちに爆弾を落として来た。

 「お前たちは、からくりでグリュッガー伯爵に便宜を図った様だが、住んでいるのはガクゼン領だな。それで、ガクゼン領には何を融通してくれるのか。」と悪い笑みを浮かべももちゃんをハタと見つめた。


 ごんさんとももちゃんは慌てて顔を見合わせ、どうするか日本語で話し始めた。

 「ごんさん、どうする?」

「こっちに水車小屋を作っても、管理が難しいな。もっと簡単な方法があればいいんだが。」

 「石鹸や出汁の粉なんかは、アンジャの店と専売契約してるからダメだから・・・・今、自由に出来る物は、お酒くらい?でも、まだ増量してないから卸せるだけの量が確保できないと思うの。」

 「う~~~ん。それじゃあ、酒の増産が実現した暁には、こちらにも数樽販売することはできるというのはどうかな。」

 「買ってもらうって事?」

 「そうか。あっちは無料で差し出してるので、こっちも無料にしないといけないな。でも、毎回無料で差し出すとか、現実的じゃないな。」

 「うん、そうだね。なら、最初に数樽献上するっていうのはどう?」

 「それしかないかぁ。」

 「うん。」と頷いたももちゃんが、今すぐは難しいが、5樽分献上できる様になったら、こちらへ献上する旨を伝えたところ、横からモリンタが、「この者たちが作る酒は大変美味しく、うちの村へ近隣の村からその酒を飲むためだけに人が来ております。」と宣伝をしてくれたからなのか、それで満足してもらえた様だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ