表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
49/143

水車小屋奪還作戦 その4

 そうこうしている内に夕方になり、ももちゃんを『タヌキのねぐら』に残したままみぃ君だけでルンバの舟まで移動した。


 「こんばんは。」

 「「こんばんは。」」現地の言葉で挨拶をしたみぃ君に、ごんさんとルンバが答える。

 「早速だが、これを上から被ってくれ。」とごんさんがみぃ君に深緑の布を渡した。


 「夜になると、深緑の服の方が見つかり辛いからな。今日の午後、買ってきたんだ。」とごんさんは既にその布を羽織っていた。

 ただの長い四角の布の端を纏ってある物を頭から被り、首の所を上から黒い紐で軽く結わえ、マントの様にして着込み、まだ夕方なので頭の部分は被せない様にしていた。


 「夜に目立たないのは黒じゃないの?」とのみぃ君の問いに、「いや、黒は案外暗闇では目立つんだよ。深緑の方が暗闇に紛れやすいんだ。」とごんさんが答えた。

 みぃ君も手渡された布を早速同じ様に着込んだ。


 「ルンバにはないの?」

 「ルンバは舟で待機だから、莚を広げてその下で横になってもらう。」

 「そうか・・・。」

 「じゃあ、そろそろ出発するか。」とごんさんが言った後、ルンバの肩をバシバシと叩き、にっこり笑って「出して。」とルンバに舟を動かしてもらった。


 ルンバはグリュッグの町をあまり良くは知らないが、幅の広い川は1本しかないので、それを遡るだけだ。迷子になる要素はなかった。


 水車小屋が見えてくると、ごんさんがそこへ着けてくれる様に頼み、2人を降ろした後ルンバは打ち合わせ通り少し離れたところへ舟を移動させた。


 水車はまだ動いている時間で、こちらが多少音を立てても誰も気づきそうになかった。

 塀の手前でごんさんが両手を組んで、その上に片足を乗せて塀に掴まったみぃ君を塀の上に押し上げた。

 無事、水車に巻き込まれることなく塀の内側へ降りたみぃ君が手を上にあげたところで、その手に工具の入った木桶を手渡してからごんさんも塀の向こう側へ移動した。


 時間的にはそろそろ終業時間なので、ドブレが水門を閉めに行くはずだ。

 みぃ君もごんさんも塀に寄りかかってじっと閉店の時間が来るのを待った。


 ほどなくして小屋の中から声がして来た。

 「兄さん、これ・・・・だよ。見事に・・・でしょう?」 

 臼の動く音で全部までは良く聞こえなかったが、ドブレがパソに水車小屋が動いてるのを見せている様だ。

 

 「じゃあ、マンボ兄さんが来る前に片づけるね。」と、今度は水車の真横で言ったのか、はっきりと聞き取れた。


 しばらくして塀の外側を走る音がした。

 走りながら、2回、ノックの様に外から塀を叩かれた。

 こちらからも2回ノックをした。

 これは、ごんさんとドブレの間で事前に決めた符牒で、既にごんさんとみぃ君が塀の内側にいるということが分かる様にしたのだ。それと同時に今はマンボがおらず、ドブレとパソの2人だけということも伝わった。

 なぜならノックの回数が今ここにいるそれぞれの側の人数(見張りは除く)を表しているからだ。


 ドブレが水門を閉めても僅かの間は水車が回る。

 回転が遅くなって来たら手で止めて、楔をまず外した。

 日の光がまだあって手元がいく分明るい内に、釘抜きで釘なども抜き始めた。

 水車小屋の前ではドブレたちが見張りと世間話をしながら、マンボが来るのを待っているはずなので、多少の物音なら気にせず作業できる。

 

 どこに釘を使ってあるのか知っているので、比較的簡単に釘を外すことは出来た。

 ごんさんとみぃ君は水車の外側の円板を掴み、顔を見合わせながらタイミングを合わせて円板を外そうとした。


 水を吸って多少重たくなっている円板だが、力を入れて数回に分けて少しづつ動かすというのを繰り返していたらなんとか外れた。

 水受け板の約半分も、音が出ない様に厚めの布を巻いた上からトンカチで少しづつ叩いて外した。


 ドブレたちが見張りの気を引いてくれるのは約1時間の予定なので、そろそろ時間だ。

 そう思っていたら、夕方でも響く大きな声で、ドブレたち3人が見張りに暇乞いをしている声が聞こえて来た。

 まだ一滴も酒は飲んでいないはずだが、酔っ払いの如く大きな声だったので、自分たちに聞かせる為に、できるだけ陽気に大きな声を出してくれた様だとごんさんたちは思った。


 小屋側の円板も外す予定だったが、今外せているのは川側の円板だけだ。

 音が出て見張りに見つかる危険を冒すよりも、片方の円板だけでもきっちり割ることの方が大事だとごんさんは思った。それを小声でみぃ君に伝え、円板は1枚だけを外した。


 ごんさんとみぃ君は塀の内側で陽が完全に落ちるまで待った。

 しばらくしたら日が暮れて、対岸にある家のいくつかにささやかな灯がともっただけで、倉庫街には灯はなくなった。

 本当は小屋の表側には見張りのための松明が焚かれているのだが、ごんさんたちのいる所からは建物が邪魔になって灯は見えない。


 ごんさんがゆっくりとみぃ君の肩をトントンと叩き、行動開始の合図を送った。

 2人がかりで円板1枚を塀の外に運びだし、川の中に入った。

 円板は、一旦降ろし、川底に立てて、転がした。

 移動することで水音を立てない様にするために、腿を水面から出さない様にすり足で川の中を移動するのと、足裏で尖った石を探しつつなので、移動時間は遅い。

 この川は倉庫街に面しているので舟で荷物を運ぶ事が多く、浚渫されているのか、それとも元々からの深さなのか、川岸でもかなりの深さがあるので助かった。


 水車小屋の付近では尖った石は見つからず、隣の倉庫付近まで移動しつつ石を探した。

 隣の倉庫の水車小屋側とは反対側の端っこにあたるところで、みぃ君の足裏に比較的尖った石が当たった。

 円板を横にして尖った石の真上に置いた。


 みぃ君とごんさんで互いの肩に手を回し、バランスを取りながら円板の両端に立ち、大きな動作で円板の上で飛び上がった。

 飛び上がると言っても、水中の事なので水面より上に飛び上がるなど無理だ。だから、威力はそれほどでもなかった。

 もちろん、これくらいでは円板は割れない。

 が、川面は水が波立った。


 音が響いたかも?と二人ともしばらくその場で固まった様に立ち尽くし、見張りの足音が聞こえないか待った。

 何も聞こえないことを確認して、再び円板に体重を掛けながら割れる様に飛び上がる。

 円板はびくともしない。


 「工具で割るか?」とごんさんがささやき声でみぃ君に確認を取る。

 みぃ君がゆっくり頷いて、念のために持ってきていたノミととんかちを木桶から取り出した。


ごんさんは、ノミととんかちを水中で動かし、心棒が嵌っていた四角の穴の角に切り込みを入れ様としたが、水中なので浮力があり、研ぎ澄まされたノミの刃が少し食い込むだけで、トンカチは役には立たなかった。

 みぃ君に円板を押さえてもらい、なんとか少しだけ切り目を入れることが出来た。


 工具を再び木桶に入れ、流されない様に中に水を入れて川底へ沈める。

 男二人はまたお互いの肩へ手を当てて、尖った石の上に乗せた円板の両側に立ち、力を入れて踏みしだいた。

 すると円板そのものを割ることはできなかったが、入れていた切り込みが広がり、大きなが亀裂が入り、円板は二つに曲がった。


 割る事が目的なので、割った後に体勢が崩れるのは頭の中にあったのだが、暗闇の中なので平衡感覚を保つ事が難しかったのか、ごんさんが大きく後ろに倒れてしまった。

 バッシャーーーン

 大の大人が後ろ向きに倒れたのだ、水音はとても大きく響いた。


 音がしたと同時にみぃ君は出来るだけ腿を水面から上げずに速足で隣の倉庫の陸地を目指した。

 ごんさんは倒れながら背中からではなく、四つん這いになる様に体勢を変え、とっさに水車小屋の方を見た。

 すると、見張りだろうか、ぼんやりとした灯が水車小屋とごんさんたちがいるのとは反対の隣の倉庫の間で動くのが見えた。

 おそらくまだ見張りは水車小屋の裏側までは来ておらず、そこへ向かっているところだと判断したごんさんは、大きく息を吸い、円板が浮かび上がらない様手で押さえつけ、自身も浮き上がらない様に川底の別の石を握った。


 体が川の流れに対して横向きにならない様に体を水中でそっと移動させる。

 川の流れに対して横向きだと、抵抗を受けるので体力を余分に使うことになるからだ。

 頭は川上に向ける。なぜなら、足は軽いから、足が流れを受け止めると川面に浮かびやすいからだ。


 息が切れる前までに見張りが定位置に戻ってくれればいいのだが・・・と思いつつ、ごんさんはじっとその場に潜む。

 その時、はっと思い出したが、今朝方雨が降ったことにより地面がぬかるんでいた。

 もし松明の灯で地面を調べられると足跡が残っているはずで、水車が壊れているのが今ではなく明日の朝に見つかったとしても自然に壊れたのではないと思われるかもしれない。

 そう考えると水中にいるにもかかわらず嫌な汗が出て来た様な気がするので、変なものである。


 みぃ君は隣の倉庫の影に隠れていた。

 人が歩く様な音は聞こえないが、見張りが川側にいるかもしれないと思うと、迂闊に顔を覗かせて確認するのも発見させるきっかけになるのではと憚れる。

 ごんさんに言われた通り、ごんさんが探しに来るまでは動かない方が良いだろうとじっとしていた。


 水中から目を開けて見ていたごんさんだが、水車小屋から少し離れているからか、見張りの持つ松明の灯をぼんやりとしか確認することはできなかった。

 それでも見張りが川に向かって左右に松明を動かしているのが分かった。

 これ以上は息が続かなくなってきた時、水中から左右にゆっくり動く松明の動きを見て、その動きが作り出す陰影を観察し、見張りが反対側を見ていると思われる時、水中で仰向けになり、鼻と頭の一部をゆっくりと水面に出した。


 見張りに見つかる可能性はあるが、これ以上水中にいることは無理だったので、息継ぎをすることにした。

 見張りに見つかるかどうかは賭けである。だが、本当に体の一部しか水面に出ていないので、見つからないことを祈りながら、鼻で息をした。

 頭の一部も水面に出したのは、頭を防波堤代わりにし水が鼻に入りにくくするためだ。

 この為にも頭は川上に位置する必要があったのだ。

 また、一旦鼻から吸った空気は口に回した。そうしないと水も一緒に入ってくる可能性があり、肺に直接送ると咽てしまうからだ。


 なんとか見張りに見つからず、空気を吸うことができ、また水中に潜る。

 しばらくすると松明の灯は見えなくなった。

 それでも、まだ見張りがいては困るので、かなりの時間待って、ごんさんは漸く水面から少しづつ頭を出した。


 かなりの時間が経ったからか、見張りは既にいなかった。

 みぃ君がいるであろう隣の倉庫の方を見て、割れかけの円板と水を抜いた工具の木桶を抱え、そろそろとゆっくりだが、みぃ君の方へ移動して行った。

 今は、円板にはヒビが入っており、2つに曲がっているので、水中で転がして移動することができず心棒が嵌っていた穴に腕を通して運ぶことにした。工具の木桶も川中に沈めたままだと後で場所が分からなくなり回収できなくなるので、水中から持ち上げ、反対の腕に抱え込んだ。それらを一人で抱えて移動するのはとても難儀だったが、まぁ、やるしかない。


 川岸につくと、手に持っていたものは地面に置き、みぃ君がいそうな所を探した。

 と言っても隠れる場所はそんなにないので、すぐに見つけることができた。

 自分たちの足跡を消すために、一旦工具を取り出して空になった木桶に川の水を汲み、隣の倉庫の川側の地面に水を撒いた。


 そして、二人で円板と工具の木桶を抱え、水車の所へもどり、割れかけの円板を塀の中のそれらしいところに置き、水受け板を忘れず回収し、地面に水を撒いて足跡等を消し、工具の木桶の中に水受け板をぶっこんでルンバがいる方向へゆっくりと川の中を歩いて行った。


 自然に壊れた様に見えるかどうか分からないが、兎にも角にも水車小屋は使えなくなった。

 唯一気がかりなのは、見張りが地面の足跡を見たかどうかだが、今それを心配しても何もできない。

 明日、見張りが足跡等に気付かれたかどうか確かめる為に、ドブレに聞いて欲しいとみぃ君に頼み、翌朝ごんさんはルンバと村へ帰って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ