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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
43/143

みぃ君の試行錯誤

 その後も4人は主に夜の時間、羊毛を撚って毛糸にしながら、出汁の粉作りについて話し合った。


 そしてごんさんは1週間の間、獲れるだけの肉を獲って、グリュッグへ戻って行った。

 前に使っていた手作りハンモックと、少しばかりの出来立ての石鹸、晩酌用の小樽の猿酒、出来たばかりの燻製肉を少々等を舟に積んだ。


 石鹸は、グリュッグへ着いてからアンジャの店に売りに行き、現金を得るためだ。

 今は、少しでも現金収入が欲しいのだ。


 水車小屋の中にハンモックを吊るし、宿屋ではなく水車小屋の中で寝泊まりすることにした。

 1か月も宿屋暮らしをしていたら、水車小屋の儲けがほとんどなくなってしまうからだ。

 体が辛いと感じた時は宿屋で寝ることに決めておけば、体調を崩すこともなく問題はないだろう。

 食事は、近くの飯屋で済ませ、朝食は燻製肉と野菜を煮込んだスープで済ます為に、みんなが作ってくれた燻製を舟に乗せた。


 「あっ!旦那様。」と水車小屋へ姿を現したごんさんを見て、ドブレが嬉しそうに駆け寄ってくる。

 「道中はいかがでしたか?ザンダル村での用事は全て終わったのですか?」と矢継ぎ早に質問してくる。ごんさんの姿を見て心底安心したのか、何かが堰を切った様にドブレの中で溢れて来たらしく、ドブレの会話は終わらない。


 「問題はなかったか?軸受けのグリースは定期的に変えたか?」とごんさんの方も、水車や心棒周りのメンテナンスを確認していく。

 ドブレは言われた事は全て手を抜かず実施していた様で、水車も問題なく作動している。


 「がんばったな。」とごんさんがドブレの背中をポンポンと叩くと、ドブレが心底嬉しそうな顔をした。

 翌日からもごんさんはドブレの仕事の覚えに満足しながら、繰り返しメンテについて教え込む。

 段々とドブレの仕事も危なげがなくなり1か月もグリュッグにいなくても良いかなと思いつつ、様子を見ている。



 一方、ザンダル村では、みぃ君が出汁の粉作りに精を出していた。

 ジャイブが貝担当になった様で、蛤もどきを持ってきてくれた。

 その蛤もどきは、みぃ君の掌よりも大きな貝で、どうしてジャイブが最初にあの高い値段を付けたのか、その大きさを見て理解した。

 そして、貝を開けて見てびっくり、中身はホタテ貝と似た貝だったのだ。

 これなら処理はしやすい。

 みぃ君はさっそく試作に取り掛かった。


 まず浜辺に適当な石を組んで竈の様な物を作り、4人が持っている一番大きな鍋と、家の物置で保管していた水分の抜けた薪をいくつか運んだ。

 鍋を持って、浜辺で海水を掬った。鍋にはたっぷりと海水が入っている。

 早速火を点けて海水を沸かし、貝殻ごと貝を入れ、海水で湯がいた。

 熱を通すと、ちょっと振動を与えるだけで貝柱がぽろっと貝から外れた。


 ホタテと同じく貝柱にはヒモやワタがついているので、それを手作業で外す。

 塩水を作り、そこへ貝柱とヒモを入れて漬け込む。ある程度時間が経ったら水気を切り、貝柱を干す。

 干すには、漁で使う網よりももっと細かな目を持つ網をルンバ達に用意してもらい、それをめりるどんに上から吊るせる様に縦にいくつかの小部屋の様に仕切りを取り付けた物干しネットを作ってもらった。


 4日過ぎたころから毎日少しだけ触ったり重さを量ったりして乾燥しているかどうかを確認した。

 重さを量ると言っても、この世界にはまだ秤などなかったので、簡単な釣り天秤を作って、同じ様な重さの小石をその天秤で量って数を揃えて、その石を分銅替わりにして量ったので、大体の重さしか分からないが、この場合はおおよその重ささえ分かればいいので問題ない。

 貝柱については、あまり難しい事はなかったが、煮干しはももちゃんの説明だと大変な作業になりそうだと思ったみぃ君は、煮干し作りに一番気を使った。


 ルンバたちからほぼほぼタダみたいな値段で大量の小魚を買った。

 この小魚の掃除にはジャイブの奥さんである、ロミーに最初から手伝ってもらった。

 ロミーは真直ぐな銀髪を肩より少し長めにカットしており、スラっとした美人なのだが、夫のジャイブと一緒で幾分口数が少ない。

 暗めの美人と言えばよいのか。ただ、必要な事は、抜かりなく伝えてくるので、仕事を頼むには持って来いな人物だた。


 木のスプーン(ここでは金属のスプーンは見たことがない)で頭と腸を取り除き、海水で血合いを取り除く作業を大量の小魚で行わなければいけない。

 金属のスプーンではないので、頭やワタを取っても、綺麗な切り口にはならないのが完成品の品質にどんな影響があるのか分からないが、他に道具もないので、先の厚みを薄くした木のスプーンを使わざるを得ない。

 スプーンの厚さ調整は、めりるどんがやってくれた。


 「あら。身までとれちゃった・・・。」と時々ロミーが独り言ちしているが、それも木のスプーンでの作業なら仕方のない事だ。

 「気にしなくて大丈夫。」とできるだけにこやかに見える表情を浮かべてロミーを励ますが、雇い主のみぃ君に失敗した事を自己申告したのと同等の行為をうっかりしてしまった事に気付いたロミーは、バツが悪そうな表情を浮かべ、軽く頭を下げて作業に戻った。


 掃除をした小魚は桶に入れ、何度も海水で洗い、最後は真水で洗った。

 中身を取り出し綺麗にした桶に、下処理をした小魚を入れ、塩と酒と水を入れる。

 この時の酒は、酒場で売っている安いエールを使った。


 ここまではももちゃんの説明をおおざっぱに復元してみた。

 蓋をし、日陰で丸一日漬け込むと、表面が泡で覆われ、更に半日放置していたらつけ汁が濁って、更に泡が立っていた。匂いもとても強烈だ。


 その様子をももちゃんに確認してもらってから、漬け込み水を捨て、なんどか真水で洗浄し、大きな鍋に塩水を沸かし、小魚を入れて煮る。

 煮る時間はほんの数分。

 そのまま笊に並べて天日干ししてみた。


 こちらも煮干しの状態になるまで根気よく天気を見ながら干した。

 天気を見て、笊を4人の家の横にある倉庫へ入れたり、倉庫から出したりをジャイブの奥さん、ロミーにしてもらっていた。

 干す場所は浜辺だ。重たいものではないが、数が多いので、みぃ君も朝とスコール前の出し入れは、手伝った。


 みぃ君にまとわりついている子供3人の内、一番年下のノコノコがジャイブたちの子供だった。

 毎日の様にみぃ君を探して村の子供3人衆が遊びに来るのだが、みぃ君たちの家に、正確には倉庫にだが、ロミーがいることが嬉しいのか、ノコノコは勝手知ったる他人の家ではないが、4人の家、中でもトイレや、シャワー室、ベッドなどを嬉しそうに母親に披露していた。


 最初ロミーは、他人の家の中を遠慮なく見て回るのを申し訳なく思っているのか、手を引くノコノコを抑え、「勝手に他人の家を覗いちゃだめなのよ。」と言っていたが、村のインフルエンサーたちが改造した家なので、本心では中をじっくり見てみたいらしく、目はずっと家の中を向いていた。

 それに気づいためりるどんがにこやかに、「どうぞ~。」と言って、ロミーを招き入れた。


 ロミーはトイレにも驚いたが、シャワーには心底驚いていた様だ。

 その日の夕方のシャワーの水が足りなくなったら困るので、めりるどんが紐をひっぱってほんの少しだけ水を上から垂らしてみせると、いたく感心していた。

 シャワー室の中には、めりるどんが作った液体状の石鹸が置いてあったし、脱衣場として使っている食糧庫の入り口には、ももちゃんの作った暖簾が掛かっており、シャワー室を使う人のプライバシーを確保してある。


 ロミーの家にはもちろん風呂もシャワーもない。時々水で体を拭くくらいなのだが、それも、こんなプライバシーを確保したスペースなどなく、寝室で家族のいない時間などにたまに体を拭くくらいだ。

 ロミーは、体を拭く時、こんな感じで落ち着いたスペースがあると良いと、家に帰ったら真似をしてみようと思った様で、自宅の食糧庫は使えないが、どうやったらこんな風にできるかとめりるどんに聞いてきた。

 「板を立てるといいよ。」とめりるどんは、衝立について説明を試みたが、ロミーには伝わらなかった様だった。


 また、悪臭を取るためにめりるどんが作ったエアープランツのオブジェや、毎日の様にももちゃんが天日に当ててふかふかにしてくれてる羊毛のベッドを触って、驚きの表情を浮かべていた。

 「羊毛ってこんなにフカフカになるのですね。」と、思わずロミーの口から零れていた。


 後日、ロミーから4人の家の事を聞いた村の主婦たちが、是非家を見せて欲しいと訪ねて来て、対応に困ったのはまた別の話だ。


 さて、海老だが、ここで採れるのは結構大きな海老で、ロブスターとまではいかないが、ブラックタイガーよりも大きな海老だった。

 これに関しては、チャチャの奥さんに手伝ってもらって殻を外してもらっている。

 チャチャの奥さんは、どっしりと横に広がった体系で、いかにもチャチャを尻に敷いてそうな貫禄っがあった。 


 貝柱も煮干しも、海老殻も干すのは、全てジャイブの奥さん、ロミーがしてくれるので、チャチャの奥さんには殻を外してもらう仕事と煮干し作りのお手伝いをしてもらっている。

 ジャイブの家では、この村ではめずらしく犬を飼っていたので、干している物の鳥対策に、犬も動員してもらっている。


 干し貝柱の下拵え等は、主にルンバの奥さんが手伝ってくれることになった。

 奥さんたちは3人で別々の作業をしながらも、にぎやかに会話しながら作業を進めている。

 浜辺に椅子を並べて、ロミーが木のスプーンで小魚の処理をしている時、その横ではチャチャの奥さんが海老の殻を剥いていて、更にその横にルンバの奥さんが座り、貝のヒモなどを取り除いている。

 彼女たちの会話は井戸端会議の延長の様で、聞いていると村の中のいろんな出来事が分かる。

 みぃ君も時々その会話を聞いて、夕食時の話題として2人に面白おかしく話したりしている。


 みぃ君は、海産物の下処理の仕方を定め、ロミーたちに教えたので、彼が本来担当している畑仕事の為に作業小屋へ行ってはいるが、時々、彼女たちの作業に問題がないかどうか確認しに村へ戻ることを繰り返していた。

 まぁ、何かあれば村で作業をしているももちゃんに判断を仰ぐ様に伝えてはいるのだが、出汁の粉に関しては自分が音頭を取っているので、心配でついつい村へ戻って浜辺へ様子を見に行っているのだ。

 どっちにしてもスコールの前には村に着く様に、畑仕事の段取りを組んでいるので、1回は村へ様子見に戻ることになっている。

 もちろんその際は、お酒造り用のフルーツを家にも運んでいる。

 この様子見のせいで、2回作業場と村とを往復するので、お酒用のフルーツの量がいつもの1.5倍近く村へ運ばれているのだ。

 作れるお酒の量が増えるのは嬉しいが、フルーツを絞ってジュースにもしなければならず、秘かにももちゃんは悲鳴を上げている状態なのだが、めりるどんもみぃ君もそれに気づいてはいなかった。


 浜辺に座って作業している彼女たちを見て、日差しが強いし、風も吹くから、浜辺に小さな作業小屋を作る必要があるなぁと考えた。

 そして、作業している彼女たちの手は、長時間水を浸かっているので指先がふやけている。

 そんなところを見て、みぃ君は今更ながらに、この仕事は軽作業ではあるが、決して楽な作業ではないなと思った。働く環境がまだ整っていないので、そのしわ寄せはロミーたちに行っている。できたら小屋の建設は急いだ方が良いな。今夜にでもモリンタ担当のももちゃんに相談してみるのもいいかもしれない。そう思いながら、またジャングルにある作業小屋へ向かって歩いた。

 


 試作品を作り始めてから、海老の殻は出汁の粉作りに活用するが、結構な量の身が手元に残る様になった。

 そこでめりるどんから夕食時に提案が上がった。

 ごんさんはまだグリュッグだが、出汁の粉作りは既に動きだしているのだから、ごんさん不在でもどんどん話を進めていく。

 「この海老の身をさぁ、なにか揚げ物にして売り出さない?フィッシュアンドチップスじゃないけど、芋フライと一緒に抱き合わせて売れば売れないかなぁ?」


 「お!それはええ案かもしれへん。毎日海老のスープばっかり食べるわけにもいかんしな。」

 「料理するのはいいけど、売るのは手間じゃない?」というももちゃんに、「じゃあ、酒場で売ってもらったらいいんじゃない?」とめりるどんがあっさり答えた。

 

 「手数料取られたら利益ないんじゃないの?」

 「まぁ、作った物食べてもろうて、値段交渉してみるよ。最悪、赤字でなければいいんやし。」

 「え?そんなんでいいの?」とももちゃんは疑問顔だ。

 まぁ、まかせてというみぃ君の要望に応え、さっそくももちゃんが料理した。


 みぃ君は揚げたての海老と芋を持って、村唯一の雑貨屋兼酒場へ行き、試作品を食べてもらった。

 「これを売りたい。」といつも直球のみぃ君が酒場の老夫婦へ直談判だ。

 女将さんは、今まで自分が作る料理だけで、十分店が回っているのだから、他人が作った料理を出すことに商売のうま味を感じていない様で、なかなか試作品に手を出してくれなかった。


 お酒を卸していることもあり、親仁さんがみぃ君の顔をつぶすのを良しとしなかったため、おずおずと試作品に手を伸ばした。

 「お・おいしい・・・。」と試食した親仁さんが思わず口から零すと、女将さんがすかさず試作品に手を伸ばす。


 これまでは焼いた物、煮た物、生物、干物、塩に漬けた物しか料理としてみたことがなかったが、この試作品はどうやったのかしらないが香ばしいし、外側はサクサクして、中はしっとりしている。味付けの塩に雑味がなくとてもおいしい。

 何より酒の肴になる味だ。

 女将さんはしばらく考え込んだ後に、「値段によっちゃ、仕入れてもいいよ。」と言ってくれた。


 料理はももちゃんより、めりるどんの方が得意なのだが、村での作業の時間が長いももちゃんが、海老のから揚げとポテトフライを作る係になり、少量だが酒場へ毎日持って行っている。

 海老のから揚げには、片栗粉の代わりにグリュッグで精製して来た小麦粉を代用している。小麦粉なので、冷めてもしっとりとおいしい揚げ物になっている。

 しかも、その小麦粉も真っ白な小麦粉なので、海老の味が雑味なしでダイレクトに伝わってくるので、とてもおいしいから揚げなのだ。

 売り始めてから、売り切れる事はあっても、余ることはほとんどなかった。

 あまり高い値段で売ってはいないが、材料費分くらいはカバーできる値段に設定しているので、出汁つくりの副産物としては赤字でなければよいということでこのまま売ることにした。


 ルンバ達漁師の奮闘や、その奥さんたちの助力で、ある程度乾燥された素材が揃いつつある。

 ただ、これらをグリュッグの町でまで持って行って粉にするためだけに船賃を出すのはもったない。

 今後は、ごんさんが村に帰って来て、グリュッグへは月一で4人の誰かが行くことになるので、石鹸と合わせて、これらの素材を持って行き、水車の臼で挽いて粉にする予定だ。

 ただ、今は試作品づくりなので少量ということもあり、村の中で手動で粉にしている。


 ももちゃん曰く、スペインではにんにくとパセリを主な調味料として料理していることが多いが、にんにくをつぶす時などに手のひらサイズの軽い木製のお椀型臼に、小さなすりこ木な様なもので叩いていたそうで、それを再現してみらたら?とのこと。


 さっそくめりるどんにノミなどを使って作ってもらった。

 海老殻等の乾燥した材料を粉にするのも、ルンバたちの奥さんたちに手伝ってもらった。

 後は、みぃ君によるブレンドと、本当に乾燥が十分で、日にちが経ってもカビなどが生えてこないかの検証が必要だった。


 ルンバたちには一旦、海老・小魚・貝の買い上げは中断し、みぃ君一人の作業に入ることを告げた。

 それに伴い奥様方たちの作業も一時中断することなども伝え、今、みぃ君は一人調合を始めている。


 これまでの材料費と奥さんたちの仕事に対する賃金を一旦清算させてもらった。

 今までなら、お金ではなく、物での支払いを望む傾向にあった村の人たちが、4人に頼まれてルンバたちが定期的にグリュッグの町へ行くので、町で買い物をして来てもらえる様になったことから、今ではお金で支払う事も可能になった。



 貝柱はおいしいのだが、海老の殻が多いと、貝柱の上品な味はあまり感じられなくなる。

 でも、煮干しと海老の殻は喧嘩をしない。

 煮干しも煮だすのではなく、粉状で入っているので、うま味だけでなく苦味も出てきている。

 苦味が出ない様に、小魚の頭と腸を丁寧に取ったのだが、干すという段階で苦みが入るのか?理由は分からないが、苦味が少しだけど残る。

 どの材料も、その良さと問題がある。みぃ君の試行錯誤は続き、夜にはよく一人で台所の方から「う~む。」などと呻いているのが聞こえる。


 「昆布があれば、煮干しの割合とか減らせるのにね。」とめりるどんが言うが、無い物はしょうがない。

 石鹸作りの時探したが、わかめらしいものはあっても、昆布はなかったのだから・・。


 結局、みぃ君は貝柱をメインにし、塩と煮干しと海老殻を少量入れた調味料を作り上げた。

 「ごんさんが戻って来たら、味見してもらって、良かったらこれで製品にするわぁ。」と、とうとうみぃ君が配合を決めたのは4日後の夜だった。


 みぃ君が配合した出汁の粉は、とても上品な味がし、香りも海の物が使われているのが分かるには分かるが、湯を入れると海の香りとも違うふくよかな香りを漂わせる。

 めりるどんも、ももちゃんも一口飲んだだけで「「おいしい~。」」と大絶賛だった。


 「これ、魚臭くないねぇ。いいねぇ。」とめりるどん。

 「干し貝柱中心の配合やから。地球だと贅沢品になちゃよね。」

 「それだと、貝が多くなるんだよね?大丈夫?」と、ももちゃんはみぃ君を心配そうに見た。

 「う・・・・ん。どっちにしても養殖せな、あかんと思うでぇ。」

 「そうか・・・。養殖かぁ・・・。私たちの中でやり方分かる人がいればいいんだけどねぇ。」とももちゃんが心配そうに続けた。


 「ジャイブの話だと、後数か月もすれば赤ちゃん貝が採れるそうやから、そん時試すしかないなぁ。」

 「そうかぁ。また、みんなで考えよう!」と励ます様にももちゃんが言う。

 「そうやな。」

 「うんうん。」とめりるどんも協力を惜しまないよ~という意思を短い言葉に乗せて伝えた。


 とりあえず、製品にはなりそうだし、配合に合わせて素材の買い取り量が決まったので、ごんさんが村へ戻ってくるまでにある程度の量、材料を確保しておいた方が良いだろうと、みぃ君はルンバたちと酒場で会合を持った。

 「試すのは終わった。必要な量は分かった。」と素材の調達に関する話を始めた。

 次に、「人手は3人必要。海老の殻外し+小魚の処理に2人。貝の処理と干す仕事に1人。」とルンバたちに相談した結果、ルンバ、チャチャ、ザンダルの奥さんたちが引き続き働いてくれる事になった。

 サンバの奥さんは、今妊娠中なので、特に煮干しの水漬け時の臭いなど我慢できないだろうということで、最初から候補に挙がらなかった。


 「赤ちゃん貝は生きたままたくさん必要。採れる様になったら、大きな貝とは別にして集めて。漁の網も目が小さいのが欲しい。」目が細かいという単語をまだ知らないみぃ君は、目が小さいと表現したが問題なかった様で、ルンバが「何枚必要なんだ?」と質問してきた。

「4枚。」とみぃ君は答えた。

 これは貝の養殖のためだけではなく、貝柱を干すのに必要なのだ。

 本当はもっと欲しいけど、この事業が波に乗るまでは様子見で丁度良いかもしれないと必要最低限の数だけを頼んだ。



 みぃ君のこの事業のお陰で、3人の食卓はとても豊かになった。

 もちろん、出汁の粉ができたので、いろんな料理の作る時、味の幅が広がったのがその原因だ。

 ただ、出汁だけでなく、それを作る際に出る海老の身も時々は、自分たちの食卓を彩ったし、貝のヒモなどは全て3人で消費したことも一因だ。

 そして、出汁の粉だけでなく、煮干しは大量にできたので、日本人である4人は煮だすやり方で出汁を取ることもでき、料理によって煮干しの出汁、はたまた出汁の粉と味を作り上げるベースを変えて、その味の変化を楽しんでいたのだ。


 「早くごんさん帰って来ないかな?出汁料理を食べてもらいたいねぇ~。」とのめりるどんの意見に、残りの2人も頷いていた。

 みぃ君は、この日の夕食を食べながら、出汁の粉事業を如何に広げるか、どうやって販促を行えばよいか考える事が楽しくて仕方なかった。


 おいしくなった夕食を楽しんでいた3人だが、この時はまだ、遠くの方から何かの影が近づいてきていることに気付いていなかった。


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