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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
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からくり事件解決

 グリュッグの町へは問題なく到着できた。

 さすが領主の紋章入りの馬車の威力。また、10人の騎兵の威力だとみぃ君は思った。


 町へ入ってすぐ、領主は馬車についていた窓から顔を覗かせ、「明日、昼過ぎにからくりの所へ行く。待っている様に。」と言い残し、アンジャたちの返事を待たずに、領主の館へ向かった。

 領主は今のところ、自分の息子のやらかした所業については何も言及していない。

 それは、息子を諫めることはしないという意味だとみぃ君は思った。

 この世界ではそれは普通の事なのだろう。貴族と平民、現代の日本人にはなじみのない制度だ。この世界にいる間は、納得がいかなくても、この世界のやり方にある程度従うしかない。


 みぃ君とももちゃんはアンジャの店まで馬車に乗せてもらった。

 馬車を降りてすぐ、アンジャに感謝の念を述べた。

 「たくさんの時間。たくさんの助け。本当にありがとう。」とみぃ君は、アンジャの目を見つつ言い、深く頭を下げた。


 「今回のことは、家の店にとっても重要な案件でした。今後は、『石鹸』だけでなく、スープの粉もお願いしますね。それを考えると、今回ご一緒できたのは、家の店にとっても良い商機となりました。今後も、どうぞよろしくお願いしますね。」とにこやかにごんさんに言い、「それでは、仕事がありますので。」と頭を下げ、店の中へ入って行った。


 みぃ君とももちゃんはもう一度、アンジャの店の入り口に向かって軽く頭を下げ、宿を取りに行った。



 翌朝は、2人で顧客巡りをした。

 まずは事件がどの様にして起こったのかの説明をし、自分たちのせいではないが、大きな迷惑を掛けたことについて謝った。

 次いで領主とお話しできたこと。今日の午後、また領主と会うので、それで今後の方向性が決まること等について、3軒ともに説明をして回ったら午前の時間が終わっていた。


 2人で昼食を摂った後、水車小屋へ向かった。

 水車小屋は無人で、小屋の外に領主代行が派遣している見張りの兵が1名立っているだけだ。


 みぃ君たちが水車小屋の中へ入ろうとすると、その見張りに止められた。

 「僕たちはこのからくりの持ち主です。通して下さい。」とみぃ君が説明しても、「このからくりは、領主代行様の物。入ることは罷りならん。」と一歩も引かない。


 結局2人は小屋の外で立ったまま、領主が来るまで待つことになった。

 見張りの横で、うんざりした表情を晒していた2人を見て、「どうして中で待たなかった。」と意地悪く聞いてくるところが、この領主の性格を良く表している。


 領主に続き、水車小屋の中に入ると、臼は止まっていた。

 それを見て領主は、「このからくりは動かなくとも小麦を挽けるのか?」とももちゃんを見て聞いてきたが、ももちゃんはとぼけて、「もちろん動かないと小麦は挽けません。私たちが管理していた時は、問題なく動いていましたが・・。店員も来ていないので、何がどうしたのか私たちには分かりません。」と答えた。


 「おい!店員を呼んで来い。」と領主に付き添っていた使用人が、領主の考えを読み取り、見張りに声を掛けた。

 見張りがドブレの家を知っているのかどうかは知らないが、見張りは、「はいっっ。」と直立不動になって大声で返事した後、バタバタと小屋の外へ駆けて行った。


 しばらくすると見張りがドブレを連れて来た。

 ドブレはみぃ君たちの姿が目に入ると同時に、「旦那様!」大きな声を上げて近寄って来た。

 「すみません。すみません。」と何に対してすまないのか分からない謝罪を繰り返す。

 「気にするな。お前のせいではない。それよりからくりが止まっているが?」とみぃ君がドブレの背中を軽くポンポンと叩きながら聞いた。


 「領主代行様が、からくりを摂取されて3日目の朝、突然止まりました。」

 「原因は?」

 「わかりません。大きな魚かゴミが水路に入り込んでからくりに当たって壊れたのではないかと言われています。」

 「言われている?」

 「はい、領主代行様の使用人の方が原因を追究されておりまして、結局それが原因ではないかということになりました。」

 「そうか。」


 「で、どうしてお前はここで働いていない?お前でなければからくりを動かせないはず?」とみぃ君が続けた。

 「からくりを修理できなかったので、動かないからくりに店員はいらないと言われまして・・・・。」とドブレは口を濁す。

 「そうか。」と、再び慰める様にドブレの肩をポンポンと叩きながらみぃ君が言った。


 水車小屋内を興味津々で眺めていた領主が、「これを直せるか?」とみぃ君に聞いてきた。

 「からくりを実際に見ないとわからない。」と答え、みぃ君はドブレに先導され、小屋の後ろにある水車のところへ行った。


 自分たちがした細工なので、どんな状態なのかは手に取る様に分かっているが、それを悟られない様に、水車に近寄ってあっちこっちを点検する振りをした。


 「これは、私には直せない。私たちの仲間が直せる。今、村に居ます。私たちが村に帰ったら、彼がここへ来て直すことは出来るかも。」

 「そいつが来たら、本当に直せるんだな。」

 「確かではない。だけど、おそらく直せる。」

 「よし、分かった。このからくりが動いているところを見たい。お前たちの言う通り、契約をしよう。」と領主はみぃ君たちの案をそのまま受け入れることにした。

 本来なら水車がちゃんと動いているのを確認した後に判断することを、故障したままの水車を前に決断したのは、恐らく愚息のした事への詫びが入っているのだろう。


 領主とみぃ君たちの間で交わされた契約の骨子は次の通りだ。


甲:領主 アルフォン・フォン・グリュッガー伯爵

乙:みぃ君たち4人


①甲が接収した乙が現在所有するからくり小屋1つ(以下からくり小屋1とする。)を設備・土地・建物ごと甲へ譲渡する。このからくり小屋の動産・不動産は永久に甲のものとする。


②甲はすみやかに上記からくり小屋のすぐ横の土地に、からくり小屋2つ分の土地・建物を無償で提供し、その動産・不動産は永久に乙のものとする。譲渡実施期限は本契約書を締結後一か月以内とする。

また、土地の大きさ、小屋の設計などは、乙が示した案に準ずるものとする。


③乙が甲より無償提供されるからくり小屋については、からくり小屋1に近い方をからくり小屋2、遠い方をからくり小屋3とし、内部のからくりは、乙が自身で設置する。その費用は乙が負うものとする。


④からくり小屋1、2、3のからくりを動かすのは、現在からくり小屋1で従事しているドブレと、今後乙が雇う作業員1名の計2名であり、これらの給与に関しては甲が未来永劫負うものとする。店員及び作業員に変更が生じる場合は、まず乙が新たな人物を選定し、甲が承認するをもって実施される。なお、作業員等の人数を増加する場合及び解雇する場合は、甲と乙の間で協議し、決定する。


⑤また、④で定めた給与の額は、甲と乙の間の協議によって決められるが、甲は乙の要請する金額に対し、正当な理由なくその金額を否定することはできない。就業時間についても同様とする。作業員らの仕事に係る時間、作業量は、突発的な故障などがない限り、各からくりに平等に費やすものとする。また、作業員らの作業内容については、乙が決定するものとする。 


⑥乙は月1回(最大1日)の割合で、からくり小屋1にある設備の調整を行う。ただし、各月のいつそれを行うかは乙の自由判断に委ねられる。


⑦もし、乙が何らかの理由で⑥を実施できない場合は、事前に甲に知らせ、それ相応の対応を代案として提出し、それを実行すること。


⑧⑥の調整で必要な材料の手配及び支払いは、甲に係る。甲は乙がグリュッグに到着するまでに、必要とされた材料を揃え、からくり小屋1の敷地内に保管すること。


⑨月1回の調整及びそれ以外の緊急な事態の対応で、乙がグリュッグへ来なければならない時は、その旅費、宿泊費、日当を甲が支払うものとする。


⑩からくり小屋1で精製される穀物及び類似品の値段は、乙が決めた料金と同じでなければならない。甲が第三者に無料で提供する場合は、事前に乙へ了承を得るものとする。


 領主とみぃ君の間で、サインがなされ、みぃ君とももちゃんはできるだけ早くザンダル村に戻り、ごんさんを派遣することを領主に約束した。


 「ここの横の倉庫は、わしの息が掛かった商人だから、他のもっと便利で広い土地を無償で用意してやれば問題なく移動するであろう。土地は1日2日で用意できるから、小屋の設計を家の者に伝えておけ。」

 そう言って去っていった領主の言葉に従い、みぃ君は2~3日の内にごんさんが水車の修理の為にここへ来るので、その時小屋の設計について伝える旨を見張りに話して、ももちゃんやドブレと一緒に水車小屋を後にした。


 ドブレにはザンダル村に戻り次第、ごんさんがここに来る様になるので、グリュッグに到着したらその日の内にドブレの家に行くと伝えて、水車小屋奪還に向けての協力に再度感謝の念を述べた。

 ドブレは照れた様に笑いながら「お待ちしています。」と頭を下げ、家へ帰って行った。

 

 翌日、みぃ君たち2人は、再度顧客であるパン屋を巡り、新しいからくりを作るので、1~2か月時間が必要となるが、出来上がったらすぐに小麦を受け付けることを約束して回った。

 ドブレにも協力に感謝し、ごんさんから預かっていた修理に必要な建材等を伝え、領主に伝える様にお願いした。

 もちろん、ドブレが直接領主にお願いなどできるはずもないので、水車小屋の前で見張っている監視員を介して伝えてもらう事にした。


 再度、アンジャの店へ寄り、これまでの尽力に感謝する気持ちを伝え、昨日の領主との話し合いの結果と、明日村へ帰ることを伝えた。


 翌朝、朝一番でザンダル村より先にある比較的大きな町への定期船に乗り込み、船長に少しばかりの鼻薬を利かせ、ザンダル村に寄ってもらい、問題なく村へ帰って来た。


 家に帰ると、めりるどんが駆け寄って来て、「おかえり」も言わず、「みぃ君、ごめん!出汁の粉がぁぁ・・・」と言って手の中にある壺の蓋を取って中身をみぃ君に見せた。


以前にもお伝えしましたが、明日(8/25)の朝、PCを修理に出しますので、一旦掲載をお休みさせて頂きます。

PCが戻ってきたら、また続きを書きますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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