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晴れた夜の星は輝く  作者: YUNO
5章 彼女は分かる
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34話 彼女と問いかけ


 「ジャスパーさん・・・?」


 両手を包むその温かさに、思わずそれを引っ込めようとするけれど、思ったよりもジャスパーさんの力は強く、そうさせてはくれなかった。

 見上げた彼の顔もまた、いつものような穏やかなものではなく、どこか強張っている。


 「アリシアさん、それ・・・見合いを・・・?」

 「はい、そのつもりです。」


 言うと、ジャスパーさんは表情の強張りをより強めた。何やらわたしが見合いをすることに対して良く思っていないことは分かる。しかし彼がそう思っている理由が分からない。

 しばらく頭を悩ませていると、彼もまた何かを考えているようで、少しの沈黙があったあと、再び口を開いた。


 「結婚相手が、欲しいんですか。」


 そう言う彼に、また自分の中では肯定の答えは出せなかった。だけれど一人の女性として成長するためには良い機会だという理由は、納得できるものだ。だからそれをジャスパーさんに伝えれば、彼は少しだけ表情を緩めて、しかし次にはまた厳しい顔に戻ってしまう。


 「最後にもう一つだけ良いですか。」


 しっかりと視線をわたしのそれと合わせ、両手にこめる力も強め、小さめに深呼吸をするようにしてから、ジャスパーさんは言った。



 あなたがそうやって魅力的になりたいというのは、誰のためですか




 答えられなかった。

 それは間違いなく、自分のためだとそう思ったのに。でも自分をそうやって突き動かしているのはわたし自身ではないような、そんな気がして。なのに、それは分かっているのに、でも分からない。答えが出ないのだ。

 しばらく、いや、とても長い時間だったのかもしれない。何も言葉を発せないわたしに痺れを切らしたかのように、ついにジャスパーさんはわたしの両手を解放し、そして立ち上がった。思わずわたしも立ち上がり、彼の表情を確かめようと見上げる。


 「あなたがその答えを出しても、僕は諦めません。」


 そう言った彼は、何だか強い意志をその瞳に込めていて、さらに低く真剣な声に、胸が強く高鳴った。何と返せば良いかわからずに戸惑っていると、彼は今までの固い表情をくずしていつものように微笑んでから、「じゃあ、僕は失礼します」とそう言って第三書庫を出て行った。


 今のは、何だったのだろう。

 頭の中ではジャスパーさんの言葉が駆け巡っていて、どうしたって落ち着くことが出来ない。それでもとりあえず今まで座っていた椅子に腰を下ろし、頭の中には何も入ってこないと分かっていながら、山積みのファイルを一つ一つめくっていく。どの人も同じ顔に見えて、今日はもう帰ろうかと思い、いくつもある一塊の最後のファイルを開くと、そこには意外な人の顔写真があった。それに驚き、きちんとその人の情報に向き合おうとしたとき、




 「必死だな。」


 そんな声が聞こえた。

 扉の方へ視線を映すと、響いた低い声を持つオスカー室長が立っていた。

 何だか少しだけ会話をするのが気まずくて、どんな言葉を紡いで良いかに今まで以上に時間を使ってしまう。


 「室長・・・どうしてここに?」

 「何だその嫌そうな顔は。奥の第一書庫に用があっただけだ。」


 そう言いながら、一歩ずつ第三書庫内を歩く室長は、けれどもこちらの方へ向かってきている。訳も分からず緊張してしまう自分が不思議でならない。


 「そんなに熱中するくらいだ、仕事に支障なんて出してないだろうな。」

 「な!仕事はしっかりやっています!」

 「そうやって一々ムキになっていたら、見合いも破談になるぞ。」


 そう言う室長は、いつものように意地の悪そうに口の端を上げた。

 こうやって馬鹿にされたり見下されたりすることなんて、今更慣れてしまっていると思っていたのに。今は室長の言うこと一つ一つが胸に突き刺さるように痛い。まるで女性としてのわたしを全否定されているような気がしてしまう。


 「・・・・・・。」

 「おい、どうした。」

 「お言葉ですが、この世には室長と違って寛大で女性に優しい人はたくさんいます。ですから、わたしはわたしなりにこのお見合いに真剣に向き合うつもりです。」


 室長の方は決して見ないようにして、そう言った。言いながら涙が出そうになったけれど、そんな姿を見せたらまた馬鹿にされてしまうことは明らかだった。


 「・・・そうか。ならば目上の人に対する口の利き方も勉強するべきだな。」


 ものすごく嫌味を込めてそう言った彼は、しばらく何かを待つようにしてそこに立っていたけれど、わたしが何も言い返すつもりがないことが分かったのか、しばらくして「戸締りはするように」と、それだけ言って第三書庫を出て行った。


 どうして、こんなに惨めな気持ちになるのだろう。

 ここ最近は、特にパーティが終わった後から、室長に会うと以前のように振舞えないことばかりだ。

 それが悔しくて、悔しくてたまらない。


 「・・・・・・きっと、自信を持てたら、変わるわ・・・。」


 そう自分に言い聞かせるように呟き、わたしは一つのファイルを両手で抱えた。

 そこに写っていたのは、ステラさまの誕生パーティのときに挨拶を交わした、アイレア国の使者の姿だった。


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