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養成所

 結局、アイドルコンテスト出場者は全員、りんご亭と契約をした。

 単純に、男子ユニット、女子ユニットとし、りんご亭所属のアイドルグループは2つとなった。

 ももちゃんは、街外れの一軒家を買い取り、1階全て内壁を壊し、柱だけにして広い練習場を確保し、デビューまでそこで練習をしてもらう事にした。

 これまで貯めてきた箪笥貯金の残金が大きく減ってしまった。

 いつもの事だが、新しい事業を始めたり、小さかった事業を大きくする時には何かと資金が必要なのだ。

 それはりんご亭の4人全員が分かっている事なので、別段揉めることもなく、箪笥貯金から資金を投入して、アイドル事業を展開することとなった。


 心配していた給料制だが、コンテスト出場者全員がももちゃんが提示した金額で納得してくれた。

 はっきり言って、普通に生活は出来るが、高い給金という訳でもない。

 では、なぜ、出場者全員がももちゃんの提示した金額で納得したかというと、舞台に立つまでにいろんな稽古をつけてもらい、衣装なんかもりんご亭持ちなので、給料だけでなく、彼らに係る費用が膨大であることや、舞台に立つまでは本来りんご亭としても彼らの活動による収入もなく、出費だけが嵩むのだが、訓練期間も同額の給与を出す事で納得してくれたからだ。


 さて、訓練なのだが、みぃ君とももちゃんはベースギターやピアノやアコースティックギター等の楽器を扱った事もあるし、実際学生時代等はバンド活動で舞台の上にあがった事も何度かある。

 ももちゃんなんか学生時代だけでなく、スペインに住んでた時も住んでた街のFM局の人気アナウンサーとバンドを組んで、活動をしていたのだ。

 ただ、ベースは下手だったが・・・。


 りんご亭の4人の誰も、ぶっちゃけ作曲や振り付けの才能はない。

 まぁ、ももちゃんは中学校の時と高校時代、学校の作曲コンテストで2度優勝はしているが、それはどちらもクラスで歌う合唱曲という縛りがあり、アイドルが歌う曲とはかけ離れたものだ。

 なので、ももちゃんの作曲の腕も信用がならない。


 そんなこんなで昭和初期のアイドルソングをそのままパクリ、もちろん振り付けもそのまんまパクる事にした。

 平成や令和の曲も良いのだが、まだまだこちらの世界の聴衆がそこまで育っていないのではないかという意見がみぃ君から出たので昭和のアイドルソングに拘ったのだ。


 また、海外の歌と日本のアイドルソング、どちらにするかという意見にも、日本のアイドルソングから始めた方が、アイドルがどういった者かこちらの人にもはっきりするだろうということから、日本のアイドルソングをパクる事になった。


 地球の曲をパクっても、それがパクリだと分かるのは、こちらの世界ではりんご亭の4人だけなので、パクる事に抵抗はなかったのだが、問題は歌詞だった。

 外国人であり、元々作詞の才能のない4人には、こちらの言葉で作詞をするのは無理な話だった。


「誰かに頼むしかないよね」とごんさんが言うと、「やっぱそうなるかぁ」とももちゃん。

「誰か良い人いるかな?」というめりるどんの問いに答えられる者はこの3人ではいない。

「困った時は現地の人へ相談やな」というみぃ君の至極真っ当な意見に従い、りんご亭の従業員にいろいろ聞いてみたが、誰も良い案を出す者がいなかった。

 作詞家という仕事がないのだから、それもしょうがない事ではあった。


 解決策が無いままだが、アイドル予備軍には振り付けと歌詞なしのラララ~♪で歌ってもらう事で練習を重ねていた。

 演奏は、王宮で演奏していた楽師を3人引き抜いた。

 歌の練習の時は、楽師が練習場に来てくれ、楽師の演奏練習も兼ねつつ、毎日練習をしてもらっていた。


「ふんふんふ~ん♪街の中を吹く風にぃ~♪」とラララで練習してもらっていた曲を、モップで床掃除をしているオルランドが歌っていたのをももちゃんは目ざとく見つけた!

「オルランド!その歌詞はどうしたの?」

「え?」

「今、街の中を吹く風に~って歌ってたでしょ?」

「いやぁ、何も考えてなかったなぁ」

「自然に口から出たのね。よしっ!オルランド、給料以外にもちょっとお金を儲けたくない?」

「そりゃぁ、お金がもらえるなら嬉しいけど・・・」

「私達の用意した歌に歌詞をつけて欲しいの。どうかな」

「え?でも、俺、歌詞なんて考えた事ないぞ」

「今みたいに、メロディーに合わせて書いてくれたらいいよ。ううん。字が書けないのなら、口ずさんでもらえれば、こっちで字にするから、適当に歌詞をつけて歌ってみて。最初のメロディーと次のメロディーの詩に繋がりがなくてもいいので、とにかくメロディーにあった歌詞を考えて欲しいの。一旦全部のメロディーに歌詞がついたら、前後の詩から意味がある歌詞を考え直すから、まずはメロディーから浮かぶ歌詞を教えて欲しいの」

「まぁ、それくらいでよければ・・・」という事になり、オルランドに全ての曲に歌詞をつけてもらった。


 でも、歌詞を考えろと言われると緊張してしまうみたいで、変な詩がついてしまう。

 意味が変な詩というよりも、イントネーションがおかしくなり、歌詞が頭に入りづらい曲になってしまうのだ。


「オルランド、歌詞っていうのはね、普通に話すのと上がり下がりが同じでないと曲と合わないのよ」とももちゃんが説明をする。

 つまりももちゃんが言いたいのは、日本語で『ありがとう』と発音する時、大阪弁などの方言なら別だが、標準語で発音する時は『り』にアクセントがあり、つまり、歌詞として曲と合わせる時は、『り』に当たる音が前後の音より高い音程でなければ不自然になるのだ。

 一応はももちゃんにも校内の作曲コンテストで優勝するくらいの知識があった様だ。

 そう説明すると、オルランドはもう一度作詞の作業に入った。


 その後に、前後で詩の意味がチグハグな所はももちゃんの方がその部分を抽出し、オルランドに相談し、同じ様なイントネーションで、〇〇と言った意味になる言葉はないかという作業を何度もくりかし、それなりにストーリーのある歌詞が出来上がった。

「ここの、『君のおくれ毛が』の所だけど、前後が、歌声の事を言っているので、おくれ毛の部分を声に関する言葉に変えたいんだけど、おくれ毛がと同じ字数で、同じイントネーションになる言葉はないかしら。」

「そうですね・・・・。高い声が・・・・。字数が合わないか・・・かわいい声・・・。う~ん。」

「がを抜いて、高い声にして歌ってみてくれる?」とももちゃんがオルランドと一緒に歌詞を付けるために四苦八苦する。

 いや、四苦八苦しているのは、オルランドなんだけどね。

「うん。澄んだ声にしたらイントネーションが高い声より合ってる気がする・・・。」

「おおお!オルランド。高い声より澄んだ声の方がイメージも綺麗だしね。ここは、澄んだ声にしよう!」とももちゃんが異論を認めない勢いで、紙に歌詞を書き込んでいる。

 そこからはオルランドの作った歌詞で歌の練習が行われた。


 オルランドに歌詞を作ってもらう時、みぃ君とももちゃんが拘ったのは、インパクトのある名詞を何度も繰り返す事だ。いわゆるリフレインの事だ。

 一度聴いたら頭にその部分だけがシツコク残る感じ、それを目指したのだ。


 練習場の2階はいくつかの部屋に分かれているが、その一つは衣裳部屋となった。

 男性グループ3人は真っ白な揃いの闘牛士の様な衣装と、真っ黒に金糸で刺繍がされている揃いの衣装の2種類を用意している最中だ。

 どちらも衛兵の制服を思わせる、カチっとした服だ。


 女性の方は、練習中にロンドニの歌唱力が他の3人に少し劣る事から、ロンドニを除いたランリンス、バルドナ、ジャギンナで一つのグループを結成し、ロンドニはソロで活動してもらう事にした。

 グループの方は、各自のカラーを決めた。

 ランリンスはラベンダー色、バルドナは栗色の髪に合う様に黄色やクリーム色、ジャギンナにはピンク色をパーソナルカラーと決め、彼女たちの衣装はその色で衣装を作った。

 ロンドニはお色気を前面に出しつつ、いやらしくならない様に、極力肌を晒さない様なデザインを心掛けた。


 以前から衣装作成をお願いしていた冒険者ギルドから紹介された未亡人を正社員として雇い入れ、衣装作成と管理をお願いした。

 そして彼女の推薦のあった別の未亡人たちをお針子として新たに雇い入れた。

 その彼女たちの作業場が、練習場の衣裳部屋なのだ。


「ももちゃん、折角コンテストをしてみんなの関心を集めたのに、デビューするのに時間がかかると、みんなに忘れ去られてしまうんじゃない?」とめりるどんが心配した様で、ある夜、夕食時に聞いてきた。

「う~ん。ビアガーデンが終わってるから、適当な広さの舞台がないんだよね」

「他のお店に貸し出しは?」

「いやぁ、ここまでして育ててるのに、やっぱデビューは家からでしょう」と女性陣二人の会話に男性陣は一言も挟まなかったが、最後にみぃ君の「家の食堂でええやン。テーブル2つくらいとっぱらってさ。どうせ、1週間くらいのもんやろ?」という一言で、彼らのデビューはりんご亭の食堂に決まった。

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