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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
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水車小屋奪還作戦 その2

 みぃ君は、グリュッグの港に着いてすぐ、アンジャの店へ駆けて行った。

 おそらく店はもう閉まっているが、もしかしたら店内に誰かいるかもしれない。

 そう思ってひたすら走った。


 果たしてみぃ君がアンジャの店の前に着くと、戸は閉められていたが、店内には僅かな灯がある様に見えた。

 この機を逃してはいけないと、思いっきり扉を叩いた。


 「はいはい、店はもうお仕舞いですよ。明日来て下さいね。」と柔らかい男性の声が聞こえたが、みぃ君はひたすら扉を叩く。

 「すみません。石鹸のみぃです。開けて下さい。」と声を上げる。


 しばらくすると扉の向こう側でガサゴソ音がして、扉が内側から外側へ開いた。

 「みぃさんではないですか。こんな遅い時間にどうしたんですか?」と、扉を開けてくれたのは、この店の番頭さんで、ももちゃんに文字を教えてくれた人だ。


 「アンジャさんに相談したい。急いでいる。お願いします。」と走って来たために息が切れたままのみぃ君が、知ってる単語を繋ぎ合わせて、なんとか説明しようとした。

 「そんなに急いでいらっしゃるということは、一大事という事ですか?」

 「はい。この町に粉挽のからくり小屋を建てた。領主の息子に接収された。理由は僕たちがこの町に住んでいないから。石鹸も僕たちが作っている。作っても接収されたら儲けはない。」


 「ええ!?あの粉挽のからくりを作ったのはあなたたちだったんですか?」と番頭さんは驚いた顔を隠しもせず、みぃ君に詰め寄った。

 「そう。僕たちが作った。でも、取り上げられた。からくりを取り返すことができないと、石鹸もいつ接収されるか分からない。安心して商売ができない。だから、アンジャさんに相談したい。」


 「かしこまりました。今、アンジャに聞いてまいりますので、とりあえずは店内に入って待ってて下さい。すぐ戻りますので。」と言い終わるか終わらないかの内に、番頭は2階の住居スペースへ上がっていった。


 みぃ君は店の奥にある事務スペースにある数少ない椅子を見つけ、それに座った。

 アンジャが降りてくるまで途方もなく長い時間が流れた様な気がする。実はほんの一瞬だったのだが、早くアンジャに相談したいみぃ君にはとてつもなく長い時間に感じた。


 番頭を後ろに従えたまま、二階から降りてきたアンジャが椅子に座ったみぃ君を見つけ、そちらへ歩み寄った。

 それを見ていたみぃ君も、椅子から立ち上がり、アンジャに向けて軽く頭を下げ、挨拶をした。


 「あなた方が、粉挽のからくりを作られたと伺いましたが、それを領主の息子に接収されたのは本当ですか?」と前置きもなしにズバッと問題の中心部分に触れてきたアンジャは、自分も椅子に座りながら、みぃ君にも身振りでさっきまでみぃ君が座っていた椅子を薦めた。


 走りつかれたみぃ君は素直に椅子に座り、「はい。グリュッグに住んでないから、接収と言われた。その時、僕たちは村に帰っていた。店員だけがからくりの所に居た。」とアンジャの質問に答えた。


 「からくりの小屋がある土地は、あなたたちが購入した土地ですか?」

 「はい。僕たちの土地で、役所に登録手数料払いました。」

 「う~~む。ということは、営業権について何か言われたとしても、1年間は猶予があるわけだし・・・・。接収したのは領主ではなく、領主の息子だったというので正しいですか?」

 「はい。」


 アンジャと番頭はお互いの顔を見合わせたのち、瞳だけの会話をしたかの様に二人が同時に頷いて、みぃ君の方を振り向いた。

 「領主の息子というのは、評判があまり良くありません。酷い人間という訳ではないのですが、他人の話に耳を貸さないというか、一度自分で決めた事を覆されるのを特に嫌がります。」

 「覆される?」と、みぃ君が語尾を上げて、理解できない言葉を繰り返す。

 「変えられるというか、決めたことをひっくり返されたり、やめさせられることを嫌がるということです。」

 番頭の説明に、みぃ君が分かったと頭を縦に振って意思表示をした。


 「もし、話しをするなら領主様の息子とではなく、領主様と直にお話しをする方がいいです。」

 「僕たち、領主を知らない。どこにいるのかも知らない。」

 「ああ、そうですね。おっしゃる通りですね。あなた方が直に領主様に面談を要求しても、会う事は叶わないでしょう。」とアンジャが言いつつ、しばらく考え込んだ。


 アンジャはみぃ君の目をハタと見据えて、「もし、今回私がからくりを諦めて、石鹸だけで商売をしてみたらと言ったら、あなたがたはどうしますか?」と聞いてきた。

 そんなの考えなくても答えは決まってる。

 「信用できない領地での商売は話になりません。他の町で商売します。二度と、ここでは商売しません。」と、みぃ君もアンジャの目をハタと見据えて回答した。


 「そうでしょうな。私があなたでも同じ様に考えます。私は領主様には何度かお目通りをさせて頂いておりますので、事情を説明して、あなたを領主様に会わせる事はできるかもしれませんが、例え領主様とお会いできたとしても、粉挽のからくりの事で便宜を図って下さるかどうかは分かりません。」

 アンジャの目をしっかりと見つめながら聞いていたみぃ君の眼差しは、少しきつくなった。


 「まぁ、先ほど言われた様に、からくりを不当に接収されれば、そんな者に石鹸を売りたくない。それどころか、同じ理由で石鹸まで巻き上げられるかもしれないという危惧は、理解できます。」

 「はい。」


 アンジャは、みぃ君の目をじっと見て、無言の時間が続いた後、漸く口を開いた。

 「分かりました。ようございます。石鹸の商売は私どもにとっても大事な商売です。領主様にみぃさんを会わせるために、私も一肌脱ぎましょう。領主様が今療養されているのは、ここから馬車で順調に行けば2泊3日のところにある湖のある避暑地です。どうしますか?まず私一人で行って来て、領主様がお会いになるとなったら、みぃさんたちを呼びましょうか?それとも会えるかどうか分からなくても、一緒に行ってみますか?」


 「最初から一緒に行きたい。お願いします。」みぃ君の回答は微塵の揺らぎもなくきっぱりと発せられた。

 「僕と一緒に、もう一人女性が一緒に行く。文字を教えてもらったももちゃんです。」

 「わかりました。すぐに行ければ良いのですが、私は明日大事な顧客に呼ばれておりますので、出発は明後日になりますが、良いですか?」

 「はい。お願いします。」

 「では、移動の間に、どの様に領主様にお話しするかを決めましょう。」

 「ありがとうございます。夜遅くに来て、すまない。助かった。」と、みぃ君が軽く頭を下げると、アンジャと番頭はみぃ君に向かって1回頭を下げた。


 「明日には、出発の時間を決めておくので、一度、店に来て下さい。」

 「わかった。」


 みぃ君はアンジェの店に向かった時より、幾分落ち着いた気持ちでルンバの舟に向かった。



 ももちゃんは、グリュッグの港に着いてすぐにいつもの宿へ向かった。

 女一人で夜繁華街を移動するのは幾分心細かったが、ここで躊躇していては、宿屋の部屋が塞がってしまうこともありえる。宿が見つからなければ寝る場所に困ることもあり、思い切って夜道を急いだ。


 『タヌキのねぐら』は、食堂兼飲み屋が入口で、その奥に宿への階段がある作りなので、まずは男たちが酒盛りをし、女店員たちが客に媚びを売っている場所へ女性一人で入らなければならない。

 とても敷居が高い・・・。


 「いらっしゃい!」と女店員が声を掛けて来た。

 「こんばんは。2人部屋を一つ。朝食付きでお願いします。連れは後から来ます。」とももちゃんが言うと、彼らにとっての外国人だからか、前回来た時のことを覚えててくれていて、スムーズに2階の部屋がとれた。


 荷物を部屋へ置いて、すぐに階下に降りてきたももちゃんは、「今夜の夕食は外で食べます。朝食はここで食べます。あさって以降、お部屋が必要かどうかは、明日お話しします。」と言うと、「あいよ!」と威勢の良い女店員の声が答えた。

 「行って来ます。」と一言いいおいて、ももちゃんは道中夕食を買い込みつつ、ルンバ達の舟に向かった。


 ももちゃんがルンバの舟に着いた時は、まだみぃ君もごんさんも戻って来ていなかった。

 一旦、両手いっぱいに抱えていた夕食をルンバの舟に置いて、「すぐ戻ります。」とルンバに声を掛け、近くの酒場でエールと簡単なツマミを買ってきた。

 「ルンバ、先にエールをどうぞ。ごんさんたちは遅くなるかもしれないので。」と、ももちゃんがルンバに差し出すと、「夜の繁華街は危ねぇ。女一人で行くことはねぇ。酒くらいは俺が買いに行くから、気を使わなくていい。」と、ももちゃんを気遣ってくれた。


 見た目が大きくてごっついので、ちょっと怖く見えるが、中身はとっても優しいことを知っているので、ももちゃんはルンバが優しい言葉を掛けてくれることには驚かなった。ましてや、怖い思いをして舟と宿を往復したので、ルンバの気遣いがえらく沁みた。

 「ルンバ、ありがとう。」と素直にお礼を言った。


 そうこうしている内に、みぃ君が先に舟に戻って来た。

 「待たせた!ごんさんはもう戻って来とんの?」

 「まだだよ~。宿はみぃ君と私の分だけ取っておいたよ。今夜の夕食は無しで、明日の朝食は頼んでおいた。ごんさんたち二人の朝食は、明日、この辺のお店で買った方が、万が一後で調べられても、ごんさんがグリュッグにいることはバレないだろうと思うので、頼まなかったよ。延泊する時は、明日また言うことにしておいた~。」

 「そっか。こっちは無事アンジャと話せたよ。領主の息子やのうて、領主に直に話した方がええってことになって、領主と直に話すために、この町から片道3日のところにある避暑地へ、アンジャと一緒に行くことになりよった。出発は明後日になりそうや。」

 「じゃあ、私たちの延泊は決まりだね。」

 「そうやな。」


 ももちゃんが買ってきたエールに手を伸ばしながら、みぃ君も晩酌を始めた。

 それを見て、ももちゃんが、今みぃ君と話したことを現地の言葉でルンバにも伝えた。

 今回は、ルンバにもいろいろと手伝ってもらう事もあり、また、グリュッグでの滞在期間を知ってもらう為にも、できるだけ情報共有はしておいた方が良いと思ったのだ。


 そうこうしている内に、ごんさんがドブレところから戻って来た。

 早速夕食を食べながら、それぞれが得た情報を共有し、意見の交換を行った。

 その夜、ごんさんはルンバと一緒に舟で雑魚寝をした。


領主の療養地までの移動時間を変更しました。

2日⇒2泊3日

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