ルンバの憂鬱
俺はザンダル村にあるり3つの漁のチームの内、1つのチームの頭をはってる。
家の村で漁に従事していない奴は、ジャングルの少し入ったところで農業してる奴らくらいしかいない村だ。
漁の後はほぼ毎日、村の唯一の酒場で仲間と酒を飲むのが習慣だ。
今日も、酒場でいつもの様に仲間とおちゃらけをしながらももさんが酒場に卸している猿酒をしこたま飲んだ。
普通のエールよりも値がはるのだが、酒精もエールよりも断然強く、味もとても美味しい。
多少多く払ってもお釣りが来るってもんだ。
1年ちょっと前からこの村に住み着いた余所者4人の一人がももっていう女だ。
彼ら4人は男女2組で、最初は夫婦もんが2組かと思って、なんで同じ家に住むんだって疑問に思っていたが、どうやらそうではないらしい。
前からの知り合いらしいし、時々ごんの奴と一緒に飲みに来るみぃともう一人の女性、めりるさんは国に連れ合いがいるらしい。
中でも特に気ごころが合うごんの奴は、言葉が通じなくても何故か会話が成り立つ。変な奴だ。
多少お下品な冗談を言っても全然平気で、気のいい奴だ。
みぃって奴も明るい良い奴だが、こっちが2言えば10理解するごんの奴との方が会話する機会は多い。だからってみぃと会話ができないって訳ではない。
ごんの奴曰く、元々外国人の友達が多く、しかも軍関係者が多かったので荒くれ者も多く、荒っぽい冗談なんか日常茶飯事だったなんて言ってたな。というか、恐らくそんな意味のことを言ってたんだと思う。
外国人とはエイゴとかいう言語で会話してたそうだが、酒が入ると細かい意味なんか分からなくてもフィーリングで理解し合えるらしい。
だからなのか、俺たちと飲む時も一つの単語さえ発すれば、大抵の事は理解してくれる。
みぃの奴は、周りのみんなの居心地が良い様に良く気を使ってくれている。
口数は少な目だが、横にいてもなんかホッとする感じの奴なんだな。
控え目にしてるのだが、根が明るい奴なので、陰気臭さが全くないところもいい。
なんたって、ここら辺の子供には大人気だしな。
何て言うんだろう、こっちの話をしっかり聞いてくれて、冗談もちゃんと笑ってくれる。時には自分からも冗談を言ってくれるし、テーブルの上の飲み物が空になってる奴はいないかとか、酔っぱらっている奴はいないかとか結構気に掛けてくれてるそんな奴だ。
二日酔いになりそうな奴がいると、そっと水の入ったコップを目の前に置いてくれる。
それもこっちが気づかない内にだ。
喉が渇いたけど、今はもう酒はいいかな~って思ったら魔法の様に目の前に水の入ったコップが置かれている。神業だ!
こいつら二人が仲間に入って、グリュッグの町まで良く舟で連れていく様になった。
その日は漁に出られないので日当をくれるし、猿酒もたんまりくれるので、俺的にはとってもありがたい。
奴らがいなければグリュッグの町まで行くなんてことは数年に一度くらいの事だ。
村にはない目新しいものもたくさんある。例えば色とりどりの糸や布を売ってる店とか、村では見たこともないお菓子を売ってる店とか、娼館とかだな。
できたら夜は舟の中で寝るんじゃなく、女房にはバレない様に娼館なんかに行きたいんだが、さすがに舟をほっぽってどこかで寝るっていう訳にはいかないからなぁ~。
舟が無人になった途端に悪戯されたり、盗まれたりしたらオマンマ食い上げだしな。
まぁ、浮気はバレた時が面倒だから行かないけど、村にはない娼館っていうのに一度は行ってみたいんだよなぁ。都会の女は綺麗だしなぁ。
宿屋の給女も商売女ではあるんだが、娼館の女はおさんどんとかしない白い綺麗な手をしているらしい。
服だって、俺たちが見たことないくらい綺麗で煽情的なものを身に纏ってるって聞いたことあるしな。
ただ、金がしこたま掛かるらしい。
家の女房ラミールは、村では売っていない物もグリュッグでは手に入るから、奴らをグリュッグに運ぶ仕事が入ると、女房の機嫌がとてもいい。いつも帰りにアレとコレを買って来いって毎回飽きずにお使いを言い渡されるが、言われた物だけでも買って帰れば喜ぶから楽っちゃ楽だな。
しかし、結婚前はザンダル村でも一番の美人って言われてて、気は強くてもちゃんと俺を立ててくれてたのに、最近は貫禄が付いちゃって・・・・。おっと、そんな事は考えちゃいかん!あいつはそういうのを考えてると何故かこっちの考えを読んで来るから・・・クワバラクワバラ。
まぁ、これからもグリュッグへ時々舟を出せたらラミールの機嫌は良くなるから、月一くらいで舟に奴らを乗せるのはありだな。
ただ、猿酒も付いてくるから、チャチャの奴もこの仕事を狙っていて、3回に1回はチャチャにこの仕事を回してやらないといけない。
面倒くせぇぜ。
グリュッグで奴らが始めた店に、俺んところの従兄の子が雇われた。
結構な給料を貰っているらしい。
仕事も面白いらしく、この前グリュッグへ行った時、従兄のジルバから奴らを紹介してくれてありがとうって言われたな。
しかし、感謝するなら言葉だけじゃなく酒の一杯くらい奢ってくれてもいいのに、女房にって柄の入った反物を一巻き寄越して来ただけだった。
まぁ、ラミールの機嫌が良くなるのでそれはそれで嬉しいんだが、そこはやっぱり酒だろう?
そういえば、みぃの奴が村で始めた魚の加工の仕事、これがとってもありがたい。
屑魚は今まで売り物にならないから俺ら仲間内の家で食べてたり、それも毎日は消費できないから捨ててたりしたんだが、安い値段ではあるがそれを買い取ってくれるので大助かりだ。
しかもラミールを雇って加工作業をさせてもらっているから、俺の収入以外にも現金収入が入ってくるので生活が楽になって来てる。その分、猿酒も余計に飲めるってもんだ。
ただなぁ・・・。家に帰るとラミールの奴がなぁ・・・ジャイブんとこの嫁が魚の加工のボスみたいになってるから面白くないって愚痴が多いんだよなぁ~。
まぁ、確かに漁に関しては俺がグループの頭みたいになってるから、采配なんかは俺がやってる。
可笑しな話だが、夫の立ち位置がそのまま奥さん連中の立ち位置みたいになってるのはどうしてなんだろうなぁ。
ただ、魚の加工はまずロミーが積極的に手を挙げたから、作業の指示がロミー経由で来る事が多いらしい。
まぁ、女の世界もなんだかんだ小難しくて、俺は関わり合いになりたくないんだがなぁ・・・。
はぁ・・・。家に帰ると女房の愚痴が待ってると思うと・・・憂鬱だ。これは酒場から動けねぇな。あいつが寝た後くらいに帰宅しよう・・・。




