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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
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会社つくりプロジェクト その1

 昨晩、めりるどんとももちゃんは会社作りについて遅くまで話し合った。まぁ、ベッドに横になってであるが・・・。

 朝食をパパっと済ませ、さぁ、モリンタ村長が家に居るうちに、いろいろ質問をしようと、ももちゃんが家を出た。


 玄関の戸口前には空の樽が2つ置いてあった。

 これは、お酒をおろしている村で唯一の酒場の親仁が、夜中のうちに置いて行った物だ。


 ここ最近は、空の樽の3分の1しかお酒を納められていない。

 ジュースにするためのフルーツを畑から小一時間歩いて女手2人だけで運ぶのは、量がとてもじゃないが少ない。

 

 ももちゃんが、水車事件でグリュッグや湖の町に行っている間は、事前にももちゃんがいっぱい漬けておいた樽を捌いたり、めりるどんが細々と補充分を作って対応していたのだが、運搬のほとんどを受け持ってくれている男性陣の不在が度重なっているので、だんだんお酒のストックが少なくなってきたのだ。


 昨日、めりるどんが酒場に芋と海老のフライを納品しに行った時に、お酒のストックが心もとないので、できるだけ早く納品して欲しいと言われたばかりだった。

 砂糖作りと収穫作業はそこまで煩雑な作業ではないが、フルーツを家まで運ぶのが問題なのだ。


 会社を立ち上げて、自分たちの船が手に入れば、船で運ぶ事もできるし、反対に空の樽を船で畑まで運び、そこでジュースを作り、酒になったら樽を船で運ぶ事もできる。

 むしろ、井戸水ではなく、作業小屋の前の川の水を使って樽を洗えるので、作業的には楽になるはずだ。

 ただ、会社創設に関しては、男性2人の帰りを待たねばならず、相談した結果、会社作りを断念せざるを得ない可能性もある。


 とりあえずは、会社創設に向けて、情報を収集せねばならないので、一旦、お酒作りの事は頭の端に押しやり、モリンタの家へ急いだ。


 「かいしゃ?それは何じゃ?」

 「『会社』という言葉は、私たちの国の言葉です。ここでは別の言葉で呼ばれているかもしれません。順を追って説明しますね。」

 ももちゃんは、モリンタの家の応接間で、椅子に座って説明をした。


 「私たち、モリンタ村長も、その奥様も、そして私たち4人も肉でできた体があります。」と言って、自分の二の腕をモリンタに見える様に軽く掴んだ。

 「うむ。」


 「でも、仕事をする時に、体のない物を私たちの様に人として考えるという方法があります。」

 「????」モリンタには、理解できない様だ。


 「例えば、たくさんの人が集まって一つの注文に対して仕事をします。そうですねぇ、鍛冶屋のジョビさんが、隣のベッグ村から2週間で鍋を50個作って欲しいと言われたとします。」

 「50個!そんな事はありえん!」

 「いえいえ、モリンタ村長。これは実際の話ではなく、想像です。想像。話を分かりやすくするための、想像です。」

 「仮定の話かぁ・・・。」

 「そう!仮定!仮定の話です。」ももちゃんは、仮定という新しい単語を忘れない様に木片に書き留めつつ、話を進める。


 「でも、ジョビさんだけでは2週間では50個も鍋を作れないですよね?」

 「そうじゃな。」

 「まず、鍋の材料になる鉄の買い付けが必要ですよね?」

 「うむ。」


 「鉄が村の中になければ、舟に乗って、近場で鉄のあるところから運ばないといけないですよね?」

 「そうじゃなぁ。」

 「材料が揃っても、鉄を打つ人がもっといないと、2週間で50個は作れません。鍛冶職人がもう数人いりますよね。」

 モリンタは首を縦に振って、同意であることを示した。


 「複数の鍛冶職人で一斉に作業するのなら、それらの職人全員をまとめて、作業の進み具合や作業の配分を考える人がいりますよね。」

 モリンタの表情を確認しながら、同意であると思ったら、どんどん話を進めていくももちゃんであった。


 「そういう人全員を集めて一つの仕事をする時、それぞれの鍛冶職人や材料を運ぶ人がベッグ村の注文してくれた人と話して仕事を進めていたら、ぐちゃぐちゃになりますよね。そこで、鍋50個を2週間で作る人全員をまとめて1つの集まりとして考えます。1つの集まりなので、その集まりを体のない1人の人として考えてもらいます。」

 「難しいのぉ。」どうも、理解するのが難しいらしい。


 「例えば、この集まりに名前を付けます。そうですねぇ~、ザンダル鍛冶集団という名前にしますか。このザンダル鍛冶集団を一人の人として考えて、ベッグ村の人は、このザンダル鍛冶集団と取引しているということになります。」

 「う~~~~む。」


 「鍋の形について確認したり、できた鍋は1回で納品するのか、それとも3回に分けて納品するのか、いろんな事を話し合ったりしなくちゃいけない事もありますよね~。」

 「そうじゃのぉ。」

 「でも、このザンダル鍛冶集団で、全部で20人の人が働いていたら、ベッグ村の人は何時、誰に相談すればいいですか?」

 「む~~~~~。」


 「ザンダル鍛冶集団が体のない一人の人だと考えると、右手に伝えた事は、当然左手にも、頭にも、足にも伝わりますよね。だって一人の人なんだから。」

 「ほうほう。」モリンタにも少し分かってもらえて来ている手ごたえが漸く出て来た。


 「この体のない人の事を、私たちの国では『法人』って呼んでました。体のない人の事を『法人』、私たちの様に体のある人のことを『自然人』と呼んでいて、『法人』の『ほう』は、掟のことで、『人』は私たち人のことです。『自然』とはあるがまま人の手が入っていないって言う意味です。」

 また、モリンタの顔が少し歪み、理解が追い付いていない様に見えた。


 「つまり、体はないけど、掟で人として考えましょうとした物を『法人』、生まれてきた時のまま、体を持ってる人を『自然人』として考えるのです。」

 「なんで、そんな複雑なことをせにゃならんのか?」


 「さっきのベッグ村の鍋の話の様に、たくさんの人でいろいろな仕事をする時に、右手と頭と足が同じ話を知っているため。そして、全体の仕事の進み具合を管理するため。」

 「おお!そうじゃった。右手と頭と足じゃな。」うんうん、と頭を縦に振るモリンタ。


「『法人』には、いろんな種類がありましたが、その中に『会社』っていう種類がありました。会社というのは、儲けを得るために、人が集まって仕事します。ただ、全員が親方ではなく、数人の親方で仕事の管理をします。」

 「お前の話は難しいのぉ。聞いたこともないぞ。」

 「はい。これは、私たちの国の文化ですから、まだこの国にはそういう考えがないのかもしれませんね。で、大きな商店と同じで、店主さん?親方さん?旦那さん?がいて、その下に店員や丁稚がいる様に、会社にも、店主にあたる人がいて、その下で働く店員みたいな人がたくさんいたりします。」


 「お前さんが言っているのは、大きな商店と同じということか?」

 「そうですね。ただ商店では普通店主は一人ですが、会社は複数の人が協力して店主となります。」


 「難しくはあるが、商店と同じと考えればそこまで難しくはないのう。実際にはない話じゃが、例えば一族で経営している大きなお店の店主が長男と次男の二人で一緒にやってるっていうのと同じみたいなもんかのぉ。」

 「そうです。そうです。そんな感じです。理解してもらえてうれしいです。そこで、モリンタ村長に相談です。」

 「なんじゃ?」


 「私たち4人は、お酒作りや、浜辺で始めた新しい仕事や、グリュッグの町でやっている仕事の全てを一つの会社、まぁ、大きな商店の仕事としてやっていきたいんだけど、税金がどうなるのかを教えて欲しいのです。」

 「ふむ。税金かぁ・・・。今は、職業によって一人当たりで年間の税が決まっておるから、そこは変わらないんじゃないかのぉ。」


 「そうですか。税金は、自然人、つまり私たち一人ひとりに係るってことですね。土地を買ったり、工具を買ったりするのは、会社の名前で買うことになりますが問題はないですか?税金は、私たちに係って、土地などは会社が所有する。店員とか工員の給料も、私たちが作った会社が払います。儲けは、会社のものになって、最終的には会社を所有している私たち4人で分けます。」


 「う~~~む。質問が矢継ぎ早じゃのぉ。」

 「すみません。」聞きたい事がたくさんあるももちゃんは、うっかりたくさんの質問を一度にしてしまった。


 「普通、平民の人頭税は、農民<職人<商人の順に高い税額になって、年に一度払うことになっておる。大きな商店の店員の人頭税は、普通店主が払うが、店員や職人の弟子などの税額は農民と同じ額と決められておる。まぁ、土地に関しては、土地代とは別に、登録手数料しか係らんからのぉ。しかし、『会社』というものがわしはあまり理解できんこともあって、これはわし一人で決めることはできんのぉ。」


 「土地の登録料もだけど、営業権なんかもかかわってくるので、その辺も知りたいんですよね。」

 「ふ~~~む。これは領主様のところへお伺いに行かにゃぁならんかもの。」


 「舟はどうですか?舟を買ったりすると税金が係りますか?」

 「舟の代金とは別に、舟の登録料がいるのぉ。漁師として使うなら、漁業権を支払わないといけんのぉ。物や人を運んで儲けるなら、営業権がいるのぉ。」


 「分かりました。まだ、ごんさんとみぃ君が戻って来ていないので、彼らが村に戻ったら、本当に会社をやるかどうか話し合ってみます。それからもう一度相談させて下さい。」

 「分かった。」


 朝早くから、会社という概念をモリンタに理解してもらおうと奮闘したももちゃんであったが、今一つ理解してもらえなかった様だ。

 まぁ、元々ももちゃんの会社についての説明も、ポワンとした抽象的な感じだったので、分かりづらかったのもあるのかもしれない。


 モリンタと領主に会いに行けば、なんとかなるんじゃないかという希望的観測を持ちつつ、店員の人頭税と聞いて、ドブレの人頭税まで払わないといけないとは知らなかったももちゃんは、今更ながらに水車小屋の従業員の給与を伯爵が担うということになってて良かったと胸を撫でおろしつつ、空の酒樽を洗う為に家へ戻って行った。


 一方、めりるどんも出汁作りの作業をしながら、ルンバの奥さんであるラミールに舟についていろいろ聞いていた。

 ラミールは背が高い女性で、天然パーマがゆるくかかった赤毛を腰のあたりまでたなびかせている。

 ルンバの横にいると華奢に見えるが、女性たちの中に入ると、他の女性よりかなりがっしりしているのが分かる。

 太っているというのではなく、骨格が、つまり骨ががっしりとしている印象だ。

 みるからに姉さん肌だ。


 「そうさねぇ。家のに聞いてみるよ。中古でいいんだろう?」

 「中古も知りたい。新しい舟も知りたい。どこで買えるか。いくらか。舟の大きさも知りたい。」


 「わかったよ。その辺もあわせて聞いてみるよ。で、どのくらいの大きさの舟がいるんだい?」


 「人が10人乗って、荷物ものせれるくらい。」

 「そうかい。結構大きい舟だね。」


 「船乗りが何人必要かも知りたい。」

 「わかった、それも聞いてみるよ。」

 「ありがとう。」


 出汁作りの作業は、ジャイブの奥さんであるロミーが一番最初に手を挙げてくれたので、何かとロミー中心に指示などをしていたが、さすがに舟の事になると、ルンバがリーダーの様なので、ラミールに聞いてみたのだ。


 今日も、新しく作った出汁の材料と今までの素材の重さを測り、木板に書き付けて、ロミーたちより一歩先に小屋つくりの作業に入るめりるどんであった。


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何度も書き直したので、前回のアップからかなり日にちが経ってしましました。

次回はもう少し早くアップできる様に頑張りますっ。

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