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清廉な令嬢は悪女になりたい  作者: エイ
第一章

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今回、ご飯食べるだけで何一つ話は進んでいません。書いてる私が楽しいだけ。



「おはようエマ」


「おはようマリー。寝癖すごい。ホントすごいから美人が台無し」


「エマはなんで寝起きからそんな整ってるのかしらね?お手入れ要らずだわ」


「アンタ寝相が悪すぎるのよ。昔一緒に寝た時、二度と一つのベッドで寝ないと誓ったわ」


「そんなに?そんなになの?」


「アンタの旦那さんになる男は大変ね」


そうなんだ…とショックを受けたままマリーは井戸へ顔を洗いに行った。


外に出ると、ちょうど警備の交代の時だったらしく、小屋へ続く道の入り口には四人の衛兵が立っていた。

今日はずいぶんと早いな、と思いつつ、離れたところにいる四人に手を振った。


「おはようございまーす!アーロンさんイーサンさん!エドさんサムさんはお疲れさまー!」


いつも通り声をかけると、エドが慌てたように叫んだ。


「マリーちゃん!そんなカッコで外をうろつくんじゃないよ!って!…寝癖すごいよ!」


また言われてしまったと思いながら井戸の水を汲んでザブザブ顔を洗う。ついでに髪も濡らして寝癖を整える。


顔を上げると、衛兵四人がまだ何か話し合っている。いつもは交代ですぐ帰って行くのにどうしたんだろう。気になったマリーは四人に近づく。


「なにかあったんですか?」


後ろから声をかけると振り返ったエドが飛び上がった。


「だからマリーちゃん!そんなカッコでうろつくなってえ!…頭びしょびしょじゃねえか!ほんっとにしょうがねえなあ…ウチの娘は…」



『ウチの娘は〜』というのは最近エドがからかう時によく言うセリフだ。

本物の父にそんなセリフを言われた事のないマリーは、それが冗談でもそんな風に言われると嬉しくてついへにゃりと顔を崩して笑ってしまう。


「えへへ…ごめんなさい」


エドはマリーの頭を拭いてやりながら相好を崩す。それだけ見ていると本当の親子のようだ。


そのやりとりを見ていた傍らに立つサムは、片手で目を覆い天を仰いでる。イーサンは逆に下を向いて膝に手をついて震えていた。


そこでようやくマリーが気付いた。


「あれっ?今日はアーロンさんじゃないんですね」


昼間担当の衛兵の一人がいつものコワモテのアーロンではなく、見知らぬ衛兵姿の細身の若い男だった。


「アイツ腹壊して休みなんだよ。空いてるヤツが居なくて、訓練生から一人借りてきたんだよ」


とイーサンが言う。


「そうなんですか、宜しくお願いします。大丈夫ですかねアーロンさん。お大事にするように伝えてください」


そこで小屋のほうからエマが呼ぶ声がしたので、マリーはその研修生という男に礼をして戻っていった。


「マリー、寝巻きでウロウロしないの。ところで護衛、アーロンさんは交代したのかしら」


「なんかお腹壊しちゃったらしいよ。代理って言ってたから元気になったらまたアーロンさんが来てくれるんじゃないかなあ」


ふうん…と言いながらエマはその新しい護衛をしばらく見つめていた。




洗濯物を干し終え掃除をしてるとあっという間にお昼の時間になってしまった。

いつも差し入れをしてくれるお礼に昼御飯は護衛の二人の分も用意している。

今日は晴れて風もない穏やかな日なので、マリーは外でみんなで食べようと思いテーブルと椅子を用意した。


「おーい、ご飯にしますよー」


声をかけるといそいそとイーサンが訓練生を連れてやってきた。


椅子を勧めてからキッチンから出来上がったばかりの料理をエマと一緒に運んでくる。


「えー美味そうなにこれ」


「ほらいただきますしてからですよ、イーサンさん」


「フォークどうぞ」


そこで訓練生がボソッと言った。


「…なんですか?これ…」


「何って、これはスタッフドマッシュルーム」


「これはラタトゥイユ。昨日の残り」


「これマリーちゃんの手作りパン。めっちゃうまいぞ」


マリー、エマ、イーサンが答える。


「いやそうじゃなくて…」


訓練生が何かボソボソ言っていたが、勝手にお皿に取り分けて皆で食べ始める。


「え、美味い。マッシュルーム美味い」


「でしょ、いっぱい食べてください」


「訓練生くんも食べないと無くなるよ」


呆然としていた訓練生だったが、エマに促されてようやく食べ始めた。


「…うまい」


思わずと言った風に呟く訓練生にマリーとエマは顔を見合わせて笑った。どうも警戒されている風で名乗ってもくれない彼との距離を測りかねていたから。ただの人見知りなのかな、とマリーは思った。


「おい、パンも美味いんだって、早く食えよ。マリーちゃん〜もうパン屋よりうめえよー」


「ホント、マリーはどこに向かってるのかしらね。極めすぎじゃない?」


マリーはパントリーにあった干しぶどうを使って酵母液を作り発酵パンを作るようになった。始めは発酵させすぎたり膨らみが足りなかったりしていたが毎日作るうちにプロ並みに上手くなった。


「そうなの。パン作るのって楽しいわよねえ。報償金貰えたらそれを元手にパン屋開けないかしら」


「マリー、殿下に抱かれる予定も無いのに皮算用?」


「そもそもマリーちゃん閨で何したらいいか分かってる?」


「大丈夫、その時が来たらエマが何とかしてくれるって言ってたわ」


はっはっはーと笑い合う三人を訓練生はポカンとした顔で眺めていた。



結局、その訓練生はあまり打ち解けることも無く交代の時間になって帰って行った。単に代理で来ただけだから馴れ合うつもりがないのかもしれないな、とマリーは少し寂しい気持ちで見送った。




ダラダラ回を読んでくださってありがとうございました。

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