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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
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文字の勉強

 ももちゃんは朝食後、みんなと宿で分かれてすぐにみぃ君が宿屋のオヤジと話し終わるのを待って、家庭教師や本屋についての情報を親仁から聞き出そうとした。

 家庭教師については回答がなかったが、本屋については回答があった。

 メインストリートに一軒だけ小さな本屋があるそうだ。

 その本屋は古本屋でもあり、貸本屋でもあるそうだ。


 ももちゃんはさっそく本屋へ直行した。

 貸本なら教科書を手に入れるのに、安い値段で借りられるので大歓迎だ。

 この町の本屋は本当に小さく、メインストリートにあると宿屋の親仁が言っていたが、実際にはメインストリートの一本裏道に面していた。


 古い木造の小さな店の中へももちゃんが一歩踏み入れると、奥に一人の痩せた中年男性が何をするでもなく座っていた。

 「こんにちは。文字を覚えるための本ってありますか?」

 声を掛けたももちゃんに幾分面倒くさそうに「あるよ。」と言って、自分の後ろにある本棚の一つからボロボロの薄い本を持って来た。


 「これが文字を覚えるための教本だ。貸出なら会員費銀貨2枚を払って会員になった上で一晩銅貨1枚。買い取りなら金貨3枚だ。」とぶっきらぼうに必要な事だけ言って、その後は何のリアクションもない。


 ももちゃんは、店員の近くまで寄って行って、「この本以外の本も一晩銅貨1枚なんですか?」と尋ねた。

 「ああ、会員費は一回払えば本を失くすか破くかしないかぎりはいらないが、本は借りる度に一泊銅貨1枚だ。」

 会員費と言っているが、どうやら保証料と言った方がよさそうだ。

そこで迷わずももちゃんは、銀貨2枚と銅貨1枚を差し出し、会員証代わりの木札を貰い、文字の教本を借りた。


 「この町で文字の読み書きを教える先生や家庭教師とかいますか?」と続けて聞いてみた。

 店員はじぃーーとももちゃんを見て、「教師ってのは貴族が雇うもので、平民に教えるやつはめったにいないよ。」とぶっきらぼうに答えた。


 「でも、店員さんは文字が読めるんですよね?後、この店には貴族しか来ないって訳じゃないですよね?」と畳みかける様に問うてみた。

 「まぁ、大きな商店の人間なんかは読み書きができるからな。ただ、商店の場合は先輩店員が後輩の丁稚に読み書きを教えるから、特に教師の手配などはしないよ。」

 ということは、みぃ君を捕まえて石鹸を降ろす商店に口を利いてもらえばよいということだ。

 後は、街から徒歩圏内に森やジャングルがあるかどうかついでにこの店員に聞いておこうと、本とは関係ない質問をいくつかしてみたところ、ぶっきらぼうな受け答えでも、質問には全部答えてくれた。本当は親切な店員だなと思いながら、借りた教本を抱えてももちゃんは教本の写本のため、紙とインクを売っている雑貨屋を探すことにした。


 メインストリートではうまい具合にみぃ君に会えた。

 みぃ君が石鹸を売り込んだのは、この町でも一番大きなアンジャの店らしい。そんなに大きな店なら絶対店員に文字を教え込んでいるはずだ。

 アンジャの店で、筆記用具を買い込んで写本をしたいのと、お金を払って2時間だけ文字を教えてくれてる店員さんを都合してもらえないか交渉したいことをみぃ君に話した。


 「わかったよ。シーツと砂糖も買わないといけないし、一緒に行って話してみよう。」とみぃ君は快く引き受けてくれた。

 店に向かって歩きながら、「あっ、そう言えばシーツは継ぎの無いのは、アンジャの店でしか売ってなくて、一枚銀貨2枚と高額だけどいいかな?」とみぃ君が心配そうに聞いてきた。


 「もちろんいいよ。だって必需品だものね。良質の眠りには代えられないから、買おう、買おう。」とももちゃんも速攻でシーツを購入するのに賛成してくれた。

 歩いているとアンジャの店に着いた。


 まず、シーツと砂糖、紙、筆記道具を購入した。

 続いてみぃ君が番頭さんと話し始めた。

 「ここの店で文字の読み書きができる人いますか?」

 「小僧以外はみんなできますよ。」

 「今日の午後、2時間、文字教えて下さい。お金、いくらですか。」

 いつでもみぃ君は直球だ。


 「今日でなければいけないのですか?」

 「明日の朝、村へ帰る。時間、今日だけある。」とみぃ君の交渉は続く。

 番頭さんは黙って考え込んでいた様だが、近くにいた若い男性に声を掛けて何か話すと、「いいでしょう。2時間だけですね。2時間で銀貨4枚頂きますが、よろしいですか?」とあっさり承諾され、みぃ君もももちゃんも大きく頷いた。

 「では、場所はここの奥にある応接間を提供しましょう。何時から始めますか?」と番頭さんが言ってくれたので、昼食を食べてからということにしてもらった。


 今日の昼食は、みぃ君はルンバのところへ行かなければならないので、ももちゃんは一人で宿に戻り、写本と昼食を済ませてアンジャの店へ戻ってくることとなった。

 この教本は、そもそもアルファベットの文字数がそこまで多くないことから薄い本だったこともあり、あっという間に写本が終わりそうだった。


 「みぃ君、今日授業を受けるところまで漕ぎつけることがでたのも、みぃ君のお陰だぁ。ありがとう。めっちゃ助かるよ。後ね、本屋に聞いたんだけど、この町の近くに森やジャングルはないんだって。文字の授業が早く終わったら私も確認しに町の外周を歩くけどちゃんと確認するのは厳しいかもしれない。もし、時間が余ってる様なら、申し訳ないけど町の外周を回って森があるかどうか見てくれないかな?」と両手を合わせてすまなさそうにももちゃんが頭を下げる。


 「ええでぇ。町全体の様子を見ときたいしなぁ。後、女性一人で町の中あまり歩かせたくないから、わてが行った方がええやろう。」と屈託なく仕事を肩代わりしてくれる。

 村でも、いろんな仕事を嫌がらずにコツコツとやってくれるみぃ君の頼もしさがここでも発揮された形だ。


 昼食を前に、二人はアンジャの店の前で分かれた。みぃ君はルンバのところへ、ももちゃんは宿に戻り、昼まで写本をすることにした。

 部屋には、新幹線の窓の前のでっぱりくらいしかテーブルと言えるスペースがなかったので、昼食前のアイドルタイムに入っている宿屋の食堂のテーブルを借りることにした。


 写本そのものは1時間とちょっとで終わったので、そのまま宿の食堂で昼食を摂り、アンジャの店に戻った。


 アンジャの店でももちゃんに文字を教えてくれたのは、番頭さんだった。

 ももちゃんもみぃ君も、交渉した時に呼びつけていた店員が教師になるのかと思っていたら、違ったようだ。


 この国の文字は表音文字の様で、全部で30文字だった。

 ももちゃんは、表意文字でなくてよかったと心から胸を撫でた。

 文字の教本が薄い本だったので、おそらく表音文字だろうとは思っていたが、表意文字ならお手上げになるところだった。


 最初の1時間は一つづつの文字の組み合わせでどの様な発音になるかを教えてもらった。母音が5文字だったので、ももちゃんにとっては楽だった。


 対応するアルファベットや発音記号などを紙に書きつけながら、一通りの文字の組み合わせや発音を確認した後、残りの1時間で石板にチョークで単語の書き取りをしたり、数字、それも大きな数字や単位、月や曜日を確認した。


 月に関しては、日本では1月、2月など、月の前に数字を持ってくるだけだが、英語やスペイン語などではJanuaryやEneroなど、月毎に固有名詞があるので、その確認だった。まぁ、日本にも睦月、如月などの月の名称もあるので、日本だけが特異という訳ではない。


 単位については、重さや長さ、速さに加えて、硬貨の単位も確認した。ちなみに速さの単位はこの世界にはまだなかったが、時間の単位はあった。

 単語の書き取りに関しては、文字表を見れば何でも書けたので、その物覚えの速さに番頭は舌を巻いていた。


 日本人にとってアルファベットを覚えるのは一度日本で経験しているので、対応表さえ作ってしまえば簡単な話だ。ましてやももちゃんの専門はスペイン語なのでrrやllなど、更にはñやüなどという文字もあるので、英語のアルファベット26文字より4文字多いこの世界の文字にも抵抗なく対応できていた。

 石板とチョークもアンジャの店で買い、4人の今後の学習に活かすことにした。


 番頭には丁寧にお礼を言い、文字の教室と石板とチョークのお金を払い、その足で本屋が閉まる前にもう一度本屋へ行き本を返して来た。

 「1泊未満は値段が変わらないから、返金はないぞ。」と本屋の店員が言う。

 ももちゃんは「うんうん」という様に頷き、「ところで、言葉を説明した本ってありませんか?」と辞書があるかどうかを聞いたが、言葉を説明する本という意味がわからないのか、変な顔をされて「ない。」の一言で本屋との会話は終わってしまった。


 その後は、集合場所のルンバの舟へ向かいながら、みぃ君がするはずだった市場調査を手伝うべく、特に粉挽事情を知るべく食料品店などを冷やかしながら港まで移動した。


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