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猫耳魔法使いミーヤ、ダークエルフの騎士アンナ、ただいま見参!

 今から三日前、ミーヤのブレスレットを買ったあの日、駅のホームで待ち合わせをしていた俺と優治と福田さんは、直後に昼食を食べるために入ったファミレスで、ミーヤやアンナさんのコスプレについて語り合った。

 いかなる衣装が最も彼女達の魅力を引き出せるか、どうすれば最も動画の再生回数を伸ばせるか、そのことについて議論を交わす中、優治が次のようなことを言った。



『どんな衣装を着せるかも重要だと思うんだけれどさ、やっぱり他と差異化を図るなら、あのすごい猫耳みたいなCG技術を使うのが一番じゃない?』



 その指摘は俺にとって目からうろこであった。

 確かに俺には他の人にはない(であろう)、異世界や魔法という強みがある。それを使わない手はあるだろうか、いやない。



 以上、三日前の回想終わり。



「というわけで、今日は孤児院の方で動画の撮影を行いたいと思います」



 俺はテーブルを囲むアンナさんとミーヤに対してそう言った。椅子は二つしかないので、ミーヤには申し訳ないけれど脚立に座ってもらっている。



 ただいま、昼食として皆でチキン南蛮弁当を食べていた。

 ちなみに何故アンナさんがうちでお昼を食べているかというと、なんというか……成り行きである。



「え、動画というと、確か前に取ったあの動く絵の事ですか……?」



 ミーヤがフォークをおいて、そう言った。

 アンナさんは目をつむったまま、チキン南蛮を咀嚼している。その表情は幸せそうにとろけていた。



「そうですね。そろそろ第三弾が撮りたいなと思いまして、ちょっと魔法とかも使えたらいいなと思ったので、孤児院の敷地の隅を貸してもらって、撮ろうかなと。……あの、アンナさん聞こえていますか?」



 あまりに目をつむったまま反応が無いので尋ねると、アンナさんは目を開いて口の中の物をのみ込んだ。



「し、失礼しました。もちろんです、絵のモデルならこの私にお任せ下さい!」



 アンナさんはきりっと表情を引き締めた。

 あのとろけた表情を見た後では、いまいち説得力を感じない。



「……おいしいですか? チキン南蛮」

「はい、それはもう! この、肉もそうですが、なによりこのチキン南蛮という料理の上にかかっているソースがたまりません!」

「そうですか。ちなみにそれは昨日あげたマヨネーズを元としたソースだと思いますよ」



 昨日、それぞれの料理人の方達がこの部屋に来た時、俺はアンナさんやミーヤを含めて彼らに日本の料理を知ってもらおうと、頼んでおいたオードブルをふるまった。

 その時もアンナさんはおいしいと興奮して、放っておいたら全員の分を一人で食べてしまいそうなほどであった。



「なんと! やはりマヨネーズは奥が深いのですね。もっといろいろと研究させなければ」

「どうですか、マヨネーズは作れましたか?」



 俺は真剣な表情のアンナさんに尋ねた。



「はい、今は様々な魔物の卵でマヨネーズを作りながら、どの卵で作れば最も味が良く材料費が安く済むかなどを研究しています」



 アンナさんは答えた。

 そうだった。アンナさんには貴族の間にマヨネーズを広めてもらうほかにも、異世界の材料によるマヨネーズ作りをお願いしていたのだった。



「そうですか。ありがとうございます」



 昨日、(にわとり)とは何ですか、と尋ねられた時は驚いた。ミーヤの反応から珍しいのかな、とは予想していたけれど、なんと異世界には(にわとり)が全くいないらしい。とっさにアンナさんが、『一部の上級階級の者にしかお目にかかれない、至高の魔物の肉です』ととりつくろってくれなければ、ぼろが出るところであった。



 というか後から精霊に聞いて知ったのであるけれど、異世界の陸地に住む生物は人間(亜人間やエルフなども含む)と精霊の他は基本的に魔物しかいないらしい。



 俺はミーヤも含めた皆に対して、これら(にわとり)などの高級食材は先日からアンナさんに取り寄せてもらっている、と説明した。これは数日前に俺が思いつき、アンナさんと口裏を合わせていたことである。こうすれば、ミーヤやオリバーさんにも日本の食材の出所を不審がられたりしないだろう。



「そうでした。そのマヨネーズのことでタナカ様にもう一つ言わなければならないことがありました」



 アンナさんが思い出したように言った。



「マヨネーズや料理店関連に関して、宮勤をしている弟の元に力を借りに行きたいのですが、明日から三日ほどお暇を頂いてもよろしいでしょうか? もちろん私が留守の間は、私の部下を数名タナカ様の警護につかせます」



 アンナさんは言った。



「え、はい、もちろん、わざわざすみません」



 俺は頷いた。



「というか、弟さんがいるんですね」

「はい、頭が良い自慢の弟です」



 俺の言葉に、アンナさんは誇らしげに笑っていた。



「……あ、あの! ところで、その動画の撮影ですけれど、孤児院の敷地で一体何をするんですか?」



 ミーヤが俺達二人を見比べて、少し慌てたようにそう言った。



 そうだった。動画の撮影の話であった。

 よくぞ聞いてくれました。



 俺は頭を元に戻した。



 今回俺が考えた企画は、ミーヤやアンナさん達に俺の好きなアニメキャラのコスプレをしてもらって、そのキャラのセリフを言ってもらおうというものである。更に更に、精霊の力を借りて魔法を使い、迫力ある映像なんかも撮ってしまおうというものである。



 正直に言って、アニメが好きな俺にとっては、今からめちゃくちゃ楽しみでる。



「そうですね……私を守る魔法使いという設定で、その様子を動画にとります」



 俺はとりあえず、そう伝えた。



「え? あ、あの、私魔法は使えないです……」

「問題ありません。私に策があります」



 おずおずと答えたミーヤに対して、俺は言いきった。俺は前もって精霊達に、手を貸してもらう約束をとりつけている。

 困惑した表情を浮かべながらも、ミーヤは頷いてくれた。



「設定ということは、つまり役を演じるということですか?」



 アンナさんが俺に尋ねてきた。



「はい、その通りです。ちなみにアンナさんは私を守る騎士という設定でお願いしたいんですけれど」

「! 分かりました。完璧に演じきってみせましょう!」



 俄然やる気をみなぎらせるアンナさん。



「あの、前にも聞いたんですけれど、そんな絵をとって意味あるのでしょうか?」



 対して、ミーヤは相変わらず懐疑的である。



「あります、これも仕事と思ってお願いします」



 俺はこの動画によって、さらなる再整数の爆上がりを期待している。なのでぜひとも頑張っていただきたい。

 俺の真剣な面持ちに、ようやくミーヤも納得してくれたようであった。



「そうだ、タナカ様。玄関に明日タナカ様の警護を務めさせる部下を待機させているのですが、ご紹介してもよろしいでしょうか?」



 昼食を食べ終えた後、アンナさんがそう言った。

 俺は頷き、早速玄関先でその部下の方々と挨拶をかわすことになった。



 家を出る前に、アンナさんが次のように言った。



「そうだ、タナカ様。今から紹介する護衛の者たちなのですが、いずれも私が最も信頼よせる者達です。ですから、きっとタナカ様のお役に立ってくれると思います。ですが……彼女達には、タナカ様のことを大切な御客人という言葉で紹介させていただいております」



 少し申し訳なさそうな顔をするアンナさん。

 確かに俺とアンナさんの関係というのは、精霊の事を周りに秘密にする以上、中々説明に難しいものなのだろう。



「わかりました、覚えておきます」



 俺は納得して、そう答えた。そしてそれから家を出た。

 玄関前には三人のダークエルフの女性がいた。皆大人であり、腰に帯剣していた。



「よろしくお願いいたします」



 彼女達と挨拶を交わした後、俺達三人は孤児院に向かった。



 孤児院に向かって大通りを歩く。

 三人で話をしながら歩いていると、横道から一人の女の子が飛び出てきて、俺達の行く手を阻んだ。

 思わず立ち止まる俺達。

 その女の子は、アンナさんと同じダークエルフの見た目をしていた。



「お姉さま!」



 その女の子は、真剣な表情でアンナさんに呼びかけた。 

 俺はそこで、ようやく目の前の少女が前に一度見たアンナさんの妹だということに気付いた。

 彼女は一体、何をしにきたのだろうか。



「クロエ……」



 アンナさんが呟く。その顔は何故か、少し苦々しそうだった。



「クロエ、反省するまではタナカ様やタナカ様の家には近づくなと言ったはずだが?」



 アンナさんが言う。



「嫌です! 私はお姉さまを絶対、救い出して見せます! お願いですお姉さま、目を覚ましてください!」



 叫ぶ妹さん。

 いまいち状況が読み込めない俺。ミーヤも何事かと、目をぱちくりさせている。



「……目を覚ますも何も、私は自分の意思でここにいるのだ。騎士団の詰め所で精神が正常であることはもう立証済みだろう」

「それは、きっと何かも間違いにありません! そうでなければ、お姉さまがこんな男なんかに……」

「クロエ!」



 アンナさんが怒気をはらんだ声を上げた。その迫力に、横にいた俺もとび上がりそうになってしまった。



「……その先を口にすれば、私はお前を許さない」



 アンナさんが低い声で、そう言った。



「で、でもこのままじゃお姉さまが……」



 なおも食い下がる妹さん。

 しかしそんな妹さんを、アンナさんは厳しい表情で睨みつけている。



 妹さんは、俯き黙ってしまった。



 なんとなく状況が分かった。

 おそらく妹さんは、おそらくアンナさんが俺に騙されていると思っているのだろう。



 沈黙が流れる。

 たまたま通りかかった通行人も、何事かとこちらを見てゆく。

 


 妹さんの手が震えだした。見ると、下を向いたその瞳に涙がにじんでいた。



「お姉さまの……お姉さまの、バカー!」



 妹さんは泣きながら叫んで、反対側に走り去って行ってしまった。

 その背中は小さくなってゆき、やがて見えなくなった。



「……申し訳ございません、タナカ様。うちの妹が、失礼なことを申し上げてしまいまして」



 アンナさんが俺に対して、頭を下げた。



「いや、いいんですけれど。でも、妹さんをほっといてもいいんですか?」

「はい。後でよくしかっておきます」



 アンナさんはそう言った。



「あの、あの方はどうしたんですか?」



 ミーヤが心配そうにアンナさんに尋ねた。



「ああ、クロエは私の妹なんだが……ちょっと私になつきすぎている部分があって。おそらく私がタナカ様に取られたとでも思っているのだろう。実は三日前にもタナカ様の家にクロエがやってきて、その時にきつく言ったのだが……」



 三日前……ちょうどネックレスなどを買いにでかけた日である。おそらく俺がいない間に、妹さんが来たのであろう。



「それと……実はクロエには、その色々と口を滑らせてしまいまして」



 アンナさんは、そう言って俺の方にちらりと目をやった。



「滑らせたって、何をですか?」

「その……私の、タナカ様に対する思いと申しますか……」



 俺の問いに対して、言い淀むアンナさん。

 思いと言われて、俺はちょっとどきっとした。



「……もしかして、騎士の誓いとか言っていたやつですか?」

「! そうか、そう言えばミーヤの前でも言っていたな……」



 ミーヤの言葉に対して、アンナさんは少し驚いた顔をして、それから納得していた。



(……ああ、なんだそれか)



 俺はちょっと肩すかしをくらった気分になった。



「あの日、私はタナカ様に出会えた喜びで舞い上がっていて……騎士団に連れ戻された後、クロエや仲の良かった同僚の前で色々と口走ってしまったのだ。だから余計クロエはああなっているのだと思う」



 なるほど、と俺は納得した。



「あの、どうして言ったら駄目なんですか?」



 アンナさんの言葉に、ミーヤが尋ねた。



「……まあ、貴族と言うものも色々と面倒なことがあってな」



 アンナさんはばつが悪そうにそう言った。

 確かに、貴族の令嬢が一般市民に騎士の誓いを立てると言うのは、色々とよくないのかもしれない。



「だからミーヤも、このことは内緒にしてくれないか」

「分かりました」



 ミーヤはアンナさんの頼みを、快諾した。



「重ね重ね、申し訳ございませんでした。タナカ様」



 アンナさんは、もう一度俺に頭を下げた。



 俺は気にしてないですよ、と言って首を横に振った。

 そして再び、俺達は歩き出した。



 それからしばらく歩いて、孤児院についた。



「ここが、タナカさまが出資している孤児院ですか」



 アンナさんは門の前で、孤児院の建物を見てそう言った。俺は片手にカメラやミーヤの衣装などが入った紙袋を持ち、もう片方の手にはコスプレアイテムの杖を持っている。

 三人で敷地にお邪魔すると、すぐに外で遊んでいた子供達に囲まれた。



「こんにちはタナカ様!」

「こんにちは!」



 子供達は非常に礼儀正しく、俺達に挨拶をしてくれる。



「こんにちは」



 俺はあたりを見渡したけれど、大人の姿はなかった。



「えっと、誰か大人の人はいませんか?」

「それなら、院長室にエルダ先生がいるよ」



 子供達が小屋を指さす。

 俺はお礼を言って、その小屋に向かった。



「タナカさん、この敷地で一体何をするんですか?」



 歩きながら、ミーヤが尋ねてきた。



「ここで動画の撮影をします。ミーヤさんには魔法使いとして、かっこいいポーズなんかをとってもらいます」

「えっと……本当に私で大丈夫でしょうか」



 ミーヤは心配そうである。



「大丈夫です」



 もう事前に精霊達との協力は取り付けてある。下位の精霊達は空気と同じでどこにでもいるらしく、彼等は俺の願いを聞いてくれるとのことである。



 小屋の前までたどり着いた。

 小屋の入口にある呼び鈴を鳴らし、少し待っていると扉を開けてエルダさんが出てきた。



「あら、タナカさん、それにミーヤさんにミルフォード様」

「こんにちは」



 俺達はエルダさんに挨拶をした。



「皆さんどうしたのですか? お揃いで」

「はい実は……」



 俺が説明をしようとしたその時、エルダさんの後ろの扉が開いて、中から思わぬ人が現れた。

 小屋の中から現れたのは、昨日もあった料理人のオリバーさんであった。



「あ、オリバーさん。こんにちは」



 俺はオリバーさんに挨拶をした。

 ミーヤの友達の父親でもある彼は中々にいかつい風貌をしており、昨日初めてあった時は驚いたものである。



 でもどうして、オリバーさんがこの孤児院にいるのだろう。

 俺が疑問に思っていると、エルダさんがにこりとほほ笑んだ。



「ちょうどよかったです。先ほどオリバーさんが孤児院にいらしたので、タナカさんがいかに人格者であるかということを二人でお話していたのです」

「え?」



 どういうこと。というか俺は決して人格者ではない。孤児院を経営しているのも、楽して日本円を稼ぐためにすぎない。



 俺が困惑していると、オリバーさんが口をきつく結んだまま俺の方へと近づいてきた。

 そして俺の目の前までやってくるオリバーさん。

 ちょっと怖いなと思っていると次の瞬間、オリバーさんの目から大粒の涙がこぼれ始めた。



「タ、タナカさん、俺は……俺は、あんたの事を誤解していた。すまない。本当にすまない……」



 そう言って、オリバーさんは深々と頭を下げた。

 一方俺は何のことかわからず、ミーヤとアンナさんと顔を見合わせた。二人も同じような表情をしていた。



「えっと……何の話ですか?」

「俺は……俺は……」



 嗚咽が混じり言葉にならないオリバーさん。

 その代わりにエルダさんが口を開いた。



「えっと、どうやらオリバーさんは、料理店のお金を出す代わりに、大事な自分の娘を愛人としてタナカさんにとられるかもしれないと思っていたようで……」



 俺は開いた口がふさがらなかった。

 隣のミーヤも驚きで目を大きくして、アンナさんはちょっと頬が赤くなっていた。



「は!? いやいやいや、しませんよそんなこと!」

「分かってる……すまない、俺が、タナカさんのことを、勘違いしていたんだ……」



 俺が否定すると、オリバーさんは顔をあげて涙ながらにそう言った。



「だけど、エルダさんから話を聞いて……俺がいかに思い違いをしていたかはよく分かった。だから、今後とも、俺達家族をよろしく頼む、いや、頼みます……」



 そう言って再びオリバーさんは頭を下げた。



「ま、まぁ、分かってくれたらいいんですけれど」

「すまない……」



 俺の言葉に対して、オリバーさんは顔をあげてそう言った。



「あの、どうして愛人にされると思ったんですか?」



 ずっと横で聞いていたミーヤがオリバーさんに向かって尋ねた。



「それは、ミーヤちゃんの話を娘から聞かされていたから……」



 それを聞いてミーヤは、やっぱりですかと小声で呟いていた。



(え、なに、それってやっぱり、ミーヤが愛人みたいに見えているってこと!?)



 俺は内心で動揺していた。



「まあまあ、和解もできたということで、この話は終わりにしましょう。ところでタナカさまは本日はどのようなご用件でいらしたのですか?」



 エルダさんが両手を前で合わせてそう言った。

 そこで俺は、本日孤児院にやってきた理由を思い出した。



(そうだ。撮影だ)



 元気を取り戻した俺。



「あ、はい、動画の撮影を許可してもらえないかなと思いまして」

「動画の撮影……?」



 俺はエルダさんに対して、軽い劇のようなものをしてそれを動画に撮りたいので場所を貸してほしいということを、色々と説明しながら頼んだ。



 俺の説明を聞いて、エルダさんは疑問を顔に浮かべながらも頷いてくれた。



「ええ、もちろん場所はいくらでもお貸しいたしますけれど、タナカさまは劇団の脚本家か何かのお仕事でもなされているのですか?」

「いえ、そう言うわけではないのですけれど、これも大事な仕事なんです」

「そうですか。……もし何か人手が必要であれば、孤児院の子供にやらせますけれど」



 エルダさんの申し出に、俺は首を横に振った。



「いえ、別に今回は大丈夫です。あ、でも、もしかしたらそのうち力を借りるかもしれません」



 犬耳少女とか、すごく再整数を稼げそうな気がする。

 あとマヨネーズ作りとか、そのうち孤児に頼むかもしれない。



「それはありがたいです。その時はぜひお任せ下さいね」



 エルダさんはそう言った。

 


 その時、今まで黙っていたオリバーさんが声を上げた。



「あ、あの、タナカさん。その動く絵っていうものをとっているところを、俺も見ていいですか?」

「え、まぁ、いいですけど」



 俺は頷いた。しかしオリバーさんの顔が必死なように見えたけれど、どうかしたのだろうか。

 ……まぁ、いい。とりあえず撮影を始めよう。

 俺はこれからの撮影に頭を切り替えた。



 そして撮影が始まった。



「こ、この邂逅は、世界が選択せし定め。わ、私はあなたのような……あ、あのこれって言う必要があるんですか?」



 俺が用意した赤を基調としたワンピースの上から黒のマントをはおり、頭に三角帽をかぶって格好つけていたミーヤが顔を赤くしてそう言った。その左手には眼帯を付けており、手には魔法使いの杖を握っている。



 俺はそんなミーヤの姿を、間近くからカメラに収めていた。



「あります。すごく似合ってますよ。もう一度最初からお願いします」



 実際魔法使いの格好をしたミーヤはとても可愛い。

 それに私はあのアニメのあのキャラが好きなんです。



「こ、この邂逅は、世界が選択せし定め。わ、私はあなたのようなものの出現を、ま、待ち望んでいた。……わ、我が名はミーヤ……」

「そこの名乗りの部分はもっと得意げな感じでお願いします、あとそれとこう、マントを翻して……」



 その後も、ミーヤの登場シーンは、俺の気が済むまで何度も取り直した。

 すごく楽しかった。



 続いて、アンナさんの登場シーンに移った。



「問おう。貴方が私のマスターか……。あの、タナカ様、これでよろしいのですか?」

「はい、もちろん、完璧です」



 ちょっと戸惑い気味のアンナさんに、俺はそう言った。

 本当はこのキャラはダークエルフではないのだけれど、そもそも俺はダークエルフの騎士というアニメキャラを知らない。まぁでも、凛々しいアンナさんにはぴったりであることは間違いない。



「これより我が剣は貴方と共に……」



 そして撮影は続く。



 続いて戦闘シーン。

 下位の精霊達の力を借りて、敷地に人間サイズのゴーレムを何体も作りだし、それを敵に見立てて操る。

 アンナさんがその見事な剣技と闇魔法で、敵を葬ってゆく。

 しかし敵のゴーレムの数は増えるばかりで、アンナさんは追い詰められてゆく。



「くっ、このままではきりがありません」



 アンナさんが叫ぶ。

 いつの間にか、周りに孤児院の子供達が集まっており、皆アンナさんとミーヤに声援を送っていた。



「アンナさん! も、もう少し持たせて下さい。そ、そうすれば私が最強の一撃で、全てを葬って見せます!」



 ミーヤはギャラリーが増えてさらに恥ずかしそうである。

 しかし芝居はまだ続く。



「爆裂魔法の使い手、わ、我が名はミーヤ。我に許されし一撃は……」



 ミーヤの詠唱が始まる。

 敵のゴーレムをミーヤに近づけさせないように、闘うアンナさん。

 応援する子供達。

 撮影する俺。



 そして、ついにミーヤの詠唱が完成した。

 すかさず、ゴーレムから離れるアンナさん。



「穿て! エクスプロージョン!」



 その瞬間、ミーヤの思いにこたえた下位の精霊達が魔法のつえの先から爆裂魔法を放った。

 それは俺がアニメで見たよりも小規模な爆発だったけれど、見事にゴーレムの群れを焼き払い、一掃した。



 その瞬間、子供達から歓声が上がった。

 俺もめちゃくちゃテンションが上がって、手を叩いていた。

 完ぺきである。恥ずかしがっていたミーヤもアンナさんも、ちょっと嬉しそうである。



「完璧です! これで完成しました」



 俺がそう言って二人をねぎらっていると、そこに笑顔を浮かべたエルダさんが近づいてきた。

 俺はエルダさんの方を向き、どうでしたか、と尋ねようとすると、しかしそれより先にエルダさんが口を開いた。



「あの、最後の爆発による騒音についてだけは、次からもう少し気をつけてくださいね?」



 エルダさんは笑顔のままそう言った。



「あ、はい、すいません……」

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