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チートのない中年たちのサバイバル日記 旧題)中年たちのサバイバル騒動  作者: 〇新聞縮小隊
第2章 少しだけ広がった世界
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グリュッグの町

 4人は、ルンバたちに打診してから4日後にグリュッグの町へ行く予定を立てた。

 ルンバの小さな船だと片道丸1日の移動となり、遠洋には出れないので、陸地に沿った形での移動となった。


 行きの舟の中、4人は持て余した時間を有効に使おうと、グリュッグの町で誰が何をするかの分担について話し合った。

 不動産関係が一番時間を食うだろうし、男性視点からも、女性視点からも確認すべき点があり、最低男女1人ずつ必要である事。

 さらには、文字習得に関してはももちゃんが担当する方がいいだろうということになり、不動産関連は必然的にめりるどんが担当することになった。


「石鹸を売るのってみぃ君に担当してもらった方が良くない?」

 いつもの様に唐突にももちゃんが仕事を割り振った。

「ん?」

 みぃ君がきょとんとした顔でももちゃんを見つめると、「だってみぃ君って人当たりが良いから商売向きだと思うし、なんてったって関西人だから値段交渉とか向いてそう」なんて勝手な事を言われてしまった。

「えええ?そんな乱暴な」

「いやいや、ももちゃんのその案、私は賛成!」

「そうだな」

 なんて、残りの2人もももちゃんの案に乗っかっちゃったので、みぃ君は渋々石鹸担当となった。

「じゃあ、ごんさんは私と一緒に不動産担当ね」

「そうなると、私が街外れから森が見えるか確認しておくよ」

「うん。ももちゃんよろしくね。時間があればでいいからね」

「うん」


 みぃ君は商談をしながら、この町のお店で何がどれくらいの値段で売られているかを確かめることも兼任する事となった。もちろん、シーツや砂糖も商業地区に関係するのでみぃ君が購入担当だ。


 町についたらいろいろと確認したい事は目白押しなんだけれど、時間が限られていて、全てが出来る訳ではない。

 それでもめりるどんは残念そうに、「DIYの工具は、私が確認して購入したいんだけど、きっと不動産物件を見るだけで精一杯になるから難しいかなぁ」と言い出した。

「まぁ、どうしても今回購入せんならん訳やないしね。次回でもええやろう」

「う~ん。残念だけど、そうなる可能性が高いよねぇ・・・・」


 一通り担当を決め終わると、ごんさんが徐に口を開いた。

「一つ考えていることがあるんだ。小麦って村では石臼を使って手で挽いてるいるだろ?大きな町でも同じなら、水車を作って粉ひき小屋を建て、人を雇って管理してもらったらどうかな?そうすれば現金収入につながるし、このグリュッグの町でよく消費される食物があらかた分かる気がするんだ。そういう情報って、都会で生活することを最終目標としているなら必要な事だと思うぞ。」


 思案顔になったももちゃんが、時間を掛けてごんさんの意見を咀嚼しているのか、しばらく無言になった。

「ごんさんの意見はよくわかったよ。遠隔地で事業をするとなると、私たちの誰かがグリュッグに住むか、ごんさんの言う通り現地の人を雇うかしないと思うけど、そこら辺はどうするの?」とももちゃんが内容をつめてくる。


「俺も考えたんだけど、ザンダル村の人の知り合いとか親戚がいたら、そういう人を積極的に雇って、時々石鹸を売りに行く時に様子を見に行けばいいんじゃないかな?」

「水車って、日本のお隣の国ではずっと作れなかったって聞いたことあるけど、素人でも作れる物なの?大丈夫?」とめりるどん。


「水車はそんなに難しい物じゃないんだけどなぁ。俺が考えているのは既に町にある小屋を買うなり借りるなりして、それに水車を繋げて石臼で粉を挽く感じだなぁ。もちろん水車は俺が作るよ」

「ごんさんは今までに水車を作ったことあんのん?」

「うん、一度だけ庭の観賞用の小さいのを作ったことがあるよ。まぁ、当然、鑑賞用の物と本物は違うだろうけど、コツみたいなものは少し分かってる心算だよ。粉を挽くだけなら十分用を足すことはできると思うぞ。俺としては、水車作りよりも、動かすための水の方が心配なんだよな。川があったとして水車を動かすだけの水量があるか分かんないからな。本当は高低差があって、水を上から落ちてくるのを水車で受け止められれば理想的なんだけどな」


 ごんさんが思案顔をしている横で、ももちゃんが横からチャチャを入れた。

「上下水道の通訳をやった経験から言うとね、おそらくだけどね、川そのものの水流の速さはそこまで問題じゃない気がするよ。高低差はあった方がいいとは思うけど、なくても大丈夫だと思うなぁ。例えばね、竹もどきを半分に割って水路がわりにして、川に繋げれば、流量は調節できると思う。もちろん、竹を使えば節は削らないといけないし、竹の直径で流量を調節することになるけど、狙った流量を出せるんじゃないかな?」


「おおおお!」と三人の口から驚きの声が上がった。

「だてに何年も上下水道の研修の通訳はやってないからね~。」とももちゃんが誇らし気に答えた。

 ももちゃんは日本の外務省の外郭団体で何年も通訳をやってきている。自動車製造等の一般企業の通訳もやっていたが、日本政府が外国の専門家に用意していたゴミ処理や植林、上下水道、練炭製造や観光政策、教育関係、発電、家畜飼料などの研修コースを何年にもわたって通訳していたので、これらの分野に関しては素人ながらいくつかの情報は頭に残っていた。最近は、防災のコースが増えてきていたが、特に上下水道は何年もやっていたため、たいして考えなくても配管の設置などは結構イメージとして頭に浮かびやすいらしい。

 『自然流下』や『分流式』なんて言葉がさらっと頭に浮かぶくらいには身についていると言って良いだろう。


「水車小屋を作って商売できるかどうかは分からないけど、もし商売をするとなったら人材が必要よね。だって、私達4人がバラバラに住むのは避けたいものね」とめりるどんが人材について話を振った。

 ザンダル村関係者がグリュッグにいるかどうかという話になったので、ごんさんが舟を操作しているルンバに尋ねたところ、ルンバの従兄がグリュッグに住んでいるという回答が帰って来た。それ以外にもザンダル村の次男や三男などで漁をするのが嫌だった奴は、何人かグリュッグに住み着いているらしい。


 グリュッグで事業を始めたい事。もし、その事業を始めるなら、事業を動かす為に信用できる店員を雇いたいこと。できたら、ザンダル村の関係者であると自分たちも安心できる事を説明して、必要な時が来たら、ルンバに従兄を紹介してもらう事となった。


 そうこうしている内に、4人とルンバの5人でグリュッグの町へ夕方というよりは少し遅い時間に到着した。

 ルンバは舟があるので、いたずらされたり盗まれたりするのを避けるため、自分は舟で寝ると言い張り、4人はルンバが教えてくれた安宿に泊まることにした。

 ルンバは、念のため明日一度従兄に会って来るとのこと。

 事前に約束などしていないので不在かもしれないが、その場合でも4人の誰かがルンバに付いて行って家を知っていれば、次回ここへ来た時にルンバがいなくても従兄さんと話はできるだろうという事になった。


 グリュッグは港町なので、比較的立派な港があったが、夜に近かったので、どんな町なのかはまだ分からない。

 それぞれが少量の石鹸が入った籠を持って移動する。


 「ここじゃないか?」とみぃ君が指さしたところに、タヌキの絵が描かれた看板がある宿屋があり、ルンバからは宿屋の名前は『タヌキのねぐら』という事を聞いていたため、おそらくここだろうということになった。

 道順も港から1ブロックしか離れていないので、ルンバの説明通りで迷うことなく来られたはずだ。

 暗い中、大体の規模は分かるが、外観はあまり分からない。

 とにかく部屋を取ろうと、4人は中へ入った。


 入ってすぐは食堂兼飲み屋になっている。

 煤けた木造で、テーブルも6つ、カウンターにも椅子が4つ。

 既にたくさんの人で賑わっている。

 「夕食かい?部屋かい?」と半分胸が見えている服を着たくたびれた感じの20代後半に見える女性が声を掛けてきた。

 「まず部屋を取りたい。その後で夕食を頼みたい。」とごんさんが彼女に向かって言った。


 「親仁さぁぁん。宿のお客さんだよ~。」と彼女は厨房に向かって叫んだ。

 姿は見えないが野太い声が、「二階の部屋へ案内してやれ。何人だ?」

 「4人だよ。」

 「一人一晩銅貨7枚。朝食付きだ。夕食もつけるなら銅貨8枚。夕食はエール1杯付きだ。」と、やはり姿は見えないが、厨房の奥から野太い声が説明する。


 「それじゃあ、夕食付で4人分。後、夕食と明日の朝食は1食分、船頭のところへ持って行きたいので作ってもらいたい。頼めるか?」とごんさんが代表として交渉をしてくれた。

 「食事だけなら、夕食・朝食で銅貨2枚。それでいいかい?」

 「ああ、それで頼む。」

 ごんさんの交渉が終わったので、女性が4人を二階へ連れて行った。

 二階には部屋が全部で6つあったが、隣り合った2つの部屋のドアを開け、「ここでいいかい?」といいつつ、女性は片手を出した。

 そこへ、みぃ君が銀貨3枚と銅貨4枚を乗せた。


 女性はうなづいて、「夕食は下の食堂で出すから、後で降りて来な。」といいつつ、4人をおいて、食堂へ戻って行った。

 部屋が二つあるので、男女で分けた。部屋は、簡素なベッドが2つと素人が作ったとしか思えない少し傾いたベッドサイドテーブルが間に置いてあった。

 ベッドは箱の中に萱が入っているだけだった。

 ルンバに事前に言われてシーツを持って来てよかったなと4人は思った。

 藁と違って萱だと肌を傷つけてしまう可能性があるからだ。どうしてこの世界は藁をベッドにしないのか不思議だが、一般的なベッドは萱のベッドなのだ。


 窓は通りに面して一つだけ、そして内側にテーブル代わりになるような板がつき出ている。新幹線の窓際の席だと、窓の横に少しスペースがあるが、そんな感じだ。

 シンプルな椅子が2脚、これですべてだ。トイレやシャワー室などはない。

 部屋の内装は二つとも全く同じであった。


 「トイレは共同なのかな?部屋にはなかったね。」とめりるどん。

 「後で、トイレの場所を聞いておこう。」とみぃ君が言いながら、みんなを階下の食堂へ行く様に手を広げ最後尾から進む。


 食事は、定食一種類だけの様で、さすが港町、白身の魚のシチューとパンだった。

 「これ、おいしいけど、もっと野菜があるとよかったのにね。」とももちゃんが言うと、「そうだね、味はいいけど、食物繊維がもう少し欲しいよね~。」とめりるどんが相槌を打つ。

周りは、酔っ払いばかりだが、4人に絡んでくる様な人もいなかった。しかし、女性が二人一緒なので、問題を避けるためにも4人共素早く食べ終えた。

 ごんさんはそのまま1食分を貰い、「ルンバのところへ行ってくる。先に寝ていてくれ。」と、舟の方へ歩いて行った。


 みぃ君は、店の女性、さっきの人とは別の女性に声を掛けて、トイレの場所と、体を拭くための水のある場所を聞いてくれた。

 水は裏庭の井戸を勝手に使って良いとのこと。トイレも裏庭の一角にあるとのこと。

 女性陣二人はさっそくトイレへ行き、戻る前にみぃ君が汲んでくれていた水を井戸の横で、手ですくって口をゆすぎ、顔や手足、首の周りを簡単に洗った。

 「わては、ごんさんが帰ってくるまで部屋で待っとるから、お二人さんは早よ寝てや~。明日はいっぱい歩かんといかんと思うでぇ。」とみぃ君と一緒に女性陣2人も二階へと上がって行った。


 部屋に入ったももちゃんとめりるどんだが、ももちゃんが扉に近い方のベッドに座って「中世の食堂と同じで、宿屋で働く女性は娼婦も兼ねているのかもね~。」とぽつりと言った。

 「どうりで肌も露わな服を着てたのね。」とめりるどんが納得したという表情で頷く。

 「本当はどうか分からないけど、たぶんそうだと思うよ~。お客の男性たちが体にべたべた触っていても、何にも言ってなかったしねぇ~。」

 「あっ、そういえばそうだねぇ。」

 「まぁ、そんなお店でもお客である女性には絡んでこないから、まぁいいかぁ。」

 二人がこんな会話をしているのは、明日もここに一泊するかどうかを踏まえての話だ。

 とりあえず、明日は早いからと二人はさっさとベッドに入った。


 その頃、ごんさんはまだルンバと一緒にいた。ルンバが夕飯を食べ終わり、寝支度をする間、舟番をしていたのだ。

 ついでに、船に残していた石鹸を宿へ持って行くため、籠に石鹸を入れなおしたりもしていた。

 辺りを見回すと、飲み屋の戸口からは灯が漏れているが、街灯などは見あたらない。

 ここに来るまでろうそくやランプなどは持ってきていないが、数多くの飲み屋があるので、決して明るくはないが、問題なく宿屋くらいまでなら戻れると思う。


 「待たせたなぁ。」とルンバが戻って来た。

 「おう、明日の朝も宿屋のメシを持ってくるから待っててくれ。それじゃ、俺は行くぜ。」と舟を降りた。

 

 宿に戻ると、食堂ではまだ多くの男たちが飲んでおり、トイレの場所だけ聞いて、二階へ上がった。


 「ごんさん、ルンバはどうだった?」と窓際のベッドに座っていたみぃ君が聞いてきた。

 「おう、慣れたもんだったぜ。夕食だけパクパク食べたら、すぐに寝るって言うので、戻ってきた。」

 「まぁ、明日は早いから、わてらも寝ますかぁ。」と男性陣もほどなく夢の住人となった。



 朝、起きてすぐ隣の部屋の様子を見て、めりるどんは全員そろって食堂へ降りる様、みんなを誘導した。

 朝食は簡単な野菜スープと、硬めのパンだった。

 食べてすぐに、今度はみぃ君がルンバのところへ朝食を持って行った。


 昼食はそれぞれが食べれる時に食べれるところで摂ることとなり、ルンバの昼食は、比較的時間の配分が自由になりそうなみぃ君に頼むことになった。ルンバの従兄については、もし、明日中に紹介してもらえるなら、ルンバの舟を集合場所として、最初の2人が集まったところで一人が舟番として舟に残り、もう一人がルンバについて会いに行くこととなった。


 今晩の宿もここで良いかとの話し合いでは、ルンバへ食事を運ぶ事も考え、ここが距離的な意味で良いだろうということになった。


 3人が今日の予定について話し終えた頃、みぃ君が宿に戻ってきた。4人は、延泊の手続を取って、それぞれが担当する仕事を果たすために動き出した。


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