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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
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みぃ君のアイデア

 ごんさんが村に帰って来た翌日の夜、漸く4人で話す時間が出来た。

 みぃ君は、徐に自分のやりたいことをみんなに告げた。


 「前から、出汁が欲しかってん。で、水車小屋で臼が動かせるから、出汁の〇とみたいなん、作りとうなって・・・。煮干しとか、エビの殻とか、干し貝柱なんかの粉を作りたいねん。」

 「「「おおおおーーーー!!!」」」と3人が喜びの声を挙げる。

 「醤油もないので、料理の味をもっと良くする方法はないかと思ってたんだよね~。出汁の〇とあると、めっちゃ助かる~。」とめりるどんが真っ先に感想を述べた。


 「そうそう、出汁あるとめっちゃいいよね。助かる~。」とももちゃんも、そしてごんさんも「ナイスアイデア!」とみぃ君の意見に賛同した。


 「ほんで、ルンバたちにネゴしようかなと思っとるんやけど、ごんさん通さずわてが直に話してもええかな?」とみぃ君が遠慮がちにごんさんに聞いた。

 「いいよ~。変な遠慮するな~。好きな様に話していいよ。」とごんさんが言うが、いつもごんさんがルンバたちとの交渉をしてくれているので、4人の中ではごんさんがルンバ担当となっている。


 もちろん、誰がルンバに直に交渉しても、ごんさんは怒らないだろうが、ルンバがごんさんの友達ということと、これまで折衝役をしてくれているごんさんに気を遣うのは大人として当たり前のことだ。

 みぃ君だけでなく、この4人はこういう心遣いができるので、今まで大きな喧嘩にもならず、なんとかやってきたのだ。


 「わてな、煮干し用の小魚、たぶん今は捨ててるか、捨ててなくても売り物になってない思うねん。だから、安く仕入れたいし、貝やエビをある程度の量仕入れられるかどうかも相談してみたい。で、将来的には売り物として製造したいから、煮干しや干し貝柱作るために下拵えとかを外注に出したいねん。そこらあたりを相談できたらと思うとる。」

 「そうかぁ。まずは、ルンバに相談してみたら、細かい話ができる人を紹介してもらえると思うぞ。」

 「うん。そやな。じゃあ、明日にでも相談してみるわぁ。」

 残りの3人が「うんうん」と頷いている。


 みぃ君の話が終わったのを見て、今度はごんさんが「俺も話があるんだ。今回は、1週間だけ村に戻って来たんだ。またグリュッグへ行って、1か月くらいはあっちに居ようと思ってるんだ。」と言い出した。

 続けて、「事業、立ち上げたばっかりの時は、一番トラブルが起きるから、ドブレ一人で任せるにはいささか心もとないし、万が一長期で水車や臼が止まったら、せっかくみぃ君が開拓してくれた顧客の信用を失ってしまうと思うから、ここは苦しくてももう1か月、ドブレについてやらないと心配だから。」と説明してくれた。「だから、この1週間はたくさん肉を獲っておくから、それで凌いでくれ。」と3人の食糧事情を心配して村に戻って来てくれたことがわかった。


 3人ともごんさんの意見に同意し、たくさん燻製を作ることとなった。

 もちろん、作った燻製のいくつかはごんさんの食糧の一部として、グリュッグに持って行ってもらうつもりだ。


 翌日から夕食時に固形の出汁を作ることについて、みんなで少しづつ知恵を持ち寄った。

 幸いなことにももちゃんが随分前だが、煮干し工場と鰹節工場へ中南米人を連れて工場見学へ行っていたこともあり、うっすらとだが作り方を覚えていた。

 同じ様にベーコン工場へも仕事で中南米人と見学に行ったことがあったが、ベーコンは当然ながら社外秘のスパイスの配合などの説明がなかったし、普通にチップなどで燻すだけでなら既に燻製肉が作れるので、ももちゃんの工場見学の体験は活かされなかった。それに、今はスパイス自体がないのだから、ベーコン作りなんてはなから無理だ。

 だが、ここへ来て煮干し作りにはももちゃんの経験が役立ちそうだ。


 「鰹節は年単位で時間が必要だし、カビも植え付けないといけないから、醤油と同じで菌を持たない私たちでは作れないと思う。ただ、煮干しは作れるとは思うけど・・・・匂いがすごいよ~。」

 「どんな風に作るん?」

 「結構、いろんな工程が必要でね、まずは魚の洗浄、その時血合いだけじゃなくって、内臓とかも取り除いてたなぁ。その後は塩水に漬け込むの。塩分濃度とどのくらい漬けるのか時間は忘れたけど、日陰で漬け込みしてたなぁ。で、漬けてた水が濁って泡が立ったたら、また洗浄してたなぁ。その後で漸く煮るでしょ。そして、天日干ししてたなぁ~。」とももちゃんが一生懸命思い出そうとしてくれた。


 「時間とか、塩の分量とかは覚えてないんだよね?」とめりるどん。

 「うん。随分前の事だから細かな事は覚えてないのよ。通訳ってね、下準備がどれくらい出来ているかでパフォーマンスの質が決まるから、見学へ行く前に必ず自分でいろいろ調べてから行くんだけど、何分とか、何グラムっていうのは、現場で説明の人が言ってくれるから前もって調べておかないのね。覚えなきゃいけない単語も多いしね。魚の時は大変なのよ。日本にしかない魚のスペイン語訳がなかったりして、そっちの方に時間を割いて調べるから、工程そのものについては、大まかな流れと、日本語とスペイン語の技術用語のチェックくらいかなぁ~。」


 「へぇ~。日本語の技術用語も調べるの?意外だな~。」とめりるどん。

 「そう?その分野に関して通訳は素人だから、日本語の技術用語も初めて触れる事になるんだよね。まぁ、英語の通訳は得意分野をはっきり打ち出して、その分野のみの仕事を請ける人もいるけど、スペイン語みたいな他言語は仕事自体が少ないから、そんな事言ってられなくて、今までやったことのない分野も、随時開拓しなくちゃ仕事にならないんだよね~。」


 ももちゃんの通訳談義になって脇道に反れてしまったが、みぃ君がすかさず修正した。

 「どっちにしても、最初から手探りで作らんでええ分、めっちゃ助かるわぁ。」とみぃ君が嬉しそうだ。

 「鰹節や醤油も自分たちで作れればいいんだけどね、菌やカビとかが必要だから、難しいよねぇ~。」とももちゃんが残念そうにつぶやく。


 「無いものを言うてもしゃあない。あるもんでなんとかするのが、最近段々快感になってきたでぇ。」と早くもみぃ君は固形出汁作りにワクワクしている様だ。

 「私も手伝うから言ってね。」とめりるどんが言うと、残りの2人も「「もちろん、手伝う。」」と頷きながら言った。



 みぃ君は早速翌日夜、ごんさんと二人で村唯一の酒場へ行った。

 果たしてルンバたちが既に飲み始めており、その輪の中に加わった。

 「おおおおおーー!おかえり~。」とルンバがごんさんの肩をバシバシ叩きながら迎えてくれた。


 「舟をありがとう。助かった。4日後、グリュッグまでまた頼む。」

 「おう、酒も付けてくれるなら請け負うぜ。」とルンバの目的はブレない。

 酒はこの酒場へ来れば飲めるが、量が限られているのだ。

 漁を二日休んで、日当ももらえる上に、酒がもらえるのは、ルンバたちにとってもおいしい仕事だった。


 「あの・・。」とみぃ君がルンバの目を見て声を掛ける。

 「ん?」

 「小さい魚と貝、海老を買いたいんだが。」とみぃ君が少しだけ緊張気味に問いかけた。

 「いつ頃、どれくらいいるんだ?」

 「毎日。どれくらい買える?」

 「毎日かぁ。小魚はいつも捨てる程あるが、海老と貝は毎日って訳にはいかんなぁ。特に貝わなぁ~。」

 

 答えているルンバの横からサンバが「どんな貝が欲しいんだ?」と聞いてきた。

 みぃ君はテーブルの上に、水でホタテ貝らしき絵を描いた。

 「身がこれくらい。」といって親指と人差し指で大きさを示し、「食べれる貝。」と締めくくる。


 「そりゃあ、貝が欲しいなら食べれる貝だろうけど、海老はまだしも貝は手に入る日の方が少ないぞ。」とルンバが難色を示した。


 養殖しないと手に入りづらいんだろうなぁ。牡蠣筏みたいなのを作って、紐に種貝をくくりつけて数年かけて養殖するんだったっけ?とみぃ君の頭の中では必死に貝を手に入れる算段をする。

 いやいや、それは牡蠣だな。ホタテはどうするんだっけ?

 みぃ君の思考はまだまだ続いていたが、横からごんさんが、「ホタテって寒い海に生息しているものだと思ったけど、この辺の海にもいるのか?」と日本語で疑問を投げかけた。


 確かにそうだと思ったみぃ君は、「この辺で採れる貝」をまず教えてもらう事にした。

 羊もどきだって地球と違い、ここではこの暑い地方でも育てているのだから、ホタテ貝もどきがあるかもしれない。


 「貝はある。身も同じくらい大きいが、殻は違う。」と言ってルンバもテーブルの上に水で絵を描いた。

 その絵はホタテの様には見えず、どちらかというと蛤に似ていた。


 「数が少ない?」と聞くと、「いいや、貝を取る時は魚とは別の仕掛けをしなけりゃならん。それと採れる場所が魚の漁とは離れている。」という答えが返ってきた。

 「海老は?」

 「海老も魚とは仕掛けが違うが、魚が獲れるあたりで仕掛けられる。」

 「そうか・・・。」とみぃ君はしばらく考え込んだ。


 海老の殻があれば、干し貝柱はいらないだろうか?ましてや、この辺りで獲れる貝の見た目は蛤だ。どうするか・・・。

 そう言えば、日本ではお雑煮などを作る時、蛤だけで出汁を取る地域もあるので、もし彼らの言う貝が蛤だとしても良い出汁は出るだろう。ただ、乾燥させて粉末にするには、貝の形状が違えば手順等も違ってくるかもしれない。特に内臓系の処理をどうするかなどの問題が出てくる。 

 そもそも乾燥してもおいしいのかどうかすら分からない。

 日本でも蛤のレトルトは良く売っていたので、粉末や乾燥した物よりも生身やレトルトの方がおいしいってことなのではないか・・・。


 みぃ君がひたすら黙って頭を動かしていた時、向かい側に座っていたこれまた無口なジャイブが「どれくらいの量が必要なのか。毎日必要か。」と聞いて来た。

 ルンバたちが少し驚いた顔をして、ジャイブを見つめた。


 みぃ君にもどれくらい必要なのか分からない現状で、すぐには答えられない。

 そこで、どんな状態なら貝を獲って来てもらえるのか、そこから探ることにした。

 「ジャイブの質問に答える為に、いっぱい質問がある。」


 「なんだ。」

 「貝の仕掛けをすると、その日は、魚は釣れないのか?」

 「いや、そんなことはないが、朝一番に貝の漁場へ行き、仕掛けを設置するので、魚の漁場へはいつもより2時間くらい遅れて着くことになる。後は、魚の漁はできるが、チームのみんなはもう漁を始めているので、途中で参加できるかどうかが日によって違う。チームで漁をしない時は、一人で漁をすることになる。そうしたら必然的に魚の量は少なくなる。」

 「そうか・・・・。」


 みぃ君は必至に頭を動かして、次に何を聞けば良いか考える。自分では漁なんてしたことないので、質問一つするにも、どんな質問が適切なのか分からないのだ。

 「朝貝の仕掛けをしてもらって、仕掛けを引き上げるのは翌日?採れる貝の量はどれくらい?貝の値段はいくら?」

 「そうだな。仕掛けがうまくいけば、翌日には仕掛けは引き上げる。おそらくだが、貝は1回につき、40~50個採れれば良い方だ。値段は、要相談だな。」


 「貝が採れるのは1年中?それとも時期が決まってる?」

 「時期によって採れる量は変わるが、一年中採れるのは採れる。今は、多い時期だな。後、半年すれば、採れる量は少なくなるし、貝も子供が多くなる。」


 「え!貝の子供も採れるんだ。それは生きたまま採れるの?」

 「うん。水揚げしてすぐに持ち帰れば、生きたままのものも多い。」

 ごんさんがルンバに以前聞いたところ、朝から昼過ぎまで漁をしても1日銀貨1枚には届かないらしい。

 だから、グリュッグの町までの船賃も往復で銀貨1枚にしてくれた。まぁ、それはお酒もたっぷり渡しているので、実質にはもっと払っている事になるが・・・。

 とすれば、貝はもっと安くても良いはずだ。

 

 「まず、貝の値段を知りたい。ジャイブが付けたい値段はいくら?」

 「そうだな。貝1個につき鉄貨5枚。」

 すかさずみぃ君とごんさんの中では日本円への計算が始まった。1個25円かぁ。

 日本にしたら適正価格かもしれないが、この村では高いと言える。

 そこからまた加工するので、加工費とそれに掛かる人件費なども考えると1個25円は高い。


 そんな二人の顔つきを見て、ルンバがジャイブに話しかけた。

 「魚の漁への途中参加は認めるぞ。ただし、みんなと同じ分け前にはならんがな。2時間遅れてくるなら、みんなの取り分の7割だな。」

 ルンバにそう言われてジャイブが考える。

 「魚の漁が保障されるなら、貝はもっと安くできる。」

 「どれくらい?」

 「そうだな、鉄貨3枚かな。」

 貝1枚15円かぁ・・・。とみぃ君たちは考える。これならなんとかなりそうだ。

 水車小屋を作るのに、現金をかなり使った後なので、出汁つくりに大きな予算を掛けたくないのだ。


 「分かった。その値段でいい。」とみぃ君がジャイブに同意した。

 「ただ・・・、今は試しに作るだけ。まだ毎日はいらない。」というみぃ君の言葉に、ルンバ達も身を乗り出した。

 みぃ君たち4人はいつも新しい事を始める。

 酒造り然り、石鹸作り然り、結構お金になる事も多い。

 もし、彼ら4人が新たな事業を始めるのなら、一枚噛んでおく方がおいしいということに、村のみんなもだんだん気づいていた。


 「小魚はわしらが用意する。値段は、もともとあって無きが如しだから、ほとんどただに近い。ただ、海老はわざわざ別の仕掛けをしないといけないので、1匹鉄貨5枚になる。」

 「小魚がほぼただなら、海老1匹鉄貨5枚でいい。」とみぃ君も即決した。

 ここで獲れる海老は、ブラックタイガーよりも更に大きく、伊勢海老よりは小さい。

 小海老ならもう少し値段交渉をするが、この大きさの海老なら納得の値段、というよりも安い。


 「それでどんな仕事を始めるんだ?」とジャイブよりもルンバの食いつきが良い。

 「味を良くするもの。」とみぃ君が答えると、それはどうやって作るのか、自分たちも参加できるのか?と堰を切った様にルンバの質問が続く。


 「ジャイブの質問への答えは、今はっきりと答えられない。毎日必要かどうか。量も今はわからない。ただ、今考えているのは、海老の殻を干すこと。小魚はきれいにして煮てから干すこと。貝も煮てから干すこと。これだけだ。ルンバの質問への答えは、いろいろ試してみてからになる。もし、試した事がうまくいけば、小魚、貝、海老は量や日にちを決めて続けて買いたい。魚や貝の作業にこの村の女性を雇うかもしれない。今はこれだけしか分からない。」

 みぃ君の説明に、一番食いついて来たのはやはりジャイブだった。

 「村の女性を雇う作業は体力的に大変なのか?」と聞いてきた。

 「今はまだ頭の中で考えているだけ。これからいろいろ試す。試して良い結果が出たら、作業について考える。ただ、火は使うので暑い。体はそんなに使わないと思う。」とみぃ君の片言の説明を聞き、ジャイブが、「もし、家の女房を雇ってくれるなら、貝の捕獲は俺がやってもいい。」と言ってくれた。


 「ジャイブの奥さんが、真面目に働く人なら雇う。問題ない。ただ、まだ本当に料理を旨くする物が作れるかどうかわからない。最初にいっぱい試す。その後の話。」

 「分かった。じゃあ、その試行錯誤の部分についても俺と女房も手伝う。」とジャイブが若干前のめり気味に話を進め様とする。

 「おいおい、待てよ。ジャイブ。女房が稼いでくれれば助かるっていうのはここにいるみんな同じなんだぜ。」

 ボス的な立ち位置のルンバからそう指摘され、ジャイブがぐっと言葉に詰まる。


 「この調味料、成功したら、仕事たくさん。小魚の仕事。貝の仕事。そして、もしかしたら貝を育てる仕事。」とみぃ君が横から執成す。

 「え?貝を採るじゃなくって、育てる?」とサンバが驚いた顔でみぃ君を見る。

 「うん。子供の貝を採る。そして育てる。数が増える。」とのみぃ君の説明に、漁師のみんなが「「「おおおおーーーー!!!」」」と驚きの声を挙げる。


 「そんな事ができるのか?」とのチャチャの問いに、みぃ君は「出来る。だが、やり方を考える必要がある。」と答えた。

 「そうすると最終的にはどれくらいの人手が必要になるんだ?」とルンバが弾んだ声を挙げた。


 「今は、わからない。今は、試す時。」とのみぃ君の回答に、まずは、彼が必要という物を揃える事から始めないと話が進まない事に気付いたルンバたちは、みぃ君に最初から協力するかわりに、女性陣を雇う時は、彼らの妻を優先してくれるという言質を取って、小魚、貝、海老を採ってきてくれることになった。


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