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ごんさんの社交力 その2

==========<ごんさん視点>===========


 明日は絶対一緒に行きたいけど、今夜は疲れたからとみぃ君は家に残った。

 まぁ、俺は普段から独りで家飲みもしていたから、一人で飲むのも嫌じゃない。


 昨夜、ルンバたちにおごったけど、まだこの前の硬貨の残りがある。ももちゃんが作ってくれた暖簾は、とても高く買ってもらえたのだとようやく分かった。

 たぶん、今日も手持ちの硬貨で飲み食いできるだろうが、万が一の事があるので、昨日持って行った塩も懐に入れて行った。


 煤けたスイングドアを開けると、既にルンバたちは来ていた。

 漁師なので朝が早い分、飲み始めるのも早いのかもしれない。

 店の中へ入ると直ぐにルンバたちが歓声を挙げて迎えてくれた。

 なかば強引に自分たちの座っているテーブルに連れて行かれた。


 店のオヤジがさっそくエールを持ってきてくれた。突き出しは、大きな餃子の様な物だった。齧り付いてみると、中身は魚の身をほぐしたものと、何かの野菜を混ぜたものだった。焼いているのではなく、水餃子の様にスープで煮た物だが、熱くて柔らかくておいしい。


 おいしそうに食べていたら、店の女将が誇らし気な顔をする。この味なら、そんなどや顔を見せても頷けるなと納得の味だ。それくらいおいしかった。相変わらず塩気は少ないが・・・・。

 

 今日は飲み始めてすぐ、初日に飲み代として渡した居住区との間にぶら下げられている暖簾を指さして、ルンバが何か言って来た。

 だけどなぁ・・・・何を言いたいのかわからないんだよなぁ。仕方なく首を傾げる。

 

 自分の言いたい事が伝わっていないと見て取ったルンバが残りのみんなに相談している様で、その目の前で繰り広げられている会議をじっと見つつ彼らの出方を待った。

 そうしている内にチャチャが目の前まで来てジェスチャーを始めた。


 この男、普段からどこか憎めない雰囲気で、ジャスチャーをしている動きもどこか滑稽だ。ルンバは先ずは自分の意志を伝えたいのだろうが、チャチャのあまりにも滑稽な動きに大きな声をあげて体を揺すって笑っている。

 もはや、俺に意思を伝えることよりも、チャチャのジャスチャーショーの方が重要になったみたいで、みんなチャチャを見て大笑いしている。


 俺もしばらくチャチャのジャスチャーを見守っていたが、意味はさっぱりわからない。

 今度は、サンバが前に出て自分を指さし、そして自分の横に指で空に何かを一生懸命描いてみせる。

 どうも、人間を表したいのだと思う。

 サンバが自分を指さした左手と、先ほど別の人間がいる様に描いた空間を右手で指して、その両手をくっつけ、最後にはがっちりと両手を握り合わせた。

 しかし、まだサンバが何を言いたいのか分からない。

 分からないのが伝わったのか、サンバは先ほど人間を描いた空間に、今度は自分が立ち、両手を使って自分の髪に沿って腰のあたりまで手を動かす。つづいて、胸のところに女性のバストを思い浮かべさせる様なジェスチャーをした。


 言いたい事の見当がついて「あっ!」と声を上げると、サンバはうれしそうに頷く。

 その女性を描いた空間を指さし、もう一つの手でルンバを指す。そして再び、両手を合わせる。その後に、女性を指示していた手はそのままに、ルンバを指さしていた指を、暖簾の方に向けた。

「ニャック」と一言発した。


 言葉を発したので完璧なジェスチャーゲームにはならなかったが、意味はわかった。

 ルンバの嫁さんあたりが暖簾を欲しがっていて、何かと交換したいということだ。

 分かったと知らせるために大きくうなずいた。


 今度は俺のジェスチャーが始まった。

 酒場の暖簾の横に立ち、暖簾の幅のところへ両手を持っていき、そのあと様々な幅にして広げる。そしてすかさず今度は暖簾の縦方向にいろんな長さになる様両手を移動させる。

 どれくらいの大きさの物が欲しいのかという意味でジェスチャーしている。


 結局、飲み屋に持ってきたものとほぼ同じ大きさで良いらしい。ただ、色の指定がある様で、ルンバはしきりに飲み屋の暖簾の緑色の部分を指さしていた。


 何が言いたいのかわかったと大きく頷いてみせた。


 そこからは、何故かジェスチャーゲームに移行し、みんなで楽しく酒盛りが始まった。

 言葉なんて通じなくても、楽しく過ごそうという気持ちはお互いに通じる様で、俺もわざとお道化た仕草などを盛り込み、場を盛り立てて行った。


==========<めりどん視点>===========

 

 樹脂を貯めるにはかなりの日数が必要だった。まだまだ必要な量には足りない。

「すんません。まだまだ時間が掛かる様で・・・」とみぃ君がすまなそうに言うが、「いやいや、樹脂があるだけでどれだけ可能性が広がったか。みぃ君のお手柄なんだよ。すごいことなんだよ~」と感謝の気持ちを込めまくってみぃ君を誉めまくる。みぃ君はちょっと照れたんだと思う。軽く頷いてみせると直ぐに他の作業に勤しみだした。


 シャワー室の柱はトイレのものより太くて丈夫なものにした。

 天井の上が水を溜めるタンクになるので、ある程度の重さに耐えられる柱でなければ倒れてしまうからだ。ただ乾燥した木は用意できなかったので、使ってる内に歪みなどが発生するだろうが、今はどうしようもない。あるもので作るしかないのだ。当面はこの柱を使うが、後日ちゃんと別の木を伐り出してちゃんと乾燥させて、やりかえれば良いだけのこと。それよりも何かの拍子に水でいっぱいのタンクが頭の上に落ちてきたら死ねるので、更に丈夫な柱を3本、柱と柱の間に追加した。


 壁そのものはトイレと同じで竹を割って作った長く幅広の板を上下に2本横渡しした竹に挟んだものを使い、四端は柱と竹壁の端の1本との間に蔦を使って取り付けた。 


 シャワーはすぐに浴びたいけれど、タンクがちゃんと作れなければシャワー室は完成しない。


「ということは、タンク部ができるまではシャワーは浴びれないけど、シャワー室としては使えるってことだね?」とごんさん。

「シャワー室として使える?」とももちゃんが理解できてない顔をした。

 ごんさんの言いたい事は分かったので、すかさずももちゃんに解説してみた。

「ももちゃん、要はシャワーはできなくても、体を洗う個室はできたんだねってことだよ」

「あ!そうか!天井のタンクの部分がないだけだから、水があれば、ゆっくり水浴びができるってこね!」とももちゃんの声も弾む。

「ということなら、今作りかけのタンクを切り出した竹もどきから、2~3タンクを切り出して、裏の庭に置いておけばスコールの水が簡単に貯まるってことやな」とみぃ君が締めくくる。


 みぃ君がさっそく竹もどきから4つの桶を切り出し、シャワー室の横に置いて、スコールの水を貯めることにした。

 朝の内に作業ができたため、スコールの時間には間に合い、十分な水が貯まった。お陰で今夜からはシャワー室は解禁となった。


 その夜、全員がシャワー室で水浴びをした後、珍しく男性陣も酒場へは行かず、そうそうに寝ることになった。

 水浴びとは言え、シャワー室の様なちゃんと個室になったところで体を洗え、トイレも文明的になって、今では屋根の下でちゃんと寝れてることもあり、4人全員どこか一息付けた感じが滲み出ていた。


 これまでの水浴びは川などで男女別に浴びていたのだ。誰も見ない事は分かってはいても、落ち着かなかったし、水浴びをしている無防備な時に動物などに襲われる危険もあったので、水浴びイコールやすらぎとはなっていなかったのだ。

 それが、このシャワー室建設で個室が出来、落ち着て水浴びできるのだ。しかも石鹸で体を洗えるので、さっぱり感も得られるという本当の意味でのリラックスタイムになった。


 二つしか部屋のないこの家の寝室は奥の部屋で、4人分のハンモックが吊るしてあり、真っ暗な中みんな横になり、眠ろうとしていたが、その実、誰も寝ていないのがなんとなく分かった。

「ねぇ、今まではいつもみんなでコミュに集まって、政治の話や経済の話をしてたけど、ここのところ全然そういう話をする余裕がなかったねぇ~」とももちゃん。

「うん、生きていくだけで精一杯で、何かを考えたり振り返ったりすることは無理だったねぇ」と私もここ数日を思い出し、しみじみとした口調になった。


「みんな、口に出すのを敢えて控えてることをここで言ってしまうけど、日本にいる家族のこと心配だよね。ってか、私たちが日本に戻れるのかどうかが一番の懸案事項かな~」とももちゃんが無遠慮に言う。


 言われた私達3人は日本にいる家族などのことを思って言葉が出ない。しばらくしてから 「ももちゃんだって、実家のご両親の健康が心配でしょ?」と一応は答えてみた。

「・・・うん」と小さな声で答えたももちゃんが、「だからね、みんな日本にいる家族や友人のこと心配だと思うから、これからはそういう不安を心の中にしまうだけじゃなく、時にはこういう話もして、お互いに発散?するのもいいかなぁって思ってるの」


 ももちゃんの言葉に、日本にお嫁さんがいるみぃ君は始終無言であった。

 恐らくお嫁さんの事を考えているのだろうと思うと湿っぽくなりそうだったので「ねぇねぇ、それはそうとこの村って、やっぱりモリンタが村長なんでしょ?ってことは、別の町には町長とか市長がいるかも?ここって、王制なんだろうか?議会制なんだろうか?」と慌てて話題を変えてみた。

 ももちゃんが何をしたいのかは分かったけど、みぃ君はまだその状態にまではいけてなさそうだからね。


 時々ズレちゃうけど基本気配りが出来るももちゃんも私が気を使ったのが分かったのだろう、こちらの話題に乗ってくれた。そこから、いろんな話が始まり、いつもの様に日本の政治や経済についての話になった。

 

「そやから、隣の大国人はぎょうさん日本に来てて、その内のかなりの割合の人が日本の税金で来てたりするんねんなぁ」

「そうそう、しかも、大国人は日本の土地を買えるのに、私たちは大国の土地すら買えないのよ!これって、日本の静岡県くらいの土地を既に買いあさってる隣の大国の日本侵略じゃないの?北海道なんてかなり危ないよ」私も臆さず持論を展開する。


「学費にしたってさぁ、日本人の学生たちはお金がなくて進学できない子供も結構いるのに、なんで外国人留学生をあんなにたくさん招聘して、あまつさえ生活費の補助までしてるの?その前に自国民に返さなくてもいい奨学金制度整えるのが先決でしょうに・・・」とももちゃんもなかなか辛口の意見を言う。


「日本の大学の中には、留学生がいないと学校そのものが続かない大学が多いんだってさ」とごんさんも容赦がない。


 長い時間話していた4人だったが、「ねぇねぇ、こういう話も久しぶりだけど、めっちゃいいねぇ」と半分眠りながらももちゃんがつぶやくと、みんなはうんうんとうなずき、いつの間にかみんな昼間の疲れから寝ていた。


 家族の話しは切なくなるので続かなかったが、コミュで毎晩の様に話していた話題にはみんな抵抗なく参加できたし、今のいっぱいいっぱいの生活から意識を飛ばし、元来興味を持っていた話題を扱う事で、少しだけ気分転換にもなったようだった。

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