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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
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村に残った二人 その4

 二人ともお昼は家に戻って一緒に摂った。

 ももちゃんが簡単な野菜炒めなんかを作ってめりるどんの帰りを待っていた。


 「会社の事をね、擬人化して説明した方が分かりやすいかなぁ~なんて思って一生懸命説明したけど、遂にモリンタには伝わらなかったわぁ~。」と食べる手を止めることなく肩を落とす。

 「もともとこの世界にない物だから、伝えるのは難しいよね~。実体がない物だから、実物を見せて説明って訳にもいかないしね~。」とめりるどんが慰める。


 「そうなのよ!通訳でもそうなんだけど、概念を伝えるのはとっても難しいのよ~。研究所や工場なんかのいわゆる現場で、技術者同士の間に入って通訳するのはめっちゃ簡単なのよ~。単語を知らなくても、原理を知らなくても、現物を指さしながら言われた事を言われた様に訳すと、たいていは問題なく伝わるからねぇ~。でも、概念はそういうわけにはいかないもんね~。」

 「へぇ~。そういうもんなんだ。」とめりるどんも食事の手を止めずに相槌を打つ。


 「前にね、牛の飼料配合の研究所で通訳したんだけどね、微生物の増殖って表現の時、proliferaciónっていうちゃんと増殖っていう意味の単語が出て来ずにね、aumentoっていう増加っていう単語を使ったんだよね。確かに微生物の量が増加したって言っても、通じるには通じるんだけどね、通訳としては、増殖は増殖でしょう!って帰りの電車で落ち込んだことを思い出した~。実際に目の前で数字を見せて表現するのじゃなくって、単に増殖ってことだったから、すぐに単語を思い出せないと次善の策で意味が伝わればいいっていうレベルになっちゃうんだよね~。」

 ふむふむと頭で頷いてももちゃんに微笑むめりるどん。

 「でも、増殖は増えるってことだから、究極どれくらい数が増えたか数字を書けば専門家には意味は伝わるんだよね。proliferaciónって単語が出てこなくてもね。」

 「そうなんだ~。」


 まぁ、法人については実際に形のあるものでもないし、数字などで可視化できないしね~と思いつつ、「で、モリンタだけど、株式の事は理解してもらえなかった?」と話しを振るめりるどん。


 「え?株式会社にするつもりはないから、株については話してないよ~。」とももちゃんがきょとんとした顔で返事をした。

 「え?会社って株式会社じゃないの?なら有限会社?」

 「うんとね、合同会社を考えてたんだけど~。」

 「合同会社って何?初めて聞くかも~」とめりるどんは知らない事は知らないとはっきり言う質なので、間髪入れず質問をした。


 「親族で会社を立ち上げる時は合同会社ってよくやるんだよね~。株式会社なら株を介して私たち4人以外も出資者になれるじゃん?まぁ、こっちは株式取引そのものがないから、株式会社にしたところで意味はないんだけどね~。で、出資も私たち4人で当分に出し、利益も私たち4人で等分に分けるなら、赤の他人が入って来ない様にするのが一番じゃないかなぁ。まぁ、ここには会社っていう概念がないから、登記費用とか、法人税とか関係ないから単に会社って言葉を覚えてもらって、それに見合った税制を作ってもらうくらいかなぁ~。土地やら備品なんかの購入や保有もあるから、その辺の概念をどうやって伝えるかだなぁ~。まぁ、要は私たちのやり易い様に領主様に伝えて、制度を作ってもらうのが大事かなぁ~。」


 「よう分からんけど、ももちゃんが言いたいのは株式について説明して、領主とかが割り込んで来るのを避けたいってこと?」とめりるどんが纏めた。

 「そう!それ!それよ!私の言いたかったこと。」

 「ほうほう。」

 「まぁ、会社については夜にでもゆっくり話すとして、実は今日の午後の予定を変更してもらいたいんだけど・・・」とももちゃんが申し訳なさそうにめりるどんの顔を覗き込む。


 「どうしたの?」

 「うんとね、お酒がピンチなの!在庫の樽は2つしか残ってないのに、元になるジュースの量が少なすぎるのぉ~。空樽ばっかり山積みになってきた~。」

 「ああ~~。」

 女二人になって運び込むフルーツの量が少なくなっているのは、大きな懸案事項だったので、めりるどんもすぐにももちゃんの言いたいことが分かった。


 「んじゃぁ、今日の午後は二人で畑へ行って2往復する?」

 「うんうん。お願い!」すかさずももちゃんが頭を大きく縦に振る。

 「分かった・・・。じゃあロミーたちには竹を編んで、小屋の壁作りをしてもらうことにする~。」

 「うん。ごめんね~。」

 「ほほ~~い。」


 「でね、私もちょっと考えてみた~。」と食事が終わり、汚れた皿を台所へ運びながらももちゃんが言う。

 「なにを~?」

 「フルーツなんだけどね、今までみたいに背負子に入れて運ぶには限界があるじゃん?」

 「そうだね。」

 「でね、畑の作業小屋の前に川が流れてて、私たちいつも川沿いに海まで出るじゃん?」

 「うんうん。」

 「で、海まで出ると海沿いを歩くんだから、トレーみたいなのを作って沈まない様に周りに浮きになるものを括りつけてね水に浮かべて、それを紐っていうか蔦で引っ張れば重さ関係なく大量に運べるんじゃないかなぁ?」

 「おおおおおおおおおおおお!」

 思わずめりるどんの口から大きな声が出た。


 「それ、わざわざトレーの様な物や浮きを作らなくても、竹もどきで簡単な筏を作って、その上に籠を括り付ければいいんじゃない?」

 「おおおおおおおおおおお!」今度はももちゃんの口から大きな声が出た。


 「筏ならすぐできる!村の裏側にある竹林で浜の小屋づくりに使わない細い部分を切り落としたのが転がってるはずだからすぐに取りに行こう!」

 めりるどんの号令の下、二人は早速竹林に向かった。

 1m×70㎝くらいの大きさの筏2つ分の竹を持って帰る。

 みぃ君が取り貯めておいてくれた蔦を使って、めりるどんが筏を作り始める。

 ももちゃんは、筏作りをしているめりるどんに代わり、ロミーたちが自宅で昼食を摂って戻ってくる浜に走り、今日の午後の作業として割いた竹を編んで壁を作る指示をした。

 家に戻るなり、大き目の籠をいくつか漁って、既にめりるどんが作ってくれていた1つ目の筏に蔦で括り付けた。


 「ふふふふ!さぁ、行こうかぁ。」と自分の作業は籠を括り付けただけなのにドヤ顔で宣言し、筏作りの作業が終わったばかりのめりるどんを引っ張る様にして作業小屋へ向かった。

 

 結局この日は、その筏を使って二人で2往復したので、樽3つ分のジュースが作れた。

 もちろん筏の他にも各々背負子を背負って、できるだけ多くのフルーツを村へ運ぶ様頑張った二人の努力の賜物だ。


 4人はフルーツを絞るために、以前、鍛冶屋のジョビに手動のハンドジューサーを2つ作ってもらっていた。

 カップに取っ手が付いた様なデザインで、蓋の様な物にも取っ手がついており、蓋の取っ手をぐっと下に押さえると、自然とジュースができる仕組みだ。

 鉄で作ってあるので、錆が心配だが、他の金属もないので、しょうがなく鉄で作ってもらったのを大事に使っている。


 出来上がったジュース樽に天然酵母を入れ、蓋をし、樽に向かって拝む様に手を合わせ頭を下げるももちゃんを見て、「なんか杜氏ってこういう感じなのかなぁ~ってふと思っちゃったよ~。ももちゃんもちゃんと酒造りの人になったんだねぇ~。」とめりるどんが意味の分からないことを言っていた。

 とりあえずは筏を使ってフルーツを運ぶことが午後の日課になった。


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