霧蔭信彦は勇者か?
俺っちの名は霧蔭信彦
高校二年生だよん
俺っちは小さい頃から正義のヒーローに憧れてて
弱いものいじめをしているやつらをやっつけたり
喧嘩をしてるやつらを止めたりしてる
そう、実際に正義のヒーローなのだ俺っちは
でも周りの反応がなぜか変
本当なら
「信彦様、素敵!!」
ってなるはずなのに
皆俺っちを見ると目をそらす
もしかして、俺っちがかっこ良すぎて
思わず目をそらしちゃうのかな?
今日も喧嘩をしている二人がいて
俺っちは喧嘩を止めたんだけど
なぜか職員室に呼び出された
まあそんな日常を送ってるわけよ
でも最近、日常に飽きが来てるのよね
何か刺激が欲しい
例えば悪の怪人なんて出てこないかなあとか
そしたら俺っちが参上してやっつけるのに
「おっと、もうこんな時間か」
パソコンの動画で正義のヒーローショーを見てたら
時計が12時を回ってしまった
「明日も平和を守るぞ!お休みい」
俺っちは眠りについた
「ひょっ!? ここは夢か!?」
どこか神殿みたいなところに俺っちがいた
「夢じゃないわ、霧蔭信彦、あなたはこれから勇者になるのよ」
その声がした途端目の前に少女が現れた
でもそんなことはどうでもいい
「勇者!?」
その言葉に俺は感激を覚えた
「俺っちって正義のヒーローなんだよね!ね!!」
俺っちは少女に詰め寄った
「ま、まあそうなるわね」
「ってことはヒロインは君か!?」
正義のヒーローと言えばやっぱりヒロインでしょ
「違うわ」
あっさり否定されちゃった
俺っちショックううう
「さて、そろそろ始めてもいいかしら?」
「え? 何を? って」
突然少女の横から木で出来た人形が現れた
右手には木刀を持ってる
「この人形と戦って」
「えええええ!! 何で!?」
「あなたはこれから勇者になるわ、そのための試練よ」
「ほう、なるほどぉ」
次の瞬間
人形が俺っちに最接近してきた
「うひょっ!!」
危ない危ない一歩間違えば木刀で頭をかち割られるところだったぜえ
「ん?」
右手に感触がある
見ると木刀が握られていた
「その木刀で人形と戦って」
「なるほどねえ」
俺っちは木刀で人形と対峙した
「ほいっほいっと」
とりあえず人形の攻撃を探す
「隙ありいいいっと」
俺っちは人形の胸に木刀を突き刺した
人形はしばらくすると消えていった
「おめでとう、第一試練クリアよ、それにしてもあなたトリッキーな動きをするのね」
「へへーんどうだい!! 俺っちは正義のヒーローだからな」
「まだ試練はあるわよ」
「へいへい分かってますよぉ!あっ!」
「どうしたの?」
「嬢ちゃんの名前を聞いてなかった」
「私はアリサ・レイニードよ」
「ほう、アリサちゃんって言うのかあ、ねえ、俺っちのヒロインにならない?」
「却下」
「がくうううううううん」
「それより次の試練よ」
アリサちゃんがそう言った途端
風景が替わりと変わった
村の中に俺っちがいて
アリサちゃんが消えていた
「おお! すげえ!! まるでタイムスリップしたみたいだあ」
「あなたって子供ね」
頭の中にアリサちゃんの声がする
「子供心を忘れない!これって大事だぜ」
「全然かっこついてないわよ」
「アリサちゃんは分かってないなあ」
「そんなことより」
アリサちゃんは俺っちの話を打ち切ると
「あの娘を助けてちょうだい」
娘?
俺っちは辺りを見渡す
すると
手綱を付けられて連行されてる娘を見つけた
「ひでえことしやがる、よし! ここは正義のヒーローである俺っちが助けてやろう」
俺っちは娘を連行しているじじぃの前に立ちはだかった
「なんだね? 君は」
「その娘を離しやがれ、さもなくば正義の鉄槌がくだっちゃうよお」
「この娘を連れているのには理由がある」
「ほう」
じじぃは説明した
この村には生贄の風習があること
この村の近くには洞窟があって
そこにドラゴンが住み着いていること
月に一人生贄を差し出さないと
ドラゴンが村を襲ってくることなど
「というわけだ、すまんがそこを退いてくれんかね」
「いいやどかないねえ」
「なんじゃと!?」
「この俺っちがドラゴンとやらを退治してくれようじゃないの」
「本当かね!?」
「ああ、俺っちは正義のヒーローだからねえ」
「おおっ! 助かるよ」
じじぃは娘から手綱を外した
「さて、ドラゴン討伐と行くかあ」
「あ、あのありがとうございます」
娘さんが俺っちに礼を言う
「いえいえ、正義のヒーローとして当然のことをしたまでです」
俺はキリッとして答えてやった
「ささ、勇者様、ドラゴンの元へ案内します」
そういや今更気づいたんだけど
俺っちの服装、ってか装備変わってね?
右手には如何にも上等そうな剣が握られてるし
装備は何か豪華だし
俺っち、まじ正義のヒーローじゃん!!
「浮かれすぎよ」
頭の中で声がした
へいへい分かってますよ
俺っちたちはドラゴンが住むという洞窟に辿りついた
「ほう、ここが例の洞窟かあ」
洞窟は至って普通の見た目だった
洞窟の前には二人の門番がいる
「おや、見知らない顔だな」
「すげえ装備してやがる」
門番たちが驚いた様子で話していた
「この方は勇者様だ、ドラゴンを討伐してくれるそうだ」
「おおっ!! それは有難い!!!」
「俺っちに任せといてください、必ずやドラゴンの討伐を果たしたみせやっす」
「本当かあ! 助かる!」
「勇者様、ここからはあなただけで進みなされ」
怯えてんなじじぃ
まあいい
俺は洞窟の中を進んでいった
「フフフン、フフフン♪」
「随分と嬉しそうね」
「だって俺っちは勇者って呼ばれてるんだぜ」
「あまり調子に乗りすぎないことね」
「もう! アリサちゃんは厳しいなあ」
そうこうしているうちに洞窟の奥へと辿りついた
奥には予想通りドラゴンがいた
ドラゴンは俺っちに気づくとヨダレを垂らしながら近づいてきた
「ほうらよっと」
「な!?」
俺っちはドラゴンの首目掛けて剣を投げつけた
剣はドラゴンの首に命中し
ドラゴンは血しぶきを上げて倒れ込んだ
「はい! 討伐完了!」
「剣を投げて使う人、初めて見たわ」
アリサちゃんは呆れてるのか驚いているのか分からない様子で俺っちの頭の中に語りかけた
「フフフン、村に帰ったらさぞかし正義のヒーロー、いや勇者として皆から羨望の眼差しを受けるんだろうなあ」
俺たちは洞窟の中から出てきた
二人の門番たちは相変わらず洞窟の前でのほほんとしている
しかし、俺に気づくやいなや顔色を変えた
「本当にドラゴンを退治してきたのですか!?」
「ああ、剣を投げればイチコロよ」
「さすが勇者様!!」
俺っちたちは門番と共に村へと帰ってきた
俺っちは村に帰るのが楽しみだった
「この裏切りもの!!」
あれ?
なぜか俺っちは皆から敵意を向けられた
「村から出て行け!!」
「ちょっと待て俺っちはドラゴンを倒して」
「証拠は!?」
あっしまった
ドラゴンの首を持ってくるのを忘れてた
「とにかく俺っちはドラゴンを倒したんだよ!な!」
俺っちは周りの門番たちに言う
あれ? 門番がいない
「嘘を言うな!!」
村の人々が俺っちに石を投げつけてきた
しばらくすると
俺っちの心の底から怒りが湧き上がってきた
「石を投げつける悪いやつはやっつけないとね」
「ぎゃああああああああああああ!!!」
俺っちは次々と村の人々を斬り殺す
「信彦!! やめなさい」
斬り殺す
「信彦!!! やめなさい」
斬り殺す
「信彦!!!! やめなさい」
斬り殺す
「信彦!!!!」
「あれ?」
いつの間にか風景が変わっていた
最初いた神殿の中だ
俺っちの目の前にアリサちゃんが現れた
「あなた、なんてことをしてくれたの!!」
アリサが俺っちを一喝する
「何が? 悪いのはあいつらじゃん」
「だからって殺すことはないでしょ」
「悪い奴は皆、いなくならないとね」
「あなた、どうかしてる」
「俺っちは何も悪くないよ」
「そう、反省もしてないのね」
「どこに反省をする要素があるんだい」
「残念ね、あなたは」
少女は間を置いてこう言い放った
「勇者失格よ」
勇者……失格?
その言葉が俺っちの頭の中を反響する
アリサちゃんが俺っちに近づいて額に手を当てた
「何をするんだ……やめ……」
俺っちの意識が遠のいた
朝
俺っちは目が覚めた
「夢……?」
いや夢なんかじゃない!
俺っちは普段夢を見ない
あれは現実だったのだ
俺っちは浸すら考えた
なぜ俺っちが勇者じゃないのか
「う~ん」
考えても分からなかった
そこで俺っちは
クラスの皆に
「俺っちは何も悪いことしてないよね」
と聞いて回った
皆が俺っちを無視していた
しかし、とある男子生徒が俺っちの言葉を聞いてこう答えた
「お前、やりすぎなんだよ」
やりすぎ……?
「喧嘩を止めるのはいいけどさ、相手を容赦なくボコボコにして」
「俺っちはただ喧嘩を止めたくて」
「お前のせいで余計に悪化してるんだよ!!」
そんな……
「どこが悪化してるんだ?」
「お前のせいで俺の友達は骨折して病院にまで入院した」
「……」
「お前は善意でやってることかもしれない」
「……」
「だが俺にとってお前は悪者だ」
俺っちが……悪者……?
「何言ってるんだ俺っちは正義のヒーローで」
「とにかくもう俺たちに関わらないでくれ!!!」
男子生徒がそう言い残してその場を去っていった
悪者……
悪者…………
悪者………………
俺っちには理解出来なかった
何で俺っちが悪者なのか?
家に帰ると俺っちは
早速お母さんに訪ねた
「俺っちって悪者?」
「ええ、ちょっとね」
「どうして??」
「あなたは正義のヒーローになりたいのよね」
「うん」
「正義のヒーローはね……人をやっつけたりしないの」
「……」
「怪人はやっつけるけど人はやっつけないのよ」
「喧嘩してる人たちは悪い人じゃないの?」
「喧嘩してる人たちには理由があるの」
「理由……?」
「その理由は様々よ、でも」
「でも……?」
「お互いに自分が正しいと思ってやってるのよ」
「正しい……?」
「信彦にもそろそろわかってほしいわ」
「……」
「本当の正義のヒーローってね、人を傷つけないの」
「……」
「人をやっつけるんじゃなくてどこが悪いか教えてあげるの」
「教える……」
「相手がどんだけ自分を傷つけてきても相手を傷つけることはないのよ」
「……」
「信剣戦隊シンケンジャーも言ってたでしょ、人を傷つけるんじゃないって」
俺っちは思い出していた
シンケンジャーは怪人と戦うけど
決して怪人を倒さないんだ
最後は怪人たちが皆改心して去っていく話だった
そうか俺っち……間違えてたんだ
どうして今まで気づかなかったんだろう
「お母さん……ありがとう俺っち……やっと気づいたよ」
「本当に?」
「うん……どんな人でも傷つけちゃ悪いんだよね」
「ええ、そうよ」
「教えてくれてありがとう!」
「あなたが分かってくれて良かったわ」
お母さんは涙を流していた
そうだ
俺っちは思った
今度こそなるんだ!
本物のヒーローに……
「アリサちゃんに……アリサちゃんにもう一度会いたい、そして本物の勇者として認めてもらいたい!!」
俺っちはそう願うようになった
家の中でも
学校の授業の中でも
休み時間の中でも
俺っちの頭の中はそのことでいっぱいだった
俺っちはヤンキーたち相手でも傷つけはしなかった
注意し続けた
どんなにボコボコにされても決してやり返したりはしなかった
喧嘩を止めるときも喧嘩両成敗ではなく
相手の話を聞くようになった
それで分かった
それぞれ事情があったってことを
「アリサちゃんに会いたい……アリサちゃんに……」
「ここは……?」
「あら、またあなた?」
「アリサちゃん!!!!」
俺っちはアリサちゃんを見た途端
すぐ彼女の近くに駆け寄り土下座した
「俺っちに……俺っちにもう一度チャンスをくれ!!!」
「もう無理よ」
「頼む!!! 頼む!!!!」
「だから」
「頼む!!!!!」
「……ちょっと待ってちょうだい」
アリサちゃんはそういうとしばらく無言になった
静寂の瞬間
俺は浸すら土下座をし続け
もう一度チャンスをくれと念じ続けながらまった
「良かったわね」
「え?」
「神から許可が下りたわ」
「それじゃあ」
「もう一度あなたに勇者になるチャンスを与えてあげる」
「やったああああ!!! やったああああああ!!!!」
俺っちは歓喜の声を上げた
「それじゃあ早速始めるわよ」
アリサちゃんがそう言った途端
風景が変わった
いつもの村だった
「近々魔物が攻めて来るわ、そのことを村のみんなに伝えてちょうだい」
「分かった」
俺っちは必死になって村の皆に伝えた
しかし、皆は聞く耳を持たなかった
石も投げつけられる
一瞬を剣を振りかざしそうになったが
何とか我慢した
毎日村に来ては伝える
どんなに罵倒されても
どんなに石を投げつけられても
俺っちは皆に伝え続けた
ある日
本当に魔物が攻めてきた
「魔物から皆を守って!!」
「ちょっと待って魔物も注意すれば」
「魔物は聞く耳を持たないわ」
「でも」
「守るために犠牲が出ることは仕方ないわ」
「……分かった」
俺っちは魔物を斬り倒していった
「ふう、魔物たちよ、傷つけちゃってごめんね」
魔物はいつの間にかいなくなっていた
「おお!! 勇者様助けて下さりありがとうございます!!!」
「この前は石を投げつけてすいませんでした!」
村の皆が俺っちに謝り、勇者と呼んでくれる
「アリサちゃん、俺っちって本当に勇者になれたのかな」
「ええ、今のあなたは立派な勇者よ」
その声が聞こえた途端急に風景が変わった
いつもの神殿の中だ
俺っちの目の前にアリサちゃんが現れた
「おめでとう、最終関門クリアね」
「ありがとぅーす!!」
「それでは勇者の儀式を執り行う」
「儀式……?」
「今あなたの頭の中にある映像の通りに行動して」
アリサちゃんがそう言った瞬間、俺っちの頭の中に映像が流れた
見たことがある
騎士の叙任だ
俺っちはアリサちゃんの前に来て両膝をついた
アリサちゃんはレイピアを俺っちの左肩に当てる
「汝、努力を惜しまず日々鍛錬を続けると誓うか?」
「誓いやす」
「汝、人の命を守るために自分の命をなげうつことを誓うか?」
「誓いやす」
「汝、どれだけ理不尽な目にあろうとも怯まず誠心誠意生きると誓うか?」
「誓いやす」
「ねえ、前々から思ってたんだけど」
「ん?」
「あなたふざけてるでしょ!!」
「え? 俺っちはふざけてないよ」
「その口調がふざけてるのよ!!」
「でもこれが俺っちのせいk」
「もういい!! 続けるわよ」
「……」
アリサちゃんは切れていた
そんなに俺っちってふざけてるのだろうか?
正直分からない
「最後に」
アリサちゃんは間を置いてこう言い放った
「汝、いかなるときも勇者としての誇りを持ち続けることを誓うか?」
「……誓いやす」
その瞬間神殿が輝いた
「おめでとう、あなたは勇者よ」
「勇者っていうよりヒーローって読んで欲しいな」
「じゃあヒーローよ」
「ん?」
アリサはそういうと俺っちの額に手を置いた
しばらくすると俺っちの意識が遠のいた
朝
目覚める
「え?……また夢……?」
俺っちはしばらくボーッとしたあと
「があああああああああああん」
酷く落ち込んだ
折角正義のヒーローになれたというのに
ああもういい!!
あれが夢なら現実で正義のヒーローになればいいのだ
これから俺は正義のヒーロー
悪い人たちを注意してあげ
喧嘩をしてる人たちの事情を聞いてあげる
今日も俺は平和のために戦うのだ!
霧蔭信彦
「 勇 者 合 格 」




