第一章1-9 グラールの宿屋 ◆
――――キルア――――
村を出発してから8日目の夜だ。
門に差し掛かる前にユリアを起こしてから門をくぐった。
ユリアは、最初は寝ぼけていたが、起こした事情を話すと急いで身だしなみを整え、門をくぐる頃には寝癖や服装がきちんと整えられていた。
今のユリアの金髪は今は少し光を失っている。
あとユリアの匂いと俺の匂いも強くなった。
ユリアにそのことを尋ねたら赤面されて怒鳴られた。
それから2日は口を聞いてくれなかった。
人間はお風呂に入らないと汚れる生き物らしい。面倒だな・・・。
門をくぐるとユリアは宿屋に入った。
ユリアは少し前にこの街に2日ほど滞在したので少しなら街のことがわかるそうだ。
ユリアに門をくぐるときに宿屋に着くまでしゃべるなと頼まれたので黙っている。
やっと、宿屋に着いた。
これで会話が出来る。
「なあ、ユリア?」
「もう少し黙っててください」
「・・・」
さっき宿屋に着いたらしゃべっていいって言ったのに・・・。
ユリアは宿屋の亭主と話している。
「一番安い部屋で一部屋お願いします。あと馬車もお願いします」
「はい、部屋は朝食夕食の二食付きで一泊と馬車の馬の餌もですね。全部合わせて銀貨二枚になります」
「・・・わかりました。銀貨二枚ですね」
「これが、部屋の鍵です。二階に上がってすぐの右の部屋です」
「ありがとう」
どうやら交渉が済んだようだ。
銀貨といわれる通貨を渡して、かわりに鍵を貰ったみたいだ。
「行きましょう。キルア様」
無言でユリアの後に続く。
心なしかユリアは落ち込んでいるようだが、どうしたのだろう?
ユリアが鍵を使って、部屋を開ける。
部屋は最初の村の宿屋と大差なかった。
これが人間の普通の宿屋なんだろう。
とりあえずベッドに横になる。
ユリアは頭を抱えながら小さな椅子に座る。
「なあ、ユリア?」
「なんでしょうか?」
「王都にはまだ着かないのか?」
「はい、まだまだ先になりますが三分の一には到達しました」
まだ、三分の一か・・・。
世界は本当に広いんだな。
あれだけの距離を進んでまだなお先があるとは。
「あのっ! キルア様っ!」
感心しているとユリアが声をかけてきた。
「旅のお金がなくなってきたんです・・・」
「お金?」
「は、はい。なので明日、この町にあるギルドに仕事を探しに行ってお金を稼いできようと思うのです」
「うん。わかった」
「ここを明日には出ないといけないのでギルドの酒場でお留守番していてくださいませんか」
「仕事・・・と言うヤツには付いていってはいけないのか?」
「はい・・・。たぶん魔物退治や山賊退治の仕事になると思いますので・・・」
「それは、付いていけないな・・・わかった。ギルドで留守番してる」
「ありがとうございます」
「では、少し早いですが夕食を貰って寝ましょうか」
「そうだな。あしたユリアには仕事があるしな」
夕食をユリアが貰ってきて一緒に食べた。
ここのライ麦パンとスープは前の村よりおいしかった。
夕食を摂って早い眠りについたが、深夜に目覚めてしまった。
ユリアは隣で寝ている。
朝が明けたらユリアは危険な仕事に行くそうだ。
出来ればこの人間に死んでもらいたくない。
ユリアの寝顔を見ていたら穏やかな気持ちになる。
綺麗で強いモノは大好きだ。
大好きなものは守りたい。
無事に生きて帰ってきてくれよ。ユリア。




