隣村も小さかった
ルンバはお酒に釣られて、2つ返事で舟を2艘用意してくれることになった。
買い付けにどのくらい時間が掛かるのか分からないので、朝から一日かけて商談と往復の移動を考えていた。
ルンバともう一人舟を出してくれるチャチャには、お礼のお酒だけではなく、その日漁ができない分を補償するために、ちゃんとお金も払うことにした。
早朝の村の浜辺で舟の準備をしていたルンバにごんさんが近づいた。
「おう、おはよう。今日は頼むな。買い付けは羊毛が主なので、比較的軽い荷物になるが、もしかしたら洗っていない羊毛になるかもしれん。舟を汚さないですむカバーの様な物は持ってないか?」
「そうか。わかった。じゃあ、家の納屋に転がってる莚を数枚取ってくる。すぐ戻るから乗っててくれ。」といって、ルンバが家に走って行った。
浜に見送りに来ていたみぃ君たち3人は、ごんさんに虎の子の銀貨と銅貨を渡した。
「帰路はそのまま作業小屋まで運んでもらってくれ。戻ってくるまでには、俺たちも作業小屋に集合しておくので。」とみぃ君。
「わかった。」
「ごんさん、多少の値段の差なら、洗った羊毛でもいいよ。その場合は、荷下ろしはこっち(村)でね。」とすかさずももちゃんが別案を述べた。
洗う必要がないなら、ベッドを設置する村で羊毛を保管する方が、運搬が簡単になる。
4人はベッドを作るために、以前から切り出して家の横に立てかけているある程度乾燥させた木材を使うことにした。今日は、みぃ君とめりるどんで、ベッドを組み立てられる様に、それらの材木を細工する予定だ。
ももちゃんは、交換した布を縫い合わせてシーツを縫うので、家の中での作業になる。交換できた布は1枚では幅が足りないので、何枚かを縫い合わせる形になるのだが、それも寝っ転がる部分に直接縫い目が当たらない様に、布の配置を考えて作業しなければならない。
本当なら、一枚の布でシーツを作りたいのだが、ないのだからしょうがない。
寝心地は少し悪くなるかもだが、ベッドで寝れる事を思えば、苦肉の策といえど、清潔なシーツがあるだけでも良しとしなければならない。
ルンバが戻って来た。すぐに、舟を海に押し出し始める。
4人も2艘の船を押し出すのを手伝う。
「それじゃあ、行ってくるよ。期待して待っててくれ。」と言って、ごんさんはルンバとチャチャと一緒に海に漕ぎ出した。
舟が沖に出て小さくなると、3人はとぼとぼと家に戻った。
「じゃあ、ももちゃん、シーツはお願いね。」と言いおいて、めりるどんは、みぃ君と二人で裏庭に回り、ベッド作りの作業を始めた。
最近では、鍛冶屋のジョビとも仲良くなっためりるどんが、簡単な工具を作ってもらい、木工がかなり楽になっている。
ジョビは鍛冶屋の主で、意外と細マッチョなおじさんだ。頭も髭も白髪だが、体は鍛えた体をしており、顔も体も炉焼けしているのか赤い。
めりるどんがいろんな工具について発注するとき、いろいろと意見交換するので、ジョビのめりるどんへの対応はすこぶる良い。
釘もいくつか持っているが、できるだけ使わない方法で設計し、体重を支える要所要所にのみ釘を使った。残りは組み手を使う。
メジャーは長い布の切れ端に糸でメモリの役をさせるために縫い目を入れ、約1メートルと4人が感じた所に数字を縫い付けてある。
一旦1メートルと決めた長さを基準に、布を折りたたんで、その場所にメモリと数字を刺繍している。
メジャーは全部で8メートルの長さがある。
みぃ君と共同で家具を作るのに慣れてきためりるどんが、着々と作業を進めている。
みぃ君と仲の良い子供たち、タリン、ヨッシ、ノコノコが遠巻きに二人の作業を覗いている。これはいつもの光景だ。
みぃ君がタリンたちに笑って頷くと、三人の子供たちは歓声を挙げて、みぃ君の側に来た。
「見ててもいいけど、怪我をしない様にな。少し離れてた方が安全だぞ。」とみぃ君が注意する。
「「「はーーーーい」」」と子供たちはいつもの生返事をする。
「木をいろんな方向に向けて動かすから、ぶつからないようになっ。」と言って、作業に戻るみぃ君の手元を三人はしっかりと見つめる。
何が楽しいのか分からないが、いつもニコニコ楽しそうだ。
ごんさんは、午前中の早い時間に隣村に着いた。
ルンバに聞くと、港より少し陸地に入ったところに村長の家があり、羊毛などの売り買いは村長を通すことになっているそうだ。
舟を係留すると、ルンバやチャチャと三人で村長の家を目指した。
ベッグというこの村は、あまり漁業に力を入れておらず、少し内陸側の方で放牧などに力を入れており、家もまばらだ。村長の家がある辺りは広場の様に整えられているが、元々家がまばらなので、広場を作る意味があるのかどうかは疑問だ。
ごんさんは、広場を少しの間見まわした。
雑貨屋兼飲み屋が1軒。それだけだ。
村長の家以外には家が3軒広場に面していた。
土地を広々と利用しているとも言えるが、少し閑散とした印象を持った。
そのかわり家々は村を形成しているというよりも、あっちこっちに分散されて建てられている様だ。村の広場からそんなに歩かなくても良い距離を保つ様にはされている様だが、道もクネクネと大きく曲がっていたりと、その光景がベッグ村の特徴となっている。
「おっ!」とごんさんを見て声を掛けてきた人がいた。
ごんさんたちが住む村ザンダルでも何度か見かけた顔だ。村で見かけたというよりも、村の酒場で見かけたと言った方が正しい。
ぼさぼさの頭で、中背。少し猫背の男は、ごんさんを見てうれしそうに笑う。
「おおお!とうとう、あの酒をこの村にも卸してくれる様になったのか?」
今回、羊毛買い付けの為に来ただけで、お酒は持ってきていない。ザンダル村での消費に間に合っていない酒造りになので、他所にまで卸す程の量は用意できない。
「いや・・・。今日は羊毛を買い付けに来たんだ・・・。」とごんさんが申し訳けなさそうに答える。
とたんに男の眉の間に皺が寄るが、「そうか・・・。あの酒はおいしいから時々ザンダルまで行っていたんだけど、こっちでも売ってもらえると助かるんだがなぁ。」と自分の要望をごんさんに伝え、期待感を込めてごんさんの返事を待っている。
「申し訳ない。ザンダルの消費量にも生産量が追い付いていないので、今のところは他所で売るのは難しいかなぁ・・・。」とごんさんが答える端から、「おいおい、あの酒はザンダルの物なんだから、まずはザンダル村での消費優先だ。」とルンバが睨みを利かせている。
男は肩をがっくり落として「そうか・・・。まぁ、所用でザンダルへ行く時に、また飲ませてもらうよ。」と村長の家とは別の方向へ歩み去って行った。
男を見送って、村長の家の前に3人が立った。
村長の家は、この村の平均的な家より少し大きく、土壁と木を組み合わせた家だ。
「羊毛を買いたいんだが~。」と少し声を大き目に扉に向かって話しかけると、扉が家の内側から開いた。
痩せこけて髭を蓄えた老齢の男性がごんさんを見て、「羊毛を買いたいって?」と促す。
「まぁ、中に入れや。」と言われて、ごんさんとルンバたちの三人は村長の家の中へ入った。




