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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
41/143

村のインフルエンサー

 水車小屋は9日間で出来上がった。

 営業には2日間しか費やさなくても済んだ。

 非常に順調だ。

 約束の2週間目に、ルンバが迎えに来てくれたが、ごんさんは水車を連日回してみて、何か不具合が出たらいけないので、更に2週間グリュッグの町に残ることにした。

 もちろんこれは、ドブレのしばらくグリュッグに残っていて欲しいというお願いを十分考慮した結果とも言える。


 「ごんさんがいんと、みんな肉にありつけないから、わてがグリュッグに残った方がええんやろうけど、水車のメンテはごんさんやなければ、対応でけへんかもしれへんので、しゃあないなぁ~。」とみぃ君はすまなそうな顔をしてルンバの舟に乗る。

 みぃ君の方言は、コミュでお話ししていた時はほとんど聞いたことがないが、最近は標準語の中に方言がちょくちょく混ざってくる比率が高くなっている。

 ごんさんたちは、これはみぃ君の遠慮が良い意味でなくなってきている証と捉えている。


 「いやいや、一番不安だった契約を、あんなにあっさり纏めてくれて、本当の功労賞はみぃ君だよ。」とごんさんも心からみぃ君に感謝の念を向ける。

 「いやいや、あれはドブレのお陰やぁ。」とみぃ君が照れた様に言う。

 「粉挽だけじゃなくって、石鹸だってあれほどの高額ですぐに売れたのは、やっぱりみぃ君の手腕だと思うぞ。」


 そんなやり取りをしていると、そろそろ出発させろというルンバの咳が聞こえ、二人は会話を止め、舟は動き出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ザンダル村では、めりるどんとももちゃんが、水車の事を聞きたくてワクワクしながら待っていた。

 もちろん小さなみぃ君のお友達たちも、みぃ君の帰りを首を長くして待っていた。


 みぃ君の不在の間、年長のタリンに引きつられてヨッシとノコノコが毎日の様に4人の家に顔を出していた。

 めりるどんとももちゃんは、彼らが家を訪ねてくる度に、「後〇日でみぃ君が戻ってくるよ~」と伝えているのに、毎日1回は顔を出してくる。

 よっぽどみぃ君の事が好きなんだね~と女性二人は顔を見合わせてニッコリ微笑んだ。


 今回のみぃ君の帰宅も、小さな友達たちが港に張り付く様にしてみぃ君を待ち、迎え入れ、みぃ君からもらったお土産を手に「わーーーっ」と言いながら、家までみぃ君を先導する。


 みぃ君が帰宅すると直ぐに、女性陣がこの地方で飲まれているお茶を入れはじめ、めりるどん特性のナッツ入りの蒸しパンがテーブルに出された。

 「みぃ君、お茶が入ったよ~。」と言葉としてはやんわりとしているが、ここに座ってと同義の言葉がめりるどんから掛けられた。

 みぃ君の小さなお友達もみんな同席し、お相伴にあずかっている。

 しかしすぐに夕食の時間になるので、一人一つという約束で小さな蒸しパンを出している。


 子供たちは4人が日本語で話すのに慣れているので、まずは子供たちを気にせず、結果報告を優先にしようということで、みぃ君たち3人は日本語で話し始めた。

 みぃ君の膝の上にはノコノコが座っている。みぃ君も無意識にノコノコのぼさぼさの頭を撫でている。

 タリンたちはめったに食べれない甘いお菓子をほおばるのに忙しい。


 「ごんさんはグリュッグに残ったの?」とももちゃんは心配そうに尋ねた。

 「うん、まだ不具合が出る可能性があるからって。一通りドブレにメンテは教えたけど、まだまだ不十分だから後2週間残ることにしたんだ。」

 「そうかぁ。じゃあ、帰りはどうするの?またルンバに頼むの?」とめりるどんが、ごんさんの帰還の日程がはっきりしていないことを心配した。

 この世界には電話の様な物がないので、離れていたら通信の手段がないのだ。


 「グリュッグからはいろんな村に船便があるし、近くの村へ行く商船もあるだろうから、それを捕まえて戻って来るって言ってたでぇ。」

 「そうなんだぁ。上手く戻って来れるといいねぇ。」

 「金さえ出せば大丈夫だと思うでぇ。」とみぃ君は帰りの便については心配していない様だ。


 「で、水車は無事できたの?」

 待つことが苦手なももちゃんが身を乗り出す様にして聞いてくる。

 「うん、なんとかでけたでぇ。ちゃんと試運転もしてきた。ももちゃんが作ってくれた料金表に沿って、1台1時間100円で設定してきた。」


 「で、粉はどんな感じ?日本の小麦粉みたいに白い粉になった?」とめりるどんが聞くには訳があった。

 「うん。精白する臼もあるし、自動篩も作ったから、かなり白い粉になった。」と、水車で試し挽きした白い小麦の入った袋をテーブルの上に乗せた。

 この世界の小麦は人力を使って石臼で挽くので、家によっては精白を丁寧にしていないところもあり、小麦も真っ白ではなく茶色が強い物が多い。

 めりるどんはそれを指しているのだ。

 ただ、めりるどん曰く、小麦は精白しなくても食べられるらしいし、本当は真っ白な小麦よりは精白しない小麦粉の方が、栄養価が高いらしい。


 「後、契約はどうだった?どれくらい契約してもらえたの?」とめりるどんの質問は続く。

 「ああ、実は営業時間は全部、契約で埋まったよ。」

 「「おおおおおーーー!」」と女性二人は歓声を挙げる。

 「営業時間が足りんで、最後に営業したパン屋は月2日しか使えへんのが不満の様やった。」

 「もしかして、契約は全部パン屋さん?」とももちゃんが不思議そうな顔をする。

 「そや。」

 「意外だなぁ。パン屋より穀物屋さんとかの方が、需要があるのかと思ったよ~。」

 「私も、そう思ってた。意外だったね。」とめりるどんが、ももちゃんに同意する。


 「ドブレがいい仕事してくれて、最初にパン屋に連れて行ってくれて簡単に契約がとれたさかい、そのままパン屋で押してみた。2日間の営業で、全部の時間枠が契約で埋まったでぇ。」

 「ドブレ、恐ろしい子。」とももちゃんがポツリと言ったら、それが通じたみぃ君のみが一緒に笑い、めりるどんはきょとんとしていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 


 その頃、グリュッグの町ではごんさんとドブレが製粉業に勤しんでいた。

 営業時間の間ずっと稼働させていると、いろんな問題が起こるだろうと思っていたが、小さな調整は必要だったが、大きな問題は起こらなかった。

 ただ、不具合と言うほどの事ではないが、改善を施した。精白した後、殻を取り除く為に、篩のメッシュ部分を大きな網目のものにしたものを作り、精白と精製によって、メッシュ部分を取り換えられる様にしていたのだが、それの取り換え方法を簡単になる様に工夫したのだ。

 何のことはない、設置しやすい様にガイドを付けただけだ。


 仕事自体は水車がやってくれるので、ごんさんもドブレもやることはそんなにない。

 臼に穀物を投入したり、水車小屋の掃除や、水車小屋のメンテナンスくらいのものだ。


 「修繕の方法を覚えるのは難しい。からくりに体を挟まない。いつも気を付ける。音がうるさい。大変な仕事。」

 「それはそうですが、普通お店の仕事ってもっと厳しいので、僕はここへ勤められて嬉しいです。それに、からくりについていろいろ学べるのはとても興味深いです。」

 「そうか。」とごんさんが低い声で答えると、ドブレはにっこりと笑った。

 ついこの前まで不安そうにしていたが、今のドブレは少し余裕が出て来た様だ。


 ザンダル村にいる3人の食糧事情を考えると、そろそろ村に戻って、肉の捕獲に勤めなければならないが、先日ドブレから真剣な顔で、仕事に慣れるまでもう少し一緒に居て欲しいと言われた。ドブレの立場からしたらもっともなことなので、もうしばらくごんさんだけグリュッグに残ることにした。

 ドブレのやる気を削ぎたくないのと、事業が円滑に進められる様にするには、今が一番重要な時期だと思えたからだ。

 ただ、滞在が長くなるのなら、1週間だけザンダル村へ戻り、村で行う諸々の仕事をこなして、グリュッグへ戻ってくる必要性がある。まぁ、主に肉の確保が主な目的だが・・。


 ドブレには事情を説明して、1週間だけ不在にするがすぐ戻って来ると伝えると、ホッとした顔をしていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 結局ごんさんは、新しい月になり、最初に契約をしたパン屋の小麦が搬入され、ドブレが一人で前のお客様の穀物との入れ替えを無事終了させたのを確認して、村へ帰って来た。

 もちろん、各顧客の先月分の水車小屋の使用時間の算出、集金とドブレへの給金の支払いもして来た。


 技術的には問題が起きやすいのが立ち上げの時だというのは、どんな仕事でも同じだから、月が替わるまでは待って、様子を見て戻ることにしたのだ。

 今回の1週間の不在は、ドブレが一人で切り盛りできるかを知る、いい機会だと思っている。


 ごんさんは、ザンダル村より先にある中規模な村へ行く舟を捕まえ、途中ザンダル村へ寄ってもらい降ろしてもらう為に、少なくないお金を舟の持ち主である商人に支払った。

 途中、大きな問題もなく、無事ザンダル村へ戻ることが出来た。

 

 「「「ごんさん、おかえりなさい~。」」」と3人に笑顔で迎えられた。

 「お疲れ様でした~。」とめりるどんが真っ先にごんさんを労った。

 「ずっと宿屋住まいは大変だったでしょう?」とももちゃんが続く。

 「水車は問題なく動いとる?問題はあれへんかった?」と一緒に水車を作ったみぃ君が心配そうに聞いた。


 ごんさんはそれぞれの問いや労いに答えつつも、家に戻ってこれたことにほっとして、夕飯後、早々に寝ることにした。

 みぃ君は実のところ、ごんさんの不在中に考えていた案を、4人揃った時に相談したかったので、ごんさんの帰りを首を長くして待っていたのだが、ごんさんはとても疲れた様子だったので、この案を告げるのは明日まで待つことにした。




 朝起きてすぐ、ごんさんは朝食を掻っ込むと、罠を仕掛ける為にジャングルに行ってしまった。

 ここしばらく燻製肉しか食べておらず、お肉らしいお肉を口にしていなかった女性陣に、否はない。

 快く送り出し、自分たちの朝食を食べ始めた。


 いつものごとく、朝食後すぐ、みぃ君は畑仕事のため、めりるどんは石鹸作りと砂糖作りの為に、ごんさんより遅れてジャングルに到着した。


 グリュッグの町で、少量の砂糖を購入したために、今ではシロップではなくちゃんとした砂糖が作れる様になっていた。これで大量に砂糖を作っても、液体と違って傷むことがないので、安心になった。

 シロップだと濃さにバラツキが出ていたが、砂糖になったためお酒造りのための酵母作りも安定した品質になった。


 石鹸作りにも進展があった。

 蘭らしき花のエッセンスを混ぜるために、みぃ君が花を摘んで来て、以前村の鍛冶屋に作ってもらった蓋が加工されている鍋で、水で煮ている。

 蓋の中央についている細い曲がった管を通って出てくる水蒸気を冷ますことによってエッセンスを抽出するのだが、これが少量しか採れない。


 しかし、石鹸に混ぜるだけなら、そこまで量は必要ないので良しとしていたのだが、石鹸があれほど高く売れるとなれば、もっと大量に作りたいと思ってしまうのは無理のないことだ。

 何か方法はないものかと思ってはいても、花のエッセンスなど誰もこれまで作ったことがなかったので、水で煮て、蒸気を集めるくらいしかやり方が分からない。


 一応、前回までの作り方をそのまま続けるとしても、花のエッセンスを作るための鍋や特殊な蓋は必要だろうと、グリュッグから戻ってすぐにめりるどんが鍛冶屋に2セット追加で作ってもらっていたのだ。

 「お鍋なら、もしエッセンス作りに使わないとしても、料理にでも活用できるし、無駄にはならないしね。料金もそこそこで出来るから作っておくね~。」と村に戻った翌日に鍛冶屋へ向かったのだ。


 ももちゃんはいつもの様にお酒造りと家の掃除をしている。最近は、天気を見ながらみんなのベッドの羊毛を天日に干すのも仕事の内だ。

 羊毛は天日に干すと、驚くほどふわふわになる。

 綿花よりも格段にふわふわになるので、次回羊毛を買う時は、椅子の上に乗せるクッションや、ソファ作りに使えないかなどの案が出ている。

 ももちゃんは、クッションは分かるけど、ソファって・・・ソファを移動させて天日に当てるつもりなのかな?とちょっと危惧している。なぜならば、家に残って作業するのは自分なので、もし、ソファごと天日に干すなら、重たいであろうソファを家の外へ引きずって行き、取り込むのは自分の仕事になるからだ。


 ベッドを作って余った羊毛は、みんなの靴下にすることになり、時間がある時ちょっとづつ毛糸に撚っている。これは夜、みんなで進めている作業なのだ。

 靴下は既に男性陣の2人に1足づつ出来ていて、今は女性陣の靴下の為に毛糸を作っている。

 ここは気温が高いので、靴が擦れて足が痛くならなければ靴下は必要ないのだが、一人1足はあった方が良いということになり、女性陣がせっせと編んでいるのだ。

 編み棒は細いものが4本いるので、それはみぃ君につくってもらった。


 男性陣が留守の間は、いろんな仕事がめりるどんとももちゃんの肩に掛かって来たので、靴下作りは遅々として進まなかったが、みぃ君が帰ってきてくれて畑の世話をしなくてよくなったことにより、夜ちょっとづつ作業を進める事ができた。


 作業場へ行く時はジャングルの中を歩くので靴になるが、村の中では以前みんなで作ったサンダルを履いているので靴下は必要ない。だから、あまり作業小屋へ行かないももちゃんの靴下は急がないが、ジャングルの中に分け入る事が多い男性陣には靴下が必要なので、彼らの靴下を優先したのだ。


 このサンダルを作る時も、めりるどんが布を型紙代わりにして一足目を作ってくれた。

 靴底を革2枚にし、足の甲に横になる様に2㎝幅の革を3本、親指と人差し指の間から足首に向かって縫い付けたこれまた幅2㎝の革をクロスするところを縫って補強してある。

 踵も半円形の革で覆っており、その半月の一番高いところに革でループを作り、そのループの中に細い革ひもを通して、足首に回して括る様にしてある。いわゆるグラディエーターサンダルの一種だ。


 みぃ君が、余った革で女性陣のサンダルには花を付けようと、ナイフで丸い花びらが5枚ある花形を切り出してくれた。

 少し歪になっているところもあるが、革をナイフで切り出したにしたら大変良くできていて、女性陣2人は家中に響くくらいの大歓声を挙げて喜んだ。


 めりるどんとももちゃんの足のサイズは全然違うので、お互いのサンダルを間違えて履くことは決してないので目印は必要ないが、装飾があるのは純粋に嬉しいらしく、二人で色違いの花を付けることにした。

 色を変えると言っても、革の色を変えるのではなく、サンダルに取り付けられた革の花を見て、ここまで可愛くしてもらったので更に手を加えようということになり、余った端切れで更に花を装飾したのだ。


 村で流通している布は、糸を紡いだまま、それを織ったままの生成り色の物がほとんどだが、黒い汁のでる草を鍋で湯がき、出た黒い汁に何度も付けては洗い、干すことを繰り返してかなり黒に近い端切れを作り、サイズの違う生成りと黒の花を革の花の上に縫い付けた。

 親亀の上に子亀ではないが、サイズと色が違う花が3段に重ねられているのは、とても洗練されて見えた。


 めりるどんの花は、一番上が黒で、真ん中が生成り、そして一番下が革だ。

 ももちゃんの花は、一番上が生成り、真ん中が黒、そして土台となる花は革だ。

 

 村の女性たちはそのサンダルを見て、自分たちも欲しいと4人の家に交渉に来たが、皮を鞣すことができない4人では、サンダルを作っても大して良い儲けにならない。

 鞣しの作業に結構な手間賃を払わないといけないからだ。

 しかも、鳥の骨を使って針を通す穴をいくつも開けないといけないサンダル作りに魅力を感じなかった。

 結局、村の中でも皮を鞣す機会が多い男性に、4人のサンダルを1足づつ作ってもらうことと交換で、作り方を教えることにした。

 こうしておけば、先々もっとサンダルが必要になった時に、作ってもらったものを買えるので、4人にとっても良い話だった。


 村の女性たちは、彼の作るサンダルを争う様に求め、ほぼ全員の女性がなんらかの飾りがついたサンダルを履くまでになった。

 もともと村人のほとんどが靴を履いていなかったので、未だに男性の多くと、子供たちの靴はないが、妙齢以上の女性は4人の影響で、装飾のある靴を履いているという何ともアンバランスな現象が起きたが、村人は別段問題にしていないようだった。


 実は、4人はこの村のインフルエンサーの様な立場になっており、新しい何かを作ると、村人が興味津々で様子を伺う様になっている。特に女性の身に着ける物はすぐに真似をしたがった。


 そして後日、ももちゃんとめりるどんは、自分たちの買い物籠にもサンダルと同じ花飾りを取り付けた。

 その籠を持って歩いた初日に村の女性たちが色めき立った。


 自分のサンダルの飾りと同じ飾りを作ってもらう為に、皮なめしの男のところへ女性が殺到したのは当然の結果と言えた。


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