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猫耳魔法使いミーヤ、ダークエルフの騎士アンナ、ただいま見参! side オリバー

 俺は厨房にある椅子に腰かけ、一冊の本を読んでいた。その本には始めて見る異国の料理の作り方が、信じられないくらいリアルな絵と共に載っていた。

 異国の食材なのか、見たこともない食材も多々あり、作り方も独特である。

 にわとり、という昨日タナカの家で食べた極上にして謎の魔物も載っていた。貴族などにしかお目にかかれない、珍しい魔物らしい。



 俺が食い入るように本を読んでいると、ニ階から降りてきたサキが厨房に姿を現した。

 俺を見て驚くサキ。



「おはよう、お父さん。はやいね」

「ああ、ちょっと、この本が気になってな」



 娘の質問に、顔を上げてこたえた。



「そっか、朝食作るから、ちょっと待っててね」

「ありがとう」



 サキはいつものように厨房でスープを用意してくれる。



「サキ」

「ん? なに?」



 サキが振り返る。



「明日からは、朝食ももうちょっと精の出るものを食べようか」



 今まではそんな余裕、どこにもなかった。しかし今は、タナカが給料と言って無造作にくれた金貨がたくさんある。



 俺がそう言うと、サキはほほ笑んだ。



「うん、そうだね」



 そう言って、調理を再開するサキ。



 それから少しして、サキの手作りスープがテーブルに並んだ。



「「いただきます」」



 二人でスープを食べる。



「ねぇ、お父さん。そのタナカさんから言われた料理の方は大丈夫そう?」



 サキが、テーブルの横に置いた本を見て、少し心配そうな顔をした。

 娘はタナカが援助の条件としてだしたことを、俺がきちんと守れるか心配なのだろう。



「んー、まぁ、確かによく分からない食材とかもたくさんあるが、できそうなのもたくさんあるし、問題はないと思う」



 タナカが俺を雇うことと店の援助の代わりに出した条件、それはタナカの故郷の料理を作ること、基本的にはただそれだけだった。そしてそのために、タナカは故郷の料理の作り方が載っているというこの本を、俺によこしたのである。



 この本に載っている食材は、確かに知らないものも多々あるけれど、タナカはこの国にあるもので代替してくれて構わないと言っていた。食料代も十二分に貰っているし、期限は一週間もあるし、そちらは問題はないだろう。



 それに学のない俺でも分かる。

 この本は、宝の山だ。



「でも、そのマヨネーズっていう調味料にあうような料理を作らないといけないんでしょ?」



 サキは厨房の上に置かれたマヨネーズという調味料の入った容器をちらりとみやった。



 そう、雇って貰うに当たり、俺はタナカから一つの試験をかされた。それは料理本に載っているマヨネーズを使った料理をいくつか選んで作り、タナカに振る舞うこと。

 そのために、マヨネーズの入った容器を一つタナカは譲ってくれていた。



「大丈夫だ、あの調味料は素晴らしい。肉でも野菜でも何でもあうぞ、あれは。まさに衝撃だった。ただ、タナカさんから要望された料理は単価が高すぎて、うちではとてもだせそうにないと思うがな」



 貴族のダークエルフはなんとかして見せると言っていたが、どう考えても採算はあわないだろう。



 俺がそう答えて笑ってみせると、サキは一瞬だけ微笑んだ。



「そっか。……ねぇ、お父さん」

「ん?」

「そんなに思い詰めた顔をしないで」



 声をかけてきたサキは、そう言った。

 娘に心配されるなんて、俺はどんな顔をしているのだろう。



「……タナカさんは何て言ってたの?」

「ああ……タナカさんの目的は、自分の国の料理をこの国でも食べることらしい」



 タナカはそのように言っていた。



「私は家族みんなでいられれば幸せだよ」

「……」



 俺は何も答えられなかった。



 朝食を食べ終えた後、俺達は二人で家を出た。



「いってくるね」



 玄関前で、サキは言った。



「昼食は持ったか?」

「うん」

「嫌なことをされそうになったら、必ず言うんだぞ」

「うん」



 俺の質問に対して、サキは答えた。



「つらいと思うけれどもう最後だからな」



 サキが家族のためにやってくれていた重労働の仕事。明日からやっと、サキにそんなことをさせずにすむ。



「分かってる、お父さんも冒険者の人によろしくね」



 そして俺は、もう今日から冒険者という危険な仕事をしなくてすむ。俺はこれから、冒険者ギルドに出向いてかつての仲間達に別れを伝えにいく予定だった。



 俺とサキは別れて、それぞれの方へと歩き出した。



 冒険者ギルドの方へ向かいながら、俺はタナカの事を思い出していた。



 タナカという商人の名前を娘のサキから初めて聞いたときのことを、俺は今でも良く覚えている。

 娘の親友であるミーヤちゃんを大金で雇ったという、なんだかいかがわしい奴。俺の中でのタナカのイメージはそんな感じだった。正直、昔サキの体を弄ぼうとした卸業者の店主と、どうしても重なってしまったのだ。



 だが今思い返してみると、あの時サキはタナカのことをそれほど悪く言っていなかったような気もする。むしろ街で出会ったミーヤちゃんがいかに幸せそうだったかを語っていた気がする。



 そんなことを考えながら歩いていると、冒険者ギルドへとたどり着いた。

 扉を開けて建物内に入り、そこにいたかつての仲間に別れの挨拶をした。



 皆、自分と同じで職を失って冒険者に身をやつした連中ばかりだった。

 途中で命を落としたものもいれば、途中から加わった仲間もいる。



 それでも皆、もう戻ってくるなよと言って、見送ってくれた。



 別れを済ませて冒険者ギルドを出た俺は、次に商人ギルドに向かった。

 理由は近くの農村に働きに出ている妻を、この街に呼び戻すためである。

 商人ギルドの壁に貼られていた紙を見て妻は開拓事業に応募したのだから、きっと商人ギルドに頼めばなんとかなるだろうと俺は考えていた。



 商人ギルドに向かう最中、俺は再びタナカの事について思いをはせた。



(しかし、なんというか不思議な男だったな……)



 料理本とマヨネーズの代金と言ってダークエルフの貴族が支払った金貨を、タナカは無造作に俺によこすだけでなく、その後もあり得ないほどの給料を俺に約束した。



 そんな本当に商人なのかと疑いたくなるような金への無頓着具合に加え、タナカの家にあった高価そうな食器類や、見たこともない家具の数々。おまけにあの料理の本だって異常である。あんなに良くできた絵に加えて、紙質も普通ではない。

 そのくせ住んでいる家は外観に対してとても手狭だった。



 あと、本人は最近この街にやってきたと言っていたけれど、貴族とのつながりを持っている。まあ商人の付き人のようなことをしているくらいだから、おそらく大した貴族ではないのだろうが、それにしたって商人としては立派なものである。



 なんだか考えれば考えるほど、よく分からない男だった。



(ただ、悪い男には見えなかった……)



 昨日少し話して、純粋にそう思った。顔も含めて変な男ではあるけれど、誰かにひどいことをするような男には到底思えなかった。



 それとタナカのおかげで、俺はまたミーヤちゃんとの仲を取り戻すことができた。

 店で働いてくれていたミーヤちゃんを首にして、そしてミーヤちゃんのお母さんがあんなことになってから、俺はずっと合わせる顔が無かったのである。

 しかし昨日、タナカの家からの帰り道で、俺はようやくそのことを謝罪することができた。

 そのことに関しては、感謝してもしきれない。



(いや、しかしそれはたまたまであって、タナカが善人か否かには関係ない……)



 自分に言い聞かせる俺。

 それから、昨日の帰り道でミーヤちゃんとした話を俺は思い出した。



 ミーヤちゃんから聞いた話によると、タナカは孤児院を経営しているらしい。

 昨日の帰り道でタナカの事について尋ねた俺に対して、ミーヤちゃんは『タナカさんは貧しい子供を見捨てない、とても心優しい人なんです!』と瞳を輝かせて語ってくれた。



 俺はタナカという男を本当に信じてよいのか分からず、悩んでいた。



 やがて、俺は商人ギルドについた。

 扉を開いて、中に入った。



「いらっしゃいませ」



 カウンターの前に立つと、受付の男性が頭を下げた。

 俺は早速その男性に、農村に出た妻を呼び戻したい旨を伝えた。



「かしこまりました。ご説明させていただきますと、奥様が仕事を途中で放棄する場合、違約金が発生します。さらに加えて彼女を連れ戻すためのギルドへの手数料もかかりますが、よろしいですか?」



 男性はそう言った。 



「……一体いくらだ?」



 俺が尋ねると、受付は金額を提示した。その額は、滞っていた店の借金返済の分を差し引いても、今なら余裕で払える金額であった。



「……それで構わない。金ならあるんだ」

「分かりました。少々お待ちください……」



 受付の男性はそう言って下がり、後ろの机で仕事をしている別の男性職員に何か話し掛けた。

 そして再び受け付けに戻ってきた受付の男性は、笑顔を俺に向けた。



「ただ今、奥様を乗せてくれそうなこの街へ向かう魔亀車を探しております。少々お待ちください」

「ああ、分かった」



 俺は頷いて、隅に置いてあった椅子に腰掛けた。



 それから十分ほど経ったころ、受付に再び名前を呼ばれた。

 俺は立ち上がり、カウンターの前に立った。



「お待たせしました。えっと……」



 その男性は手元の紙を見ながら、説明を始めた。

 それによると、街と農村を運ぶ魔亀車の関係で、妻が帰ってくるのは今から二週間後になるとのことだった。

 できればもっと早く帰ってきて欲しいけれど、こればかりは言っても仕方ない。俺は納得の意味も込めて頷いた。



「では、料金の方ですけれど……」



 男性が金額を述べる。

 俺はタナカから貰った金で、それを払った。そしてギルドカードによる手続きを済ませた。



「では以上になります。ありがとうございました」



 その男性の言葉で俺は、何だかどっと肩の力が抜けた。

 これでようやく、家族皆で暮らせる。そう思うと、自然と顔がほころんだ。

 そして俺は、商人ギルドを後にした。



 その後俺はその足で滞納していた家の借金返済をすませ、それから食材を市場で買ってから、家に帰った。

 そしてサキが作ってくれていた昼食を食べて、後片付けをする。その後は、買ってきた食材を使って料理の本に載っている料理を作ってみた。

 できた料理は、少し味見した後、他は夕食のためにおいておいた。



 後片付けも終えた後、いよいよやることがなくなってしまった。

 まさかすることがなくて、暇だなんて思う日が来るとは。



 椅子に座って次に何をしようかと考えた時、ふと俺の脳裏にタナカが経営しているという孤児院のことがよぎった。

 何となく、孤児院に向かえばタナカについて何かが分かるような気がした。



 意を決して俺は立ち上がり、そして家を出た。



 そして孤児院を訪れた俺は……、



――数十分後――



「タ、タナカさん、俺は……俺は、あんたの事を誤解していた。すまない。本当にすまない……」



 孤児院の院長であるエルダさんに教えられ、俺はようやく己の間違いに気づくことができた。そして、たまたま孤児院を訪れたタナカ……いや、タナカさんに、心からの謝罪をしていた。



 タナカさんは一体何人の子供の命を救ったのか。ああ、何故俺はこんな善人を疑うようなことをしたのだろう。本当に己が恥ずかしい……。この人には邪な気持ちなど一切なかったのである。



 幸いにも俺はタナカさんに許してもらうことができた。



「まあまあ、和解もできたということで、この話は終わりにしましょう。ところでタナカさまは本日はどのようなご用件でいらしたのですか?」



 エルダさんがそのように尋ねると、タナカさんは動画の撮影とやらを許可してほしいと言った。

 どうやらその動画とやらがサキが言っていた、タナカさんがミーヤちゃんを被写体に描く絵のことらしい。



 俺はそれがどのようなものか確かめるため、動画の撮影とやらにつき合わせてほしいとタナカさんに頼んだ。するとタナカさんは快く了承してくれた。



 動画の撮影とやらを見られることに、タナカさんは何の後ろ暗さもなさそうであった。

 やはり、別に何もいやらしいことなどはしていないに違いない。

 そう思った俺であったけれど……。



「こ、この邂逅は、世界が選択せし定め。わ、私はあなたのような……あ、あのこれって言う必要があるんですか?」



 妙チクリンな格好をさせられて、指定されたセリフを恥ずかしそうに言うミーヤちゃん。

 対して、黒い箱を片手に持ったタナカさんは非常に楽しそうにしている。本当に、異様なまでの熱の入り方であった。



(なんだこれ?)



 俺の感想はその一言に尽きた。

 ミーヤちゃんやもう一人のダークエルフに変な台詞を言わせていたかと思うと、次はゴーレムの群れを生み出し、疑似戦闘を行っている。

 いつの間にか、俺の周りには孤児達が集まっていて、ミーヤちゃんとダークエルフを応援している。



(このゴーレムをタナカさんが? だとするとかなりの魔法の腕だな)



 魔法の才能もあるとは、驚いた。

 そしてそのゴーレムをダークエルフの女が次々に切り捨ててゆく。素人目にも見事な剣さばきである。

 そして、ミーヤちゃんが杖を構えた。



「穿て! エクスプロージョン!」



 杖の先から大爆発が起こった。一瞬にして消し飛ぶゴーレム。



(は!?)



 孤児達の間からは大きな歓声が起こる。

 タナカさんも嬉しそうに手を叩いている。

 対して俺は、ミーヤちゃんが魔法を使ったことに戸惑っていた。



(確かミーヤちゃんって、魔法の才能はないって言っていたような……)



 記憶違いだっただろうか。

 俺は首をかしげた。

 盛り上がる周囲。

 よくみるとミーヤちゃんももう一人のダークエルフの女性もとても良い笑顔をしていた。



(……でも、やっぱりタナカさんはいい人なんだな)



 俺は皆の楽しそうな笑顔を見て、素直にそう思った。

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