嫉妬の嵐
「ふぅ……まあこんなもんか」
ハル爺やルーファウスを倒してきた"スパーク"という簡易魔術。
しかし、レオには効かなかった。もちろん、ダメージは与えられたし、武器を奪うことにも成功した。しかし、直接レオを倒すには至らなかった。
その事実だけでも、レオは俺が戦ってきた人間の中でもかなり上位の魔術師だと言うことが分かる。恐らく"サンダーボルト"でも、レオの魔剣聖剣なら防ぎきれたかもしれない。その時点でS級冒険者のガンズと同等以上の力の持ち主と言う訳だ。
そして最後に放った"雷光"。あれは並大抵のモンスターなら一撃で屠れる程の威力を持つ魔術だ。俺が対人間用に使える魔術の中でも最大の威力の部類に入る(殺さないことを前提としてだが)魔術だ。それを受けてなお、しばらく意識を保っていた。凄い奴だよ、まったく。
俺は医療班に連れていかれるレオを見送りながら、会場を見渡す。
会場は大盛り上がりだ。
噂だけは独り歩きして何だか凄い奴かもという期待感があり、そしてアイリスを助けた張本人という事実。その実力を目の当たりにしたとあって、観客は興奮冷めやらなかった。
そして、冷めやらない人間がもう一人。
「ノアー!! ナイスファイトー!!」
水色の髪の乙女が、ドレスを引き摺るのも厭わず身を乗り出し、観客席から満面の笑みで手を振ってくる。
「かっこよかったー!! すごいすごい!!!」
アイリスは子供の様に(実際子供だが)大喜びし、キシシと笑みを浮かべる。
いよいよとなりの侍女エルもそれを制することを諦め、やれやれと言った様子で俺に拍手を送ってくれる。
俺は何だか少し気恥ずかしくなり、とりあえずグッと拳を握りアイリスの方に向ける。
それに合わせるように、アイリスも俺に拳を突き出す。
「おいおい、あれ……」
「アイリス皇女……完全に……!」
「うそあああああ!」
と、更に会場が阿鼻叫喚の地獄絵図に。
アイリスは氷雪姫。この国でもファンが多い絶世の美少女だ。それが命の恩人とはいえたった一人の男の為に、今までのイメージを覆す程の子供っぽい大喜びぶりをさらけ出している姿に、観客たちは嫉妬の嵐に包まれているようだった。
「ノア! 調子乗るな!!」
「次で負けちまえ!! アイリス様に付け入りやがって!」
「アイリス様! あいつは魔術だけの男ですよ!!」
と、次から次へと俺に対する罵詈雑言が飛んでくる。
もちろん、どれも本気の嫌がらせというより、ほぼ百パーセント嫉妬の類なのだが。まあ俺にとってはこれの方が居心地がいい。あんまり褒められてもどう反応したらいいかわからんからな。
とりあえずレオを倒して実力は示せた。
ミーハーな観客たちはただセンセーショナルな試合だったと思うだけだろうが、この国に巣くっている魔術の重鎮たちはただ事じゃねえだろうな。
なんせアルバート家の人間が無名の市民に負けたんだ。今頃大慌てだろうさ。
これが暴れてこいと言ったシェーラの意図するものか? まあどうでもいいが。
「お疲れ様、ノア君!」
「おう、ありがとうニーナ」
「さすがだよ、レオ君を倒すなんて!」
「そうか?」
「うん、だってレオ君ていったら魔術師の家系なら知らない人がいないほどの有名人だからね」
「そうだったのか……」
何となくそんな感じはしていたが……ルーファウスもなんやかんやレオには注目してたし。
「でもノア君が勝つと思ってたよ私は!」
「はは、ありがとな」
「うん!」
「でも、次は俺とだぜ? 大丈夫かそんなんでよ」
「……!」
ニーナの顔が、不意に険しくなる。
準決勝第二試合。俺の相手はニーナだ。
「手加減しねえぜ? 全力で来いよ」
「もちろん……! 次の試合ばかりはノア君のことを応援できないからね」
「おう」
「ノア君は恩人だけど……だからこそ全力でいかせてもらうよ」
「はは、それでこそだ」
こうして、二日目の本戦、一回戦は全て終了した。
一回戦第一試合勝者、Cクラス、リオ・ファダラス。
一回戦第二試合勝者、Bクラス、ルーファウス・アンデスタ。
一回戦第三試合勝者、Aクラス、ニーナ・フォン・レイモンド。
一回戦第四試合勝者、Aクラス、ノア・アクライト。
順当に勝ち進んだもの、俺の様にジャイアントキリングしたもの、さまざまだが、この勝者たちに異を唱える者は居なかった。
クラリスが負けたのは残念だが……噂のリオ・ファダラスが相手なら仕方ない。
そして準決勝。組み合わせはこうだ。
準決勝第一試合、"重力姫"リオ・ファダラスVS"氷王子"ルーファウス・アンデスタ。
準決勝第二試合、"公爵令嬢"ニーナ・フォン・レイモンドVS"ダークホース"ノア・アクライト。
とうとう、歓迎祭も大詰め。
最後の戦いが近づいていた。




