ごんさんの嬉しい日 その2
==========<ごんさん視点>===========
朝起きると女性陣が既に朝の掃除や、水汲み、朝食の支度をはじめていた。
みぃ君はまだイビキをかきながら寝ている。
昨日のお酒がまだ残っているのかもしれない。
酒を可成り飲んだのに二日酔いも無く徐に起き上がり、ハンモックから降りる。そのままみぃ君を起こさない程度の小さな声で女性陣に挨拶をし、顔を洗う。
「ごんさん、昨日、酒場はどうだった?」とももちゃんがにこにこと尋ねてくる。
「うん、かなりの人数が酒場にいたね。後、比較的年をとった夫婦が二人だけで店を回している様で、酒はなまぬるいエールだけ、料理は女将さんがいろいろ作ってたね」と朝食をテーブルに運びながら、「あっ、そうそう。女将さんがとっても暖簾を気に入った様だよ。すぐに居住区との境に掛けて嬉しそうに見てたよ~」と付け加えた。
「おおおお!じゃあ、今度は何を持って行こうかね?」とめりるどんが楽しそうに考え始める。
「すぐに思いつかなくても大丈夫だと思うよ。昨日、帰る時におつりをもらったから・・・」
「よかった!じゃあ、何かを作って持っていけば、等価交換でお酒とお料理をもらえて、余りは硬貨でもらえるのね」とももちゃんがはしゃぐ。
「今度はコースターなんてどうかな」とももちゃんが案を出した。
「いいかもしれないけど、そういう雰囲気のしゃれた店じゃなかったよ」と軽く感想を言ったら、次に何を作るかの相談が始まったが、結局次に何を作るかは決まらないままだ。
みぃ君はここのところ、ずっと穴掘りを一人でしてくれたから疲れているだろうということと、昨夜のお酒が残っているだろうからゆっくり寝かせてあげようということになり、3人で今日の作業の分担を話し合った。
塩作りと、石鹸、ラード、砂糖作りをそろそろ始めないと、自分たちの備蓄もなくなってきているということで、今日は塩とラード作りをすることになった。
砂糖シロップは水分が多い分、かなり早めに使わないとダメになりやすいかもという意見が、めりるどんから出てきた。
シロップは出来たら出来た分だけ、家で使う調味料以外は、酵母にしてパン作りに活用し、残りで猿酒を作ろうということになった。
昨日の酒場で雑貨屋部分を見ると、パンみたいな物を売っていたが、パンというよりは、タコスに使うトルティージャの様なパンで、ふっくらせず、見た目からは固そうだったと報告しておいた。そうしたら女性陣が、酵母でふっくらパンを作ろう!とがぜん張り切り出した。しかしパンを焼くならオーブンがいると思うんだが・・・。
また、昨日の酒場の料理は塩が少な目の料理ばかりだった。おそらくこっちの世界ではあの塩梅が丁度良い塩梅なのだろう。でも俺たちは日本での食事を忘れられず、塩は遠慮なくたっぷり使って味付けしているから、定期的に塩を作ることは必須だな。
「へぇ~、海辺の村なのに塩味薄めなんだ~」と妙に感心した様にめりるどんが呟くと、「塩っていっても雑味が結構あって、塩辛いというより苦みが強かったなぁ」とうっかり答えてしまった。
「じゃあ、次は塩で支払いをしてもいいんじゃないの?」とめりるどんが目を輝かせた。
「じゃあ、さっそく造りに行かないとね」というももちゃんの一言で3人は木片に墨で3人は作業小屋へ行くこと、朝食の支度は鍋の中で、今日は一日、みぃ君はお休みして鋭気を養ってほしいことを書きつけテーブルの上に置いて、家を出た。
途中で2つの鍋に海水を汲み、注意深く小屋まで運んだ。
キャンプ地に着くといつもの様に罠の確認と、薪を収集。
めりるどんは石鹸液を攪拌し、早く固形石鹸を作りたいと息巻く。そして早速小屋近くの小枝を集めて火を点けて2つの鍋を火に掛ける。その横の空いた窯では、同時進行で乾燥が終わった海藻を燃やした。
ももちゃんは、みんなの食糧を採りにジャングルの中へ。
自分で「ばあさんは芝刈りに」なんて言いながらジャングルへ行くので、まぁ、流石にばあさんではないが、そこそこの中年なので、リアクションに困ってしまった・・・。
そうこうしている内にいつもの様に獲物と薪を抱えてキャンプに戻る。新しい罠も掛けているのだが、もう慣れた作業なのでほんの一瞬で終わってしまう。
ほぼ同時に戻って来たももちゃんが、川の罠から得物を取り出したり、新たに罠をかけたり、石鹸を作っていためりるどんと一緒に、2つの鍋を使って火にかけていた蒸発して量の少なくなった塩水を濾して一つの鍋にまとめる作業をし、空いた鍋を洗って、ココナッツオイルを作る。オイルが出来たら、空いていた石鹸用の鍋で石鹸を作り始め、塩は皿に取り除き、同じ鍋でラード作りを始めた。
女性陣二人が、流れ作業の様に火の番が必要な作業を進めていく。
この暑さの中での作業だ。本当に頭が下がる。
今回の石鹸の灰は、めりるどん推薦の海藻を燃やした灰だ。これで、さらに香の良い、上質な石鹸ができるようにと願いを口にしながら、前回作った石鹸とは別の入れ物に入れて攪拌する。
女性陣ががんばっているなら、俺はさとうきびもどきでも取りに行くかぁ。
戻って来たら砂糖シロップを作ると言っているが、多分時間的に今日は塩とラード作りだけで終わるだろう。
群生している場所を大体把握できているので、そんなに時間を掛けなくても両手にはかなりの量のサトウキビもどきが抱えている。
「ごんさん、サトウキビは明日処理しない?」とももちゃんが提案する。
「うん、そうだなぁ」と太陽の位置と女性陣が使っている鍋の数を確認した。
「じゃあ、虫などに取られない様に倉庫に入れておくよ」とバナナもどきの葉などに包んで、以前作った収納場所に格納した。
そうこうしている内に石鹸液もでき、ラードも持ち運びできるくらいには固まってきたので、それぞれ持って来た鍋に大量の戦利品を入れて村へ向かった。
村に帰ってくると、いつもの様に村の子供たちが4人の家の周りにいて、みぃ君にまとわりついていた。
最近は、家にいると子供たちがかなりの頻度で遊びにきて、4人の行動を真似ることが多くなってきた。
普段から俺らが何をしているのか気になる様で、なにかを作ってると近くに寄って来て、身を乗り出す様にして作業を見ていく。
4人のすることが村のやり方と違うからか興味津々で作業を覗き込むのは、もう珍しい光景ではない。
子供たちは彼が村にいる率の高さからか、彼の人となりのお陰か、特にみぃ君になついている。みぃ君も子供の扱いがうまく、作業をしながらでも目の端で子供たちの安全を確認して対応している。
3人が鍋にいっぱい戦利品を入れて戻ってくると、みぃ君がせっせとゴミ捨て場との境や、トイレ付近に木を植えてくれていた。前より生垣が密になっていて、見た目にも良い感じだ。
そしてそんなみぃ君の周りにはいつもの様に子供たちがまとわりついている。
「お!おかえり~」とみぃ君が照れくさそうな顔でみんなを迎える。
「起こしてくれればよかったのに・・・。小屋へ行くか家での作業をするか悩んだんやけど、生垣を植えるのもやっておいた方がええと思うてやっておいたでぇ~」
「みぃ君、みぃ君はこないだから一人でいっぱい穴を掘ってくれたから、体力的に一番大変だったもん。だから、今日くらいはお休みしてくれたらっていうのがみんなの気持ちだったのよ~」とももちゃんがいたわりの気持ちを込めていう。
「ん、みんなの気持ちはありがたいんやけどね、わてだけやのうてごんさんだって毎日罠まで行って獲物を採ってきてくれてるし、女性2人も肉体労働だけやのうて、籠とか暖簾とかエアープランツのオブジェとかいろいろ作ってくれてるし、やっぱり何もせぇへんっちゅうのは居心地が悪かってん~」と照れたようにみぃ君がつぶやき、「しかも、今朝はゆっくり寝させてもうてんで、随分体が楽になったよ~。おおきに」と締めくくった。
3人が帰って来たので、みぃ君が用意してくれた夕食をみんなで食べることになり、子供たちを自分の家へ帰る様にこっけいなジェスチャーでみぃ君が家から追い立てる。
子供たちも慣れたもので、鬼ごっこを楽しむかの様に「きゃーー」と楽しそうに歓声を上げて自分たちの家へと走っていく。
めりるどんが、今夜も二人は酒場へ行くか尋ねると、みぃ君は男性陣ばかりが楽しむのは気が引けるといったが、これまでの俺の我慢を思うと酒場へは行かせてあげたいと女性陣から意見が出て、結局男性陣2人は今夜も酒場へ行くことになった。
今度は何を酒場へ持って行ったらいいか?という話題で夕食は盛り上がった。
「ポテトフライとかどうかな?食べ物だけど、昨日お店に揚げ物はなかったし、塩も気持ち程しか入ってない感じだから、ポテトフライを卸せたら継続的な収入にも繋がる気がするなぁ」とみぃ君から意見が出た。流石に料理が好きだと豪語するだけあって、昨夜の内にちゃんと料理のラインナップを確認してたんだな。
「実は、昨日エールを飲みながら、ちゃんとした塩味のつまみで飲みたいなぁ~って思ってたんだ」と援護射撃を撃ってみた。
「それ!いいね!問題は芋が常に手に入るとは限らないことくらい?」とももちゃんが問題点を挙げる。
「んじゃあ、栽培しちゃえば?」とめりるどんが即座に案を出す。
「村の中だとまた許可を取らないといけないから、作業小屋付近で栽培してみるか?」と俺にもこの案は魅力的だ。だって、家飲みに切り替えた時にポテトフライがあると酒が進むじゃないか。それに栽培したら欲しい量は確保できる可能性が高いからな。
収穫はいつになるか分からないけど、ジャガイモを育てる要領で少し栽培してみることになった。
植える時期の問題とかもあるから、毎月ちょっとづつ植えて、何時頃植えた分が無事育つかを観察することになった。
とりあえず、今夜は昨日のお釣りで飲んでくることになり、男性陣2人でいそいそと酒場へ向かった。




