村に残った二人 その2
午後になって作業小屋の広場に到着すると、作業小屋とそれに隣接している畑に、めりるどんやももちゃんが其々の作業の為に散らばっていった。
めりるどんは、畑の外側に生えている蘭の花を摘み、すぐに水を入れた鍋に入れ、エッセンスを取り出すための蓋をかぶせて、火にかける。
エッセンス抽出中に、みぃ君が収穫して小屋に転がしていてくれたココナッツをカットし、水に漬けて揉み、ココナッツオイル作りを隣の竈で始める。
3つある竈の最後の竈で海藻の灰を作る。海藻はももちゃんと一緒に、ここに来るまでに採取したものは、みぃ君が作ってくれていた干物棚に干し、以前、みぃ君が干してくれていた海藻を今回使った。
これらは全て石鹸を作る為の作業だ。
ももちゃんは、畑で熟したフルーツを収穫している。
いつもは男手2人分プラスめりるどんで可成りの量のフルーツを運んでくれているが、今は、女手2人分しかないので、収穫したフルーツの皮を片っ端から剥いて、ジュースにできる実だけに加工し、バナナの皮などに包んで鍋に入れる。
剥いた皮などは畑の肥料にするために、一か所に集めておく。
フルーツの加工が終わったら、サトウキビもどきを収穫して、カットして、砂糖に加工するつもりだが、フルーツ加工が終了する時間に依っては、サトウキビの作業は明日に延期することになっている。
今は全ての竈をめりるどんが使用しているので、どれか一つの竈が空くまでは、火を使った作業はできない。
まだしばらくは竈が空きそうもないので、ももちゃんは畑の敷地から少し外へ出た。
何か目ぼしい物はないかと思いつつ歩いていたら、地面に小さな木の実なのか、こげ茶で、6ミリくらいの大きさな球状の実に棒状の物がくっついている物が散らばっているのを発見した。
球状部分の頭から、棒状部分の端まで、全部で1センチ2ミリくらいの大きさだ。
「なんかこれ、押しピンみたい・・・。」と言って、ももちゃんはこの木の実をいくつか拾った。
乾燥していないものはまだ若干柔らかく、乾燥している物はカチカチだ。
この形状を見て、「押しピンとして使えないかな・・・。」と来た道を作業小屋へ向かった歩いた。
竈の前で作業しているめりるどんに、拾ってきた木の実を見せた。
「これって、押しピンみたいに使えないかな?乾いたらかなり固くなるし、乾燥する前だとまだ若干柔らかいから、この棒の部分をナイフで切って、鋭く加工することが出来そうな気がするんだけど・・・。」
「う~~~ん、何に突き刺すかによるかなぁ~。」とめりるどんの反応はあまり良くなかった。
竈は一つ空いていたが、この時間から砂糖を作り始めると、家に帰るのが相当遅い時間になる。
作業小屋から村までは照明などないので、お天道様が頭上にいる間に移動を終えないといけない。
今日は石鹸つくりをメインにし、明日、砂糖などを作ることにした。
ももちゃんは、めりるどんの指示にしたがい、石鹸つくりを手伝った。
一通り作業が終わると、畑で実だけにしたフルーツが入った鍋や籠など抱えたり背負ったりして、ゆっくりと村へ向かって歩いた。
めりるどんが浜辺に着いた時、何気にそこに転がる貝殻を見て「あっ!」と声を上げた。
「どうしたの?」とももちゃんが聞いたが、めりるどんはニヤリと笑い、「後で言うね~。今は、ロミーのところに行って、出汁つくりの作業が終わったか確認するね~。」と、ロミーがいるところへ鍋を持ったまま移動する。
一通りチェックが終わると、めりるどんはロミーに小屋つくりについて相談した。
「ここに、小屋を作りたい。みんなが日陰で仕事できる様にしたい。午後、仕事のない人で、小屋を作る材料を集めたり、作業したい。みんなに相談して欲しい。」
「そうですね、午後、手が空いているメンバーに聞いてみますね。自分たちの作業がしやすくなるので、反対する人はいないとは思いますが、まずは聞いてみますね。」
「お願いします。」
出汁作りの跡片付けをロミーとめりるどんで終えた後、めりるどんはフルーツの入った鍋などを持って、家に帰った。
先に家に帰ったももちゃんは、荷物だけ置いてモリンタの家に行き、浜辺に作業小屋を建てる許可を貰いに行くと言っていたので、モリンタの家だろうと考え、めりるどんは夕食を作り始めた。
すると程なく、ももちゃんが戻って来た。
「モリンタがOKだって。大きさはあまり大きくしないでくれって言われたよ~。」
「え?それってどれくらいの大きさを指しているの?」と疑問に思っためりるどんが突っ込んだ。
「明日の朝ね、めりるどんたちがいる所へ行って、大きさを決めるって言ってたよ~。」
「りょ~。」
小屋について確認しながら、二人で手早く料理を作って食事を始めた。
「それで、さっき浜辺で声を上げていたのはなんで?」とももちゃんがめりるどんの方を見ずに、食べ物を頬張りながら言った。
最初、めりるどんはももちゃんが何を言っているのか分からなかった。
「ほら、帰り道に貝を見てあって言って、後で話すって言ってたじゃん。」
「あ、あれね。今日、ももちゃんが見つけて来た押しピンの木の実、あれでソープバスケット作ってみたらどうかなぁと思って。」
「あ、なんかあったねぇ。そういうの。昔随分流行ったよね。リボンでぐるぐる巻きにして、取っ手を付けて、造花とかリボンで飾ってあるやつだよね?」
「そうそう。私たちが作ってる石鹸って四角いじゃない?で、さっきの押しピン木の実を使って、リボンとか、貝殻とか、鳥の羽なんかを使って装飾したら、良い匂いの芳香剤兼飾りとして貴族に売れないかな~って。」
「おおおおお!なんかすごいね!めっちゃ売れそう!」
「だけどね、問題はね、リボンがあるかどうかなんだよね~。」とめりるどんはまだ思案顔だ。
「ソープバスケットにするなら、今の薄い石鹸にせず、少し幅を持たせてどっしりした形にした方がいいかな~とかいろいろ思いついちゃって・・・。」
「ねぇねぇ、めりるどん。みぃ君とごんさんがグリュッグにいる間に、手紙を送って、リボンをいろんな色買い集めてもらうっていうのはどう?」とももちゃん。
「そうだね。一番肝心なリボンがあるかどうか、あってもどんな品質なのかを知らないと作れるかどうか判断できないしね~。でも、手紙出す方法ってあるの?」
「うんとね、たまに来る商船が近日中に来ないなら、ほら、羊毛を買ったベッグ村の一つ先の村に良く商人が船で寄るみたいなので、そこまでルンバたちに頼んで運んでもらったらどうかな?それだど半日くらいで帰って来れるんじゃないかな?ついでに、ダンガさんに次いつ商船が来るのか明日聞いてみるね~。」
ダンガさんとは、ももちゃんの言葉の先生であった主婦の事だ。
今でも、ももちゃんは時々ダンガさんのところへ遊びに行っており、村の情報や言葉について教えてもらっているのだ。
「とりあえずは手紙だけでも書いておく?」とももちゃんが聞くと、「うん、そうだね!じゃあ、私が書いておくね~。」とめりるどんのフットワークは軽い。
「リボンの幅は1㎝未満の物をいろんな色で、長さが・・・・どれくらいあったらいいかな?」
「めりるどんは、ソープバスケット作ったことないの?」
「いや、あることはあるんだけどね…裁縫とは違うから、すぐに飽きちゃったのよ。う~~~ん。あの時、リボン何メーターだったっけなぁ?」
「え?メーターなの?」
「そうだよ~。7mだったっけ、8mだったっけ・・・。」
「それなら、上に飾る造花がないんだから、余ったいろんな色のリボンで蝶結びをたくさん作って、飾るっていうのもできるから、10mにしといたら?」
作ったこともないももちゃんだが、ソープバスケットというだけあって、装飾の主流は造花だったことは良く覚えていた。
「そうだね。リボンの値段がわからないけど、1本、10mで最低でも3色くらい欲しいってことにしておくかぁ~。」
「高かったら、男性陣、買って来ないかもね~。」とももちゃんが言うと、「じゃあ、何に使うのか、売れるんじゃないかっていう私たちの予想も併せて、手紙に書いておくね~。」
「ほほ~~~い。」
二人は夕食を済ませて、水のシャワーを浴びると、さっさと寝室に入っていった。
ベッドで横になりながら、押しピン木の実や鳥の羽、綺麗な貝殻、飾りになりそうな木の実などを収集しないとなぁ~なんて、ソープバスケットの材料について夜遅くまで楽しそうに話し合った。




