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二十五話「救出」



 思えば、この異世界──レジェンズ・クロニクルに来てから、いつも助けてもらってばかりだったように思う。

 いや正直、ここに来てからずっとクラスメート達から酷い事ばかりされてきた記憶しかないような気もするが、それでも、そんな四面楚歌の勇士を助けてくれた人が少なからずいた。



 まずは委員長の桜花。



 桜花とはそれほど接点があるわけでもないのに、何度もこの異世界で勇士の事を助けてくれた。それもこの異世界に来る前から──元の世界で補習を手伝ってくれた時から、桜花は勇士に対してずっと優しかった。クラスメートの中で勇士に優しく接してくれたのは唯一彼女だけだ。



 次は、獣人のミウ。

 


 ミウとはふとしたきっかけというか、最初はこっちが助けた側なのだが、獣人族のいる村へ案内してくれたり、桜花と離れ離れになって心細かった勇士に寄り添ってくれたり、恩以上のものを返してくれた。この世界で初めてあった友好的な先住民というのもあって、勇士にしてみれば数少ない精神的な拠り所になっていると言っても過言ではない。



 最後に、族長のランド。



 ミウからの紹介があったおかげもあるが、余所者である勇士を手厚く村の中へ招いてくれた。ランドがいなければ満足に食事を取る事もゆっくり入浴する事もできなかった。これがどれだけ勇士の心を救ってくれた事か。

 この世界に来てから常に危険と隣り合わせだった勇さんにしてみれば、初めて心にゆとりが持てた場所だ。その場所を提供してくれたランドにはすごく感謝している。

 そんなランドの孫娘であり、勇士にとても懐いてくれた女の子──ミウを、こんなところで見捨てるわけにはいかない……!!



 ◇ ◇ ◇



 ブラッドドラゴン。

 ゲームで見た事のあるモンスターが、今目の前にいる。

 やはりというべき、ゲームで見るよりずっと迫力がある。当たり前だ。ゲームでは機械の画面上に表示されていただけだが、勇士の眼前にいるのは、実際に熱を持った生物なのだから。

 それも全長で二十メートルはある巨躯とその鋭い爪で、今まさにミウへと振り下ろそうとして──



「ミウううううううううっ!!」



 叫声と共に、ブラッドドラゴンの前へと躍り出る勇士。

 すると、それまでミウに向けられていたブラッドドラゴンの意識がこっちに向けられた。おそらく完全に気圧されているミウよりもこっちの方が面倒くさそうだと考えたのかもしれない。

 とにかく、ひどまずこれでミウが再び狙われる事はないだろう。あとは目の前のブラッドドラゴンを倒すだけだ。

 倒すだけ──ではあるのだが。

「どうやって近付けば……」

 こちらに意識を向けさせたのはいいが、どうやって一撃必殺であるキュアを当てたらいいかわからない。

 あれは相手に触れないと使えない魔法だ。しかしそんな簡単に触れさせてもらえるほど、ブラッドドラゴンも甘くはないだろう。でなければ、身軽なミウがここまで追い詰められているはずがない。



「ガアアアアァァァァァ!!」



 などと考えている内に、ブラッドドラゴンが巨大な爪を勇士目掛けて振り下ろしてきた。

「うわぁっ!?」

 悲鳴と共に、とっさの判断で真横へと飛び退く。

 なんとか避けられたものの、飛び退いた元の位置を振り返ってみると、深々の地面に爪跡が残されていた。あと一歩判断が遅れていたら、今ごろ八つ裂きにされていたところだ。

 と人知れず胸を撫で下ろしていたら、今度は巨大な尾を勢いよく振り回してきた。ギョッと双眸を向きつつ、今度はそれを這うような体勢で後方へとすぐさま退避する。

 直後、ブォン!! という風切り音と共にブラッドドラゴンの尾が足先を掠めそうになった。

「あ、危なかったぁ……!」

 全身に冷や汗が湧き出る。正直、ゴブリンフライに襲われた時よりも死の危険を感じた。

 これがドラゴンとの戦闘なのか──!!

「ていうか、思っていたより素早い! ドラゴンってみんなこんな感じなの……!?」

 冗談じゃない。なんであんな巨体で素早く動けるのだ。物理法則でも無視しているのか。

 どちらにせよ、これでは迂闊に近寄れない。一体どうすればいいのだろう。

 なんて思考していた間、ブラッドドラゴンが大きくあぎとを開けた。あれは──



火炎ブレス!?」



 ブラッドドラゴンのブレスは、確かゲームないだと中堅キャラでも一発で行動不能になってしまう威力があったはずだ。そんなものを低級の勇士がまともに喰らったらひとたまりもない。

 これはまた逃げるしかない。そう思ってどこか安全な場所を探そうとして──



「ユーシぃー! 飛び込んでぇー!!」



 と。

 踵を返しかけたところで、ミウに大声で呼び止められた。

「ブラッドドラゴンはブレスを吐く時に時間が掛かるの! だから、今がチャンスだよ!」

「チャンス……?」

 今の言葉が、本当だとしたら。



 確かに、ブラッドドラゴンに接近できるまたとない機会──!



 そう判断した時には、勇士はブラッドドラゴン目掛けて駆け出していた。

 正直、今にもブレスを吐かれたらどうしようという不安もあるが、どのみちこのままでは逃げの一手しかない。

 だとしたら、ここは攻めるしかない──!

 ブラッドドラゴンまであと三十メートル近く。肉薄するまでにあと五秒ほど。その間にブラッドドラゴンが大きく息を吸い始めた。ブレスを吐くのにあと数秒とないかもしれない。

 だが──



「間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」



 裂帛の気合いと共に、ブラッドドラゴン目掛け右手を突き出す。そして──



「キュア──っ!!」

 









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