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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
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手芸って楽しいよね

 めりるどんとももちゃんが居間のテーブルで何かゴソゴソしている横で、みぃ君が夕食を作っていた。

 めりるどんは今日の作業小屋での作業を早めに切り上げて、ももちゃんと待ち合わせていた。


 「そろそろ出来てると思うんだよね~。」とももちゃんが棚から紙の束を持ってきた。

 グリュッグの町で買って来て、既に書くところが残っていない様な使用済の紙ばかりを束ねて、上に比較的大きな石を乗せている。


 ももちゃんが石を除け、そっと数枚の紙をめくった。

 めりるどんもももちゃんも息を詰めて覗き込んで切る。

 「「おおおーーー!」」

 その声に驚いてみぃ君が居間まで来ると、二人は紙の上でぺっちゃんこになっている小さな花を覗き込んできた。いわゆる押し花だ。

 大きな花はなく比較的小さな花ばかりだが、色が比較的多く、とてもカラフルだ。


 「それ、どないしたん。」

 「うんとね、この前買って来てもらったリボンと一緒にソープバスケット作るために用意したのよ。」とめりるどんが嬉しそうな顔をみぃ君に向けた。


 「ソープバスケット?」

 「うん。覚えてない?一時ブームだったじゃん。」

 「ほら、石鹸にリボンを巻き付けて造花とか羽で飾り付けてあるやつよ~。」とももちゃんがめりるどんの説明を補足してくれた。

 「ああ、なんかそんなんあったなぁ~。」


 二人は慎重に紙から花を剝がしている。

 「ほんでソープバスケットをどないするん?」

 「売ろうかと思って。」と作業を続けながらももちゃんが言う。

 「ほほう、おもろい事考えたなぁ~。」

 「うん、だってね。石鹸って消臭剤にもなると思うんだよね。それを貴族好みの装飾を施して売ったら、結構売れると思うのよ。」

 「ももちゃんがね、押しピンの代わりになりそうな木の実っぽいものを見つけて来たんだよね~。だからそれを使ってソープバスケットはどうかなって。」

 「さよかぁ。」女って面白い事思いつくなぁって思いながら、夕食の準備のために台所に戻っていくみぃ君。


 「本当は大きな花があったらいいんだけど、流石にそれだと押し花にしたら興ざめだしね。」

 「そうだね、めりるどん。立体的な花ならいいけど、大きいのにぺったんこだとダメだねぇ。」

 「うんうん。せめてカスミソウくらいの大きさの花くらいまでだね。でないとペッタンコになっちゃってるから押し花って分かっちゃうしね。ドライフラワーだとイリコもちゃんと乾燥できない気候だしねぇ。多分だめだよねぇ・・・。」


 二人は木の実の押しピンをたくさん石鹸に躊躇なくぶっ刺し、リボンを起用に巻き付けたりしている。

 すぐに石鹸の地肌は見えなくなったが、カーブのところのリボンに少し皺が寄った。


 いつもの石鹸は四角い枠で作って、それを数センチ毎に切った四角い石鹸なのだが、ソープバスケット用の石鹸は丸みのある日本の石鹸と同じ形に切り出してあるため、カーブが多く、角も丸めてある。

 ただ、フリーハンドでの切り出しなので、多少形が歪なところもあり、特にカーブの所でのリボンの巻き付けが綺麗にできていないところがあった。


 めりるどんとももちゃんが何度かやり直しをして、そこそこ綺麗に見える様にできると、今度は石鹸のてっぺん辺りにどうやって押し花と拾って来た鳥の羽を配置するかで、ああでもない、こうでもないと楽しそうに手を動かしている。

 「ねぇ、そこは赤い羽根の方が良くない?」とももちゃんがカスミソウもどきの横を指さすと、「いや、水色と赤では色が喧嘩するよ。ほら、こっちの黄色の方が収まりがいいよ。」と黄色い羽根を差し込む。

 「おお!そうだね。こっちがいいね~。」

 めりるどんは目の覚める様な青や、深い紫が好きで、ももちゃんはピンクとか淡い黄色など暖色系が好きなので、装飾の時、しばしば意見が衝突するのだが、手芸歴が長いめりるどんの方が若干センスがいい。

 結局話し合いながらも、3つのソープバスケットを作り終えて、ももちゃんが「できたね!」と嬉しそうに声を上げた。


 「う~~ん。これでも十分綺麗だけど・・・・やっぱり、レースは欲しいよね。」というめりるどんにももちゃんが恨めしそうな視線を向ける。

 「はぁ~。ドイリー編み程大物でなければかぎ針で作るのもそこまで大変ではないかもしれないけど・・・・・」とももちゃんは気が進まない様子。

 それもそのはず、レースを編むとするとレース糸などないので、村で売っている普通の生成り色の糸を3本まとめてかぎ針を作って編む様になるのだ。

 実は前に一度、その方法で買い物籠の飾りにと作ったことがあったのだ。

 撚ってない糸をまとめて編むのは、糸がバラバラになりやすく、うっかりすると1本くらいかぎ針に引っ掛け忘れて、数目編んだ後に気づいて解いてを繰り返さなくてはいけなかったのだ。

 しかもかぎ針は二人が作った木製で、日本で使っていた様な金属製やプラスチック製に比べれば、表面が滑らかでないのか、糸がうまく滑ってくれないのだ。


 編み物はめいるどんでもももちゃんでも出来る。

めりるどんは縫物だけでなく編み物も得意だが、ここしばらく編み物はしていなかった様だ。

 ももちゃんも長い間、ちゃんとした編み物はしいていなかったが、それでもこの世界に飛ばされる少し前にアクリルタワシなどをちょこちょこ作っており、そのタワシに花の形のレース等を装飾として付けていたりする。

 その時に「最近はレース編みでもなんでも動画がアップしてあって、いろいろ作るのが楽になったね~。」なんてコミュで話していたので、めりるどんはももちゃんが比較的最近レース編みをしているのを知っているのだ。


 「細い糸で編み物をするのは目が痛くなるんだよね~。撚ってない糸だとバラバラになりやすいし・・・。」とももちゃん。

 「何なら私が編んでもいいけど、作業小屋だと採光があまり良くないんだよね~。太陽の下で直に編み物は目が死んじゃうしね・・・。」といたずらっぽい笑みを浮かべてももちゃんを見る。


 「はぁ~。分かったよ。お掃除の時間を少し減らしてやってみるよ~。」

 「ありがとう!ももちゃん。」とめりるどんは満面の笑みを浮かべる。


 「小花をたくさん作るのと、細長いレースとどっちがいいの?」と作りかけのソープバスケットを触りながらももちゃんが聞いた。

 「もちろん、どっちも~。」

 ももちゃんが両肩をがっくりと落として「やっぱりか・・・。」とつぶやいたのを見て、めりるどんの笑みがまた悪い笑みになった。

 「がんばって~。」と他人ごとの様に言うめりるどんであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「舟はいつ見に行くの?」と夕食を食べながらめりるどんがごんさんに聞いた。

 「ルンバが来週ならいつでもいいって言ってたよ。」

 「で、どこの町へ行くん。」とサラダを食べながらみぃ君がごんさんを見た。

 「それなんだが、ルンバが言うには、グリュッグでもいいが、営業権の登録もあるからガクゼン領の大きな町の方がいいんじゃないかって言ってたぞ。」

 ガクゼン領とはザンダル村を統治している領地の名だ。

 舟の営業権は、舟を所有している者の住んでる領でしなければならないので、今回はガクゼン領内で舟を購入し、その足で登録する方が楽ではないかという話だ。


 「それだとすると、どこの町になるの?」とめりるどん。

 「舟を売ってる大きな町となると、なんて言ってたかなぁ~。ここから1日とちょっとくらい舟でかかるなんちゃらっていう町だったんだけど・・・名前は忘れた。」とごんさんはあまり悩まず町の名前を思い出す事を諦めた。

 1回しか聞いていないし、名前を聞いたところで地図などない今の状態では町の名前は関係ない。

 どうせ移動はルンバたちを頼ることになるんだしという事らしい。


 「それなら、税制についても質問しなければならないから、ガクゼン領の領都はどう?」と、それまで比較的おとなしく食事をしていたももちゃんが言い出した。

 「会社組織にした時に、どんな税制が適用されるのか、登録は何が必要なのかをモリンタに聞いた事があるんだけどね、私の説明が下手でモリンタに会社っていうのを理解してもらえなかったんだ。で、税制については領主に聞かないと分からないって言ってたから、今回はモリンタも連れて領都へ行くと一石二鳥なんだよね~。」


 「そうかぁ。なら、ルンバに領都でも舟を買えるか、料金的には最初に言ってた町とどっちが得か聞いとくよ。」

 「うん、ごんさん、お願い。」とももちゃんが舟の話は締めくくった。


 「ところで、今日の夕方二人が作ってたソープバスケットやけどさぁ、あれどうなった。」とみぃ君が女性陣の方を見ながら聞いて来た。

 「出来上がったよ~。」

 「ももちゃんが領主に会いに行く時に手土産にできる様にって用意したんだよ。」と、めりるどんが両手で持っていたカトラリーをテーブルに置いて、棚の方へ向かった。

 「え?あれって売るだけやのうてって、ガクゼン領の領主に持って行くつもりやったの?」

 「「そう。」」

 「だから、ちょっと急いでたんだよね~。」とめりるどん。

 「そうそう、みぃ君たちがグリュッグから帰って来る時、リボン買って来てもらえるかどうか心配だったんだけど、ちゃんと買って来てくれたから助かったよ~。」とももちゃんがにっこりと笑った。


 「ああ、リボンってソープバスケットに使うためだったんだ。みぃ君と二人で、何に使うのかな~って言ってたんだよ。」

 「ふふふふ。」とめりるどんがいたずらっぽく笑って、棚から取り出した3つのソープバスケットをお盆に乗せて食事中のテーブルの真ん中に置いた。


 食事中に席を立つのはお行儀が悪いのだが、今日作った作品をみんなに見てもらいたくてそんなこと気にせず席を立ってお披露目をしたのだ。

 3つともほぼ同じデザインで、めりるどんの手に収まるくらいの大きさだ。一つは水色のリボンを巻き付けている。

 リボン自体がサテンの様なつややかな生地なので、それだけでも可なり綺麗だが、こげ茶の待ち針の様な物がアクセントとなっている。


 石鹸の天辺部分にカスミソウくらいの小さな青と黄色系の花が、水色のリボンで作ったループなどの間に飾られており、小さ目の黄色っぽい羽根が3本効果的に飾られている。

 残りの2つは、赤と黄色のリボンで作られていて、やはり鳥の羽などで装飾されていた。黄色の方には小さな貝殻も使われていた。

 「「おおーーー!」」男性陣の口から感嘆の声が漏れた。

 「これにね、ももちゃんが編んでくれるレースが付くのよ~。」とめりるどんがいたずらっぽい笑顔をももちゃんに向ける。

 「はいはい。頑張りますっ。」とももちゃんは少し諦めた感じで返事をした。


 「これでも十分綺麗だけどな。」と言うごんさんの方を向いて、我が意を得たりという感じでももちゃんが「そうだよね~。」と頷頭したけれど、そこにすかさずめりるどんが「レースがあると今よりももっと素敵になるのよ~。」ととどめを刺す。

 めりるどんには珍しく「カカカカ。」と笑ってももちゃんの肩をバンバンと叩き、誰の真似かは分からないが作った声音で「諦めたまえ。」とはしゃぐ。

 めりるどんにしてみたら、ももちゃんが本当にレース編みを嫌がる様なら、自分がやってもいいのだが、どうもももちゃんが身も世もない的な反応を示すのが面白いらしく、ついついからかってしまう様だ。


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