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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
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おかえり

 めりるどんは、ももちゃんと一緒に購入した石窯を自分たちの裏庭の、正確には裏庭の敷地と思われる少し外側に設置する事にした。ジャングル側、つまりゴミ捨て場側の方に少し張り出した感じだ。

 これは煮干しを乾燥させる作業を、従業員にしてもらう事を考えて、純粋な裏庭に他人が入ってくるのを避けるためと、あまり家から離れた場所に設置すると村共同の石窯扱いになるのを避けるためだ。


 まずは、ルンバたちに頼んで石窯を裏庭に運んでもらった。

 めりるどんとももちゃんは、即席の植物性タワシを作って、窯を水で洗った。

 今回は、井戸の水で洗う前に、裏庭の地面に置いてある竹もどきで作った桶に溜まったスコールの水で洗浄した。


 この水は4人が家にいる時は、シャワー上の竹タンクの水が終了した後にシャワー室を使う者が体を洗うための桶だ。

 今は男性陣がいないので、この竹の桶2つの水は手付かずだ。

 スコールは毎日ではないが、結構な頻度で降っているので、中の水はそれなりに綺麗なのだ。

 仕上げの洗浄時に井戸の水で洗えば、最初の汚れを落とす作業に桶の水を使っても問題はないだろうとめりるどんは考えたのだ。

 井戸から何度も水を汲んで裏庭まで運ぶ事を考えると合理的と言えよう。


 石窯は窯の部分に破損はなかったので、問題は土台部分をどうやって補修するかなのだが、元々がレンガで作られていたので、酒場の女将さんにどこでレンガを購入したのかを教えてもらい、その家に頼んで足りない分を購入した。

 この村ではあんまりレンガを使う事はないのだが、レンガを作る時は大量に作るので、前回作成した時の在庫があったのが幸いした。


 材料は揃っても、壊れた部分のレンガが目地の部分でぱっくりと割れておらず、レンガの端っこが欠けていたり、半分からポキっと割れた様になっている部分もあるので、工具を使って目地に沿って平らな面を作ってから、新しいレンガと接着しなければならない。


 これが、今、住人が2人に減った状態で石鹸づくりや酒造りやフルーツの収穫などをしながらだと、なかなか進まない。

 出汁の粉作りの記録取りもめりるどんがやっているが、工具を使うのもめりるどんの方がももちゃんより数段上手だ。


 記録の取り方が、人が変わることによって微妙に変わる事は避けたかったので、女性陣2人は話し合って、2日ほどめりるどんには石鹸づくりをお休みしてもらい出汁の粉の方と石窯のレンガの加工をお願いし、酒造りやフルーツの収穫以外にもももちゃんには出来る範囲でココナッツオイル作りや、海藻の灰作り、蘭もどきの花のエッセンス作りをしてもらい、石鹸つくりの材料を揃えてもらい、めりるどんがレンガ加工が終わったら、すぐに石鹸が作れる様にした。


 そんなに大きな石窯ではないので、土台そのものもそんなに大きいものではなく、割れたり欠けたり、ヒビが入っているレンガを割り出し、どのレンガを削るのかを決めると、そこまでレンガの数は多くはなかった。

 しかし、古いレンガなので、不用意に削って使えるレンガまで欠けさせてはいけないので、この作業には2日間という比較的長い時間を割り当てた。


 その為、めりるどんは慎重に作業し、二人で足りない部分の土台を組んでいった。

 「ねぇ、めりるどん、どうしてレンガを水に漬けるの?」

 「え?レンガって組む前に水に漬けないといけないんだよ。」

 「ええええ?どうして?」

 「先に水に漬けておかないと組んだレンガがゆがむのよ。」

 「おおお!全然知らなかった。よく知ってたね。」

 「うん、前にDIYでレンガを購入してね、水に漬けずに普通に組んだんだけど、乾くとめっちゃ傾いてねもう一度やり直さなくちゃいけなくったのよ。」

 ももちゃんの口が「ほぉ~」という形になった。


 「ただね、レンガもあんまり水に漬けすぎじゃダメってネットに書いてあったからね、どれくらいが一番いいか、本当は私も良く知らないんだぁ~。」

 「しかし、めりるどん、土壁を珪藻土の壁にしたり、アクリル板で二重窓にしたり、ちゃぶ台を作ったりいろいろしてるのは聞いてたけど、レンガまで使ってたとはね~。さすが!」

 「いやいや、レンガは友達の家の庭に4段重ねの花壇用だったのよ。あの時は最初に購入したレンガが全滅したから冷や汗をかいたよ。だって、もう一度レンガ買わないといけないからねぇ~。」

 「ええーーー!いいよいいよ。工賃取ってるわけじゃなく無料で手伝ったんでしょ?レンガ代くらい外注する事を考えたら安いもんじゃん。」と、ももちゃんが他人様の家の懐事情を考慮せず、すぱっと一刀両断する。


 「いやいや、そういう事じゃなくてね、事前に調べていたらそんな無駄な経費発生しなかったのに悪いなぁ~って。」

 律儀だなぁ~と思いつつ、そういうところがめりるどんの好きなところだと改めて考えたももちゃんであった。


 めりるどん特性の垂直測定器を使って水平を確保しようとしたが、水平器なしにレンガを積むのは思ったより苦心した。

 二人で一つのレンガを積み上げるごとに垂直側的を使ってレンガの側面を基準に垂直かどうかを確認し、少し離れたところから目測で水平かどうかを確認しつつ作業を進めた。

 「ペットボトルがあれば簡単な水平器が作れるんだけどねぇ~。家にはガラスのコップさえもないしねぇ。」と最初めりるどんはブツブツと何かを口の中で言っていたが、「あっ!」と叫んだ後、板を数枚持ってきた。


 持ってきた板を家の壁に対し縦に立てて水平測定器を取り付けた。

それを見てももちゃんがめりるどんに何をしているのかと訊ねたところ、「この板を垂直測定器で面がまっすぐかどうか調べてるの。まっすぐなら、この板を水平器として使えるな~って。」という答えが返ってきた。


 この板は組み上げているレンガの水平を確保するのにも使われたし、土台の側面に当てて積み上げたレンガがデコボコしていないかの確認にも使われた。

 高々3段と少しのレンガを積み上げ、石窯の残った土台を合わせるのは、十数段レンガを組むのに比べれば簡単と言えるが、それでもなかなかに忍耐力のいる作業だった。


 石窯の設置が終わり、レンガの目地が乾くまで待つ間、めりるどんは早く煮干しの乾燥を試したくてソワソワした。

 数日後、漸く完全に乾いたと思った時、めりるどんは時間の長さが分かる線香に火を点け、どのくらいの間石窯へ入れればいいのかを計測した。

 時間は凡そしか測れない。何故なら石窯の中の火力が日によって変わるのが前提だからだ。

 ガスなどではなく薪を使うということは、個々の薪の大きさも違えば、乾燥具合も違う。

 常に同じ火力を確保することは不可能なのだ。


 色々と試行錯誤を繰り替えしたところ、ただ乾燥するだけならそんなに長い間石窯へ入れる必要はなかったので、火力、つまり薪を少な目にして乾燥時間を長くするか、大量の煮干しを用意して火力を変えず煮干しを乗せたトレイを複数用意しとっかえひっかえして一気に大量に処理をするか考えなければならなかったが、火力が足りずに後から黴が生えては意味がないので、火力は変えない事にし、ももちゃんから提案のあった煮干し乾燥後はすぐパン種を入れてパンを作ろうということになった。

 ももちゃんの作っている天然酵母でパンを作るのだ。


 ただ、そうなると石窯に扉がついていない事が不安だとももちゃんが言い始めた。

 煮干しだけなら、扉がない方が石窯として扱いやすいのだが、パンをちゃんと焼くとなると扉無しのオーブンで作ったことのないももちゃんが是非扉をということになり、結局追加で、村の唯一の鍛冶師ジョビに扉作成をお願いした。

 扉が出来るまではもったいないが、煮干しだけでこの石窯を使う事になった。



 そんなこんなで女性陣二人が奮闘していると、漸くごんさんとみぃ君が村に戻って来た。

 「「ただいまぁ~」」

 二人とも少し草臥れて、薄っすらと汚れていて、如何にも大変な大仕事を終えたばかりという雰囲気で戻って来た。


 「「おかえり~。」」

 今日、二人が戻って来るとは思っていなかっためりるどんとももちゃんは、二人の夕飯を用意しておらず、彼女たちはついさっき夕食を終えていた。

 めりるどんは二人の夕食を作り、ももちゃんは二人が体を拭ける様、大量の湯を沸かすため、裏庭に積んであった薪を大量に家の中に運んでいる。


 みぃ君の周りには夕方遅い時間にもかかわらず、いつもの子供たちがキャイキャイ言いながら纏わりついている。


 「疲れたでしょう?夕食が出来るまで、お茶を飲んでてね。」と言いながら、めりるどんがお茶とお茶請けをテーブルの上に置いた。

 「すぐに、夕食にするからもう少し待っててね。」

 みぃ君もごんさんも頭を縦に振り、テーブルにつく。


 ジャイブの子ノコノコや、そのお兄さん的存在のタリンなどがみぃ君の周りにもしゃぶりつく様に纏わりついているのをみて、「あなたたちは、これを食べたら家に帰りなさいね。もう、遅い時間だからね。」とめりるどんが子供たちの前にも受け皿を並べた。

 しかし、子供たちは久しぶりにみぃ君に会えたので興奮しているらしく、めりるどんの話は全然聞いていない様子。聞いてはいないのだが、目の前に小皿を置かれると、お茶請けだけはいっちょ前にかなりの量を盛ってパクついている。

 その様子を見て、みぃ君がすまなさそうにめりるどんに苦笑を向けた。


 「ほら、お前たち、これ、お土産。」と、子供たちが楽しみにしていたみぃ君のお土産を手渡すと、歓声を上げてみぃ君の手からもぎ取る様に受け取り、「ありがとう。」と言って、「わーーー!」と歓声を上げながら手に手にお土産を持って家に帰った。

 お茶請けもしっかり完食した上でだ。


 「なんや、あいつら、お土産が目的か。」と自嘲気味にみぃ君が嘯く。

 子供たちが本当にみぃ君に懐いているのは誰の目にも明らかなのだが、こんな僻地に住む子供たちにはお土産を貰うという機会が極端に少ない故にみぃ君が外から帰ってくるといつも渡してくれるお土産を大変心待ちにしているのも事実なのだ。


 村の大人なら作業中に子供たちが纏わりつくと十中八九叱り追い払うが、みぃ君は温和で、煩そうに追い払わず、優しく対してくれる唯一の大人なのだ。そんなみぃ君に子供たちが懐いているのは火を見るよりも明らかだ。


 夕食はすぐに食べれる様に、干し肉や野菜などがたっぷり入った具たくさんスープとパンとサラダだ。パンはまだ石窯の扉が付いていないので、万屋でもある酒場で買ってきたタコスのトルティージャ風のパンだ。もちろん、たっぷりのお酒も忘れない。


 「どうやって村まで移動したの?」と薪を抱えたももちゃんが二人に聞いた。

 「カルディまで行く船に乗せてもらって、この村で降ろしてもらった。」とごんさんがお茶を啜りながら答えた。

 カルディはグリュッグと同じくらい大きな町で、この村からはかなり遠いところに位置している。

 グリュッグからカルディへ行く途中にザンダル村が位置しているが、カルディよりはよっぽどグリュッグの方が近い。


 「それは良い便をつかまえたね~。」とももちゃんが、薪を竈の直ぐ横に積み上げながら、顔だけみぃ君とごんさんの方に向けて頷いた。

 「まぁ、ちょっと高めの料金を請求されたんやけどね。通常のルートからはちょこっと外れるから、しゃあないかなぁと思うて。」

 「うんうん。」とももちゃんがみぃ君に頷く。

 「何はともあれ、二人とも無事に帰って来てくれたから、とっても安心したよ~。」とめりるどんが二人の夕飯をテーブルに並べる。


 「疲れているでしょ?グリュッグの話は明日聞いた方がいいよね?」とももちゃんが水を向けると、「いやいや、そこまでは疲れてないから、食べながらの報告でいいか?」とごんさんが口の中の物を飲み込んで答えた。


 「2件目の水車小屋も無事建て終って、試運転まではやって来た。」

 めりるどんとももちゃんが無言で頭を縦に振った。

 「で、新しい水車小屋の従業員なんだが、水車小屋の敷地に伯爵が立たせてる警護兵の親戚を雇うことにしたんだ。警護兵の一人が、向こうから雇ってもらえないかって薦めてきたので、面接して、そいつに決めた。」

 「ポンフィいうねんな。」とみぃ君が補足してくれた。


 女性陣二人は男性陣に向かって頷いた。

 「2・3日だけ一緒に働いて手ほどきだけしてみたが、まぁ、可もなく不可もなくってところかな。2か月は試用期間とさせてもらった。」

 「どんな人なの?」


 「無口だけど不愛想な訳ではない。仕事も切れる方ではないが、役に立たない程ではないというか・・・指示した事は時間がかかってもちゃんとやり遂げてるから、大丈夫かなぁ~。」

 「無口やけど腰は低いよね。」

 めりるどんの問いに答えたごんさんに、みぃ君が少し付け加えた。


 「男の人なの?」ももちゃんがみぃ君に聞いたが、最初に答えたのはごんさんだった。

 「ああ、中年の入り口って感じの男だな。」

 「雇用契約はドブレに確認してもろうて作成して、もうサイン済みやで。」とみぃ君が席を立って荷物の中から契約書を取り出そうとしたが、まずは食事をと言ってテーブルに座ってもらった。


 「あ、後、従業員が二人になったので、休みの日をズラしてもらって毎日営業することにした。まぁ、ポンフィが仕事に慣れる3週間後くらいからだけどな。」

 「ほんで、水車2台分、毎日営業することを前提に新しい顧客も増やしたでぇ。もちろん、前から使用時間を増やしたいって言ってた顧客優先だけどね。」

 ごんさんが首頷した。


 「グリュッガー伯爵家の水車については、営業に使えないからな。」

 「そうやねんな。こっちが営業してやる義理はないからね。放置したったわ。」と、みぃ君にしてはブラックな笑みを浮かべ意味ありげにごんさんを見た。


 グリュッグでの様子について報告をしながらの男性陣2人の遅い夕食が済み、ももちゃんが沸かした大量のお湯を使って、体を拭いてくつろいでもらう為に、男性陣は寝室に入った。

 男性陣が持ち帰った水車小屋や石鹸の売り上げと、フスマや切り替え時に取り出された製粉された小麦等を棚に片付けながらめりるどんとももちゃんは、村についての報告は明日の朝でも良いだろうと話し合い、今夜は二人にゆっくり休んでもらうことにした。


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