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ベッドで眠れる幸せ

 結局、ごんさん達は、昼食時間の少し後くらいに村に戻って来た。

 港をうろうろしていたみぃ君の小さな友達が、きゃっきゃと仲間と駆けっこしながら4人の家まで走ってごんさんが帰って来たことを知らせてくれた。


 ももちゃんたち3人は、後ろに金魚の糞の様に子供たちを引き連れて港まで行った。港と言ってもただの砂浜なのだが・・・。


 「おおおお!結構な量、買えたんだね~。」と真っ先に声を上げたのは、ベッド作りの案を出したももちゃんだ。

 舟に駆け寄り、ルンバやチャチャにお礼を言いつつ、待ちきれない様で、羊毛の入ったズタ袋を降ろしにかかる。残りの2人も荷下ろしを手伝う。子供たちもみぃ君の真似をして、荷物を降ろそうと奮闘してくれる。中身は羊毛なので軽い。数人で抱えて降ろしてくれる。


 「ごんさん、みんな、お疲れ様~。」

 「お疲れ~。ルンバやチャチャもありがとうな。」と、めりるどんとみぃ君も買い出しに行ってくれたごんさんを労う。


 「おう、なんか、結構順調に行ったぞ。ただ、羊毛は洗ってあるのを買ったが、陽がある内にできるだけ陽にあてた方がよさそうだ。」との、ごんさんの意見に沿って、羊毛を裏庭へ持って行く。

 既にベッドは枠組みだけだが2つできていた。寝室に配置していたが、裏庭へ運び、そこへベッド4つ分の羊毛を無理やり入れ、数時間毎に上下を変えて陽にあてた。


 ごんさんも戻って来たので、残りのベッド作りは急ピッチで進んだ。ももちゃんは一人で、なんとか4人分のシーツを今日中に縫わなければっ!と焦りながら針を動かす。


 シーツは、その上で寝がえりをうったりするので、つなぎ目は丈夫に縫い合わせなければいけないが、かといってかがり方を間違えば、手や足、背中にかがった部分が当たり、痛い思いをする。

 縫い合わせ部分をできるだけ平にする様に、なおかつ丈夫にする様にと工夫しようとしたが、どうしてもつなぎ目は布が何枚にも重なるので、上手くいかない。

 もちろん、シーツの真ん中に縫い目が来ない様にはしているが、それでもまんま中に寝転んだとしても背中より少し外側につなぎ目が来る。


 「ねぇ、ももちゃん。理想は2枚の布を剝ぐ事だろうけど、1枚のシーツで端から端までの長さのつなぎ目がシーツあたり2本入るから、4枚のシーツ全てを剝ぐなんてできないし、多少違和感があっても本返し縫いにして、まつり縫いで布が端から解けるのを止めるしかないんじゃないかなぁ。シーツの両端もまつり縫いしないといけないしね。結構な量だねぇ~。」

 「やっぱ、それしかないかなぁ?私より裁縫が得意なめりるどんがそう言うなら、その方法が一番無難なんでしょうねぇ。」

 

 「シーツ4枚縫うだけでも普通に大仕事だよ。だって、ミシンないしねぇ。ベッドの枠を作り終わったら手伝いに来るから、がんばれ~、ももちゃん。」そう言って、めりるどんはベッド作りに戻って行った。


 これは、いずれ大きな町へ行って、幅の広い生地を手に入れるか、シーツそのものが売られていたら、買ってくるしかないなぁ。どっちしにしてもシーツだけでなく、文字も覚えたいので、大きな町へ行く必要があるなと思うももちゃんであった。


 そうこうしている内に、ベッドを作り終わった3人がベッドを家の中に運び終わり、羊毛も4等分して、それぞれのベッドに入れなおした。そして羊毛は少し余ったので、枕を作った残りで、軍手替わりの手袋でも編むか?それとも靴下でも?という意見がめりるどんから上がった。

 「まぁ、それは後でゆっくり考えよう。」というみぃ君の言葉でこの案はどっちにするか決定するまで先送りとなった。


 もともと臭くはなかったが、陽にあてたことで臭いも気にならなくなり、羊毛自体がふわふわになった。羊毛も日差しを受けてほんのり暖かくなっている。後は、シーツを掛けるだけになった。


 居間でシーツを縫っているももちゃんの横にみんなが座り、ごんさんが買ってきてくれた乳、チーズ、ヨーグルトについての相談を始めた。

 「冷蔵庫がないんだから、これだけの生乳は保管できないよねぇ。」とめりるどんが問題点を挙げた。

 「ヨーグルトにしたらどう?」と、針を動かしながらももちゃんが提案してみる。


 「そうやね、それがええねぇ。ヨーグルトなら作った事があるわぁ。わてが作ろうか?もともとヨーグルトは牛乳の保存方法の一つだったしな。」と、みぃ君が食育の講師である経験を活かしももちゃんの提案を補足してくれた。


 みんなその案に賛成で、早速生乳の大半をヨーグルトやクリームシチューにする事に決定した。もちろん、翌朝に乳として飲むのも折り込み済みだ。


 ベシャメルソースを作るにはバターが足りないので、野菜と肉をスープと乳で煮込み、小麦粉でとろみをつけることにした。


 ごんさんが夕食を作っている横で、みぃ君がヨーグルト作りに勤しんでいる。

 「作る時は室温でも高めのところ、20度くらいで作る方がいいんだけどね、食べるための保存は同じ室温でも10度くらいのことろがいいらしいよ。」とみぃ君が買ってきた乳に、買ってきたヨーグルトを少し混ぜている。


 買ってきたヨーグルトはいつ作ったのかが定かではないので、次のヨーグルトの種とする分以外は、フルーツを混ぜて、今夜のデザートにすることになった。


 久しぶりの乳製品に、4人の顔が明るい。

 お通じにもいいし、免疫力も上がるし、乳もヨーグルトになれば数日だけだけど保存可能期間が増える。いいことづくめだ。

 「久しぶりのヨーグルトで嬉しいけど、少し酸っぱいよね~。」とはちょっぴりつまみ食いをしたももちゃんの談。

 「あ、それな。冷蔵庫を使わない場合、大体が酸っぱくなるって言うぞ。」と意外なところで、ごんさんから説明があった。


 「ええええーー!どうしてごんさんがそんな事を知ってるの?」と、聞き様によっては大変失礼な質問がももちゃんの口から発せられた。

 ごんさんは、そんな失礼な発言も気にした様子もなく、「アメリカに住んでた時の同僚の奥さんがインド人だったんだよな。そこでメシをごちそうになった時に出てきたヨーグルトが酸っぱくて、聞いたらそんな回答が返ってきたよ。」とあっさり情報元を明かした。


 ごんさんは一時期米国で働いていたので、小型飛行機や銃の扱いができるらしいが、同僚の話は銃を誤って撃ちごんさんの腹に掠めた人の話しか聞いたことがなかったので、同僚の奥さんの話が出てきたことに驚いた。

 「ねぇねぇ、ごんさんが米国にいた時、同僚の人ってどこの国の人が多かったの?ってか、どんな人種の人が多かったの?」とめりるどんが興味津々なのを隠しもせずごんさんの顔見る。


 「ほとんどは白人と黒人の米国人なんだけどね、時々インド人や韓国人、中東系の人もいたなぁ。まぁ、はっきり相手の国籍を聞くことはあんまりなかったから、本人の話や、外見から、どこらへんの出身かっていう見当をつけてただけだがなぁ。」

 

 みぃ君は作ったヨーグルトをめりるどんが作ってくれた床下収納へ保管した。

 「今度、ごんさんの米国での武勇伝を聞いてみたいなぁ~。」といいながら、みぃ君も食卓に着いた。


 みぃ君が席に着いたのをきっかけに、ももちゃんがテーブルの上の裁縫道具を仕舞い、夕食が始まった。

ごんさんが作ったクリームシチューもどきも大変おいしく、いつもより夕食の会話が弾んだ。

 ごんさんの語る、隣村の話や、余った羊毛で何を作るかなど話題は尽きなかった。

 

 遅くまで夕食を食べていた四人だが、その夜は、四人とも羊毛のベッドで無事寝ることができた。

 布は高価なので、袋型のカバーはできなかったけど、上から被せるタイプのシーツは無事出来上がった。ももちゃんが一人で4枚とも縫うことができた。

 枕はベッド作りを途中から男性二人に任せためりるどんが四人分作ってくれた。


 「もう、目がしょぼしょぼだよ~。」と肩をぐりんぐりん回しながらももちゃんが情けなさそうにこぼす。

 最後の方は、まっすぐに縫えておらず、少し引き攣れている部分もできたりしていたが、そのシーツはももちゃんが使うと言い張り、3人には、ももちゃんなりに丁寧に縫ったシーツが進呈された。

 久々に地上で眠ることができて、その夜の四人は弛緩した表情を惜しげもなく晒し、朝まで起きることなく眠った。


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