アンナの告白 その2
「あとはお若い三人でどうぞです」
「酒池肉林です」
「ずっこんばっこんです」
テーブルの上で大精霊達がむちゃくちゃ言っている。床に膝をついたアンナさんを尻目に、大精霊達はまたどこかに散らばっていった。
「タ、タナカさん、今の小さい人達は一体……」
隣からミーヤの声が届く。
横を向くと、目を丸くして俺を見上げるミーヤの姿があった。
「……そういえばまだ、ミーヤさんにはちゃんと説明していませんでしたね。えっと、今の人達は大精霊と呼ばれる存在です」
「え、ほ、本当ですか!?」
俺の言葉に、驚いた様子のミーヤ。
すると、横から言葉が降ってきた。
「ああ、本当だ」
ミーヤにそう言ったのはアンナさんだった。
「ど、どうして大精霊様がここに?」
「それは私が、その、精霊の加護を持っているからです」
ミーヤの言葉に、俺は素直に答えた。
今までミーヤには真実を伝えていなかったけれど、もういい加減伝えなければならない。
俺の言葉にミーヤの目がますます見開かれる。
「いままで隠してて申し訳ないのですが、実は私は……その、賢者様と同郷の、異世界からやってきた人間なのです」
「そ、そんな……」
俺の言葉にミーヤが呟く。その唇が僅かに震えていた。
「本当ですか?」
「はい」
俺は頷いた。すると顔を青ざめさせたミーヤが、慌ててベッドから床におりて床に頭をつけた。
「も、もうしわけありません、タナカさ、様。今までのご無礼を」
「や、やめてくださいミーヤさん!」
謝罪をするミーヤを見て、俺は気付けば同じく膝を床につけていた。
どうか、どうかそんなかしこまった態度で距離を取らないで欲しい。俺は心からの願いと共に、ミーヤの手をとった。
「タナカ様なんて言わないでください、ミーヤさん。私はただの……ただの男なんです」
「タナカ様……」
俺の言葉に、ミーヤは戸惑っている。
「ミーヤ、もし恐れ多いと思うのなら、タナカ様の恋人の座をおりるが良い」
唐突にそう言ってきたのはアンナさんだった。
横を向くと、立ったアンナさんがミーヤを見下ろしている。その顔はどこか勝ち誇った表情をしていた。
「そうすれば、タナカ様の愛は、私一人のものだ」
アンナさんが言う。
その瞬間、俺の手を握るミーヤの手がぎゅっと閉じられた。
「ぜ、絶対にだめです! タナカ様は譲りません!」
前を向くと、ミーヤは怒ったような顔をアンナさんに向けていた。
「ならば、今まで通りにするしかあるまい」
「そ、そうですね」
アンナさんの言葉に、はっと気がついたような表情をするミーヤ。
そしておずおずと頷いていた。
「これからもよろしくお願いします、ミーヤさん」
「はい……タナカさん」
俺がそう言うと、ミーヤが俺の方を向いてやっと微笑んでくれた。
どうやらいつものミーヤに戻ってくれるみたいで、俺はほっとした。
「タナカ様!」
「は、はい」
そんなとき、急にアンナさんが俺を呼んだ。
そして同じように床に膝をつき、俺の手をとってくる。
アンナさんの双眸が俺を見つめた。
「私とつきあっていただけるとなると、他の有力なダークエルフの一族にもタナカ様の秘密を打ち明ける必要があります。そうなれば、きっとこのさきダークエルフの娘から数多く迫られることがあるでしょう」
アンナさんが唐突に言う。そう言えば、ノアさんがそういうことを言っていた気がする。
「ですが、私は負けません。他の娘など目に入らないほどに、私が虜にしてみせます」
アンナさんがそう宣言しながら、ぎゅっと俺の手を握りしめる。
その手からアンナさんの力強い思いが伝わってくるようだった。
「わ、私だって!」
今度はミーヤがそう言って、俺の手をぎゅっと握りしめる。
二人の美少女に至近距離で見つめられ、俺の顔は熱を持った。
「……は、はい」
気の利いた言葉も返せず、頷くしか出来ない俺。
床の上で、仲よく膝をついて手をつなぎ、見つめ合う我々三人。
そのまま数秒が流れた。
……恥ずかしさで湯が沸かせそうだった。
それはきっと二人も同じだったようで、誰からともなく手を離す。
ミーヤもアンナさんも、照れくさそうに頬を染めていた。
「……と、とりあえず昼食にしますか」
仕切り直しということで、俺はそう言った。
それから俺達三人で昼食の準備を整えた。料理は基本ミーヤにお願いするのだが、レンジやコンロなどの使い方をある程度説明する必要があったので三人でしたのである。料理とは言ってもほぼ『レトルト』なので、さほど時間はかからなかった。
「そういえば、タナカさんって、どうしてこの世界にいらしたんですか?」
料理を作り終え、席に着いたところで向かいのミーヤに尋ねられた。
「えっと……それはですね」
俺はその質問に対して、なんと答えるべきか悩んだ。
正直にな所を言えば、俺は日本で成り上がるために異世界にきただけである。
「タナカ様はですね、我々の世界に光を照らすためにいらしてくれたのですよ」
言葉に窮していた俺に変わってそう言ったのは、アンナさんだった。
俺の横に立ってコップに水を注いでくれていたアンナさんが、ミーヤに対して言葉を返す。
「世界に光を?」
「はい、この天変地異によって貧しくなった我らの生活を、食うに困った人々を救うためにいらしてくれたのです!」
そう言うアンナさん。
正直アンナさんのいうような目的は俺の中になかった。だがしかし今俺はようやく踏ん張るべき地面を見つけたのである。
「本当ですか、タナカさん」
ミーヤの無垢な瞳が俺をとらえる。俺は僅かな罪悪感を感じつつも、はっきりと頷いた。
するとミーヤが破顔した。
「すごいです! タナカさん!」
ミーヤが俺を見てそう叫んでいた。
ミーヤがうっとりとした表情で、俺を見つめてくれるミーヤ。
「え、そ、そうですか?」
「はい。私達のためを思ってなんて、本当にありがたくて、素敵です……」
「もちろんです。タナカ様はとても素敵です」
ミーヤが俺を肯定してくれる。それにアンナさんも。
その瞬間、俺は喜びで胸が一杯になった。
「私はこの世界を救うために頑張ります!」
俺は誓った。
これからは異世界を救うために、一生懸命頑張ろうと。




