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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
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不動産めぐり

 朝食後、ごんさんとめりるどんは、前日に宿屋の女店員に聞いていた不動産屋さんへ直行した。

 不動産屋さんは身なりがきっちりとした30代の金髪の男性だった。

 目は鋭いが、常に笑った形をしており、ぱっと見には温厚な顔に見える。しかし、その実目は笑っていないという一癖も二癖もありそうな人物だった。


 この町で4人が暮らせる大きさの家を借りる場合と購入する場合の値段を知りたいことと、実際に物件を見てみたいことをごんさんが説明する。


 最初に連れて行かれたのは、街の中心地にある大通りからかなり近い場所にある二階建ての木造の建物だった。

 玄関を入ってすぐのところに居間があり、その奥にダイニングがあった。廊下を挟んで台所がある。トイレなども1階にあり、寝室が1つある。階段を上がったところで寝室が3つある。庭や裏庭などはなく、水は近くの水場へ汲みに行かなければならないそうだ。

 一つの部屋の大きさは8畳くらいで、なんの装飾もない真四角な建物で、風呂もなく、洗濯場もない。洗濯は共同の水場でする様だ。

 

 不動産屋さん曰く、この町の一般的な家には井戸も風呂もついていないとのこと。この大きさで、借りるなら月銀貨14枚だそうだ。購入するなら金貨150枚するらしい。


 今度はもっと町はずれのこじんまりとした家に連れていかれた。

 この家も2階建てで、台所はあるが、井戸も風呂もないとこは前の家と同じだった。

 この家は居間と台所、トイレと寝室2部屋が1階で、2階には寝室2部屋とテラスがあり、洗濯物はそこで干す様になっていた。


 「この家はテラスがあるのが売りなんですよ。普通の家はさっきの家の様に、家の裏側にある窓から窓に紐を渡して、そこで洗濯物を干します。この家は、場所は中心からは外れていますが、それだけにテラスを作れる大きさの土地があります。これも良い物件ですよ。」と強く進めてくる。

 確かに中心からは外れているが、周りも一般的な住宅街の様で、スラムの様な荒んだ空気はない。


 この家は借りると月銀貨10枚、買い取るなら金貨90枚だそうだ。買い取りが少し安めになっているのは築年数が長いからだそうだ。


 不動産屋さんには無理を言って、生産活動ができるような土地がついた物件で、そんなに高くない家を紹介してくれと頼んだところ、本当の町はずれ、街の外壁付近にある比較的大きな土地の物件を紹介してもらうことになった。


 「午後から見に行きたい。一緒に昼食を食べましょう。おごります。」とごんさんが言うと、おごるという一言に遠慮を見せながらも一緒に食事をしてくれることとなった。

 2軒目の物件の近くのこじんまりとした食堂に入り、三人で座って本日の定食を頼んだ。

 焼き魚とスープとパンという組み合わせだった。

 塩味だけのスープだったが、野菜が結構入っていておいしかった。


 「この町の小麦はどうやって粉にする?」や「野菜はどこで育てているのか?」というめりるどんの問いに、「家に臼がない人は、穀物を売っている店先にある石臼を、お金を払って借りて粉にしますね。」、「野菜は近隣の村から仕入れていますよ。」との回答が返って来た。

 「この町の近くに森はある?」というごんさんの問いには、森はかなり移動しないとないという回答が返ってきた。


 「外国人は多く住んでいるか?」との質問には、ほとんどいない等と、2人が質問をし、それに不動産屋さんが答える形で、和やかに昼食を済ませた。


 昼食後はそのまま工房がついている物件まで歩いて移動した。

 「ここは、もともと織物の工房がありました。井戸が少し遠いですが、十分な土地があります。土地柄は比較的安全なので、商売をしても問題ないと思いますよ。」

 賃料は月銀貨20枚だそうだ。土地が広い分、中心地から外れてても高くなっている様だ。買い取りもそれなりで金貨180枚だそうだ。


 ここの不動産事情で面白いのは、銀貨は10枚で金貨1枚と同じなのに、月々の賃料の時は銀貨で話し、買い取りになると金貨でしか表さないのがめりるどんには不思議だった。

 おそらくその方が値段を理解しやすいとか、そういうことなのかもしれないと勝手に結論づけてみたりする。

 

 ごんさんは昼食時に、不動産屋さんから粉挽きは手動である事を聞き取りしていたので、最後に川のほとりにある小さな小屋のみがある土地はないかと不動産屋に聞いてみた。工房とか、倉庫、小さな商店とかそういう土地はないかと。

 「う~~ん、小さい土地で良いのですね?あるにはありますが・・・本当に小さいですよ。工房とか商店ということは住むためではなく、商売用ですか?小さいということは住居としては使わないということですか?」とあまり乗り気ではないが、そこをお願いして連れて行ってもらった。


 グリュッグの町は港町だ。町の端から端まで直線で歩いて1時間くらいの大きさで、街の東側に大きな川が流れている。川が海に注ぎ込む河口となっているのでかなり大きな川だ。

 その川のほとり、港とは反対側の内陸部に12畳くらいの小屋があった。両隣は似た様な倉庫であったが、この辺りは倉庫街らしく倉庫が多い。ただ、周りは住宅も結構な数あり、小さな店などもちらちら見受けられる。


この猫の額ほどの土地には古い小屋が建っており、中はがらんどうだった。

 「ここは、前に倉庫だったので、明り取りが高いところにしかなく、店としては光源が乏しいです。それに狭いですしね。」と不動産屋さんはあまり乗り気ではない。


 しかし、ごんさんにとってこの建物は水車小屋に丁度いい。木造建築というところも、横に水車を設置し、壁に穴を開け、石臼と連結しやすい。理想的と言っても良いくらいだ。

 「ここの土地とこの倉庫、買い取りはいくら?」

 「そうですね・・・金貨15枚ですかね・・・。」


 「ここの土地はどこからどこまで?」とのごんさんの問いに、不動産屋さんは川岸から小屋の前にある道までを歩いて指さした。

 おそらく以前倉庫として使っていた時、川を使って物を搬送していたのか、荷物を整理したりする為に川岸から小屋までは少し土地が用意されており、ももちゃんの案である竹の配管を設置することができそうだ。

 「幅は、この建物の幅より少しだけ広いここからここまでです。」と小屋の両端から1.5メートル先を指さした。

 「買います。」とごんさんは即決。


 めりるどんは、日本語でごんさんに「今すぐ購入しちゃうの?みんなに相談しなくていいの?」と聞いた。

 「大丈夫。水車小屋をやることはもう話がついているし、手ごろな値段の土地があったら、すぐに買わないと、次ここへ来た時には売れている可能性もあるから。とにかく土地だけでも押さえておきたい。」そして少しの間地面を睨んで「もし、だめだってことになれば、俺がみんなに借金って事にしてもらってもいい。」とポツリと言った。


 めりるどんは別にごんさんを責めるつもりではなく、みんなの同意を得てからにした方が良いのではないかと言いたかったのだが、ごんさんがここまで強く言うのならこのまま購入でもいいかもしれないと思った。もちろん、借金というのは考えていないし、残りの2人もそんなことは考えないと思う。値段も今の自分たちに払えない額ではないというのが理由の一つでもある。


 不動産屋さんの方に向かって「家は、また今度、仲間と相談して決めます。」とめりるどんが言うと、不動産屋さんはしょうがないなぁという表情で、「先々、お買い求め頂こうとお決め頂いてもお値段が変わっている可能性や既に他の方に売れているということもございますが、よろしいですか?」と念を押す。


 「はい、今日はここだけ買います。仲間が後2人います。家は、仲間と相談して決めます。」とめりるどんがきっぱり言ったため、この倉庫の土地だけの買い取り契約をする事になった。

 ももちゃんが既に文字をマスターしているかどうかわからないが、とりあえずは契約の為にももちゃんを探すべく、集合場所のルンバの舟までごんさんが走ることになった。

 めりるどんは不動産屋さんと一緒に不動産屋さんの事務所へ移動した。


 ごんさんがルンバの舟に到着した時、果たしてももちゃんとみぃ君が既にルンバと一緒にいた。

 そこでごんさんは、これまでの成り行きを2人に説明をした。

 「値段もそこそこ許容範囲。川の水流もそれなりにある。土地は狭いながらも必要な物はそろっていて、後は水車小屋に改装するだけでいいんだ。なにより、今買わないで次にここに来た時、あの物件が売れずに残っているとは思えないんだ。」


 もちろん、みぃ君も、ももちゃんも、ごんさんが土地購入を相談なしで即決した事に驚いたが、珍しくごんさんが饒舌に力説するので、流される様にしてOKを出した。

 ごんさんは、みぃ君に舟の留守番を頼み、ももちゃんとルンバを連れて不動産屋さんへ行き、ももちゃんを不動産屋さんへ置いて、ルンバと二人でルンバの従兄の家へ向かった。


 滞在日数を伸ばせばここまで忙しなくいろんなことをしなくても良いのだろうが、ルンバを拘束してしまう事もあり、最初に約束した日数でザンダル村まで帰してやりたいというのが4人の気持ちだ。


 ルンバの従兄の家へ行くごんさんとルンバを見送って、ももちゃんは不動産屋さんの事務所に入って行った。

 事務所は小奇麗な家具でまとめられていて、先に着いていためりるどんが不動産屋さんとお茶を飲んでいた。


 「あっ!ももちゃん。」とめりるどんが嬉しそうにももちゃんを迎え、不動産屋さんに紹介した。

 「契約書。彼女が書きます。手続き、進めて下さい。」


 ももちゃんはめりるどんと二人で不動産屋さんと契約書を作った。

 作ったばっかりの文字対応表が大活躍した。

 また、契約書が賃貸契約ではなく、不動産購入に関する契約書であったことが、契約書の内容が少しだけシンプルになり、外国人(?)であるももちゃんにも比較的理解しやすくなっていたことが救いだった。


 両者がサインした売買契約書を持って、三人は不動産屋さんから徒歩5分のところにある石造りの役所へ出頭した。

 この世界は人頭税制なので、土地を買っても税金を払わなくて良いのが土地購入の手続を簡単にしてくれている。ただし、土地所有者の登録は必要で、登録手数料は必要だ。

 手数料は広さに関わらず一律金貨3枚だった。

 念のため家購入も視野に入れこれまでの貯金を全て持ってきていた事が幸いし、不動産屋にも土地と建物の金額を問題なく現金払いで支払った。手間を省くため、支払いは役所で行われた。

 彼ら3人がそんなやり取りをしている間にも手続きをしていた無愛想な役人が重々しく仰々しい印鑑を契約書に押して、登録手数料の支払いも終わり、無事登録が終わった。


 「簡単に手続きできてよかったね。」とめりるどん。

 「そうだね、これで私たちの最初の土地が手に入ったね。」とももちゃんはめりるどんと役所からルンバの舟へ直行した。


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