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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
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石鹸は売れる?

 みぃ君はまず、グリュッグの繁華街がどこなのかを、宿屋の親仁に尋ねた。

 昨夜は厨房から声だけしか聞こえなかったが、今朝はちゃんとその姿を拝めた。

 筋肉隆々の中年のオヤジで、モジャモジャの髭を蓄えている。

 「生活雑貨の店が集まっているところ?なら、ここを出て右に進んで、2本目の道がここのメインストリートだ。そこに3軒くらいあるな。」


 親仁に教えてもらったメインストリートに向かって早速歩き出したみぃ君の両手には石鹸が入った籠が二つある。

 石鹸といえど個数があるので結構重い。

 これは、女性にはちょっとキツイかも。自分が担当で良かったと思いながら最初の雑貨屋を目指す。


 この町の建物は多くが木造だ。ところどころにレンガの大型商店や、石造りの役所に見える建物がある。

 みぃ君は、ラノベでは石鹸はぜいたく品にカテゴライズされている作品が多いので、この世界でも高級品・ぜいたく品だといいなと思いつつ、三軒ある雑貨屋の中でも一番大きく、小奇麗なレンガ造りの商店の中へ入った。


 店内を見回すと、武器と食品以外のありとあらゆる物が並べられている気がする。

 服はないが、下着類や布巾や布切れから始まり、ランプ、ろうそく、鍋、食器類、樽、椅子等の小さ目な家具等がラインナップだ。中にはみぃ君には何に使うのかも分からない物も多い。

 また、食品はないが調味料は置いてあった。


 みぃ君が店の中の商品をじっと見ていると、中年の男性が横に来て、「何をお探しですか?」と聞いてきた。

 中年ではあるが、店主という風格はない。でも、ちゃんと腰が低く、接客には慣れた様子だ。栗色の髪で、着ている服はちょっと上等な生成り色のチュニックの上に、簡単な刺繍の入ったベスト。他の店員よりは上等な服を着ている。


 「実は家で作った物を見てほしくて、持ってきた。」と、みぃ君も腰を低くして男性に接したいのだが、いかんせんまだ敬語を流ちょうに話せるだけの語学力はない。村では敬語を使う人などほとんどいないこともあって、男性の言うこともところどころ分からない単語があるが、そこは中年であることからこれまで積み重ねた人生経験を元に、この世界でも日本とほとんど変わらないやり取りになるだろうという憶測のもと、いろんな事を推測で補っている。


 「何をお持ち頂いたのでしょうか?」

 「石鹸です。」

 「石鹸ですか?初めて聞きますね。何をする物ですか?」


 石鹸を聞いた事がないとのことなので、この世界にはまだ石鹸はないのか?ザンダル村でもみんな石鹸は見たことがない様だったし・・・。いや、石鹸は自分たちが日本語のまま石鹸と呼んでいるので、この世界では別の名前で石鹸が存在するのかもしれない。

 そう思ったみぃ君は丁寧に石鹸について説明する。


 「服を洗う時に、家の村では灰を使って洗う。でも、石鹸を使うと灰を使わずに簡単に汚れが落ちる。また、水浴び等の時に髪や体を洗うのにも使える。」と説明したところ、男性は手を顎にもっていき、じっと考え込んだ様子でしばらく固まっていたが、ようやく再起動した様で、みぃ君の方を見た。


 「汚れを落とす物なのですね。では、一緒に奥まで来ていただけますか。」と、みぃ君を連れて店の奥を通り、裏庭までいざなった。

 裏庭には宿と同じ様な井戸があった。


 「今、汚れた布を持ってきますので、少しお待ち頂けますか?」と小僧を呼びつけ汚れた布を持ってこさせた。

 男性の右手には布というよりは汚れた雑巾が握られていた。


 「その布で試す?」

 「はい、どの様に使えばいいですか?」

 「まず布は一回布を水に漬ける。次に、濡らした石鹸で汚れのあるところを軽くこする。」


 男がみぃ君の言った通りにすると、段々泡が立ちはじめた。

 「おおおお!」とその泡に驚く男。

 「泡が出たら、両手でゴシゴシと布同士をこすり合わす。汚れがある程度落ちたら、水で洗う。」みぃ君の説明はまだ続く。


 水で濯いでみると果たして灰だけで洗った時よりも汚れの落ちた布が男の手に残った。

 「乾いたら、もっと綺麗になる。」とみぃ君が言い終わらない内に、男性もほぼ同時に「少々ここでお待ちいただけますか?すぐに戻って来ます。」と建物の中へ入っていった。


 男はすぐに恰幅の良い中年の男性と一緒に裏庭に戻ってきた。

 恰幅の良い男は、髭を蓄え、最初の男より上等な服を着ていた。おそらくこっちがこの店の店主だろう。


 「私は、この店の主、アンジャという者です。家の番頭からお客様が面白い物をお持ち頂いたと伺いましたので、まいりました。」

 「私は、みぃ君です。家で石鹸を作りました。こちらの町で販売したいと思ってます。」

 「番頭から、汚れた布が綺麗になる石をお持ち頂いたと伺ったのですが、今お持ちのそれがその石ですか?」


 石ではないのだが・・・と思いつつも、石と思ってもらった方が、原材料が不明のままなので、模倣されることもないかと思い、みぃ君はわざと訂正しなかった。


 「はい、これが石鹸です。試して下さい。」

 みぃ君は石鹸をアンジャに手渡す。

 アンジャは早速石鹸を小僧に渡し、試しに別の汚れた布を洗わせてみた。

 結果は先ほどと同じで、布はかなり綺麗になった。


 「う~~~む。この商品は今までにない商品ですな。私も今まで見た事がないです。灰やお湯を使えば今までも綺麗に洗濯はできておりましたが、これはそれよりも簡単に汚れが落ちますね。しかもいい匂いがする。」とアンジャは感想を述べた。

 「はい。私たちは貴族に売ることを考えた。もし、この店で売ってもらうなら一ついくらで買い取ってもらえるか?」

 みぃ君は回り道などせず、直球でアンジャに尋ねた。


 「そうですなぁ。家はこの町でも一番大きな店で、貴族の顧客もおります。みぃ君様のご要望に十分お応えできる店だと自負しております。そうですなぁ・・・・。」と言った切り、アンジャは考え込んだ。

 「この石鹸は別の商店にも持ち込みをされましたか?」とようやく口を開けたと思ったら質問が飛び出してきた。


 「いいえ。ここが最初。だめなら他の店へ行く。」とみぃ君が答えた。

 しばらくの間沈黙の時間が続いて、漸く思案顔のアンジャが、「こちらの石鹸一つあたり銀貨1枚でいかがでしょうか?」とおもむろにアンジャが申し出た。


 「う~~ん。銀貨一枚・・・・。」とみぃ君はわざと意思を濁した風にうなってみせる。

 関西人に値切りをさせれば水を得た魚の様になるが、この場合は反対で、値切りではなく値上げだ。ただ、やることは根切りと同じだ。

 「石鹸1個に銀貨2枚。たくさんの人で作っている。」と言って、悩んでいる様に床を見つめて項垂れる。


 「それではいかがでしょう?家にだけ卸して下されば、間をとって銀貨1枚と銅貨5枚でしたら家でもお取り扱いできますが、それ以上でしたら利益が出ませんので、家ではお取り扱いしかねます。」とアンジャが言う。

 「わかった。この町で売る時、この店でだけ。」とみぃ君がすかさず返す。


 「この町だけですか?」とアンジャが確認する。

 「はい。王都は王都で別の店に話する。でも、それはずっと先の話。ここから王都まではかなり遠い。この店が石鹸を売れる場所は広い。」とみぃ君が畳かける。


 アンジャはしばらく唸っていたが、結局みぃ君が提示した条件で了承してくれた。

 「今、卸して頂ける石鹸の数はどのくらいですか?」

 「今日、250個。ここに50個ある。話決まったら200個持ってくる。」とみぃ君が答えると、「それはありがたい。早速すべて買い取らさせて頂きます。後で残りの200個もお願いします。」とアンジャが言う。


 「ところでみぃ君様は、どちらにお住まいで?」とアンジャが聞いてきた。

 「ザンダル村。石鹸作る。貯まる。また、来る。」とみぃ君が答える。

 「そうですか、ザンダルですか。商品の搬送はそちらでして頂けるのですね?」

 みぃ君はこちらの世界の『搬送』という言葉が理解できなかったが、おそらく石鹸を運ぶ経費はどちらが持つかということを確認したいのだろうと思い、「石鹸作る。貯まる。舟でグリュッグの港へ運ぶ。ここまでで銀貨1枚銅貨5枚。」と言ったら、アンジャは大きく縦に頷いてみせた。

 「みぃ君様は外国の方の様ですが、普段はザンダル村にお住まいということですね。」

 「はい。」と、言って手持ちの50個を手渡す。

 

 石鹸一つに銀貨1枚と銅貨5枚は高すぎる様な気もするが、もともと石鹸という商品がこの世界にはないこと、この石鹸には蘭の花に似た花から抽出したエッセンスが配合されており、石鹸自体が非常に良い匂いを醸し出していることなどで、貴族からの需要が見込まれるのだ。

 当然洗濯した布にも、その香りは移っている。

 体も髪もこの石鹸で洗えるので、多少高額になってもアンジャは気にしない様だった。


 みぃ君はまず50個分の石鹸代を手にし、その足で宿に戻って残りの石鹸を運ぶために2往復することとなった。


 無事、全量納品して、今度は石鹸を売って得たお金を手に、シーツと砂糖を買うため、3軒の雑貨屋を巡った。工具についてはよく使うめりるどんの意見を反映した方がよいし、急ぎでもないので、次回来た時でも良いかと思い、今回は購入リストから外すことにした。

 結局3件の店を梯子して、繋ぎ目のないシーツを売っていたのはアンジャの店だけだったし、少量でも砂糖を扱っていたのもアンジャの店だけだった。三軒目の雑貨屋からアンジャの店まで戻るべく大通りを歩いているとももちゃんと会った。


 「お!ももちゃん、文字の方は目途がついたの?」

 「みぃ君、ちょうど良かった。その文字の事でみぃ君にお願いごとがあって探していたの。会えてよかった。」

 「なになに?願い事?」

 「うん、でもまず、みぃ君、石鹸はどうなった?」

 「うん、売れたぞ。一個、銀貨1枚と銅貨5枚や。」

 「おおおお!さすがみぃ君!すごい高値で売れるね。で、どこのお店に卸すの?」

 「この町で一番おっきい雑貨屋のアンジャさんの店や。今からそこへシーツと砂糖を買いに行くところ。。」

 「なら、そのお店にちょっとお願いしたい事があるので、みぃ君一緒に交渉してくれない?」と、二人は肩を並べアンジャの店に向かった。



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